奏史演義   作:Yuki_Mar12

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第37話

***

 

 

 

 面積の広大な都の、戦争による荒廃からの復旧作業は、言うまでもなく、一朝一夕で成し遂げられることではなく、事業としては極めて規模の大きなもので、黄氏軍は、懐柔や武力で隷属させた弱小の国々の人的資源を召集し、思う様使役した。そのやり方は薄情なものであり、反感の生まれることは否めなかった。

 

 また、事業の規模に比例して、それにかかる期間も長大であり、秋に始まった復旧工事は、冬になっても依然として進行中であり、奏文たちは、延々労働に従事させられた。腰を痛めていた許義は、黄氏軍の兵士から蔑まれたり冷笑されたりしたが、仕方ないと観念して、決して適したものとはいえない仮説小屋という環境で休養し、やがて回復した。

 

 いい思いをしているのは、勝利の余勢を駆って目下の者をこき使う黄氏軍の兵士たちだけであり、彼等に与した同盟国は、その報いをほとんど受ける機会に恵まれなかった。だが、王朝に反乱したように、黄氏に反乱するのは、その軍勢の強大さや、士気の高さからして、甚だしく現実味を欠いていて、到底実行など出来なかった。

 

 冬の寒い時期になり、あずまや同然だった仮設小屋を越冬出来るように仲間と協力して改築した奏文たちは、ある夕の労働の終わった後の時間、部屋の壁に背をもたせて座り、彼等の顔は、夏秋の頃と比べてげっそりしていて、その頃付いていたはずの脂肪も、労働のために削げてしまったようだった。辺りには、主に東涼の仲間達が雑魚寝しており、奏文と許義の前には、皿状の灯火器があって、小さい火が、植物性の油を燃料にして穏やかに燃えていた。

 

「村に帰りたいですね……」

 

 許義が悲しそうに呟いた。頑丈な体で、キツい労役でも旺盛に働く岩良は、すでに横になって寝息を立てていた。冬の寒さを凌ぐため、誰もが厚着していた。そうしたところであらゆる隙間を冷気が通るので、体の冷え込みを完璧に防ぎ切ることは出来ず、冬の作業は、温暖な季節と比べてかなり不利だった。

 

「李転の家での仕事が懐かしいな。蚕たちはどうしていることだろう」、と奏文。

 

「この骨身を切る寒さじゃ、虫けら如き、まともに動けやしませんよ。あの人たちだって、この時期は紡績の方に専念してるんじゃないですか」

 

「奪い取ると意気込んでいた娘のことは、恋しくならないか?」

 

「かれこれずいぶん時日が経ちました。百年の恋心も冷めざるを得ないってもんです。あの娘(こ)も、嫌々めとられたけど、いい加減順応してるんじゃないでしょうか。それに、おれみたいなうだつの上がらない男よりは、きちんと認められた兵士の方がいいでしょうしね」

 

 許義の悲観的気分は、すでに奏文にもあるものであり、彼は、王朝が倒れた今、常に王朝の側に付いていた父母のことがとても気になっていた。故郷を追われていないだろうかと彼等について不安に思い、そして苦境と言うべき環境に身を投じている状況では、父母の屋敷での、武芸の鍛錬に塗れた生活が、充実感に溢れていて、また平和で、家庭は円満で、懐旧の念が強かった。

 

 

 

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