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季節が秋に変わってから程ないある日のこと。村に、女性の訪問者がやってきた。荷を積載されたロバを連れた彼女は、くすんだ色の平服を着ており、厚い髪を結っていて、年のころは、奏文の目には、二十代半ばという風に推定された。
彼女は徐氏と言い、実は訪問者ではなく、元々ここに定住していた女性で、旅してきた後、回帰したそうだった。彼女は村に帰ってきてまずは長である曹栄のもとに挨拶に行き、彼女の風評が流れて、その内奏文たちの耳に入った。
彼は武芸の修行の合間にひとり外出している中、往来でふと李転の女房に呼び止められ、彼女は、徐氏についての話を聞かせたのだった。
「徐氏? どういうお方なんです?」、と奏文が聞き返す。
「ほら、前にわたし、『自流井』について聞いたことがあるって話して、アンタ、不思議がったろ?」
「そうでしたね」
「あの知識を利かせてくれたのが、徐さんなんだよ。あの人、嫌に物知りでね、今回の塩の件も、彼女に聞けば何か教えてくれるんじゃない?」
奏文は、李転の女房から、その徐氏に会って話をしてみるといいという勧めを受け、感謝を示したが、その実、徐氏があるいは秘めているかもしれない知識に関して、彼女が曹栄の屋敷まで挨拶に来た時点で、すでに頼られていて、すでにいくつかの知恵が授けられていた。
徐氏は非常に博識だった。深い教養を持つ女性が少ないという状況で、彼女の存在はどこか異質で、尊敬されたが、他方、いささか胡乱に思われていた。
塩の採取に関しては、彼女曰く、海岸での製造や地下水の採掘以外にも、方法はあるようだった。彼女もまた、製塩業者などではないのだけど、はっきりとした知識を背景に、確信を持って、曹栄以下、彼の部下たちに請われて、説明したという。
彼女によれば、まず、海の塩以外に、湖の塩もあり、塩水を湛える湖が存在するのだった。従って、内地でも塩の採取は可能なのだが、すでに塩の採取に都合のいい塩湖は、王朝政府の勢力が、その有益性に着眼して制圧しているのだった。
武力衝突を避けたい曹栄は、会話の流れで、徐氏に、別の製塩法または採取法を尋ねた。すると彼女は、話を付け加えた。曰く、塩分を含んだ鉱石を煮出して塩水を取る方法、そして、天然の塩泉を探すことだった。
彼女が提示した案に、画期的といえるほどのものはなかったが、彼女は旅で巡った鉱石のありそうな場所や、塩泉を知っており、それを教えた。
曹栄は直ちにこの情報を村の内外に共有し、早急に新たな作戦を企て、実行した。戦闘が主たるものではなく、塩の確保が最優先だった。
奏文はその作戦のひとつに、許義と岩良と共に組み込まれ、配下として恭順に従ったが、彼は、同じ旅人として、徐氏が気になっていた。彼より少し年上だが、彼女は他とは異なり、独特の雰囲気を持っていた。放っておけば、また旅立ちかねず、彼はなるべく早い機会に、彼女と接触を図り、話を聞きだしたいという風に思っていた。
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