奏史演義   作:Yuki_Mar12

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第43話

***

 

 

 

 連れ去られた愛馬のために旅することとなった奏文は、その旨を許義や岩良などに話し、しばらく村を留守にすると伝えた。彼等は奏文の一路平安を祈り、送り出したが、どういうわけか、徐氏が付いてくることになった。恐らく奏文の伝聞が耳に入ったのだろうが、彼女は自身の趣味に都合のいい機会と思ったのだろう、ちゃっかり奏文と馬の商人の落ち合う村の一隅にある井戸のそばに荷物を持ってロバと共に立っており、商人は困った様子で、奏文はいるはずのない人物の存在にきょとんとした。

 

「お供いたします」、と徐氏が言って頭を下げる。

 

「奏文さん」、と商人が奏文に耳打ちしてくる。「あの方はあなたのご夫人ですか?」

 

 奏文はびっくりして険相になり、「違います」、と小声で即答した。「ただの知り合いに過ぎません」

 

「ではなぜ随伴する気でいるのです?」

 

「それは……」

 

 返答に窮して奏文がおもむろに徐氏の方を向くと、彼女はロバの背を撫でており、彼女が持ってきている荷というのは、家で製作される用紙と、筆と、画板くらいのものだった。全て革袋に入り、ロバの体に括り付けられていた。

 

 やがて徐氏は奏文と目が合い、何か察したようで、「いつも旅する時は一人だったんです」、と言った。「誰かといっしょに行ける日を心待ちにしていました。一人だと心細いですからね」

 

「わたしたちはそれぞれ目的があって行くんですよ。わたしは馬の捜索のため、この商人の方は、行商のため」

 

「わたしは絵になる風景のため」

 

 徐氏がそう言った途端、彼女は何か思い出したようにハッとすると、革袋の口紐をほどいて中より紙を取り出し、商人に開いて見せた。彼女の作品の幾つかだった。

 

「値が付くと嬉しいんですが」、と徐氏がどこか気恥ずかしそうに言う。

 

 だが、商人は顎を持って、困ったように小首を傾げた。

 

「そう言われましても、わたし、こういうものには疎いもので……」

 

 彼等のやり取りをそばで見ている奏文は、呆れて小さくため息を吐くと、「とにかく発ちましょう」、と呼びかけた。商人と徐氏は彼の方に顔を向けた。

 

「徐さん、同行するのは構いませんが、旅には相応の危険と不便が付き物です」

 

「存じております。わたしだって、一介の旅人ですから」

 

 彼女が旅に付いてきて本当に大丈夫かと、商人は不安そうに奏文に確かめた。妙齢の女性は家の中で安全に守られているのがいいと言わんばかりの様子だった。

 

 その通りだと奏文は思い、はじめは同調したが、「けれど」、と続けた。「徐さんは博識な方です。今回の件は、彼女が、商人に相談してみるといいと提案してくれました。きっと頼りになると思います。ある部分においてはね」

 

 二人の男と一人の女、合計して三人は、一つの集団として旅立つことになった。

 

 商人は馬に、徐氏はよく懐いた家畜のロバに乗り、さて奏文だけが足となる動物がいなかったが、商人が連れている数頭の馬の内の一頭が、運よく彼に抵抗する素振りがなかったので、奏文はその暗褐色の被毛の馬をかりそめの相棒として乗り、三人は、寒空の下、それぞれの目的のために村を離れたのだった。

 

 

 

***

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