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奏文と徐氏は、商人を先導者として雪原を馬で駆け抜け、次なる人里まで移動した。雪原の平面のとある村だった。
そこで商人は商品である馬を売り込み、そのついでに、奏文の馬についての聞き込みをした。しかし異口同音に知らないと言われた。徐氏は、好適と思った位置に立ったり座ったりして、画板の紙に、筆で描画した。
そう簡単に手がかりが掴めるとは思っていなかったものの、奏文は、あまりの不如意さに先が思いやられるようだった。
黄氏が打ち立てた新たなる王朝が、前代に変わって現れたが、噂によれば、内紛に終始して大陸の統治までは手が回らず、王都界隈は権力を巡る小競り合いでせわしない一方で、地方は割と平和だった。
奏文は意気阻喪し、商人が売り込みしている間、彼に同伴するのを断念して、四角い石の上に座って俯いていた。商人の馬を借りて旅することが出来ているが、迅影とは勝手がまるで違い、思うように制御することが叶わなかった。まだ馴致していないという事情があるだろうが、奏文にとっては、やはり迅影が好ましく、懐かしかった。ひょっとすると、迅影はすでに軍馬として酷使され、傷付いて息絶えている可能性があり、その想像に、奏文はゾッとし、寒さも相まって身震いするようだった。
村はあまり栄えたところではなく、商人の売り込みはそう経たない内に終わり、馬の買い手はなかった。彼は早くも村を去る用意に取り掛かっており、しかし奏文は、あまり元気がなかった。
「どうですか?」
ふと、奏文は話しかけられた。
目を上げると、彼は正面に一枚の紙に描かれた絵が見えた。積雪した白い瓦屋根の家並の彼方に、互いに前後する山の稜線が接している。ありふれた風景画だが、落ち着いた趣きがあって悪くないように奏文には思われた。
奏文の正面に立つ徐氏が、両手で広げて鑑賞させ、絵の印象を尋ねているのだった。
「いいと思います。家や山を描く線がしなやかに走っている」
「ありがとうございます」
徐氏は礼を述べて絵を引っ込めた。
「馬についての手がかりはありましたか?」
その問いに、奏文はかぶりを振って返した。
「そうですか」、と徐氏は彼に共感するようにシュンとして言う。「ですが、まだ探し始めたばかりでしょう」
「そうですが」、と奏文。「広大無辺の範囲に、たった一頭のありふれた外貌の馬を見つけるというのは、至難の業でしょう。存命かどうかさえ定かでないのに」
「諦めることだって出来ます」
徐氏が凛然と言い、奏文はハッとするようだった。
「確かに」、と彼女は続けた。「どこにいるか知れない馬を広い大地に探し回るのは、たいそう骨です。その労力を忌避して断念することは可能です」
奏文は、とっくり考えてみた。今、彼女の言う通り、際限のない、極めて困難である捜索活動に労力を傾注することに関して、バカバカしいとして擲ってしまうことは、決断できるのである。
だが、奏文の良心がその決断を咎めた。彼にとって迅影という馬は、よく慕っていた父母との――特に父との紐帯の象徴であり、彼等に郷愁と懸念を感じている現下、迅影の存在は、以前に増して重要だった。従って、軽々に諦めることは、彼には出来ないのだった。奈辺にいる迅影に想いを馳せると、奏文の脳裡には、父の面影がぼんやりと浮かび上がって来、一日でも早く、彼の、また母の近況が知りたかったし、彼等について、ぜひとも無事でいて欲しいと思うのだった。
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