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榻(とう)の上で仰向けになって休んでいる奏文は、じっと天井を見つめていた。
懐が寂しかった。奏文はかれこれ数ヵ月孤独に旅して来、その間は貯蓄を崩すばかりだった。流浪しながら食い扶持を稼げればよかったが、彼には武芸を除いて秀でた技術がなく、定住してもおらず、労働は困難だった。
ハァと奏文の口からため息が漏れる。石造りの部屋は、うっすら冷気が漂っていて、暑い夏には涼しくて快適だった。
目を瞑った彼に、昔のことが蘇ってきた。
……。
草原に雲合霧集する二つの軍勢が、互いに激しくぶつかって砂埃を上げ、戦力を削り合っていた。戦争だった。
まだ若い十八歳の奏文は、金属片で出来た防具を纏い、混沌とした中敏活に動き回り、敵の攻撃をかわしては反撃して剣で殺し、一兵卒に過ぎなかったが、目を見張る働きぶりを見せていた。
押せ、押せと号令をかけ、みずからも騎兵として敵味方入り乱れる人だかりの中、馬で走り回り、剣を振り回して戦闘するのは奏文の父だった。奏文が武勇に優れているのは、ひとえに武将である父の鍛錬によるものだった。彼は父の軍に所属し、彼の弟子、配下として、従順に働いていた。
彼等が対するのは反乱軍であり、彼等はその鎮圧を目指して奮闘していた。
大声がし、敵勢が退いたが、次には夥しい矢が飛んで来、奏文と父は凌いだが、何人か被弾して死んだ。結局、その戦は、からくも奏文と父の側の勝利に終わったが、犠牲が多く出た。
反乱が、その頃頻発していた。王朝が配置した地方の武官に仕える父は、たびたび戦場に駆り出され、彼の配下である奏文ももちろん戦場に同伴した。
度重なる戦を通して、奏文は、いくらよく父に鍛えられて強壮だとしても、生傷が絶えず、また、王朝の威信への不信感を持つようになった。王朝の求心力が衰えているから、こうして各地で有志が蜂起して反乱が勃発し、安寧が乱れるのではないか、そのように奏文は考えた。
そのことは、直接父に話されたが、父はあくまで王朝の味方であり、その歴史を知る彼は、王朝の繁栄と不滅を信じて疑わなかった。
「時代の趨勢は変わりつつあるのではないですか」
奏文が言う。
屋敷の部屋で、父子は対座して真剣な話し合いをしていた。
「最早王朝の力は衰え、そのために清新な力を求めて権力の転覆が試みられているのでは?」
鼻の下に濃い髭をたくわえた父は、険しい面持ちで腕組みしてしばし沈黙し、どこか同意するようだったが、「いや」、と返した。
「世を乱すのは醜い人の欲に過ぎん。王朝の権威は尊いものだ。それを求めて俗悪な連中がいたずらに奮起しているだけだ」
「民の中には反乱に同調する者が少なくありません。税制や労役の負担が大きすぎるように思います」
「同調しているのはお前のような若者が大半だろう。彼等はお前のように王朝による恩恵をよく分かろうとせず、負担を責めるばかりさ」
――父子の話はあまり建設的ではなかった。父には父の言い分があり、息子には息子の言い分があった。片方は年を取って、堅実で保守的で、他方はまだ若く純真かつ世間知らずで、活力に溢れ、大望に飢えていた。
話は平行線を辿り続けた。そして奏文と父の間には、決して浅くない溝が空き、互いを隔てるようになったのだった。
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