【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ!   作:詠符音黎

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1. なんてことのないミレニアムの色鮮やかな一日

「私は八薙(やなぎ)リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ!」

 

 私のよく通るハスキーな美声がミレニアムサイエンススクールの校門前広場に高らかに響いた。

 行き交うミレニアムの生徒達が何事かと私に視線を向けている。

 うむ、これは当然の反応だ。

 いきなり大声で天を指差しながら叫べば嫌でもこちらを見る事になるだろう。

 しかも私は自分で言うのも烏滸がましいが見た目がいい。

 風に靡く瑠璃色の毛先がくるんと内側に丸まったロングヘアーに鋭利な目の奥に輝く同色の輝き、同性をも惑わす整った顔立ちにバランスの取れた高身長のプロポーション、それを彩る左目の金枠で装飾されたモノクルに制服の上から羽織った純白で襟が高く裾が足元まで伸びるコート。

 これらの要素は謙遜すればむしろ嫌味で傲慢な程だと自覚しているし、一方で私の才能の前にはこれらの外連味すら霞むだろう。

 そしてそんな私が人の耳目を惹くアクションを起こせば当然誰もが足を止める。

 すべては私の計算通りだ。

 

「ミレニアムの諸君! 君達はこれから我が『タイムマシン研究部』が作り上げた奇跡の産物を目にする世紀の証人となるのだ! そのことを誇りたまえ! 栄誉に思いたまえ! この時この場所にいる君達は、偶然によって選ばれし資格者なのだからねぇ!」

 

 これから行うのは私の発明のデモンストレーションだ。

 研究・開発に必要なのは資金であり、資金を得るためには将来性をスポンサーに感じてもらう事が必要で、そのためにはまず知られなければならない。

 誰にも知られない研究・開発など本来持つべき未来も開く事はないからだ。

 

「見よ! これぞ我が研究の産物! 衛星のデータなしに完全に天気を予報する『天界の鼻(ヘヴンズ・ノーズ)』であるっ! カーッカッカッカッァ!」

 

 故に私はこうして自らの研究成果をこうして時折公衆の面前で発表していた。

 まず掴むのは市井の心から。それぞデキる科学者スタイルと言えるだろう。

 今回はそのうちの一つとして、この天界の鼻(ヘヴンズ・ノーズ)――高さ位一メートル程で一輪の車輪から伸びる支柱で箱型のモニターを支えそこからバランスとセンサーそして充電を兼ねたソーラーパネルを左右から伸ばした自走式ロボット――をお披露目したという訳だ。

 

「まーたリリカが変なことやってるよ」

「いっつも元気だなぁ」

「発明自体は毎度凄いんだけどねー」

 

 ……む。どうにも反応が悪い。

 もっと驚愕され称賛されてもおかしくないと思うのだが……。

 

「ゴラァッ! オメェまた無許可でアホな事やりやがってんじゃねぇぞ!」

 

 と、そこでガラの悪い怒鳴り声が私の後ろから聞こえてきた。

 あまりにも聞き馴染みのある声だから私はあえて振り向かずに腕を組みながら答えてやる。

 

「ふっ、何度言ったら分かるのだネル? 人々の心を掴むのに必要な事、それはサプライズであると!」

「こっちこそオメェがバカな事するせいでその度にあたしが引っ張ってこいって言われるから止めろって何度も言ってんだろうが! オラ! いいから帰るぞ!」

「まっ待て! まだデモンストレーションもしていないのだがーっ!」

 

 私の首根っこを掴んでプリプリとしながら引っ張っていっているちっこいのは美甘ネル。私と同じミレニアムの()()()だ。

 彼女とはまあ入学時から色々とあった仲であり私の親友が一人である。

 そしてこれから彼女に連れられて行く先にも、我が親友達がいつも通り待ち構えているであろう。

 

「ほらよ、いつも通り連れてきたぜ」

「ありがとう。やはりあなたに頼むのが一番合理的ね」

「まったく……いつも思いますが、本当に目立ちたがり屋ですね、あなたは」

 

 私が連れられてきた教室にいたのは黒一色で怜悧冷徹な気配を漂わす調月リオ、そして反対に白一色で柔和柔軟な雰囲気を醸し出す明星ヒマリだ。

 彼女らも同学年で、とりわけ私が強い友情を感じている二人でもある。

 

「やれやれ……私をただの目立ちたがりとは言うじゃないかヒマリ。確かに『全知』の名を与えられる程のハッカーの君からしたら私のショーは多少派手に見えるかもしれないが……」

「いえ、それとこれは関係ないと思いますよ? あと、毎回なんらかのトラブルを起こしているのに多少……?」

「そもそも研究資金の申請を兼ねた審査は適切にセミナーが行っているでしょう? それなのに他の一般生徒にもアピールしよういうのは非合理的だわ」

「まったく二人とも存外頭が固い……それでは我々に与えられた“BIG3(ビッグスリー)”という呼び名が泣くぞ?」

 

 私、ヒマリ、リオの三人はいつしかまとめてそう呼ばれるようになっていた。

 理由は簡単で、私達それぞれがミレニアムの中でも傑出した天才だからである。

 総合的にあらゆる分野に造詣が深いリオ。

 とりわけソフトウェアに強くミレニアムでも歴史上三人目にあたる『全知』の称号を獲得するほどのハッカーであるヒマリ。

 そしてハードウェアにおける卓越した知識と技術、そして何者にも追随を許さない天賦の発想力を持つ私、八薙リリカ。

 我らが才能はこのミレニアムにいるならば誰もが認めざるを得なく、ついにはこのミレニアムを代表する三人――BIG3とまで言われるようになったのである。

 

「私はそう言った肩書に興味はないのだけれど……でも、その呼び名を汚しているとするなら自由奔放過ぎるあなたではなくて? 科学者たるもの、せめて心がけだけでも賢明であって欲しいものだわ」

「あら、私は面白い呼び名だと思いますよ? この清涼な風に吹かれ揺らめく可憐に咲き誇る一輪の白百合である私を呼ぶにはいささか言葉足らずなところはあると思いますが……。それはそれとして、もう少しご自身の発明の安全性を確認して欲しいと思いますね」

「確かにそれも一理あるだろう。だが“タイムマシンを制作する”という私の目標に必要なのは私自身の予測ではなく発明における未来予知の観測データだ。変数だらけの状況に置く事によってその予測の精度を上げるためのビッグデータを収集する……つまりはこれもまた私の研究の一部なのだよ」

 

 先程は述べていなかったが、突発的なデモンストレーションを行う大きな理由としてこれもある。

 私の夢は、タイムマシンを作ることだ。

 かつてテレビで見た時間を自由に移動するタイムマシンの姿に心を打たれ、それを成すためにこのミレニアムにやって来た。

 そのために私は『タイムマシン研究部』を設立し数多くの試行錯誤を行っている。

 だからこそ研究資金はいくらあっても足りないし、支持してくれる人が増えるならそれに越したことはない。

 二つの実益を兼ねた実に理にかなったデモンストレーションなのだ。

 

「だからっつってそれであたしにまで迷惑かかるから止めろっつってんだよ」

「ふむ? ならたまにはネル以外が来ればいいのでは? 働き詰めはよくないぞ?」

「おめぇ無駄に腕っぷしあるせいであたしかアスナぐらいしか対処できねぇんだよ! そういうこと言うならせめて冷静に従えばいいだろうが!」

「すまないね。抵抗せずに従うのは性に合わないからねぇ」

「……やっぱ一度しっかりシメとく必要あるな? あぁん?」

「ふっ……さすがに敵わぬ相手とわかりつつもこの大天才八薙リリカ、決して己が信条曲げはせんさ! ミラクル! リリカルッ!! ジィーニアスゥ!!! これぞ我が絶対勝利のプロトコルだぁっ! カッカッカッァ!」

 

 ネルが二丁のSMG“ツイン・ドラゴン”を抜いたのを見てこちらも高らかに応えつつ我が愛銃“ウォーデン・オブ・タイム”――二つのチューブラーマガジンを持ち薬室への手動装填を含めて三種の弾薬を使い分ける事のできるKelTecのショットガン『KSG』を赤青緑白茶の五色で塗装したもの――をコートから抜く。

 先程も言ったように勝てないと分かっていても応戦しなければ気がすまなからな。

 それになんだかんだ私と撃ち合っているときは彼女も楽しそうだしまあいいだろう。

 

「また始まったわね……」

「では、いつも通り隠れておきましょうか」

 

 いそいそと身を隠し始めた二人を尻目に、私達は盛大に撃ち合っていく。

 結果として私は彼女にのされてしまうのだが、今日の戦闘時間はニ分十一秒。継戦時間は七秒も伸びていて私も成長を実感できたからヨシである。

 これが、私達のミレニアムでの日常。

 少々騒がしいが楽しく夢と希望に溢れた、ミレニアムらしい一日だ。

 きっとこんな日がずっと続いて欲しい、私はそう思っていた。

 

 

 ――そう、このときは心からそう思っていたんだ。

 

「何故か? 何故かだと!? 何故私が狂ったのか、だと!? カッカッカッ……! 言うに事欠いて、なんたる愚問ッ! いつの世も科学者を狂気たらしめるものなど、陳腐にして決まっているではないか! ああされど、しかしてされど! 答えてあげようその愚問! つまびらかにしよう自明の()! ……世がこの天才を、認めぬからだよォ……!」

 

 大切なものすべてを自ら壊すと決めた、あの出来事までは――

 

 

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