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動物の中には、厳しい寒さを越す上で冬眠するものがいるが、馬は冬眠せず、むしろ寒さに強い性質の持ち主であり、冬でも活発に走ることが出来る。
そういうことで、馬の売買をする商人は、冬の間も取引を行うために各地を巡るのであった。曹栄の村は、複数の兵士を常駐させる上で、軍馬が要され、そのためにちょくちょく商人が訪れていた。砂漠の道を通ってもたらされる西方の馬が屈強でその巨躯に風格があり、ぜひ手に入れば喜ばしいことなのだが、相応の高値を付けられており、軽々に買うことは出来ず、そのため偶然訪れた奏文の、父が与えた汗血馬を彷彿とさせる栗毛の馬は、ある種の人々の目を奪い、その中に、恐らく彼の馬に惚れ込んで誘惑に負けて連れ去ったであろう飼育員がいたのである。
徐氏の話があってから程なく、商人が村にやって来、彼は商品である、手懐けた複数の馬の群れを率いており、奏文は彼に聞いてみることにした。
引き連れてきた馬の売り込みのために曹栄の屋敷に向かった商人の後を奏文は追い、商談を終えた直後を狙って、彼も屋敷に用があるとして行き、中庭で話した。緑色の着物を着る彼は、外に出ると頭に編み笠を被った。
「栗毛の馬ならば、何頭か見かけましたよ」、と商人。
「多分、人が連れていたと思うんです」、と奏文。「でも、どこか違和感があるはずなんです。馬が完全に主人に懐いていないとか、落ち着きがないとか」
「迅影という名で、盗まれたという風におっしゃいましたが」
「この村に留めておいたのが、恐らく、預けていた飼育員によって。確証はまだないのですが、彼が馬ともども行方不明になっているので、まず間違いないかと」
「ふむふむ」
商人は顎に手をやって考え込む様子だった。
「商人としては、盗みを働く輩は許せません。そういう意味では、奏文さんに共鳴します。ですが、いかんせん手がかりが少なく、特定は難しいです。栗毛の立派な馬は、複数見てきましたから」
分からない。そういう結論に終わるのかと思って奏文は早くも意気消沈しかけたが、商人が、ある提案をしてきた。
「わたしの行商に試しに同伴なさいますか? 各地にわたしと同じ馬の売買をする仲間がおります。彼等にも聞いてみるといいでしょう」
「本当ですか? その勧めはありがたいです。自分ひとりでは五里霧中でしたので」
「わたしとしても、兵士の方に同行して貰えると助かります。今の世の中、物騒ですから」
その内、屋敷の敷地内を行き来する警備の兵士が、奏文と商人の立ち話に目を付け、用が終わったら早々に退出するよう注意し、話はそこでぷっつり途切れた。
だが、大事なことまではきちんと話が出来た。奏文は商人の勧めに従って彼の行商についていくことにし、彼の出発までに旅支度を整えることにした。許義と岩良は、迅影に関係がなく、同伴させるつもりは、彼にはなかった。
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