奏史演義   作:Yuki_Mar12

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第38話

***

 

 

 

 かつてこの大陸を統一して頂点に君臨した皇帝は、その権威を存分に用い、民衆をして手の込んだ墳墓の造営に携わらしめたという話だが、皇帝を始めとした権力者というのは、その座を手に入れれば、下々の者を己の野望のために働かせ、搾取したいという風に思い、実際にそうする生き物なのだろう。その背景に、たとえば、頂点に上り詰めるための苦労が権力者にあるとするなら、その反動として、そこまで積み重ねた苦労による鬱屈を発散させる、ないしは清算する意味合いで、放恣さが許されるという意識が生じるのは、特に異とすることではない。人使いの荒い嫌いのある黄氏の場合にも、この事象が大なり小なり発現しているのであって、致し方のない部分があり、けれど、酷使される奏文たちが、その厳しい労働を納得するには、あまりにも説得力を欠いていると言わざるを得なかった。

 

 奏文たちは、自分たちの不自由で甲斐のない重労働生活にうんざりし、真冬の極寒の時期であったが、夜陰にまぎれて、この復旧工事の現場を脱走することにした。工事はいつ終わるとも知れず、また、仮借ない黄氏軍の指導者の下にあって、彼等は肉体的、精神的に徐々に追い詰められてきていた。奏文たちは、先の見えない苦境に立たされ、摩耗させられ、みずから逃げる決意をしなければ、半永久的に搾取され続けるだろう、そして最後まで持たずに擦り切れて惨めに終わるだろうと、そういう風に予想し、甚だ危険ではあるが、脱走することに決めたのである。向かう先は、元いた村だった。そこに帰って、また李転の家に転がり込み、蚕と糸繰の仕事に戻ろうと、許義は考え、奏文はというと、失った迅影の捜索がぜひしたかった。

 

 決行の日の夜、充分に日が落ち、多くの者が寝入った中、奏文たちは、小屋の部屋にて、寝ずに起きて準備し、灯火がほんのり照らす明かりで、互いに頷き合い、小屋を離れ、都の道路に出ていった。各所にたいまつを持った夜警が巡回していたが、王朝を打ち倒して頂点に君臨したという安心感と油断のためか、警戒の度は薄く、警備の仕方はいい加減で、奏文たちは、容易に潜り抜けることが出来た。

 

 都は厚く高い城壁に守られており、この城壁を越えなければ外に脱け出すことが出来なかったが、内側には階段があって歩いて上ることが出来た。

 

 奏文たちは、城壁に並行に作られた階段を上り、上に行けば行くほど、風の冷たさと強さが増し、今後の生活の不透明さや不安感が、その風に煽られて全身に吹き付けてくるようだった。

 

 最上部まで上がり切り、彼等は、胸壁のところに並び立つと、遥かなる眺望に目を向けた。だが、暗夜の今、見えるものといえば、冴えた月光に淡く浮かび上がる大地と山くらいのものだった。

 

 これからしばらく苦しい道に踏み出すというのに、奏文たちは、それまでの労働による疲労と、厳寒期の辛苦とで、早くも心が折れそうだった。

 

 

 

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