【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ!   作:詠符音黎

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11. 時空都市ネオエリドゥ攻略戦

 リリカが待つ都市ネオエリドゥへと攻撃をしかけるために入念に準備をし一日。

 作戦開始はビル爆破翌日の正午となり、今まさにそのときを迎えようとしていた。

 

「いいか、最後にもう一度確認するぞ。まずはウタハとリオが設計した装甲車でネオエリドゥに突入、その後迎撃が始まったらあたしとアスナが外に出て対応、以後は二人で突っ込んで三人は装甲車から後方支援。これでいいな?」

「オッケー! 私はとにかくリーダーと一緒にやっちゃえばいいんだよね?」

「ああ、頼んだよ。それで私達はそれぞれの技能を活かし君達を全力で支援する。具体的には私はこの様々な機能を搭載した装甲車の運転、リオは攻撃システムのオペレート、ヒマリは電子戦だ。任せてくれたまえ」

「ああ。……まあしかし分かってて言うんだけどよ。お前ら前出る気ないのな」

「私は前線向きじゃないからね」

「非合理的だわ」

「私のような可憐さの代償にか弱さを抱えているガラス細工よりも繊細で美しい天才清楚系病弱美少女ハッカーがわざわざ前に出るのは無粋というものです」

「……うん分かってたのに聞いたあたしが悪かった」

 

 別にみんな納得してた事だけどにしたってそこまで自信満々に言われたらなんか腹立つな……。

 まあいい、ぶっちゃけこいつらが装甲車で助けてくれる以上にあたしとアスナが二人で暴れた方がよっぽど強いのは間違いないからな。

 それはそれとしていざここまで来たら前線に来るとかいい出す勢いがあるやもとは思ったんだが……役割の割り振り意識しっかりしてるのは良いのか悪いのか。

 ってんなこたどうでもいいんだよ。ともかく、これからおっぱじめるって訳だ。

 ここまで派手な舞台を用意して何か隠してるヤツの口を割らせる仕事を。

 自称天才のバカを殴る祭りをな。

 

「……と、そんな話をしていたらいよいよなようだね」

 

 ネオエリドゥに向かいずっと自動運転していた装甲車だが、いよいよ視認できるようになるとウタハが運転席についてマニュアル操作に変わる。

 

「目標防壁確認。突破する」

 

 カメラで映し出された外の光景には、巨大な防壁で入口を塞いでいる都市の姿があった。

 

「充填率70パーセント……80……90……100%! 試作レールガン、発射!」

 

 その言葉と共に、装甲車に搭載されていたレールガンが鋭い光の剣(・・・)で防壁をぶち抜いた。いかにも頑丈そうだった壁は完全に穴を開けた上で吹き飛び、進入路を確保してくれる。

 

「はっ! いかした一撃だったじゃねぇか!」

「ああ、宇宙船艦に搭載する用のレールガンをこんな形で実践に投入する事になるとはね。だがどうにも高出力過ぎたせいで今の一撃で砲身が焼け付いてしまった。ふむ、これはそもそもの総出力から考え直しだな……ともかく、今後は頼れるとは思わないでくれ」

「大丈夫だ! ハナから頼る気なんかねぇよ!」

 

 ウタハの言葉に思いっきり笑って答えてやると、ウタハもまた軽く笑い答えてくれた。

 その直後、装甲車はガンッ! と壊した防壁の瓦礫で跳ね上がりそのままネオエリドゥの中に突入していく。

 ネオエリドゥ内部はリオが資料で見せてくれた通りの要塞都市だった。

 数々のビルが立ち並び白く輝く道路がいくつも通っているが、すべてが戦闘を想定して造られた設計で完全な要塞になっていた。

 よくもまあこんなもんを誰にも知られずに作ってたもんだぜ。あたしやヒマリにすら秘密だったんだから、下手したらアイツここで私達すら敵に回す予測すらしてたまであるな?

 

「ッ! 来ました、重力負荷です! リオ!」

「ええ。アンチグラビティエフェクト、展開」

 

 どうやらリリカがあのときみたいな重力操作での攻撃をしかけてきた見たいだが、それをすぐさま察知し対抗したヒマリとリオのカウンターでまったくその重みを感じる事なく終わった。

 また、直後こちらにめがけて飛んできていたはずの飛行ドローンがどんどんその向きをズラし、勝手に墜落したりぶつかり合って破壊されていく。

 

『コーヒー検知! コーヒー検知! コンナモノハモハヤ泥水! 排除! 排除! カフェ、エ、ェエ……』

 

 ……意味わかんねぇこと言いながら。

 

「な? 言ったろう? 私が作ったAIゆえに、その対処法も完璧だとね。やはり改造しているとはいえ根本のコーヒー判断システムをくすぐってやればこの通りだよ」

「はいはいあーもう分かったよそれでいいよそれで。で、そっちはどうだ」

「ええ。ヴェリタスにあったバックドアを逆に利用しこのネオエリドゥの自動迎撃システムに侵入しました。下地を整えてくれたチーちゃん達に感謝ですね。これにより彼女の用意した自動迎撃システムは機能しません。死角や遠距離からの自動タレットからの攻撃にさらされ一撃死、なんて事はないでしょう」

 

 だが、ここまでしても今道路を全力で走って襲ってくる姿はある。

 四本の足に車輪がついて追いかけてくる小型のロボット戦車や他の自治区を襲っていたものとは違うまるで空飛ぶエイとでも言うべきドローン、ところどころで待ち構え射撃してくる人型ロボットなどだ。

 どうやらそいつらはどこの助けも借りていないスタンドアローンのリリカの兵隊らしい。

 こればっかりは三人がこの装甲車を動かしてるだけじゃあどうしようもならないだろう。

 

「つまり、ようやくあたし達の出番ってわけだ。行くぞアスナ! パーティーの時間だ!」

「オッケー! レッツパーティー!」

 

 あたしとアスナは装甲車の中から上に飛び出し、そして互いに銃を構えて応戦する。

 装甲車に接近してくる敵はあたしが、離れた距離から撃ってくる敵はアスナが倒していく。お互いの交戦距離を考えたらこれが一番だ。

 なんならアスナの直感は下手なレーダーよりもずっと感度が良い。それこそ、光学迷彩から撃ってくるような敵すらも抜いてやがる。まったくこういうときは本当に頼れるヤツだよこいつは。

 もちろん装甲車は速度を落としたりなんかしてない。ざっと時速六十キロは出てるはずだ。でも、そんな速度なんてあたしらにとっちゃあ鈍行列車よりもすっとろいね。

 

「オラオラオラオラァ! なんだよその程度かぁ!? 随分と情ねぇなぁ天才さんよぉ!」

 

 がっつりとどこかから高みの見物をしてやがるだろうアイツを煽ってやる。

 まあどこかからっていうか、あいつがこの都市で一番デカいタワーにいるだろうってのはリオが突き止めてんだけどな。

 なにかするならそこが都市の構造上、エネルギーを集約できるからって。アイツが本当にキヴォトスの破壊を目論んでいるのなら、それが合理的だと。

 ならばそれは間違ってないと思った。リリカもリオ程じゃないが合理主義者というか、安定性を重視するヤツだ。だったら変なギャンブルをそこで打つわけもない。

 そういうやつだからこそ、今回の凶行の意味がわからねぇんだが、まあだからこそこれから問い詰めてやるってわけでもある。

 

「なっ、この反応は……!? ヒマリ! ウタハ! 地形が変わるわ! 対応して!」

「は!? おいリオ今のってどういう――うわっ!?」

 

 突然、装甲車が跳ね上がった。

 突然目の前の道路が坂になり、ジャンプ台のような役目を果たしたのだ。

 それだけじゃない。道路もビルもどんどんと動き、さらには地面から新たに生えてくる隔壁やビル横から伸びてくるブロックなど、どんどんとその姿を変えていったのだ。

 

「うわーっ! 凄い! アトラクションみたい!」

「言ってる場合か! おいリオ! どういう事だこれ!」

 

 あたしはインカムの通信越しにリオにキレる。

 すると返ってきたのは、いつもと変わらない平坦な声だった。

 

「元はこのエリドゥは『名もなき神々』との戦いに備えた要塞都市。そのために都市まるごとが要塞であり、場合によってその構造を変化できるようになっているの。そのシステムは今リリカが掌握しているという訳ね」

「そういう大事な事はちゃんとこっちにも教えやがれ! こっちは装甲車の上に乗ってんだぞ!?」

「あなた達なら振り落とされる事はないと思っての時間を優先した判断よ。実際、落ちていないでしょう?」

「んだけど筋っつうもんがあるだろうが! テメー後で絶対許さねぇからな!」

「……別に理解してくれなくてもいいわ」

「いやそういう話じゃねーだろコレ!?」

 

 意味分からない拗ね方してんじゃねぇ! と更に言ってやりたがったがまた装甲車がギュインギュインと激しく動くもんだからそんな余裕もなくなった。この勢いで喋ったら噛むわこんなん!

 

「わー! もうすっごい絶叫マシンみひゃっあっ!?」

 

 案の定噛んでる奴いるし!

 ともかく激しく姿を変える都市に対し、装甲車は適切に動きを合わせ抜けていく。

 ここらへんはリオとウタハの連携の賜物だろうな。

 リリカによる妨害の数々もあたし達は難なく越えていく。

 だが、同時に嫌な予感もした。あまりにも問題なく進めすぎている。まるで、そういう風に誘導されているような――

 

 ――そう思った瞬間、装甲車真下の道路が突然爆発し、装甲車は宙を舞った。

 

「うおおおっ!?」

「きゃああっ!?」

 

 あたしとアスナはその勢いで装甲車の上から吹き飛ばされる。装甲車も空中で回転、上面を下にしながら爆発で開いた穴の下へと落ちていく。

 あたし達はみんなまとめて落ちていき、やがて穴の底の広々とした地下空間に墜落した。

 

「ぐ……! 全員、状況を……」

 

 痛みに苦しいながらも聞いてくるリオの声。

 あたしはなんとか立ち上がり、それに応える。

 

「あたしは大丈夫だ……そっちは?」

「うう……結構痛かったけど、なんとか」

「こちらウタハ……装甲車の衝撃吸収システムが働いて、車内の人間は三人共無事だ……だが装甲車そのものは動けそうにないね……」

 

 それは黒煙を上げプスプスと音を立てて一部箇所から火花が散っている姿からもよく分かる。

 そもそもこのメンツでひっくり返った装甲車を持ち上げるのも無理だろうし、動けたとしてもどちらにせよ動けなかったろう。

 

「今の爆発、こちらがジャミングしていたのにも関わらず予兆を検知できませんでした……となると、有線による手動起爆でしょうね」

「どうやら完全に誘い込まれていたようね……リリカを侮っていた訳ではないけれど、見事にしてやられたわ。ただ運転機能は失っても一部の支援システムはまだ生きている。同伴はできなくともあなた達への援護は継続可能よ」

「オッケー了解。んで、この位置だが……はっ、見ろよ。ご丁寧に上に続く階段があるぜ、ここ」

 

 横転した車の片側だけ生きているライトが照らしている先に、その階段はあった。

 これを登って来いって事か。本当に手のひらの上なのを感じてイラつくぜ。

 

「っ! リーダー! 周囲から来たよ!」

 

 アスナの言葉であたしはすぐさま銃を構える。

 彼女の言葉がらすぐ、上の開いた穴、そして地下空間の至るところからドローンだの小型戦車だのロボット兵士だのが現れた。

 

「ちっ、面倒だな……! どうせどんどん送ってくるだろうし相手してらんねぇが、この装甲車を捨て置くのも……!」

「リーダー! 先行って! 私がなんとかする!」

 

 背中を合わせていたアスナが言った。

 振り向くとその顔は、ニッコリといつも通りに笑っていた。

 

「合理的な判断ね。こちらもできうる限りの応戦を行うわ。ネル、行きなさい」

「……了解。くたばるんじゃねぇぞ」

「まっかせて! そっちこそリリカをよろしく!」

 

 心配がない訳じゃないが、それ以上にアスナやリオ達ならやれるという信頼の方がずっと強かった。

 それに、リリカもこれを見越してのこの状況なんだろう。

 つまりアイツは、あたしと一対一でやりあいてぇって事だ。

 いいだろう、乗ってやろうじゃねぇかその喧嘩。

 

「……おし、行くぜぇ! オラオラオラァ!」

 

 あたしは両手の“ツイン・ドラゴン”をばら撒き前方にいる敵を掃討、そのまま階段を駆け上っていく。

 背後では直後激しい戦闘音が聞こえてきたが、振り向く事はしなかった。

 そこからどんどんと登っていくと、途中にあからさまにこれに乗れって感じのエレベーターがあった。

 

「とことんお膳立てって訳か? 舐めやがって」

 

 吐き捨てるように言った後、あたしはソイツに乗ってネオエリドゥ中央にそびえ立つタワーを上がっていく。

 階段を駆け上がっていった疲労も回復できるぐらいに長いエレベーターの上昇を終えると、開かれた先は都市を一望できるタワーの屋上だった。

 屋上は巨大な円形で、大きく冷たい壁のない鉄のコロシアムとでも言うべき姿だった。

 そんな屋上の円の中央にはどう見ても何かをしでかすためのマシンがあった。

 直径五メートルで幅が五十センチぐらいはあるだろう金属の輪が三つ重なり合い、横、縦、斜めにそれぞれ回転している。その重なっている輪の中心には群青の光のもやがあって、ブオンブオンと重低音を鳴らしていた。

 そんな昏く輝く群青の光とは対称的に、空は目に痛い程に綺麗な茜色の夕暮れで、そのままの色を地表に落とし都市を染めていた。

 

「綺麗だね」

 

 そして、その屋上の端っこ、エレベーターから下りたあたしと奇妙なマシンを隔てた、真正面の果てにリリカはいた。

 都市を見下ろし、あたしに背を向けている。その声は、とても落ち着いていた。

 

「ああ、そうだな」

 

 あたしも静かな声で返す。

 嵐の前の静けさ、そんな言葉が浮かんだ。

 

「戦いのためにリオがこしらえていた都市だけれども、こうして見るとミレニアムの街並みと何も変わらない。叡智の粋を集めた、科学者の都」

「んで、お前はそれをぶち壊そうとしている、と」

「ああ。君の目の前にある滅び砕く歯(ドゥーム・トゥース)が私の目的を果たしてくれる。この私の人生において重ねてきたすべての叡智を結晶させた、それがね」

「へーそうかよ。……んで、何があった」

「…………」

 

 変わらない静かさで、あたしは聞く。

 例えその答えが返ってこないものだと分かっていても。

 

「てめぇが無理して悪役ごっこしてるのなんて百も承知なんだよみんな。ただなんでこんな事してんのかが解せねぇ。何かあるんならとっとと吐きやがれ。そうすりゃ半殺しで済ませてる」

「……ふうむ。ごっことは言ってくれるじゃないか。私はあの時、君に勝った。そしてみんなを傷つけようとした。そして今度も私が勝って、今度はキヴォトスすべてを傷つける。そんな悪党に、温情が通じるとでも?」

「は? あんな不意打ちで勝ち誇ってるとか恥ずかしくねぇのか? 正々堂々やって、あたしに勝てるなんて自惚れもいいところだな」

 

 あたしは改めて両手に持った“ツイン・ドラゴン”を握り直し、グリップ底につけた鎖を震わせ、両手で広げるように挑発的に立つ。

 

「あたしの間合いに入って生き残れたヤツはいねぇ。あたしはC&Cコールサイン00(ダブルオー)。『約束された勝利の象徴』さ。来いよ天才。いつも通り、敗北を教えてやる」

 

 ニヤリと笑って言ってやると、リリカはこちらに振り向き、彼女もまたその愛銃“ウォーデン・オブ・タイム”を右手に持ち外側に広げる。まるで(つるぎ)の如く。

 

「ならばその象徴も今日までだ。私こそがこのキヴォトスにおける奇跡であり、生ける叙事詩であり、そして誰にも追随を許さない頂点の大天才。『絶対勝利のプロトコル』だ」

 

 そう言うと、リリカは左手でリモコンを取り出し、ポチリとボタンを押した。

 するとリリカの言う滅ぼし砕く歯(カタストロフ・トゥース)の輪の回転がどんどんと加速を始めていった。

 

「実はもうこれは完成していて、いつでもコトを起こせたんだよ。でも三日という期限をちらつかせ君達の進軍を煽ったのは、君と一刻でも早く決着をつけたかったからさ。こいつが起動準備を完了するまで、二分三十秒。それを越えればもう止められない」

「おめぇがいつまでも越えられなかった壁って訳か。本番でそんなんセットするとか、安定志向はどうした?」

「大舞台だ、いいじゃないか別に。……さあネル、決着をつけようじゃないか。陳腐なセリフだが、私から話を聞きたかったら勝って口を割らせてみろ。私と君、どちらが真の頂点なのかをここではっきりさせようじゃないか」

「はんっ、上等だ。……さあ、やろうじゃねぇか!」

 

 あたしとリリカは、それを合図に共に駆け出した。

 お互いの意地とプライドをかけた喧嘩が、今始まった。

 

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