【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ!   作:詠符音黎

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12. 約束された勝利の象徴VS絶対勝利のプロトコル

「「はあっ!」」

 

 あたしとリリカは互いに叫び、銃を相手に向けた。

 リリカは前に飛び込む形で跳躍しながら、あたしは勢いのまま滑り込みながら。

 天と地、お互い上下に向けあった銃口から瞬くマズルフラッシュ。

 あたしの放った9mmパラベラム弾も、リリカの放った12ゲージショットシェルも互いにヒットするが表情の変化すらない。

 そんなものはあたしもリリカも承知済みだった。この距離での初手の射撃なんて毎度やってる喧嘩の中じゃいつもの事で、つまりは挨拶みたいなもんだ。

 

「っと!」

 

 そのまま滑り込んだ先で速度が落ちてくる頃合いを見計らってあたしは素早く反転、体を起こす。

 だがそこにいるはずのリリカの姿はない。

 が、あたしはそのまま振り向かずに銃口を背後に向け、連射。

 

「ぐっ!? 何だとっ!?」

 

 直後に聞こえてくる、リリカの苦痛の声。

 

「あたしに同じ手が通用するとか、便利な道具に頼ってご自慢の発想力が鈍ったかぁ? 天才さんよぉ」

「……はっ! なるほど、既に疾走する脚・γ(アクセル・レッグス・ガンマ)の仕掛けはバレていたか……!」

「おうよ。それ、動いてるうちは撃てねぇし蹴りも殴りもできねぇんだろ?」

 

 あのパーティーの夜、あたしの背後を取ったこいつはわざわざ動きを止めて銃口を背中につけて撃ってきた。

 別に勝ち誇るにしたって撃った後でいいし、なんならその光より速い動きで勢いをつけた拳でも蹴りを食らわせた後でも良かったのに。

 

「わざわざあたしに勝ち誇ってから銃をぶっ放したのは一見するとてめぇの驕り高ぶりって感じだが、実際は違った。その便利な足は結局動く事にしか使えない、そうだろ?」

 

 あたしはリリカと話してる最中にも彼女に銃口を向け、さんざん鉛玉を撃ち込んでやっている。

 そしてリリカもリリカでその銃撃を躱しながら私に苦笑して魅せる。

 

「さすがはネルじゃないか……あれだけでコレの弱点を見抜くとはね! そう、確かに疾走する脚・γ(アクセル・レッグス・ガンマ)はタキオン粒子を利用し一時的に光速を越えられるが、それはあくまで私と触れているモノだけに過ぎない。引き金を引いた弾丸はその速度からズレて元の時間の流れに残り逆にこちらの銃を破壊してしまうのだよ」

「そんで手足を使ったらその瞬間に殴った相手も同じ速度の世界に乗せちまうと。他のヤツならともかくあたしならそれで反撃できちまうからデキねぇよなぁ? ま、どういう理屈でそうなってんのかあたしにはさっぱりだが、種が割れればどうってことねぇ。てめぇが襲ってくる位置を予測して、銃弾を()()()()()。あとは勝手にテメェに当たる」

 

 あたしはさんざんこいつのバカな喧嘩に付き合わされてきたんだ。

 どういう動きをするかってのは結構読めるようになっちまったし、新しいオモチャではしゃいでるときなんかは特に分かりやすい。

 ま、いわゆる人読みってヤツだな。

 

「カッカッカ……! まったく、どうやら油断していたようだよ。相手をしているのはあの美甘ネルだというのに。だが、そうと分かればこちらだってやりようはある。君に読まれない位置から読まれない攻撃をすればいい。それだけ――」

 

 ちょっと面倒な事になりそうだと思ったその矢先だった。

 リリカの足の装備が、突然ショートし小さな火花を上げたのだ。

 

「何だとっ!?」

「あん? まあよく分からんが、足が止まりやがったなぁ!」

 

 思いっきり笑ってやりながらあたしは素早く飛び蹴りを入れ、さらに二丁の銃口で合わせて撃ち込んでやる。

 さすがにそれは応えたようで、リリカは「ぐはっ!?」と苦悶の声と表情で後ろにのけぞっていった。

 だが態勢をそれで崩さないあたりはさすがだよ、褒めてやる。口には出さねぇがな。

 

「今のは、もしやドローンからの電磁パルス!? ……そこか!」

 

 リリカはすぐさまショートした外骨格を脱ぎ捨て、素早く私の射線からズレて空中に射撃する。

 その先に浮いていたのはよく知った形のドローンだった。

 

『さすが、すぐに位置を割り出したわね。頭脳と身体能力が揃っているあなたはやはり手強いわ。準備したかいがあった』

「その声そのドローン……やっぱリオかよ」

『はい。ですが操作をし妨害されない波長と出力で電磁パルスを飛ばしたのはミレニアムが誇る美と叡智の結晶であるこの私、明星ヒマリです』

「ヒマリまで……おめぇらまだ襲われてんじゃねぇのか? アスナの支援しなくていいのかよ、片手間でできる事じゃねぇだろ」

 

 さっきのドローンとは違うどこからか聞こえてきた二人の声にあたしはそう返した。

 支援してくれたのはありがたいがそれでアスナをほっぽりだしてたんだとしたら絶対許さねぇ。

 そんな事を思っていたのだが聞こえてきたのはヒマリの複雑そうな声色だった。

 

『ええ、本来ならそんな余裕はなかったのですが……実は、リオが未だ隠していた私兵が助けに来まして……』

「あぁ? 私兵だ?」

『どうもネル先輩、はじめまして。コールサイン04(ゼロフォー)、飛鳥馬トキと申します。いえーいぴーすぴーす』

 

 通信から突然聞こえてきたのはトーンは落ち着いてる癖にいかにも舐め腐った態度って感じのが伝わってくるそんな声だった。

 

「は!? 04(ゼロフォー)ってあたしは知ら――はぁ……そうか、リオお前マジほんとマジおめぇマジ……」

『敵を騙すにはまず味方から。リリカならこちらの作戦を盗聴している可能性もあったしこういうときに備えてあなた達に隠していたのは合理的よ』

「そういうことじゃねえんだわ。おめぇそのトキってヤツもしものときにあたし達を刺すために隠してたところあったろ」

『…………』

『ああやはりそうですか。このエリドゥといい本当にとにかく本当にそういうところが下水なんですよあなたは』

「お前帰ったらマジ覚悟しとけよな」

『……私は間違ってなんかないわ』

『あ、じゃあその前に私と一戦お願いできますかネル先輩。今はアスナ先輩のお手伝いをしてリオ様達に余裕を作っていますが、ぜひともネル先輩を倒して私の方が強いのを証明したいので』

「あたしは既にお前が嫌いになりそうだよ」

『リーダーこのトキちゃんって子凄い強いよ! お陰で助かっちゃったー! 今度一緒にみんなで遊ぼうねトキちゃん!』

「お前はお前でホントーにブレねぇな……」

 

 

 こんな事を話しながらもあたしとリリカは銃撃戦を続けている。

 ただあたしは通信を片手間にしているし、リリカも中央の滅び砕く歯(ドゥーム・トゥース)とかいうマシンに射線が向かわないように立ち回っているため、お互いの銃弾は半端にあたり半端に外れていた。

 アイツがそういう風に動いてるって事はつまりは時間内にありったけの攻撃をしちまえばこいつはぶっ壊れるわけで、ならこの戦闘中に撃ってもって事はありそうだが、リリカ相手にそんな余裕もあるわけねぇ。

 いくらずっとあたしが勝ってきたからってこいつの実力は嘘じゃねぇ。

 下手に銃口をこのデカブツにむけて隙でも作れば、あたしが空を仰ぎかねない。

 今は目の前のコイツに集中すべきだ。

 

「おっしゃあ、じゃあ今度こそ正々堂々とやろうじゃねぇか。おら、お互いの事だけ見て徹底的にやろうや?」

「カッカッカ。そうだね、ヒマリとリオが支援に回っているのなら私が用意した他の装備もどうせすぐ対応されてむしろ隙を作るだろうし……なにより君のそういう分かりやすいところ、本当に好きだからね私は」

 

 お互い、軽口を飛ばし合いながらもまっすぐと向き合い睨み合う。

 タイムリミットももう半分を過ぎた。

 いよいよ、ここらで決着をつけるときだ。

 

「ふぅ……」

「すぅ……」

 

 私は軽く息を吐き、リリカは軽く息を吸い込む。

 そして一秒程度の間を起き、再びあたしたちはお互いに向かって疾走した。

 一瞬の加速により、お互いの有効射程である近接戦闘(CQB)距離に肉薄したのは〇・五秒もかからなかった。

 そこからは、徹底的な射撃合戦だ。

 互いの手足がギリギリ届かない距離での撃ち合い。

 あたしが拳を突き出すように銃を向けて撃て何発か当てればリリカは飛び退きショットシェルを撃ってくる。

 あたしは飛び上がって避けるも散弾すべては避けきれず、歯を食いしばっているあたしにリリカが追撃の対空射撃を行おうという姿勢を見せたところに蹴りで落ちていく。

 リリカはそれを両手を交差させて受け止め勢いを殺すために後ろに大きく跳ねて、後ろ飛びの態勢からそのままその派手な五色に塗られたショットガンを向けて撃ってくる。

 そんときに飛んできたのはスラグ弾で、散弾をあえて受けていなそうとしていたあたしには予想外のダメージになる。

 外から見たらお互い喰らいつつも倒れず、それぞれタフに立ってるもんだから決着は一見つきそうになく見えるだろうが、もうそれは目前だった。

 あたしらの喧嘩はいっつもここらへんで勝敗が分かれる。

 それはなんというか、肌感的なものだ。

 お互いここまで撃ち合ったら次でもう倒れるだろうなってのを理解した上でのいつも通りの締めの撃ち合い、いつもそういうもんだって事としか説明ができねえ。

 ただ、どうやっても次が最後ってのは間違いなく言えた。

 

「……楽しかったよ、ネル」

「ふん……こんな状況で言う事かよ?」

 

 一瞬、とても穏やかな顔を見せて言ったリリカ。

 本当に、こういうところがムカつくんだよ。勝手に満足しやがって。

 

「らあっ!」「だっ!」

 

 特に合図もなく、あたしとリリカはどうタイミングで撃ち合った。

 そして、互いに着弾する。リリカが放ったスラグ弾は、あたしの胸に。

 そしてあたしが放った二丁の銃口からの9mmパラベラム弾の八割程が、リリカの胸から頭にかけて着弾した。

 

「ぐっ……!」

 

 さすがに、膝をついちまう。これで追撃に頭に一発喰らえば、あたしは少しの間は動けなくなっちまうだろう。

 

「が、は……!」

 

 だが、倒れたのはリリカだった。

 あいつはガクリと両膝から崩れ、そのまま上半身をバタンと床に叩きつけたのだ。

 時間は二分三秒。まだ二十七秒も余裕があった。リロードして全弾中央の機械に撃ち込むには、十分過ぎるタイムだ。

 

「わる、かったな……! 今回も、あたしの勝利だ……! さて、ぶっ壊させてもらうぜ……!」

 

 そう言いながらあたしはしっかりとリロードし、機械の方に銃口を向けた。

 

 ――途端、そこからあたしがぶち壊すはずだった滅び砕く歯(ドゥーム・トゥース)は派手な衝撃波を飛ばし、群青半透明の光のシールドで覆われた。

 

「なんだとっ……!?」

 

 あたしはその衝撃波で数メートル程吹き飛ばされてしまう。

 それはリリカとの距離を斜めに開ける飛び方で、直線距離でそこそこ離れた位置に背中から落ちた。

 

「どうい、う……事、だ……!」

「カ、カカカ……! カッカッ、カ……!」

 

 聞こえてくる、リリカの痛みを堪えながらの笑い声。

 

「て、めぇ……まさ、か……」

「ああ、そうだよ……君に伝えたタイムリミットは、嘘、だった……本当は、二分がリミットだったんだよ……!」

 

 上体をなんとか起こして見たアイツの顔は、勝ち誇った笑みだった。

 勝ち誇り、そして同時に苦しみと悲しみに満ちた顔だった。

 

「私は、君に実力勝負じゃ勝てた事がないからね……だから、戦術的勝利は君に譲り、戦略的勝利を得させてもらったよ……何せ、ここ最近の君との決闘で私は、二分を下回った事がなかったからね……!」

 

 あいつがあたしとの喧嘩で二分三十秒生き残る事をずっと目的としていたのは知っていた。

 だからこそ、あいつがタイムリミットを伝えてきたときはその目標をここで達成するつもりなのだと思っていた。

 だからこそ、あたしは無意識に決着を急ぐ事はなく、いつも通りに戦ってしまった。

 

「私は、安定志向だからね……君の約束された勝利を覆そうなんて賭けはせずに、それを踏まえた上で確実な結果に至る道へと歩むのがこの天才、八薙リリカの、絶対勝利のプロトコルなのさ……! カ、カッカッ……!」

 

 故に、あたしはコイツに勝って負け、アイツはあたしに負けて勝ったのだ。

 

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