第31話
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季節が進み、秋になった。日暮れの訪れが早まり、空気が冷めてきた。
王朝政府の動向や塩の製造・貯蔵にまつわることについて聞き込みするために、伝令以外の兵たちが盛んに外遊に出かけたが、奏文たちはこの機に乗じようとしたのだが、豈図らんや、奏文が旅の途上ずっと伴ってきた駿馬の『迅影』が、飼育員ごといなくなっているではないか。
奏文は愕然としたが、跡形なく消失しており、痕跡さえなかった。
迅影は、奏文が父から譲り受けた名馬であり、また優れた移動手段であって、迅影がいなければ、これまで彼が出来ていた旅はまったく不可能になるといって過言ではなかった。
「逃げ出したのかも知れませんよ」、と許義がポロッと失言し、奏文は「馬鹿を言うな」、と怫然と呶鳴った。
木組みの壁に藁屋根がのった厩舎に、あの黒毛の大柄な体躯の馬はいなかった。いるのは迅影より二回りくらい小さい、見るからに貧弱な馬ばかりで、ここに迅影がいれば目立つに違いなく、従って、きっと盗まれたのだろうという推測が、容易に立った。
「兵士たちが盗んで私物化したのかも知れないと彼等に聞いて回ってみても、なべて知らないと返ってくるし、その声音に嘘偽りはなさそうだった」、と奏文。
「やっぱり、あの飼育員が怪しいですよ」、と許義。「馬といっしょにいなくなってるんですから、アイツが乗って遠くまで行ったんじゃないでしょうか。おれの目にも……迅影でしたっけ? 他の馬と比べて異彩を放ってましたからね」
奏文は鼻で深くため息し、眩暈でもするようにフラつくと、手で頭をおさえ、近くの柱に倒れかかった。
「何ということだ……」
やはり黙然と許義のそばにいるだけの岩良が、奏文に同情するようにシュンと、強面の太い眉毛を下げる。
「あの馬、奏文さんには勿論懐いてたんでしょうけど、飼育員にもそこそこ懐いてたに違いありません。世話されりゃ、誰でも心を開かざるを得ないというもんです」
「どうやって旅立てばいいというのだ」
「ここの駄馬を貰い受けるか、徒歩で行くか」
「気乗りしないな」
「ならこの村に定住するしかないですね」
「定住……お前たちといっしょにか?」
そう言われ、許義は岩良と顔を見合わせるが、どちらからともなく、不服そうに首を傾げる。
「馬、見つかるといいですね。探すの手伝いますよ。といっても、心当たりなんてありはしないんですが」
「それでも、多少の気休めにはなる。お前も、早くあの娘のために武功なり何なりを上げられるといいな」
そう言われ、許義は「えぇ」、と首肯したけれど、その表情は、奏文と同様、笑顔なのにうっすらと陰気臭く、彼等があまりいい見通しを持っていないことを示していた。
様々な問題が、各々の前に横たわって展望を妨げていた。解決するとしないに関わらず、それらの問題は、各自の生活に影響を与えるのだった。
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