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許義は、痩身の方の名だった。質のよい食事をしてこなかったせいで、やつれはてており、髪は白髪交じりでチリチリで、かつ背中まで長ったらしく伸びており、背は曲がり、着ているのはズタズタの襤褸切れだった。白髪こそ生えているが、まだ老人という感じではなく、むしろまだ活力がある年齢のように見えた。生活さえきちんと正せば、見違えるほど回復するように思われた。
もう一人の巨漢は、岩良という名で、丸い頭には毛一本生えておらず、黄金の朝日に輝いており、目付きはいかめしく、顎がニョキッと突き出ている。彼は許義と共同生活を送っていたはずなのに、いやに体格がよく、きっと悪食で、わけのわからない野生のものを平気でガツガツ食べてきたに違いない。彼は許義と違い、若々しく、肉体は、どちらかというと屈強な方だったが、どこかどんくさいところがあるようだった。彼等の身なりは、かつてどこかの国の軍隊の兵士だったとは到底思えないほど、粗末極まりなかった。
「断る」、と奏文は答え、配下にしてくれという落人の要望に対し、まず拒否の態度を取った。「そういう仕えたり従えたりすることが面倒で、おれはこうして旅しているのだ」
「そんな……」
許義は落胆してその場に四つん這いになり、今にも泣きだしそうだった。
「アンタに見放されちゃ、おれたちはおしまいだ」
岩良は、ずっと目を伏せて立ったまま、表情こそ微妙に変化するのだが、一向に口を開かなかった。極端に寡黙なのだろうか。
「そもそも、わたしにお前たちを従える義理はないだろう」
「おれたちの仲間を殺した」
許義は顔を上げてそう恨めしそうに眉を怒らせて言う。
「それは、お前たちが襲おうとしたからだろう。わたしのしたのは、正当防衛だった」
「殺された者の中には、こいつの兄弟がいた」
そう言って、許義は岩良の方を見上げる。すると岩良は、口を噤んだまま、しくしくと静かに泣きだすのだったが、その繊細そうな涙は、彼の巨体にはてんで似つかわしくなかった。
「そんな事情は、知らん」
奏文はそう返すが、どこか胸が痛む気がしないでもなかった。
「そうか」
要望がはねつけられて、許義は、あまり拘泥せず、諦観したようにおもむろに立ち上がると、ズズ、と洟をすすり、指で拭った。
「それじゃあ、おれたちはここでお別れだな」
「どこか人里を訪ねて、そこで雇ってもらうなどするがいい。今のままでは、衰弱するばかりだぞ」
奏文がそう忠告する。
「いや、おれたちはどこにも行かない」
「ではどうするのだ?」
「ここでくたばることにするよ」
そうポツリと言って、許義は顔を上げたが、目元がじんわりと赤かった。
「くたばるだって? まだ生きていく余地はあるだろうに」
「生きていく余地は確かにあった。だが、アンタがそれを断(た)っちまったのさ」
「責任転嫁するなよ。わたしにお前たちの命を預かる筋合いはないだろう」
許義はフッと笑い、「気に食わないが、正論だな」、と言った。
「日が昇った。もう発つんだろう」
「あぁ、そのつもりだ」
そう言って、奏文は立ち上がり、横になっている馬の方へと歩みより、馬を立ち上がらせ、ヒョイと跨る。
彼は紅色の鉢巻きを手に取って額に巻いた。すると野原を行く風にあおられて鉢巻きの結び目の垂れた部分がユラユラとなびいた。
奏文は早速馬を進め、ちょっとだけ振り向いて背後を瞥見してみると、ぼんやりと落人たちの悄然と立ち尽くす姿が見える気がした。
彼は正面に向き直り、不快そうに眉をひそめた。どこか心残りがあるという風な面持ちだった。
彼の耳には、いつまでも二人のすすり泣きの哀れな声が聞こえてきており、それは幻聴のようで、だけど実際の音声なのだった。
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