【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ!   作:詠符音黎

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3. ミレニアムのBIG3

「やはりトラブルが起きたわね。だからあの動力源を自立式のロボットに組み込むのはオススメできないと忠告したのだけれど」

「まあ以前設計図を見せてもらったときからこうなるのではとなんとなく予想はついていましたが……」

 

 放課後、こってりとセミナーに絞られた私のところにやってきたリオとヒマリが言った。

 今この部屋にいるのは私達三人だけだ。

 

「いや待って欲しい。あの設計図に関しては君達だって許可を出してくれたではないか。それに毎回私と私の発明自体に非はないだろう?」

 

 呆れた様子の二人に私はすっと手を出して言った。

 今回だって結局事故なのだから私がため息をつかれるのはおかしいと思うのだ。

 

「そうね、危険性はあるにせよ設計自体に差し止める要素はなかったから。でも統計的にあなたの発明がなんらかのトラブルに絡んでしまう事は多いのだから、そういった想定をしておくのが合理的というものよ」

「私もリオもあなたの発明自体は認めていますからね。ただ星座占い程ではないにせよそれなりのデータに基づいた予測が立てられるのも事実ですし、心情的に不安が付きまとうのも仕方ないかと」

「ぐう……自らのツキの悪さは認めているがでもやっぱり釈然としないのだがぁ……!」

 

 タイムマシンを夢見て研究している身で言うのも矛盾しているところがあるのは承知で言うのだが、天才の私でも覆しようのない運命ってあると思うのだ。

 

「まあ終わった事をあまり言い続けるのは非合理的だわ。それよりも未来に目を向ける事の方がより有益ね」

「あら、まるで自分はそうじゃないというふうに言っていますが、私はあなたこそ何か失敗したらウジウジと引きずりそうだと思っていますよリオ?」

「合理的な判断を下せば最悪の結末は回避できるはずよ。それにもしそれがその時は周囲から理解されなくとも、いずれそれが最も正しい選択であったと分かるときが来るわ」

「はぁ……本当にあなたという人は。あなたのそういうところが汚水のようだと言っているんです」

 

 表情を変えず言うリオと先程よりもずっと呆れた表情でため息をつくヒマリ。

 リオの合理主義を徹底するスタイルとヒマリの柔軟に考えながらも理想を求めていくスタイルは相性が悪く認め合う仲でありながらも相容れない点でもある。

 故にこの二人いつかここで致命的な対立を起こすのではないのかと心配しているところが私にはあった。

 そしてそうなったときは私が間に立ってなんとかせねばな……とまだ何も起きてないのに勝手に心配している私がいたりもするのだ。

 せっかくできた対等に語らう事のできる友達だし、そんな二人が諍いで袂を分かつなんて見たくない。

 

「まあ確かに今回は私の安全設計にも非があったのは確かだ。いくら屋内モードやちょうど吸気口を開いてファンを回していたタイミングと条件が重なったとはいえコーヒーをこぼして爆発はいかんともしがたい。なぁに、このジーニアス八薙リリカ、失敗も次への布石と変えるゆえ、二人が心配する必要もないさ。カッカッカッ!」

「……ハァ」

「ん? なぜそこでため息をするのだヒマリ」

「……いえ、別に。……まったくリリカもリリカで、そういうところですよ」

 

 豪快に笑い飛ばしてやったつもりなのだがヒマリはその怪訝な顔を今度はこちらにも向けてきた。

 一体何が不満かと言うのか。少なくともリオよりはずっとカラっとした対応だと思うのだが。

 

「そうね、今回の件は確かにリリカの安全性の確保が不十分だったのは事実だわ。さすがリリカ、合理的な認識ね」

「……もう止めましょうかこの話。主に私の精神衛生上のために」

 

 更に大きくため息をつきながら言うヒマリ。

 リオに対しては分かるが私に対してもしてるっぽいのがいまいち釈然としないがまあいいだろう。リオも私に対して似たような感じを出してるがまあいいだろう。

 

「まあそういう事なら。じゃあ二人とも、せっかくだし今回も頼めるかな?」

「あら、また新しい設計図ですか?」

「ああ。どちらにせよ今日は見てもらおうと思っていたからね」

 

 私は懐から取り出したスマホから二人の持つ端末にデータを送る。

 先程爆発してしまった天界の鼻(ヘヴンズ・ノーズ)もそうだが、私は発明品に関しては彼女らに一度目を通してもらう事にしている。

 私が間違いなくキヴォトスナンバーワンの天才であるが、だからと言って多角的な視点がいらないとは思っていない。

 ゆくゆくはタイムマシンを設計することを目標としそのために未来視を可能とするマシンを作る事を中途目標に置いているため、少なくともそのためには周りの力をできるだけ頼るつもりだ。

 そうすることが目標への最短経路だと私は信じている。そして、それにおいて力になってくれるのはキヴォトスナンバーワンである天才の私に並ぶのはリオとヒマリを置いて他にいない。

 

「……それ自体はいいのだけれど、既に完成させた発明品の設計図を後から見せるのは非合理的だと思うわ」

「ぜ、全部がそうではないから……あくまで一部だから……」

 

 いや、違うんだ。

 たまに自らの新しいアイディアへの高揚とそれを作り上げたいという情熱が先走り過ぎて完成させてしまってからいやさすがに一応聞いておくか……となるだけで……。

 たまに自制が効かなくなるだけで普段はさっき考えたような考えでやっているから……。

 

「なるほど、そうですか。で、今回見せてくれる発明品の進捗はいかほどで?」

「えーっとだいたい八割ぐらいで」

「……あまり言っても意味はなさそうね」

「あーっ! 違う! 違うのだァ! 別に二人の事を信頼してないとか疑ってるとか、そういう事ではなくてぇーっ!」

「ええ分かってますよ……こちらも慣れてますから……」

 

 呆れた視線を向けてくる二人に、私は必死の弁明をするのであった。

 

 

   *****

 

 

「やれやれ……世話のかかる人達ですね、あの二人は」

 

 一人部屋に戻った誰もが振り返る程の超天才清楚系病弱美少女である私、明星ヒマリはついついそんな愚痴をこぼしてしまいました。

 調月リオ。

 ひたすらに合理性と口にして彼女のロジックに基づいた行動を行い、そのために盲目に突き進み人の感情や関係性を蔑ろにするのも厭わない。

 だけれどもそれは彼女なりにミレニアムの事を考えた行動でもある。故に厄介であり、私とは相容れない人でもあります。

 しかもそれでいてとても臆病で、結局は合理性がなんだとの言っているのもただの怖がりの裏返しなんですよアレは。まさに排水溝に詰まるヘドロに蓋をし見て見ぬフリをしただけのようなおためごかしです。

 だからこそ私はいろいろと思うところがありつつも完全に見捨てる事ができず……ああ、彼女は私が慈愛に満ちた薄幸系病弱美少女であることに助けられていると言えるでしょうね。我ながらなんと健気なのでしょうか。

 そして手のかかるもう一人。

 八薙リリカ。

 突飛な目標を立てながらも着実にそれに近づく発想を行いそれを実現可能な目算を立てそれに基づいた研究を続けており、その柔軟性で見ればリオと比べずっと話が通じる子と言えるでしょう。

 ですが、一方で彼女は普段のその傲岸不遜な言動とは裏腹にその内面は意外なほど保守的と言いますか、石橋を叩くどころか射撃して進むような部分がちらほらと見えています。

 彼女が目指すタイムマシンという夢。それを実現するためと彼女は言いますが正直過度な発明が多いように見受けられます。あくまで専門外の身ではありますが、この『全知』の二つ名を持つ類稀な才能を持った空に輝く一等星が如き輝きを放つ天才美少女ハッカーの観点から言わせてもらうとするなら、もっとストレートな研究・開発を行えるはずなのです。

 だというのに理論を整えるだけでいいものをわざわざする必要のない発明を行い、更に私達に逐一設計図を――しかも既に作り上げてしまったモノのまで見せてくるのが彼女の本来の性格をよく表していますね。

 しかも先程、私とリオがぶつかりあったときのあの態度……はっきり言ってリオとの諍いなど日常茶飯事であり彼女もそれを幾度となく目にしているというのに、必要以上に自分を悪く言って場を収めようとする姿は、あまり好ましいものではありませんでした。

 つまりは、彼女もリオに負けず劣らずの臆病者なのです。なんなら、場合によってはリオ以上に。

 ただリオとは違い先天的なものではなさそうですが……まあ、()()()()()()そこをほじくり返して調べようとは思いません。

 ともかく、地平線まで続く白一色の塩湖が如き美しく広大な心を持つ清楚系美少女である私とてあの二人の面倒を見るのはいささか苦労をするところがあるのです。

 

「……ですが、悪くはないのですよね」

 

 いろいろと二人の悪い点について考えて辟易してしまいましたが、一方でそんなことも口にしてしまいました。

 彼女らには確かに気に食わない部分はあります。けれども、その一方で三人であれこれと『技術的な議論』を交わす……それはとても有意義な時間であることも間違いありません。

 自分の考えが最も合理的だと考えているリオ、『全知』としての知識を用いあえてダーティな手法をも考えうる事のできる可憐な頭脳を持つこの私、そしてその中庸とも言えるフレキシブルな発想と才能の持ち主であるリリカ。

 それぞれがこのキヴォトス随一の頭脳を持つが故にできるまさに頂点の『技術的な議論』。

 これほどに得難いものはありません。

 だからこそ私達は『ミレニアムのBIG3』なのです。

 

「まあ、そのためにはこの私が面倒を見てあげない事もないですね。それに……リリカの健気な気持ちにも応えてあげなければなりませんし」

 

 あの態度と心中がチグハグとした姿を不愉快に思う事はありますが、彼女が私とリオの関係性の緩衝材になっているのも確かです。

 もし彼女がいなければ、私達の間柄はもと抜き差しならない間柄だったでしょうからね。

 これも初対面の頃から考えると随分と変わったものだと思います。

 はっきりいって初対面のときのリリカは、今よりずっとアレでしたし。

 

「……そういえば彼女はどうしているでしょうか? あの子の事ですし、変な事に巻き込まれているかもしれませんね」

 

 彼女自身も言っていましたが、リリカは妙に不運に見舞われる星の下にいるようです。

 私もいろいろな占いを用いてラッキーアイテムを見繕ってあげているのですが、本人曰くタイムマシン研究者としてのプライドがあるらしく受け取ってもらえた事もありません。とても悲しいです。

 ただまあ、そんな不運に陥ってる彼女の姿はわりと面し――いえ、心配になるのでたまにこうして監視カメラをハッキングして観察したりするんですよね。

 

「さて、彼女のスマホから割り出せる位置情報からしてここの監視カメラからなら……あら」

 

 と、そこで映し出された映像で私はそんな声をあげました。

 

「これはこれは……少しタイミングを逃してしまいましたか」

 

 少し残念……いや、良かったですね。

 リリカはどうやら今日の不運からは逃れられたようですね。

 彼女が今、ネルと一緒に公園のベンチの上に座っているのがその証拠です。

 

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