奏史演義   作:Yuki_Mar12

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第40話

***

 

 

 

 奏文たちの村への旅路は、苦難の多きものだったが、木立で夜を明かした彼等は、寒さのためにあまり疲れは取れていなかったし、依然として不安を抱えていたものの、うっすら雪に覆われた山中に入り、決して短くない時間をかけ、どうにか険路を越えた。

 

 枯れた下草と薄い積雪の斜面の上の方に、村が見えた。奏文たちはまだ着いていないのに早くも安堵して緊張をほどいた。常駐兵の曹栄は今まだ都にいて村には不在であり、彼の代わりの兵士が、村の運営を仕切っているのだった。

 

 安堵する一方で、彼等は同時に何かすっきりしない感情を抱えていた。凱旋とはいえない帰還であり、温かく迎えてくれる者も、戦の勝利を祝ってくれる者もいないのだった。いわば彼等は過日のように、流浪者として村にたまたま来たのと同然だった。

 

 出入口のところに火が焚かれていて、そばに番兵が座り、暖を取っていた。

 

 彼はげっそりした奏文たちを目にすると、唖然とした。

 

「帰ってきたのか? 曹栄様たちは……?」

 

 番兵は尋ねたが、許義は目を泳がせ、岩良はしょんぼりし、奏文は、どこか気後れしたように「脱走してきた」、と白状した。

 

「脱走?」

 

 だんだん人が彼等のところにやって来、人だかりを成した。その中には李転とその家族がおり、ザワザワとちょっとした喧騒が出来た。徐氏もまじっていて、遠くの方でじっと見ていた。

 

「心配していたんだぞ。皆で繰り出したはいいが、何の便りもなくって」、と李転。

 

「労役に服従させられていたのだ。曹栄も同様に」

 

「戦には勝ったのか?」

 

「勝ったさ。勝って、都を制圧した。私たちは戦で荒廃した都の厳しい復旧作業に服務させられた。時間も人手も、どれだけあっても足りないという具合さ」

 

 人混みを掻き分けて、徐氏が出てきた。真冬なので、他の村民同様、彼女も厚着しており、皆、彼女の方を半ば興味深そうに、半ば鬱陶しそうに、見つめ、睨んだ。

 

「旅してきたのですね」、と彼女。

 

 奏文は小振りに頷いた。

 

「労を多くして得るところの少ないものでしたが」

 

「お疲れ様です」

 

 そう言って、徐氏が焼いた餅(びん)を差し出す。三つ。奏文と、許義と、岩良の分だった。彼等は一つずつ受け取り、口にした。しょっぱい味がして、空腹とその濃い塩味のために、彼等の胃袋と舌はみるみる生き返ってくるようだった。

 

「塩味?」、と許義が怪訝そうに眉をひそめて自問する。奏文と岩良も、同じ表情だ。

 

「悪税を統べていた王朝が倒れて、塩の商売が再開したんです。かなりの量が兵士様の計らいで得られたので、当分塩で困ることはなさそうです」

 

 そう伝えられ、奏文たちはじんと胸が温かくなるようだった。何も喜ばしい土産は持って帰ってこられなかったが。苦役と無情にまみれた労働生活を脱し、苦しい帰途を経てようやく帰り着いた村で口にした餅の味が、痛いほど体にしみいるようだった。

 

 

 

***

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