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曹栄の屋敷での会議には、商人が参加していた。話は王朝の紛争に関するものの後、商売に関するものに移った。
帽子を被り、髭を生やした着物の男が、塩の値上がりの予定を伝えた。その差額は小さくなく、会議に参加する者全員が呆然とした。
「誤解しないで頂きたいのは」、と商人が言う。「暴利をむさぼるために塩を高額にしたのではありません。塩の密売を王朝政府が厳しく取り締まるようになり、以前は闇取引で良心的な価格で買えたものが、今ではその販路が断たれてしまったのです」
「現状苦しい王朝をせめて財政の面で肥えさせるためですな」、と将兵が推測を口にする。
「だが」、と曹栄。「背後に威信がなければそういうものは成り立たぬはず。王朝政府のどこに商売を統制する膂力があるというのだ?」
「聞くところによれば」、と商人。「王朝政府は異民族と手を結んだという話です。トルコ系の、ずいぶん勇猛な連中で、彼等に姓氏を与えて正式な仲間として迎えたそうです」
「……」
曹栄は、腕組みし、何か考えに集中しているようだった。その間、会議の場はヒソヒソとあちこちで噂や憶測が囁かれた。
「思うに」、と曹栄が言い、囁き声が止む。「近く上部から軍の編成が要請されるだろう。我々も反乱を起こし、往生際の悪い、腐敗した王朝の命脈を断つ一助を担わねばなるまい」
各地で反乱が群発していることは、奏文には既知だった。一年ほど前、故郷と親元を愛惜の念と共に離れた時からそうだったが、やはり栄華を極めた王朝はしぶとく、そう簡単には潰滅しないようだった。
「殿」、と奏文が挙手して曹栄の注意を惹く
「あぁ。貴様か。奏文」、と言って彼は目を向ける。
許義は何を言うのかという風に横目で奏文を見、岩良は首が曲がってすっかり寝ていた。
「わたくしめには情報がございません。戦乱への参加が長期に渡れば、我々は疲弊するでしょうが、殿はどういった見通しをお持ちで?」
「まずは手近に存在する王朝政府の勢力を一掃する。各地に大小の節度使がおり、王朝に与する者もいれば、敵対する者もいる。これらの相対関係を把握して戦略に組み込まねば、この乱世は切り抜けられまい」
「そしてその相対関係は、このような世にあっては流動的であり、激しく転変すると、そういうことですね」
「その通りだ」
――反乱のために軍を編成するという話で、会議は終了した。
参加した者は三々五々去っていき、奏文は、許義と岩良の三人で並んで中庭を出入口の門に向かって歩いていた。岩良だけ寝ぼけていて、まともに話が出来なそうだった。
「名を成す場が出来そうじゃないか」、と奏文は許義に対して言った。
「おれ、あの男に宣言してやりましたよ。『アンタより戦績を上げられたら、嫁を横取りさせて貰う』ってね」
「自信はあるのか?」
「さぁ、どうでしょうね。今度の戦っていうのは、要は革命みたいなものでしょう? かなりデカい大義が掲げられてますからねぇ。おれの個人的野望なんて、埋もれちゃいそうなくらい」
並び歩く二人は、ふとハッとして後ろを振り返った。岩良の歩みがトロく、遅れているのだった。ずいぶん眠そうだ。
彼等は紡績業に従事せず、もう李転の家に寝泊まりしてはいなかった。兵卒が生活する宿舎が村にあり、そこに暮らしの場を移したのだった。
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