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奏文たちの行く先にある村の周辺に、畑があった。刈り込まれた低木の葉はツヤツヤしていて、ほのかに芳香を放っていた。茶畑だった。
彼等は斜面を下りていき、村の出入口に差し掛かった。
一本の木のそばに、剣を腰にさげた、一人の守衛と思しき男があぐらを組んで座っていて、ぼんやりしていた。
奏文が村への立ち入りを求めると、まず守衛は乗馬している彼の風貌をざっと見て、納得するようだったが、その後彼に随伴するいかにも怪しい二人の姿を見て、不審がるように顔をしかめ、ゆっくりと立ち上がった。
「どういうご一行ですかね? あなたはまだ身綺麗だが、そっちの二人は浮浪者のように薄汚い」
「何だと!」、と許義が憤慨し、岩良もプリプリするが、奏文が制し、「ただの連れ合いだ」と簡明に返す。
「彼等とは道行く中で出くわした。ちょっと気の毒な境遇に置かれているようでな」
「情けをかけたということですかな?」
守衛の問いかけに、奏文は曖昧に返事し、その内容は十分ではなかったが、守衛はとりあえず合点が行ったようだった。
「まぁいいでしょう。どうぞお入りください。辺境の寒村に過ぎませんがね」
そう言って、守衛は体を横に向け、手で村の中に入るように促す。
「いや、とてもありがたい」、と奏文はサッと馬から下りて感謝を述べる。「数日来まともなところで寝食しておらず、弱っていたのだ」
入村した奏文は、早速宿の所在をたずね、守衛に案内して貰った。道行く人々が、訪問者をジロジロと物珍しそうに見ていた。歓迎するようではないが、かといって邪慳にするというのでもなかった。訪問者は、たとえ身元不詳でも実害さえなければ受け入れる、そういう雰囲気だった。
宿は、この村の黒い瓦屋根と白い石壁の建物の内の一軒だった。守衛は案内を終えると元いたところへと戻っていった。
「奏文さん」、と許義が手を口の横に立て、ヒソヒソ話す。「宿なんて贅沢じゃないですか。金はあるんですか」
奏文は腕組みし、「あまりない」と淡々と返す。「だが、今までの苦行の分、たまには贅沢するというのは悪いことではなかろう」
「ありがたや、ありがたや」
許義と岩良はにやけた顔で両手をすり合わせ、宿に入っていく奏文に付いていこうとするが、彼がきょとんとして振り向き、「ちょっと待て」、と言って制止されると、二人も同じようにきょとんとした。
「どうしたんです? ご主人様」
奏文は寒気に思わず身震いするようだった。
「投宿するのはわたしだけだぞ」
「えっ、てっきり奢っていただけると」
「まさか、とんでもない。自腹を切るなら結構だが」
許義は言葉を失って立ち尽くし、奏文は馬の世話を頼むと、扉のない原始的な建物の出入口を通って中に入っていった。
宿の正面に、二人の浮浪者と一頭の馬が残された。
「ちぇっ」、と許義は不満そうに舌打ちし、足元の小石を蹴飛ばした。「ケチくさいやつ。いっしょに泊めてくれりゃいいのに」
そう独り言を言い、許義は同意を求めるように岩良の方を向くが、彼は馬の顔を撫でて、嫌になつかれているようで、許義は何だかくさくさしてくるのだった。
空の大半を満たしていた雲は、切れ切れになり、今では青々として、爽やかな模様だった。
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