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冬の旅はひどく不便の多い、寒くてつらいものだった。幾つかの村や町などの人里を一行は巡り、そこに住む人々に呼びかけ、会話し、別れた。
奏文は結局のところ、迅影についての手がかりを得られず、徐氏と共に帰村することにした。彼は旅する中で、精神的に参ってきていた。旅慣れてはいるものの、冬の短い日照時間に極めて冷たい風を切って忍耐力を振り絞って移動し、長い暗い時間、小さい頼りない灯火のそばで、寒さに凍えてぼんやりしているのは、彼にとって苦痛以外の何物でもなく、それでも、少しの吉兆が得られればまだマシだったが、彼の苦行に対する報いは皆無だった。
奏文は借りていた暗褐色の被毛の馬を商人に返却して別れ、徐氏のロバに帰路、同乗させて貰うことになって、居心地はあまりよくなかった。彼とほぼ同い年の女性にぴったりくっつくのは、気遣わしく、互いにさほど親しくないので、その居心地のよくなさは決して小さいものではなかった。
数日かけてようやく二人は村に付き、辛苦にまみれた旅の後、ようやく人心地が付くという風に期待してそのそばまで行ったが、村の様相は以前とすっかり変わっていた。
瓦屋根の家の並びは、とぎれとぎれになり、多くの家屋が損壊し、ひどい有り様だった。壁は崩れ、屋根瓦は飛び散り、奏文が何度かそこで眺望に浸った村の端部の石塀は、連続していたのが、途中で切れてしまっていた。家を構成する木材は折れてささくれだったり、真っ黒に焦げたりしている。
奏文と徐氏は唖然とし、この光景が信じられないという風に目を丸くし、不愉快な胸の動悸に眉をひそめていた。
ふと、徐氏が駆け出し、奏文はどうしたのかと思って目で追ったが、彼女は遠くの道端に倒れている一人の大男のそばに寄り、そこに膝を突き、彼の肩に手を置いた。
奏文はその後を追ったが、彼女が揺さぶっている男が、すぐに彼だと分かった。
「岩良!」
奏文はそう叫んで駆け寄り、徐氏といっしょに肩を突いている体を仰向けにしてみた。彼は返事しなかったが、呻き声を上げており、まだ存命のようで、奏文と徐氏はひとまず安堵した。彼の体は大小の切り傷を多く負っていた。
徐氏は青褪めた顔で目を点にすると、「お父様、お母様」、と呟いて立ち上がり、駆け出した。
奏文は彼女の後ろ姿をしばらく目で追っていたが、「奏文さん」、とか細い声で呼ばれるのを聞き、驚いてその声の方に向いた。
許義が、損壊した家屋の壁の陰に、壁に背を預けてぐったりと座っていた。
奏文は腹部に大きい、刃物が貫通したかのような傷を負って、手でおさえている許義をじっと、激しい苛立ちと同情の思いで見つめた。
「襲われたんです、おれたち」
「襲われた? いったい誰に」
「王朝軍の生き残りですよ。ヤツら、まだ抵抗するみたいで」
「帝位はすでに奪われたというのに」
「すごい腕の立つ男がいて、……そうだ」
許義が言葉の途中、ふと思い出したように言った。
「奏文さんの乗ってたのとそっくりの馬に乗ってたんです、そいつ」
「何だって?」
「ひょっとして、あの男の手に馬は渡ったんじゃないでしょうか?」
そこまで言うと、許義は顔をしかめてうめき声を上げ、だが、奏文は処置の仕方が分からず、うろたえるばかりだった。
彼は険相で辺りを見回した。敵の気配はなかった。あるのはただ荒涼とした空気のみ。
許義がした話にもとづき、奏文は、村を襲った王朝軍の残存勢力の指揮官を思い描いてみた。きっと、悪人面で、貪婪で、冷血に違いないと彼は推断するのだが、なぜか彼の想像に現れるのは、故郷で別れた父の姿なのだった。
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