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塩の安定的流通経路が断たれた上、それを得る、ないしは復旧する軍事的作戦が、相手が強力であるゆえに断念しなくてはならないとすれば、状況はジリ貧だった。王朝政府の懐事情のために法外に高い税率がかけられた塩は、欲しいぶんだけ買えるものではなく、あらゆる領土、国で、使用が制限され、人間を始めとする生き物の健康の根幹を支える塩が制限されるというのは、解決されるべき喫緊の問題だった。
出鼻を挫かれた東涼の遠征軍は、無慈悲で獰猛で場数を踏んだ屈強な響土の騎兵たちに手もなく崩され、多大な犠牲を出し、悲報を伴って、それぞれの町や村へと帰還した。
奏文たちも村に帰り、しばし休養の時間を過ごした後、曹栄の屋敷に召集された。会議があるのだった。
いつものように、『コ』の字形に並んだ椅子に、曹栄以下、彼の部下たちが座っている。誰も彼も、心なしかげっそりして、減塩の期間が長じたことで、体調がすぐれないようだった。
「皆の者」、と曹栄が言う。「先日はご苦労であった。惨憺たる結果に終わり、犠牲が出たが、我々は生き残ったことを言祝ごうではないか」
沈黙が場を覆い、雰囲気は重かった。生き残ったことはまるで全然めでたくないというように。
「我々はずっと満足に食事が出来ずにおります。食材はあっても、調味料がないのでは、食べたところで、あまり精が出ないものです」
一人の兵士が言った。
「塩が欠乏している。正規の販路で得られるものは、王朝の都合で価格が吊り上げられており、我々が満足できるほど買うにはあまりにも高額過ぎる」
「民の憤懣が徐々に昂じてきておるようです」、と兵士。「この状況を放って置けば、いつか我々は愚劣なる為政者として寝首をかかれることでしょう」
「だから、我々はこの窮境に甘んじているわけにはいかないのだ。塩が欲しいが、買えない。製塩業者を支配しようにも、すでに王朝が囲っていて、容易ではない。ならば……他の方法で塩を得るしかなかろう」
「他の方法とは?」
「それを問うために今回の会議があるのだ」
――塩に関して、流通しているものを買う、製塩業者を実力で屈服させ、融通が利くようにする、以外の方法で得るのに、どうすればいいか、その問いが、会議に参加する者たち全員に投げられた。
奏文も、許義も、岩良も考えたが、彼等は塩の使用者ではあっても、製造者ではないので、まるで思い付かなかった。
だが、分からないからといって放置することは出来なかった。塩の如何は死活問題だった。奏文たち、会議に参加した兵士各位は、この問題を、個人を超えた共同体の、速やかに処理されるべき重大事項として認識し、塩分不足による衰弱死などの悲運を避けるために、懸命に取り組まなければいけなかった。
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