【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ! 作:詠符音黎
「今日は朝から晴れ、十一時四十七分から雲がかかり幾分か曇り模様になるが十四時十二分からまた輝かしい太陽が顔を出す……うむ、
紙コップに入ったコーヒー片手にミレニアム校内の廊下を歩きながら
先日はネルにすぐさま止められデモンストレーションができなかったが、やはり私の発明に不備はない。
昨日の夜に確認した予測からズレはなく、朝起きてこうして学校に来て二時間目の授業を終えた後も特に問題は起きていない。
なんならああして皆に見せる前から二週間ほど稼働はさせていて、そこでクロノスの二週間予報よりもずっと正確で一分の間違いもない予測をしていたので当然ではあるのだが。
「やはり私はこのキヴォトスナンバーワンの天才であるな……カッカッカ」
自らの発明がちゃんとその機能を十全に発揮していると嬉しい。
これぞまさに産みの喜び、と言ったところか。
「おや、誰かと思えばリリカじゃないか。おはよう」
と、そんな上機嫌な私に正面から声がかけられた。
気分の高揚により少々視野が狭まっていたようでその声を方を見ると、そこにいたのは同学年でエンジニア部に所属している白石ウタハがいた。
「やあウタハおはよう。どうだい、そちらの研究、開発の具合は」
「そうだね、あと一歩というところなのだがいささか難しい問題に直面していてね……そこをクリアするのにしばらくは時間がかかりそうだ」
「ふーむ。ところで今作っているのはなんだったか? 確かこの前までは完全自立動作式のロボットコーヒーマシンを作っていたと記憶しているが」
「ああ。だがあれはセミナーに差し止められてね……変形機構を備え有事の際は戦闘も可能にしたのだがそれが危険と見なされてしまったよ。それで今度は自動配送用のドローンを作っているのだが、音速の壁を越えながら安定した害虫駆除機能と8K録画撮影機能を並立させようとなるとどうしてもね」
「……あくまで配送用のドローンにその速度と機能はいるのか?」
「いるさ、何せロマンがあるからね」
「……それを言われると、まあ私も大きく否定はできないのだが」
ウタハは間違いなく卓越した技術者だ。このミレニアムで『マイスター』と称される程であるし、その点においてはこのキヴォトスナンバーワンの天才である私も認めている。
だけれども、時折ロマンを優先しすぎて本来の形がどこかに飛んでいくのが玉に瑕というヤツだ。
「ふふっ、心配なら君もエンジニア部に入って手伝ってくれればいいのさ。私こそ君のハードウェア設計とそれの基となるアイディアマンぶりには頭が下がると思っているしね」
「まったく、幾度も言っているだろうウタハ? 私はあくまでタイムマシンの開発にしか興味がない。この
これが私とウタハ、お互い高い技術を有する技師でありながらも共に開発をしていない一番の理由だ。
双方目指す果てが違う。その過程で交わる事はあったとしても、最終的な到達点は似て非なるものだ。
私達はお互いをリスペクトしているからこそ、ここで譲り合う事もない。
まあだからこそこれも普段している日常会話のうちの一つであって、彼女も本気で勧誘しているわけではないのだが。
「そうか、残念だ。君となら時空跳躍機能を備えた宇宙戦艦が共に作れると思ったのに」
「悪いが私は多機能より確固たる安定性を備えた一点特化派でね。私自身はマルチな分野の才能を持つ天才だが、制作物に関しては尖らせたいのさ。ま、これもロマンの一種だと思ってくれたまえ」
「ふーむ……それを言われると私も否定はできないね」
「だろう? カッカッカ」
私達はそうしてお互い楽しげに笑った。
やはり彼女とは波長が合う。ミレニアムにくるまでこうして楽しく語らう事もできなかった。
やはりいい学園だな、ミレニアムは。
「きゃああああっ!? 何あれっ!? なんかすんごい速さで飛んでるんだけど!?」
「あっ、危なっ!? ぶつかったら怪我するってアレ!?」
突如、しみじみと感じ入っていた私の背後から悲鳴が聞こえてきた。
「……あー、えーとウタハ……その、聞きたいんだが……」
正直この時点で私は半分くらい諦めていた。
どうにも私は不運の星の
私がネルにキレられる原因はだいたいコレだ。
それでまあ、ウタハといるときはその確率も結構上がる感じがある。いや、さすがにそこに因果関係はないはずなんだが……。
「……あぁ、すまない。話し忘れていたが先程話したドローンもまた配送を完全に自立稼働でこなせるようにAIも積んでいたのだがね。で、それが実は――」
『――コーヒー検知! コーヒー検知! 温度ガ適温ヨリ低下、及ビシュガートミルク不足ヲ確認! 排除シマス! 排除シマス! カフェエエエエエエエ!!!!』
「――お聞きの通り件のコーヒーロボから流用していて、ソイツも何故か独自の結論を出したせいで『ベストじゃないコーヒー絶対許さないロボ』になってしまってね。さすがに少しまずいかもと電源を落としていたのだが、自動で起動して今我々に迫っているようだ。うむ、我ながら見事な完全自立稼働ぶりだ」
私の手元にあった紙コップをドローンが掠めた事により宙に舞う。
中身のコーヒーはひっくり返ると綺麗に私の横にあった
「ウタハよ……」
「うむ、『また』だなすまない。仏の顔もなんとやらと言うし許して貰えるとは思わないが、でもあのドローンを見たとききっと君は『ロマン』を感じてくれたと思う。その情熱を忘れないで欲しい。優しさを忘れないでほしい。それが私の最期の願いだ」
「カカカこやつめカカカ。……じゃあ、一緒に怒られようか」
直後、私のジーニアスな発明である
一年生なのにユウカ君の説教は本当に怖かったし、横で笑いながらも見てきた同じ一年のノア君の視線は心臓が凍るかと思った。
とはいえあくまで厳重注意で研究の差し止めとまではいかなかったので、やはりこのミレニアムは科学者の楽園であるとも私は感じた。
この学園に来れてよかったと、私は再三思うのだった。