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世は戦乱に塗れていた。統一王朝が地方の独立によって弱体化し、脆くなった政権では、官僚たちが、経世済民を顧みない勢力争いに明け暮れし、世相は乱れ、王朝は衰微した。
夏日がどっぷりと暮れ、夜空では星影がさやかに照っており、夜行性の鳥たちが、時折さっと宙を不穏に横切っていった。
野原を馬で駆けていた奏文は、数本の木々が密生するところで休むことにし、真っ暗な中、一本の樹幹に背を持たせ、項垂れて寝ていた。相当疲れているようだった。どこかの国の兵士だったらしい落人たちに夕べ襲われかけ、奏文は悠々と払い除け、鎧袖一触という感じだったが、決して余裕ではなく、それなりに緊張感と恐れがあり、それなりに体力と精神力が費えた。
……静かに熟睡している奏文のもとに、幾つかの影が忍び寄ってきていた。真夜中というのに、コソコソ動き回り、彼等はあまり品のいい人種ではないようだった。奏文の様子を窺う彼等は、金品を狙ってその寝込みを襲うつもりのように見えたが、ただじっと見ているばかりで、手は出さなかった。
その内夜が明け、微光が差してきた。夏の日は長く、夜は短かった。
旭光の刺激に奏文は半ば強制的に目を覚まされ、まだ眠いせいで粘っこい目を不快感と共に開けたが、ぼやけた視界に怪しい人影がチラついたので、ギョッとして覚醒し、どっしり座っていたところ、さっと姿勢を変えて片膝を突き、臨戦態勢を取った。
「――お前たちは!」
腰の剣の柄に手をかけた奏文が目にしたのは、昨日の夕べ出くわした落人たちの生き残りだった。髪の長いヒョロヒョロの男と、ツルツル頭の巨漢の二人が、困ったように眉をひそめて手を揉み合わせ、何か請いたげに奏文を見ていた。
「お休みのところ、邪魔して悪うございます」
ヒョロヒョロの方がしゃべったが、前回と打って変わって低姿勢で、もともと弱そうだったのが、更に弱そうに見えた。
奏文は呆然とし、言葉を紡げず、けれど、臨戦態勢は崩さずに、彼等の動向に注視した。
ヒョロヒョロは「実は」、と続けた。「おれたちを、アンタの配下にして欲しいんです」
「何だって?」
「おれたち、戦に敗れてからというもの、行く当てがなくて困ってたんです。その辺で取りあえず糊口をしのげばいいやと思ってやってみたものの、うまく行かなくて」
そばにいる巨漢は、ずっとしょんぼり首を縮めて目を伏せている。
ヒョロヒョロの要望に乗り気でない奏文は、渋い顔で押し黙っていたが、だんだんヒョロヒョロの両目が潤んで来、哀れかつ見苦しいひどい面持ちになり、同情が萌して、彼はいたたまれない気持ちになってきた。
奇妙な朝だった。落人との奇縁が、思わぬ形で旅人の生活に落ちかかって来、彼はそれをどう取り扱えばいいのか、いささか腹立たしい気分になって、頭を抱えるのだった。
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