***
父母の様子を見に行った徐氏が戻ってきたが、ひどく面持ちが暗かった。奏文は、ひょっとすると辺りに倒れている亡骸のように、彼等がなっていたのかも知れないと思って、恐々事情を尋ねてみたが、そうではなく、見つからなかったそうだ。確かに、本来いるはずの人数に対して、遺体と負傷者の数が少なすぎるようだった。
どこかに逃げたのだろうかと考え、奏文は許義に聞いてみようとしたが、彼はもう深手のために息をするのがやっとで、とても話に応じられる状態ではなかった。
「ここでやられた人以外は、逃げたのかも知れません」、と奏文。
「逃げた、どこに?」
「分かりません。許義と岩良が知っている可能性が高いですが、彼等は負傷の程度がひどく、傷の手当てをして、回復した彼等に改めて聞くのが妥当かと思われます」
彼は、とりあえず比較的損傷の軽い家屋を探し出し、そこに二人を運び込んだ。許義は痩身なのでおぶっていくのはそう難しいことではなかったが、岩良の場合、並外れた巨体の持ち主のため困難で、奏文と徐氏の二人で岩良の腋に腕を通して肩で持ち上げ、引きずるようにして運んだ。彼等は敷いたむしろの上に寝かされた。
奏文は事情を聞きだす企てと思いやりから許義と岩良に対してそうしてみたものの、どのようにすれば彼等が回復するのか、あまり知識がなかったので、見当が付かなかった。彼は一介の武人として数々の戦場を潜り抜けてきたが、父にじきじきに厳しい鍛錬で強化された彼は、せいぜい浅手を負うまでだったので、負傷に悩まされる経験がなかったのである。
彼等の負う傷は全て刃物によるものだと奏文には察せられた。切られた傷と突かれた傷とがあった。
戸惑うばかりの奏文のそばにいたはずの徐氏が、いつの間にかいなくなっていたが、しばらくして戻って来、手には根に土の付いた、思うに彼女が引っこ抜いてきたであろう植物が握られていた。ツヤのある大きい丸っこい葉の間に細い茎が複数伸びており、それぞれの先に黄色い花弁が放射状に広がっている。
「薬草です」、と徐氏は簡明に言うと、その場に座ってその薬草の葉と茎を毟り始めた。
「水を桶にくんできてください、奏文さん」
「水……承知しました」
徐氏は博識である。直感的に、彼女には傷の治療に関する知識があるのだと推察された奏文は、言われるまま、従順に行動した。
粉雪が慎ましく降ってきた。奏文は井戸より凍りそうなほど冷たい水を汲んでくると、小走りで元いた家屋まで戻った。
汲まれた水で薬草の根に付いた土を洗い落とすと、暖を取るために焚かれたそばの焚火で、串刺しにした薬草の青葉を炙り、その後板の上で短刀を用いて細かく刻んだ。奏文は、ぼんやりと半ば感心するように、半ば劣等感に苛まれて、彼女の手際に目を奪われていた。
手慣れた徐氏は、出来るだけ多く炙った葉を用意して刻み、ある程度集まってくると、清潔な布にのせて、許義と岩良の、特に大きい傷のある箇所に結び付けた。何かの成分がしみるのか、縛り方がキツくて痛いのか、布が結ばれると、許義も岩良も、苦しそうに顔を歪ませてうめき声を上げた。
奏文は大丈夫なのか確かめるように恐る恐る徐氏の端正な、どこか冷血に見えなくもないその顔を見つめたが、彼女は凛として、大丈夫だと答えるように、小さくコクリと頷いて返すのだった。
***