【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ! 作:詠符音黎
Another Alternative. 認め、受け入れ、辿り着け
「まあ、そうだよね。……ネル、私は、実は大人になったらお花屋さんになりたいって思ってたんだよ」
「え!? 花屋!? お前が……って、そっか、なるほど……考えてみればわりとすっと落ちるわソレ。お前、花とか好きだもんな」
公園でしょげてたリリカから話を聞いてた流れで知った事実に一瞬驚くも、すぐに納得感が訪れた。
以前、これまたしょげてたコイツに付き合ってやってたときに話したことがある。
昔のリリカは自分の頭にも腕っぷしにも誰もついてこれなくて一人ぼっちで、それを鼻にかけてた嫌なヤツだったけどでも心の底じゃ友達が欲しくて草花を友達として見てたって。
なんともまあバカな話だしコイツも自分でそう思ってるから二人して笑ったけど、それはそれとしてコイツの植物趣味はもうすっかり根付いてて、この前みたいに育てた花を貰うのもたまにあるんだよな。
「別に笑わねーよ。いいんじゃねーのらしくて……」
あたしはそこで軽く言ってやったが、なんだかそこで引っかかるものを覚えて言葉が詰まってしまった。
なんだか、さっきの言い方に違和感がある。
いつもだったら普通に流してしまう程度の会話なのに、このままにしちゃいけない気がする。何か取り返しのつかない事になるという不安が燻る。どうしてこんな気持ちになっているんだ、あたしは?
「……ネル?」
リリカが不思議そうな、そして同時に不安そうな顔であたしの顔を覗き込んでくる。
ああそうだ、やっぱコイツ、いつも落ち込んでるときとはまたちょっと違う気がするぞ。
いつもみたいにお互い笑い飛ばして解決するような事じゃない、そんなしんどさがあるっていうか――
「――……“思ってた”? お前、なんで今過去形で言った?」
「……え? あっ……!」
そうだよ、こいつは今“なりたいと思ってた”って、今はもう無理だって感じで言ってたんだよ。
あたしは八薙リリカってめんどくせー女の事をよく知ってるつもりだ。
こいつは普段のバカみてぇな振る舞いに対して実は結構チキンで安定志向が一番とか言ってるが、それはつまり目的を達成するためにはできるだけ全力を尽くす奴って事でもある。
こいつが口癖のように言っている『絶対勝利のプロトコル』ってのはそういう事だ。
あたしが『約束された勝利の象徴』なんて言われるのはどんな不可能な状況でも覆して勝って絶対にミッションを成功させるからだが、こいつは逆に絶対に目標達成が可能な状況を作り上げる。まず負ける選択肢を潰すタイプだ。
そんなコイツが『なりたい自分』を諦めている?
ありえねぇ。
つまりは、相当しんどい何かがあったわけだ。んで、こいつはそれを取り繕って、隠してやがってるって事だ。
「……おい、何隠してる」
「あ、いや……何を言ってるのかな? 私は何も隠してなんか……」
「おいおい、もうそれが通らねぇのはテメーも分かってんだろ? 下手に声出しちまったし、逃げ道があるとは思わねぇ事だなぁ、えぇ?」
「……だ、だが……こればっかりは……」
ここまで来てもゲロろうとしねぇ。
無駄に強情なんだよなこういうときのコイツ。
そっちがその気なら、こっちだって遠慮はしねぇ。
あたしはぐっとベンチを踏みつけながらリリカの襟首を掴み上げた。
「ぐっ!? ネル……!?」
「だから! 何かあんなら言えっつってんだろうが! なんだ? あたしに遠慮してんのか? 自分にできねぇことはあたしにも無理だろうってバカにしてんのか? ふざけんじゃねぇっ!! それでもテメェが背負ってる荷物を一緒に背負ってやる事ぐらいはできんだよッ!! あたし達はダチだろうが! 同じ苦しみ味わうくらい、させやがれっ!!」
「……ネ……ル……っ! う、うあああああああああああっ……!」
泣き出した。
あのカッコつけの八薙リリカが、泣き出しやがった。
臆面もなく、鼻水垂らしながらびーびーと。
そんだけ溜め込んで追い詰められてたって事かよ。……ったく、本当に頭はいい癖によ。
「ごめんっ、ごめん、ネル……! ……分かった、話す。話す、よ……」
そこから、あたしはコイツが抱え込んでたものを聞いた。
未来を視た事。どうやっても自分のせいでこのキヴォトスが滅んてしまう事。それとなくリオ達に確認を取ってみたけど、どうしようもなさそうな事。
たしかにあたしじゃあどうしようもない話だった。さっきの話だとリオやヒマリでも駄目なんだろうな。みんなにこんな話、背負わせたくないって気持ちも分かる。
だけど。
「そっか……大変だったな。話してくれて、あんがとよ」
「ああっ……ああ! こっちも、聞いて、くれて、ありがっ、と、う……! うっ、うわああああああん……!」
みっともなく泣きながら言うリリカの頭を抱いて撫でてやりながら、聞けてよかったと思った。
「おし。んじゃ……このこと、リオ達にも話に行くぞ」
そこからリリカが落ち着くまでしばらくした後、あたしはベンチを立ち上がって言った。
「えっ!? ちょっと待ってくれ! あの二人にも話すのかい!?」
「あ? 二人だけじゃねーよ。とりあえず知ってる二年はみんな集めて話すぞ」
「はい!? な、なんで!?」
「なんでだぁ? おめぇよぉ……言ったろうが、それがダチだって。テメーの重荷背負ってくれるダチはあたしだけな訳ねーだろーが。それともなんだ? テメーに取って他の連中は友達じゃなかったか?」
「そんなことない! みんな……大事な友達だ!」
「なら決まりだな。行くぞ」
まったく世話の焼ける奴だよ、さすがにリオ程じゃねーけど。
こうして知った顔を集めて打ち明けられたリリカの話だったが、みんな形は違えどみんなしっかりと受け止めてくれた。
チヒロやコタマは静かに頷いてくれたし、ウタハは同じロマンを追い求める者として苦しみに共感しながらもリリカが打ち明けてくれた事に柔らかく笑って「ありがとう」なんて言ってたし、アスナは正面から思いっきりリリカを抱きしめていた。
「なるほど……そうだったのですね。元はあなたが隠していたとはいえ、我々があなたを追い詰めてしまったのも事実です。……気づいてあげられなくて、申し訳ありません」
「……いや、私だって勝手に臆病になって、勝手に傷ついていたんだ。それにネルに言われなかったら私はもっと抱え込んで、突飛な事をしていたかもしれない。君が謝る事なんて、何もないさ」
「……私は、リリカの判断は合理的であったと思うわ。避けられぬ破滅を前にそれを知る者はあえて秘密のままにし、変わらぬ日常を守る。力ある者ゆえの選択肢。……それでも、今こうしてあなたの話を聞けて、私は嬉しいと思う」
「リオ……いつも君の合理主義には助けられるね。そりゃ時には……いや結構融通の効かない事もあるけれど、でも私にとっては君がそういう風に言ってくれる事に勇気づけられてきたのは確かだ。そして、それは今もそう。……ありがとう、二人とも。君達が友で、私は本当に嬉しかった……!」
その中でもやっぱりヒマリとリオとのやり取りは特別な感じがあった。
何せリリカが初めて孤独じゃないと気づいたのがこの二人の天才がいたからだし、その想い入れも特別だろう。
――ほんと、話せてよかったな。リリカ。
……とまあこうしてみんなでリリカが背負ってた重荷をみんなで分担してやったわけだが、せっかくこんな集まったんだしちょっと全員で考えてみるかって事になって頭を捻る事にした。
にしたって結局一番その未来やらなんやらに詳しいリリカが駄目だってなっちまってるもんに他の誰かが答えを出せるかと言われるといやそんなご都合主義な流れはねーだろって感じでもある。
でも何もせずってのはやっぱり性に合わない連中の集まりなんだよ、ミレニアム生って。
考えるだけ考えて足掻けるだけ足掻かないとだろ、こういうのは。
「まあ、やはり妙案はでないか……」
「申し訳有りません、この『全知』の名を持ちそれでも表現しきれない程の知性と美貌を携えた超天才清楚系美少女ハッカーの私でも、こればかりは……」
「そうね……認めたくはないけれど、リリカも言っていたように一番安定性が高いのがリリカ自身の改変になってしまう。逆に世界そのものの改変となるとどうしても不確定要素を大きく含むし、そもそもリリカが望みとしているこの世界をありのまま残すという考えからズレてしまう」
「あちらを立てればこちらも立たず……。結局はこのタイムラインの『1+1』という方程式に私という負の数値が入り込んでしまっているのが原因だからね。こればかりはどうにかしようとするとどこかで歪になってしまうからな……」
間違いなくこの中で一番頭がいい三人がこれなのだ。本当に面倒な問題なのは分かる。
あーでも何もできねーってのは本当に歯痒いぜ……誰かなんかねーのかマジ。
「うーん、普段のテストとかだったら問題解くのにいろんな式使って出た数字を代入して答え出せばいいんだけどねー。途中式も書いてれば点は貰えるし。でもそう簡単にはいかないよねやっぱー」
アスナが困ったように眉をハの字にして椅子の上で仰け反りながら言った。
『1+1』っていう例えから出た発想として口にした言葉なのは分かるし、本人もそう簡単な話じゃないのは分かってるから別にどうこう言う台詞じゃないと思った。
「……別々の、式?」
「代入……」
「途中式……答え……」
「それだ!!!」「それです!!!」「それよ!!!」
突然、目の前の天才トリオが一斉に叫んだ。
「な、なんだなんだ!?」
思わずあたしは狼狽えちまうが、三人はそんな私に気づいてないのか凄い早口で話し始めていた。
「そうだ、あまりにも不確定な上にこのタイムラインからの延長線で物事を考えていたため気づかなかった……! 時空連続体及びその分岐における個の連続性の保証についてはしっかりとそれ一つで自ら論文を出しているというのに、私とした事が……!」
「いえこればかりは仕方ないわリリカ。このやり方はあまりにも合理性を欠いているし、あなたの理論においては決して干渉し合わない平行世界とさらにその分岐、同一異体の存在も提唱されている。むしろこれは詳しければ詳しい程思いつかない
「それに論理とは別に心情的な問題もあります。考え方によってはこのやり方はこのキヴォトスすべてを犠牲にすると言っても過言ではない。それに成功する見込みも薄い……誰よりも安定志向のリリカです、この発想はあなたには出せないものでしょう。もちろん、それは私達もですが」
「お、おいおいおい待て待て待て! お前らだけで盛り上がってんじゃねぇ! あたし達にもどういう事なのか説明しろや!」
さすがにここまで置いてけぼりにされるとこっちだって困っちまうし、他の連中だってそれはそうだ。
するとそこでやっと三人だけの世界から戻ってきたリリカが「んんっ、失礼……」と一旦咳払いして私達に改めて向き直って、言った。
「そうだね、今私達が思い至ったアイデアを簡単に言うなら……『この世界を改変した後で、その改変先にまた戻してもらう』という方法だ」
「戻してもらう……かい?」
掴みづらい発言故に、ウタハが聞き返す。
それに応えたのは今度はヒマリだった。
「はい。今まで問題となっていたのはこのタイムラインにおけるリリカという要因が破滅を確定させてしまう事、同時にリリカを取るか、キヴォトスを取るかというタイムライン存続における二者択一から逃れられないという点でした」
「けれども先程のアスナの発言から私達は一つの異なった発想に至ったの。その例えになぞらえるなら『リリカの存在とキヴォトスの未来の可能性の両立』という『問題文』に対し、私達はこのタイムラインという『一つの計算式』だけで解こうとしていた。でもこれだと当然『1+1=2』という形には至れず、どうやっても数式が歪になってしまっていた」
「だがあくまでこのタイムラインを『途中式』として捉え、他の数式……つまり複数のタイムラインを経由して『私とキヴォトスを両立できる答え』を出す。このタイムラインが『絶対に負の値であり0ではない』という前提の変数の私『x』がいる『1+1+x』という数式であるなら、他にもいくつもの数式を利用してこの私という『x』を含めた式の答えを『1』にし、これを用い最終的に『1+1=2』にしてしまう。これが我々が至った解答だ」
……なんともハチャメチャな話だった。
普通に考えたらそんなの成功するわけがねぇ。
いろいろ途中でイジったとして、その先の世界がはいそうですかってまた自分達の世界を変えてくれるなんてのは普通ありえねぇし、そもそもそういう考えに至るかも怪しい。
あまりにも分の悪い賭けで、どうかしている考え。
……だが。
「なるほど……つまり、可能性はゼロじゃねぇって訳か。面白ぇじゃねぇかよ」
あたしはこいつらの出した答えに、ニヤリと笑ってみせた。
「ああ。0%と小数点以下のはるか極小の値と言えど1があるのとでは大きく違う。ロマンがあっていいじゃないか」
「そもそもリリカがいなかった過去にする時点でもうそれは私達だって改変されているわけだし、それなら丸ごと変えても一緒ね」
「リリカさんの論文によると改変を挟んでも私達は私達らしい……みたいですからね? 後でその論文読ませてもらいますね。私も理解しておきたいので」
「うーん、全然分かんないけどリリカ一人が背負うよりはずっといいと思う! よしじゃあ、みんなでそれに向かって頑張ろう!」
ウタハもチヒロもコタマもアスナも乗り気だ。
「よっしゃ。じゃあさっそくあたし達に仕事割り振ってくれよ天才さん達よ。頭脳仕事できるやつも体力仕事できる奴もここには揃ってる。やってやろうぜ、リリカ」
そんでそれはもちろん、このあたしだって。
「みんな……ああ! やってやろうではないか! 存在しなかったはずの
バカみたいに大声で笑うリリカ。
これこそがリリカなのだとあたしは……いやきっとこの場にいる誰もが思った。
こうしてあたし達はその『途中式の始まりの式』を作るためにみんなであれやこれやとやっていった。
リリカ達が設計図を作って、素材を調達して、組み立てて、エネルギーはどうするかなとあれやこれやと議論して。
こうしてみんなで一丸となって始めた計画がついに終わりを迎えたのは春先。
あたし達が三年になる直前ぐらいのタイミングだった。
「よしではみんな……いいね」
リリカが揃ったあたし達の前で言った。
場所はどうやらリオがこっそり金を横領して作ってた要塞都市エリドゥにあるタワーの屋上だ。
その件についてはリオが涙目になるぐらいにとにかくみんなで詰めたがエネルギーを一番使えるのはここって事で水に流した。
あたし達に向き直るリリカの背には巨大な輪が三つ重なったマシンがある。
名前は
最後まで奴らしいネーミングだよ。でも、悪くねぇ。特に複数形なのがな。
「ああ、やろうぜ」
あたしは代表して言って、あたし達の真ん中にあるボタンの上に手を乗せた。
「ええ、この私があんなに頑張ったんですから、失敗なんてありえませんしね」
「そこと不確定要素との関連性はないと思うけれども……でも、今はその希望的観測に乗りましょう」
ヒマリもリオも、それにみんなもどんどんと手を重ねていく。
どうなるかは分からなくてもみんなで作ったモンだ。みんなで押すのがいい。
「みんな……本当にありがとう」
そこで、最後に一番上に手を乗せたリリカが言った。
「私は、もう駄目だと思っていた。きっとあのままだったら私は一人自棄になってみんなにひどいことをしたと思う。でも、ネルが私の心を暴いてくれて、こうしてみんなで頑張ろうってなって、一つの目標へと励んで……ああ、私、友達と青春してるなって、最高に思えたよ」
薄っすらと涙を浮かべながらも穏やかな表情で微笑みながら言うリリカに、みんな頷く。
もはやみんなの覚悟は決まっている。マシンにもエネルギーは溜まった。
あとは、これを押して、勝利を祈るだけだ。
「では……押すぞ! ミラクル! リリカル! ジーニアス!」
そしてリリカが、あのアホな掛け声でタイミングを合わせ、みんなで力を入れてボタンを押した。
透き通った爽やかな青色の光が、青空と同化してキヴォトスを飲み込んでいった。
*****
「よっとっと……ふぅ、今回はこぼさなかった……。はい! コーヒー淹れてきましたよ! ……って、それ手紙ですか? 何か特別なお仕事の奴ですか?」
「ん? ああいや、特別な手紙ではあるが仕事のじゃない。そうだねぇ……これは過去と現在、そして未来からのラブレターといったところかな」
「ラブレター……ですか?」
「ああ。とある天才達からの熱烈な愛を綴ったロングラブレターさ。……だが、甘いね」
「え? コーヒーはちゃんと砂糖も牛乳も少なめにしてきたんですけど……」
「いや、そっちの話じゃないよ? このラブレターの内容さ。どうするか我々の判断に任せるとまるで二者択一のように書いてあるが……この
「はあ……よくわかんないですけど、会長ならできますよね! 私、応援してます!」
「うん? 何を言ってるんだ? 君にもいつも通り関係各所への挨拶とか交渉とか頑張ってもらうからね? 期待してるよ。我が愛すべき右腕、
「ひぃん! そんなぁ! また会長の無茶ぶりが始まったよぉ……!」
*****
「私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ!」
今日も今日とてミレニアムの広場に私の美声が響き渡る。
ふふふっ、この青空に輝く太陽よりも眩しい威光に
「まーたリリカ先輩が変なことやってるよ」
「いっつも元気だなぁ」
「発明自体は毎度凄いんだけどねー」
なっ!? くっ、さすがにここ最近はデモンストレーションの機会も多かったからさすがに反応も塩だな……。
だがしかし! この程度私の見事な発明を前にすればすぐさま覆って――
「わーっ!? 先輩どいてーっ!」
「ん? おわあっ!?!?」
元気な声が聞こえてきたと思ったら後ろから凄い勢いで誰かぶつかってきた。
おかげで私は顔面から地面にぶつかり、諸共倒れてしまう。
「いつつ……うう、ごめんなさい先輩……!」
「ぐ、ぐぐ……誰かと思えばモモイ君じゃないか……今度は何をやらかしたのかね」
私にぶつかってきたのはゲーム開発部所属の一年、才羽モモイ君だった。
目を回しながらも謝ってくるが、本当に反省してるかと言われたらあんまり信じていない。
「今度って私がいつもやらかしてるみたいじゃん! 今回は悪いのは私じゃなくてウタハ先輩だから!」
よく見ると地面にはひっくり返って黒煙を上げているドローンがあった。
それで私はだいたい把握した。
「ああなるほど、ウタハが作った迷惑な機能を乗っけたドローンに捕まって振り回されてこうして私にバックスタブを取ったと」
「うん、そういうこと! だから私何にも悪くないよ!」
「いやそれとこれとは別にちょくちょく先輩には迷惑かけてるんだから反省しようよお姉ちゃん……」
と、そこで後からモモイ君の妹のミドリを始めユズ君やアリス君といった他のゲーム開発部のメンバーもやってきた。
ミドリ君とユズ君は申し訳なさそうな顔をしているが、アリス君は変わらず元気そうだ。
「ぱんぱかぱーん! リリカ先輩とエンカウントしました! おはようございます先輩!」
「うむ、おはようアリス君! 今日も元気でよろしいな!」
「なんかアリスと私とで対応違くない!?」
「それは日頃の行いの差だと思いたまえ。それよりもアリス君、今日こそは君のボディの秘密について何らかのアプローチを――」
「――アリスにそういう事をしないでとそちらこそ何度言ったら分かるのですか? リリカ」
ずっと興味があってそれとなく打診していたことを聞いていたのだが、そこで迫力に満ちた声が聞こえてきた。
最近増えたアリス君の双子の姉妹――という事になっている――天童ケイ君だ。
「やぁやぁケイ君! おはよう! アリス君が駄目なら君でもいいのだけれど? 君の方がボディは人間に近いとはいえ、やはりそこに存在している構成に関してはきっとタイムマシンへのヒントが――」
「――ないのでお断りです。さあアリス帰りましょう、こんな頭はいいだけのバカと付き合っているとアリスに悪影響があります」
「堂々とバカと言うね君……私にそれをはっきりと言えるのは君とネルぐらいだよ……」
「しょうがないじゃないですか事実なんだから。それとほら、噂をしたら来ましたよ」
「え?」
「ゴラァ! 今度は何やったんだテメーら! リリカとモモイはまとめてこっちこいや!」
我が親友、ネルがものすごい剣幕でこっちに走ってきた。
ああうん、これはこうなったら……。
「モモイ君! 我らの絆の力で一緒にネルを倒すぞ!」
「え!? いや無理無理無理!? てか絆の力って私達せいぜい支援会話Cくらいだと思うんだけど!? もうー! 二人の喧嘩に私を巻き込まないでよー!」
なし崩しにモモイ君を道連れに戦ったが結果はあえなく敗退。
タイムは二分二十秒で結局目標としていた二分三十秒には届かなかった。残念。
「ったく、騒ぎ起こさないと気がすまねーのかお前は」
お昼時にとある部屋で、私は一緒に弁当を食べながらもネルに呆れた様子で言われてしまった。
他にいるのはヒマリとリオ。
今日はこの四人だが日によっては他の三年が増えたり減ったりする、そんなたまり場だ。
「いや今回は私は純然たる被害者ではないか?」
「まず許可もなしに広場でデモンストレーションをするのを止めなさい、という話よ。それでユウカは頭を悩ませているし、三回に一回は揉め事を起こすでしょう?」
「あらあなたにユウカの苦労を気にかける心があったのですね。しばらく怒られるのが怖いから逃げ回っていた女が言うとは思っていませんでした」
「……別に怖がってたわけじゃないわ」
ヒマリが刺しにいってリオが言い訳していたが正直私もそうとしか言えないので助け舟は出さない。
あのエリドゥの一件から本当にずっと逃げ回っていたからね彼女は……。
裏でいろいろとやっていたのも知ってはいるが、別に裏でやらずともできたろうに。
おかげでまあまあ私もいろんなところで駆り出されていたので反省して欲しい、本当に。
「そういや流れで思い出したけどトキがオメーの事愚痴ってたぜリリカ。『あの人面倒臭いです』って」
「そんな……私はただあのとき彼女のアビ・エシュフに私の『タイムクイーンΩ』が勝てなかったからずっとリベンジをしようと頼んでいるだけなのに……!」
「今はただのパワードスーツなの分かってる癖に見かけるたびにちょっかい出しにいくからそう思われてんだろ。まあ別にあたしからは止めろとは言わねーけどな。あいつもあたしにダル絡みするからお前があいつにウザ絡みするぐらいでちょうどいいんだよ」
まあ前はちょっと根に持っていたところはあったが今では純粋に面白いからやっているしね私も。
更に言えばこの『根に持っていた』部分というのは彼女の操るアビ・エシュフに私のタイムマシン研究用の変形ロボを破壊された事以上にネルをあそこまで痛めつけた私怨はあったりもしたのだが。
そこに関してはまあ時の流れで解消されたし今は本当にただ後輩を猫可愛がりしてるだけである。
「まったく、素直じゃないですね……。本当にそういうところだと思いますよリリカ」
ヒマリが呆れたように言って来た。
この三年間で彼女も相当私の事を理解した上でこれを言ってくるのだから彼女も飽きない奴である。
私の面倒臭さは筋金入りだからどうしようもないのだ。
……自分で言うにはちょっと情けなさも感じるから口にはしないが。
「それにしても、まさかあのリリカがここまで元気に先輩をやるなんてなぁ。初対面の頃からは想像できないぜ」
「あー、まあそれはそうだな……間違いなく嫌な奴だったからな私」
「でも今は結構な気配りさんになったので人は成長するものだという感動がありますね。ねぇリオ?」
「……そこでなぜ私に振るのかしら」
「さあ? ご自身のトイレの排水のような中身を今一度見つめ直してみては?」
「飯時に汚ぇ例えすんじゃねぇ!」
ワイワイとしながら楽しむお昼時。私とネル、ヒマリにリオ。
それにときにはウタハやチヒロやコタマ、他にもたくさんの後輩達だって。
まさか私がこんな未来に辿り着けるなんてあの独りよがりだった頃では考えもしなかった。
「……フフフ」
「あ? なんだよ急に笑いだして」
「ああ、いや。すまないね。ただ、幸せだなと思ったんだよ。こうして友人達と青春を送れている、今このときをね」
「……はっ、くせぇ事いいやがって」
「ふふ、私はそういうの好きですよ」
「……私にはできない表現ね」
四人で笑い合う、かけがえのない時間。
やっぱり友達とは素晴らしいなって、つくづく思う。
「あーリリカ、ここにいるかな?」
と、そこで新たな訪問者がやってきた。ウタハだ。
「ん? どうしたんだいウタハ? 私に何か?」
「いや、さっに先生が来てたから偶然話しかけたらリリカと会いたいって言うからここかなと」
「……あ」
と、そこで私はとある事を思い出して頭を抱える。
そうか、先生が来たって事は……。
「あん? どうしたリリカ。何かあったのか先生と」
「いや……実はね……うん、みんなになら話してもいいだろう」
僅かに逡巡しながらも語る私の重苦しい気配を察知し、三人が息を呑む。
こちらもまたなんとか重い口を動かし話し始める。
「私は今、とある重要な問題を抱えていてね……」
「問題、ですか……」
「あなたほどの人間がそれほど思い悩むとはよっぽどの事のようね」
「ああ、しかも先生の方からわざわざ来るほどだ。あたし達もそれなりに覚悟したほうがいいかもな」
「何、どんなことがあろうと私達は君の味方だよ」
ヒマリ、リオ、ネル、ウタハが真剣に頷く姿にやはり私はいい友を持ったと再確認する。
だからこそ私は、意を決して彼女らに告白した。
「実は私、先生にちょっとエッチなコスプレをしてみせる約束をしてしまったんだ……!」
「は?」
「はい?」
「え?」
「うん?」
ネルもヒマリもリオもウタハも、何言ってんだコイツみたいな目で見てくる。
「だってしょうがないじゃないか! レッドウィンターの工務部の子達がよりによってプリンを宇宙に上げてしまったのだから……!」
「いやなんでそれでこうなってんだよ意味分かんねぇ……」
「心配して損しましたね」
「結果だけ言われてもあまりに合理性を感じない話ね……むしろそれまで至る経緯に興味が尽きないわ」
「なんというかまあその、災難だったねリリカ……」
先程までの空気はどこへやら、みんな呆れと困惑に溢れていた。
「いや私には本当に深刻な問題なんだよ! 無理だって! 私にそういうの似合わないって! ウタハ! さっき何があっても味方って言ってくれたんだし私の代わりにエッチな格好してくれ! 多分需要の方向性的には一緒だから!」
「なんだいエッチな格好の需要の方向性って!? そしてリリカ……何事にも例外はある」
「そんなぁー! 嫌だー! 水着執事服なんて着たくないー!」
「あれ? なんだか思ったより話のレベルが高いですね?」
「私にはもう何が何やら……」
「アホくせぇなホント……まあ約束しちまったんなら行ってこいよ。でもレッドウィンターで何があったかは気になるから後で詳細教えてくれ」
「ううううう……! う、うむ……分かった……ネルがそう言うなら……」
逃れられぬと覚悟をして立ち上がり教室を出ていく私。ちなみに昼食はもう食べ終えたので問題ない。
「……リリカ」
「うん?」
と、そこでネルが呼び止めてきたので振り返る。
そこにいるネルの表情は、少し穏やかだった。
「さっき言いそびれてたし忘れちまいそうだからここで言うけどよ……あたしも、おめぇとバカやるのは結構好きだぜ」
「そうですね。時折変な方向に走ったり保守的過ぎる考えに呆れもしますが、あなたとの語らい、そして共に過ごす時間はかけがえのないものだと思えます」
「……素直に好意を伝えるという事が私は苦手な自覚があるから端的に言うけれど……楽しいわよ、あなたとの語らいは」
「私も君と共にロマンを語り合うのはとても好きだ。もう三年だが、今からでもエンジニア部に来て欲しいと思ってるぐらいだよ」
「……みんな」
みんなの言葉に感極まってしまう。
でも、ここで泣くのはきっと違う。笑っていってくれたのだから、私も笑って返そう。
「フフッ、フフフ……カーカッカッカ! ありがとう諸君! この私も、君達と出会えてよかったと心から思うよ……」
これこそが、私の親友達への心からの答えだ。
「私は八薙リリカ! このキヴォトスナンバーワンの天才であり……オンリーワンの幸せ者だ!」
これにて本当に本作は終わりです。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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以下、読んでも読まなくてもいい改変後リリカの形にするまでもないストーリー登場シーン妄想TIPS
・パヴァーヌ1章
リリカ初登場。デモンストレーション中にゲーム開発部一行に出会いミレニアムの変人の一人として説明される。ワイワイするもモモイのうっかりで発明品が暴走する被害にあう。ラストの引きでそれっぽいことを言う一人。
・パヴァーヌ2章
アリス奪還戦に参加。しかしリオの考えに寄り添った側の意見を提示する。それはそれとしてやってる事に呆れてもいる。
終盤でネルをアビ・エシュフの主砲かから乗っていたロボ『タイムクイーンΩ』で身を挺して守ってダウン。その後トキにダル絡みするようになってウザがられるように。
・第1部最終章
他の生徒と共にサンクトゥム攻略戦に奮起。
途中ペロロジラをカイテンジャーと共に巨大ロボ『タイムクイーンΩインビンシブル・フィーバー』によって撃破する。テンションが高すぎてちょっと他から引かれる。
・デカグラマトン編
みんなが帰ってきた後で仲間はずれにされたことを拗ねてリオとヒマリにネチネチ言う。
それはそれとしてリオがちゃんと戻ってきた事に感極まって号泣する。
・野球イベ
観客席でめっちゃ口汚くキレてる。
・晄輪大祭
無許可イベントやらかそうとしてネルにしょっぴかれている。
・バニーチェイサー
後日談でネルとアスナのバニーに頼まれてもないのに後方腕組親友してユウカにキレられる。