【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ! 作:詠符音黎
「クソ……!」
あのバカに12ゲージスラグ弾を全弾ぶち込まれたせいで、あたしの体はうまく動かせない。
体にのしかかる重力はアイツがいなくなってもしばらく一帯に効果が残り続けるのか未だ体は押し付けられ続けている。
だというのにすぐ側にある爆弾はどんどんと耳障りな低音を激しくしていって、爆発が近いのを知らせてくる。
「この、ままじゃ……!」
なんとか体を動かし爆弾をどうにかしようと這ってみるもナメクジの方がまだ速いんじゃねぇかというノロさだ。
アイツの言った通り、おそらくこれでみんなのヘイローが砕けて死ぬなんて事はないんだろう。
だが大怪我するのは間違いないし、もしここにいるメンツがそうなったら何かやろうとしているアイツを止める事ができねぇ。
そんなことは、絶対に嫌だった。
だって、止めねぇといけねぇんだよあれは。アイツは気づいてないだろうが、こっちは分かってんだよ。
――あのバカが、何か無理してる事ぐらい。
「アアアア……! 動け、動けええええ……!」
何があったのかは知らねぇが、リリカがああやって無駄に芝居がかった事をするときは大抵無茶をしておどけているだけだ。自分が悪者になって収まるならそれでいいって考えが昔からチラ見えしてやがるんだよアイツは。
――あたしは、アイツのそういうところが一番ムカつくんだよ……!
「ガアアアアアアアアアアアアッ!」
だからアイツをちゃんとぶん殴らねぇといけねぇ。勝手に拗らせてるバカの考えに乗るなんてごめんだ。だから動け、動けってんだよっ……!
「リーダー!」
あたしが必死にもがいていたその時、聞き慣れた声が飛んできたと共にあたしの体は床から離れた。
アスナがあたしを小脇に抱え上げたのだ。
「なっ!? お前どうして……!?」
驚きながらもよく見ると、倒れていたメンツが起き上がり動き始めている。
その中でリオとヒマリがとりわけ疲れた顔もしていた。
「なるほど……おせぇんだよ」
「悪かったわね。さすがにあの重力下で力場そのものを無効化するのには骨が折れたわ」
「この風に揺れる落ち葉よりも儚い病弱美少女である私の助けがなければ不可能な事でしたが……と、今は話している暇はありません。急いでこのビルから出ますよ。おそらく解体している時間はありません」
その言葉を受けてあたしたちは一目散にビルから逃げ出した。
全員がビルから出てギリギリ安全といえる位置に移動した直後、派手は爆発があたしたちのいた階で起こる。
あまりにもデカい爆発だったからこれ本当に巻き込まれてても大丈夫だったのか? なんてぐらいの勢いで、そのままビルは倒壊を始めた。
「チッ……覚えてやがれよ、あのバカ」
痛む体を抑えながらも、あたしはそんな風に舌打ちした。
*****
「さて、今後の対策を練るために情報を整理しましょうか」
ビルから脱出してからすぐ、あたし達はいつも溜まり場にしていた教室に集まっていた。
疲れや重力によるダメージがデカい連中にはひとまず帰ってもらって、今ここにいるのはあたし、リオ、ヒマリ、ウタハ、アスナの五人だ。正直ヒマリも相当つらそうなんだが、ここは向こうが譲る様子はなかった。
まあ本人がそう言うなら止めはしない。そういうガッツもあるのはむしろ好印象だ。
「まずはこれを見て欲しいわ。いつの間にかリリカから来ていたのよ、ビデオメッセージが」
「へぇ? つまりは宣戦布告って事か。おもしれーことすんじゃねーか」
交渉の可能性もあるが、ここまでの経緯とアイツの性格上本当にただの宣戦布告だろう。
大げさに見栄を張るのが最優先であり、何かを材料に取引をしようって考えはないはずだ。
少なくともあたしが知ってる八薙リリカは、そういう女だ。
『やあ親愛なる我が友人達諸君。これを聞いているということはみな五体満足で元気だという事だろうね。まあ信じていたよ。何せ私に比肩するのだと認めた君等だからねぇ』
タブレットに映し出された動画には両手を机の上で組んだふてぶてしいリリカの姿があった。
憎たらしい笑い方しやがって。似合ってねぇんだよ。
『さっそくだが、私はリオが秘密裏に建造中の要塞都市エリドゥを乗っ取らせていただいた。いや、これは自動メッセージで送ってるやつだから、タイミングによっては今乗っ取っている最中かな? まあ細かい事はいい。とにかく私はそこで、私の目的を果たすつもりだ。このキヴォトスを、壊すというね』
「……はぁん? これまた随分バカげてデカい目標掲げたなぁ。まったく何がしたいんだか」
どうせなんか別の目論見があるんだろうけれど、そこは知ったこっちゃねぇ。
場所とやる事が分かったのならそこから作戦を立てて対処する。いつものC&Cの仕事と何も変わらねぇさ。
『言っておくが他校や連邦生徒会の助けを借りようとしても無駄だよ。これを聞いているタイミングで私はそれぞれの自治区でちょっとしたトラブルを起きるように仕込んでる。少なくとも私の目標が達成されるまでは、他が手出しできる余裕はないからね』
「……だとよ。そうなのか」
「ええ……各校の自治区において多数の武装したドローンが暴走しているとの情報が入っているわ。こちらからも連邦生徒会長に連絡は取ってみたけれど、対処を完了し自治区の生活を回復させるまでにどうしても三日はかかる、との事よ」
「つまり、彼女が設定したキヴォトス破壊のタイムリミットは三日後までと考えた方がよさそうですね……しかしリオ、あなたまさか人に隠れて都市をまるごと建造していたとは……ハァ、まったく本当に……」
「……別に理解してくれなくても構わないわ。私はただ来たるべき脅威に備え自らの信じる行いをしていただけなのだから」
「リオに詰めたい事はあたしもたくさんあるけどそれは置いとけ。ほらビデオの続き頼むぜ」
一旦再生を止めていたビデオをまた再生させる。
ビデオの中のリリカはそこで立ち上がり、両手を横に伸ばしながらくるっとその場で一回転し、直後カメラ越しにこちらに向かってピン! と指を差してきた。
『つまりは! この私を止められるのは今ビデオを見ている君達しかいない! のだよ。どうするかは君達の自由ではあるが……私としては、ぜひ君達と本気で戦いたいと思っている。この私、八薙リリカがキヴォトスナンバーワンの天才であるとはっきりと証明するためにね。ではみんな、私は要塞都市エリドゥ改め時空都市ネオエリドゥで君達を待つ。ぜひ共に楽しんでくれることを願うよ』
最後に恭しくコートの袖とつかんでカーテンシーをしたリリカの姿でビデオは終わった。
「時空都市ネオエリドゥね……ったく、アイツが好きそうなノリだ」
やってることは本当に最悪なのにそこでも変わらないらしさを感じて、思わずため息をついてしまう。
他のメンツもそれぞれの理由で軽くため息を付いた後、あたし達の作戦会議は始まる。
「このビデオの情報に加え先程も確認したように連邦生徒会からの助力も得られない。それだけでなくこちらから割ける戦力も実質この部屋に集まってる五人になるわね」
「ええ。他のみなさんは怪我か疲弊で難しいですからね。それとこれは情報共有なのですが、おそらくリリカが仕掛けた各校への工作はヴェリタスの部室から行われたのは間違い有りません。あの会場でコタマが問い詰めた例の一件です」
「ああおめぇらがネットの抽選でズルしてたっていう」
「まあそれは一旦置いておきましょう。ともかくあの場でリリカは何らかのバックドアをヴェリタスのコンピュータに仕込んだと思われます。それにより我々のマシンを踏み台にし、各校への妨害に利用したのでしょう。しかしこれを利用すれば、逆にこちらが有利を取れるかと」
こいつ都合の悪い話をさらっとなぁなぁにする気だな? とはなったが今は言われた通り一旦置いておく話なのであたしも流した。
でもこれが終わったらしっかり問い詰めるから覚悟しとけよヒマリ。
「で、それは誰がやるんだ? お前か?」
「いえ、そこは回復した後のコタマとチーちゃん、そして後輩のハレに任せようかと。彼女らなら問題なくやってくれるでしょう。私は皆さんと共に、彼女の元へと行きます。無理をする彼女には元々苛立っていましたし、いい機会ですから直接言ってやろうかと」
ああ、やっぱこいつも気づいてたか。
というかこの部屋でこうしてる奴らはみんなある程度は分かってたんだろうが。
「無理を……?」
……訂正。
リオはそういうの疎いからコイツ以外だ。
「ったりめーだろ。あいつはちょいちょい自分が泥を被ればいいってピエロやる事があるんだよ。今回はそれのすげぇスケールデカいバージョンって事だ」
「そもそもリリカは自らの才能に対して人からの評価を気にするような子じゃありませんしね。良くも悪くも自分が『キヴォトスナンバーワンの天才』という事に強いこだわりがあって、それゆえの孤高を知る者でもあります」
「そうなのね……確かにあのときの『世が自分を認めない』という発言への違和感は大きかったけれども……」
「本当に、本当にそういうところですよリオ……」
この呆れはそこそこキレが入ってるなって横で聞いてて思った。
正直気持ちはすげぇ分かる。ほんといつかリリカの事言えないようなことしでかすんじゃねぇかリオ?
「まあともかくだ。あのバカが何か隠し事してるのは明白だが、それはそれとしてこっちもしっかり準備しなくちゃいけねぇ。まずアイツ個人との戦闘だが……今度は負けねぇよ、あたしは」
決意の言葉と共にあたしは愛銃“ツイン・ドラゴン”のグリップを握る。
「……勝算はあるのかしら? 彼女の装備は間違いなくエリドゥ建造に使った高エネルギー伝導素材。それを用いてあのスペックを出している装備相手だと、さすがにあなたにとっても対処が難しいのではなくて?」
「あ? んまあそらそう思うわな。だがよ、既に大体の種は割れた。他に隠し玉もあるだろうが、不意打ちじゃねぇ同条件ならもう負ける気はしねぇよ。それにそこで対処法がないお前でもないだろ? リオ」
「そうね……少なくとも現状の彼女の装備に対し、こちらも先程のように対策を講じる事はできる。彼女がエリドゥをどれだけ利用するかにもよるけれども、あの都市を建造していたのは私。つまり私の手元には計算材料は揃っているわ」
「上出来だ。期待してるぜビックシスター」
「ええ、こちらこそ。コールサイン
ったく。いつものように澄まし顔で言いやがって。
ま、ダルいヤツだがこういうときには頼りになるもの確かだ。
こいつの頭の出来に関しては疑いようもないしな。
「彼女が用いた装備は重力操作の
「へぇ。ちなみにどんな?」
「何、あれは元はコーヒーロボのためのAIとして組んだものだからね。おそらくその過剰な判定システムを戦闘用に組み替えたのだろうが、根底のプログラムが一緒なら、目をそらす手がある。三十分程時間をくれ。有り合わせになるが対抗装備が作れるだろう」
「おう、任せたぜマイスターさんよ。……しかしなんだよ兵器に転用されるコーヒーロボって」
やっぱエンジニア部の連中はちょっとろくでもねえな……と頼れる一方でそんな事も思ってしまった。
「じゃあとりあえず前線を切り開くのは私とリーダーの二人でいいかな?」
「ああ。あくまでこいつらは前線に立つような連中じゃないしな」
「オッケー! 二人で作戦って久々だね! 二年になってからはアカネも一緒だったし」
「そうだな。あたしとのツーマンセルの動き、忘れちゃいねぇよな?」
「ダイジョーブ! 忘れても体がついてくと思うから!」
「はっ、おめぇなら違いねぇな」
あたしとアスナはそう言って軽く拳をぶつけ合う。
コイツほど頼りになるバディを、あたしは知らない。
「おし、大体の方針は定まったな……んじゃ、準備ができ次第、アレをぶん殴りにいくぞ、おめぇら」
発破の意味を込めてあたしは四人に言う。
ただそんな中で、あたしの中でとある言葉がふと浮かんでいた。
それは先日、リリカと公園で話したときにあいつがいったあの言葉だった。
『ネル、私は、実は大人になったらお花屋さんになりたいって思ってたんだよ』
何故から分からないが、あのときのアイツの言葉が何か引っかかっている。
そんなちょっとした違和感が、あたしの中でうまく消化できないでいた。