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東涼は王宮のある都の北東部に位置し、内地とはいえ、海岸には比較的近かった。
季節が進んで夏が盛りを終え、夜気に涼しさが微かに混じりだしていた。行軍するのに好ましい時期であり、あちこちに作物が実っていて、食肉に出来る野生動物がウロついていた。
「しかしどうして」、と許義がふと言った。「衰え切ったはずなのに、王朝はまだ続いてるんでしょう」
「どれだけ衰えていようが、死がまだ来ていないのだ」、と奏文。「人と同じさ。生へ執着する限り、病を患っていようが、不具だろうが、死神なんぞに身柄を明け渡さないのだ」
彼等は整然たる隊列を組んでだだっぴろい平原を行進していた。彼方には山並みが見えていて、尖った峰々が蒼穹を突いていた。
ふと――「敵襲だ!」、と誰かが叫んだ。「北の方角から、騎兵が複数!」
奏文たちは反射的にその方に目を向けたが、彼方から、砂煙を舞い上げて兵士を乗せた馬が驀進してきていた。大柄の馬だった。迅影にどこか似ていた。
奏文たちの属する後軍は応戦する構えを取り、騎兵に向けて将兵の命令によって隊列を改めて方陣を構成し、まず弓兵が正面に並び、弓の弦を引き、一斉に矢を放った。
放物線を描いて飛ぶ矢は、だが、敵の騎兵にほとんど薙ぎ払われた。
次なる矢が放たれる間もなく、敵は馬の勢いを駆って後軍に突っ込んで来、狼狽した弓兵が逃げたり、剣に切られたりして、崩された。伝令が隙を見つけてサッと馬を駆ってこの惑乱の中脱け出し、中軍・前軍の様子を見、無事であれば支援を要請しに行くようだった。
敵兵の装いは、東涼の遠征軍のものとはずいぶん趣きの異なったものであり、毛皮の上衣を着、湾曲した無骨な形状の大柄の剣を腰に帯びていた。
「や、やつらだ……」
許義が怯えと共に、敵に覚えがあるように呟く。彼と、奏文と岩良は他の仲間たちと集まって防備を固めており、そこに騎兵が俊敏に馬で駆けてきて、重い一撃を食らわせてまた俊敏に去っていくのだった。
「『響土』の連中だ……!」
――それは、許義と岩良がかつて、辺境の領土に属し、暮らしていた時に度々侵攻してきた外敵の北方騎馬民族だった。
奏文はまるで知識のない相手だったが、東涼の遠征軍にとっては、馬上での武術が得意な彼等と対するのに、このだだっぴろい馬が悠々と走り回れる平原は、戦場としては不都合だった。
彼等の勢いは凄まじく複数の騎兵が波状攻撃を仕掛けて来、それは猛然かつ敏速に降りかかってくる上、すぐさま去っていくので、捉えようがなかった。彼等の呼吸が読めれば、一撃がどれだけ重かろうが、受けられたし、躱せた。だが、大柄の馬の上より振り下ろされる一撃に圧倒される者は数多く、そういう者は、手もなく命を奪われた。
奏文は鍛えられた武術によって、許義と岩良は、すでに敵対した経験によって、どうにかこうにか、響土の騎兵の猛攻をしのぐことが出来ていた。
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