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王朝政府が異民族と結託して武力で占領した海岸付近では、海水をもとにした海塩が製造されているに違いなかった。容器の中の海水を自然乾燥か加熱によって蒸発させ、中の塩分を取り出し、そこに海水を注いで濃い塩水を作り、その工程を繰り返して、塩の結晶を取り出すのである。
奏文たちは、李転の家を訪れ、事情を話したが、塩不足で困っているのは、どこも同じだった。
遠征が成功すれば歓迎されたが、敗れてノコノコ戻ってきた奏文たちは、あまりいい顔では迎えられなかった。
家の中で、李転の女房と母、そして二人の息子をまじえ、奏文たちは円形を成して座った。
「買う、奪う以外で塩を得よってかい?」、と怒気を込めて母が言う。「いつも偉そうにしてる割に、あの兵士の男、頼んないねえ」
「土中に塩の結晶が埋まってることがあるって、以前耳にしました」、と大きい方の息子が言う。「岩石のようにしっかりと固まった結晶みたいです」
「地下のものは目に見えない。従って、それを得ようとするなら、僥倖しかなかろう」
李転が息子に対し、悲観論で返す。悲観論が帯びる負の気分が、場をうっすらと覆い、空気が重くなり、皆の閉じている口が、心なしかよりかたく閉ざされたようだった。
「昔、偉い人がいたんだって」、と正座している李転の女房がポツリと言う。「何でも『自流井』っていう自然に地下水の湧き出す井戸を掘削する技術で、ほとんど崇められるくらいだったって。名前は覚えちゃないんだけど」
「どうしてそんなことをご存知なんです?」、と奏文が気になって尋ねる。
「前にご近所さんとね、外でしゃべってたら、教えてくれた博識な人がいたのよ。真偽のほどは確かじゃないし、その人は旅立ってもう村にはいないんだけどさ」
「地中を深く掘るためには、頑丈な道具がいる。勿論、よく鍛えられた鉄などでなくてはならない。構想が練られ、設計され、製作されなくてはならない。優れた知識と技術が要されるということだ」
「母上」、と小さい方の息子。「偉い人っておっしゃるなら、その名を覚えておいていただきたかったものです」
「そうだね」、と李転の女房がどこか申し訳なそうに返す。「わたし、あんまり興味がなかったから、すっかり忘れちゃった」
「戦で海岸を制圧するのと、大層な道具をこしらえて地面を深く掘るの、どっちが塩を得る上で簡単でしょう?」、と許義。
「どちらも同じくらい大変だと言いたいのだろう?」、と奏文はややイラッとして返す。
岩良は小さく膝を抱えて黙然と座っている。
「どこか海辺じゃないところに、塩水が湧出していてくれりゃ、いいんですけどね……」
許義の呟きに、奏文は然りと心中で同意した。だが、内地に塩水の湧き出る箇所などあり得るだろうか? 彼は知らなかったので全否定が出来なかったが、かといってあると信じることが出来ないくらいには、可能性に乏しい気がした。
だが、手段を選んでいられないくらいには、村の生活は塩の不足のためにじわじわ窮迫してきていた。そして、地面を掘削して塩の結晶を採取するという手法は、よそですでに始められており、しかし、そのために作られた道具があまり丈夫でなく壊れたり、深く掘れたところで地下に何もなかったりして、先行きはあまり明るくないのだった。
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