【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ!   作:詠符音黎

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4. リリカとネル

「おめぇよぉ……ちょっと目逸らしたらなんか盛大に事故りそうになってんのなんなんだよ……」

「いや、そう言われてもだね……こればっかりは私にはどうしようも……」

 

 偶然出てきた野犬に追い回されたあげく川に落ちかけてたので助けてやったリリカは、あたしの隣で申し訳なさそうに目を逸らしている。

 そんな情けない姿に、ついあたしは「チッ」と舌打ちをして、そんでまたショックを受けてる感じを出しやがった。

 ああ、ムカつく。

 普段のこいつはまあ普通にウザいバカなんだが、こういうときはムカつくバカになるのが更にムカつく。

 素直にいつもみたいなノリで喜んどけっつんだよ、ったく。

 

「はぁ……おめぇのそういうところ、出会ったときから変わってねぇよなぁ」

「あー、まあ、そうだな……そういえばネルとの初対面のときもこんな感じだったか」

 

 あたしとコイツが会ったのは一年生のときだった。

 当時、リオの下であたしとアスナの二人だけでC&Cをやってたわけだが、そこで問題を起こしてたコイツをとっちめにきたのがあたし達がマトモに話した初めての時だった。

 まあ問題っつっても結局はもういつものことになったこいつの発明がなんか勝手に暴走したってのが真相で、そこでお互いすったもんだって感じだったが。

 それまであたしはこいつの事をいつも広場で騒いでる頭の良いバカとして見てなかったんだが、ここでコイツが思ったよりも繊細なバカな事を知った。

 自分が一番の天才だって宣ってる癖に妙に気を使ってるっつうか、人様の目を伺ってるっつうか。

 そんなコイツをムカついたからボコろうとして、そしてら思ったよりいい感じで撃ち返してきやがって、そんなこんなで今でも関係が続いている訳だ。

 

「お前がすげぇやつなのは間違いねぇのになんで自分でいっつも言ってるお前がこういうとき一番自信なさそうにするんだか。それがあたしには分からん」

「いやまあ不運が連続するとさすがの私もへこむんだが?」

「そういうときに笑い飛ばせっつってんだよ、その方がかっこいいだろうが」

「それは……まあ確かに」

 

 あたしが言うと少しだけ目を泳がせてまた下を見る。

 そこから一呼吸置いたかと思うと、軽く苦笑してばっと顔を上げて片手に持っていた缶コーヒーをぐいと飲むリリカ。

 そこにはもう、さっきまでのジメジメした顔はなかった。

 

「ま、そうだな……俯いているなど、この天才八薙リリカらしくないよなぁ!」

 

 そして急に立ち上がったかと思うと、持っていた缶を自販機横の空き缶用ゴミ箱に向かって投げる。

 だけど当然ゴミ箱には蓋があって横から穴に入れるわけで投げて入るわけがない――

 

「ふっ!」

 

 と思った矢先、リリカが彼女のショットガンである“ウォーデン・オブ・タイム”を抜いたかと思うとその空き缶の方向に向けて発射した。

 するとその散弾のうちのいくつかが空き缶に命中、それにより空き缶は勢いよく加速、そのまま真っすぐゴミ箱の中に入ったのだ。

 

「は!? マジかよ!?」

「カッカッカッ! 散弾の拡散範囲からしてだいたいアタリをつけて撃ってみたが、いやあやってみるものだな。ふむ、やはりこの私はミラクル! リリカルッ!! ジィーニアスゥ!!! 絶対勝利のプロトコルであるなァ! カーッカッカッカッ!」

「……ったく、それでいいんだよそれで」

 

 急にハイテンションになったリリカに苦笑しつつもあたしもまたベンチから立ち上がりパンッ、とリリカの背中を叩く。

 

「そういうときのお前はウザいが嫌いじゃねぇ。まあさすがにトラブル起こすのは勘弁して欲しいが、そうじゃなかったら好きにやればいいんじゃねぇか? 元々ミレニアムなんてそんな土地だしな」

 

 科学者の楽園とは言うがどいつもこいつも考えなくバカをやって誰かがその面倒を見てやってるのがこのミレニアムって学園だ。

 そこで言うとこいつは妙に気配りしだすのが良いんだけどよくねぇ。

 何に臆病になってるのかは知らんが、堂々として押し通せるヤツなんだからもっと胸を張っておけってんだ。

 

「フフッ、迷惑かけたねネル。やはり君は見た目に反して面倒見が良い」

「あぁ? 褒めてんのか喧嘩売ってるのかどっちなんだよソレ」

「もちろん褒めてるよ。……私は、そんな君に助けられてばっかりだからね」

 

 穏やかな笑みで、リリカが言った。

 間違いなく本音で、茶化すような言葉じゃないのが分かる。

 そのせいであたしは少し照れくさくなって、少しだけ視線をズラし「……はぁ。別に気にすんじゃねぇよ」とさっくり言い捨てた。

 

「おめぇが何に感謝してるかはしらねーけど、あたしは別に仕事でやってんだよ。それにお前と違って逐一掃除したゴミの事なんて覚えてねえんだ。もっと軽い気持ちでいろよ。ったく」

「ああ、そうだな。気にしないことにするよ」

 

 そんなあたしに、リリカはイタズラに軽く笑ってきた。

 いつものふてぶてしさがあって、でも一緒になんだか可愛らしさみたいなもんを感じる、そんな笑みだった。

 

 

   *****

 

 

「ああは言ったけれど、せっかくだし何かお礼はしたいところだな……」

 

 夜、私はタイムマシン研究部で利用しているミレニアムの一等地にある研究所の二階自室でそう呟いた。

 タイムマシン研究部と言っても、実のところは部員は私一人――つまりは私が勝手に名乗っている肩書に過ぎない。

 だが私の上げてきた成果は確かなものであり、それを背景に実力主義のミレニアムもといセミナーは私個人がこの部を名乗る事を認め、資金そしてこの研究所を出してくれているのだ。

 まあその資金でも足りずに時折デモンストレーションをしてスポンサーを募っているのだが。

 と、話が逸れたな。

 別に誰に話してる訳でもないが。

 

「しかし既製品を適当に見繕って渡すのも味気ないし、かといって今から何か急造で発明するというのも現実的ではないし……とすると、やはりアレか」

 

 私はプレゼントにふさわしいとあるモノを思い立ち自室から階段を下りる。そして廊下を奥まで進み、研究と開発に利用している部屋を通り過ぎて一番奥にある扉を開く。

 そこに広がっていたのは、宵闇を照らす月光のささやかな光をガラス張りの天井から受けているたくさんの草花が植えられた光景。

 そう、何を隠そうここは私の個人的でささやかな庭園なのだ。

 

「それで、送るならこれがいいだろう」

 

 私はそこから手に取ったのは、ネルの髪色と同じオレンジ色の薔薇だった。

 それを八本切り取り、ひとまず花瓶に入れる。花束にするのは明日学園に行く直前で良いだろう。

 

「うん、やっぱり綺麗だな。せっかくだし今日はこれを眺めながら設計を続けるとしよう」

 

 花瓶を手にしたまま私はまた自室に戻る。

 そして机の上に置いて、椅子に座りながらタブレット片手に近くにある()()に目をやる。

 

「色鮮やかな花を側に置くと、やはり気持ちが安らいで作業も進むな……ああ、やはり本当に、植物は良い」

 

 ミレニアムでの私しか知らぬ者が見たら「らしくない」と言われてしまう事は間違いないと自分で言って思った。

 でもそれでいい。

 私は人と違うと見られる事を悲観しているわけでもないし、別にわざわざ下の方に下りていこうなどとは思わないのだから。

 と、そんな事を思いつつも()()が作業用ロボによって組み上げられていくのをタブレットで管理する。

 作業に熱中していると一見一過性でしかない時間は矢のように流れていって、気づけば日付が変わろうとしていた。

 ここ最近メインに作り上げていたこの発明。

 リオとヒマリに見せた、もう既に終わったモノではなく、今私がリソースをメインに注いでいるコイツ。

 ついに、それが形を成すのは目前となっていた。

 

「ふふっ、ついにここまで来た……これさえ完成すれば、タイムマシン開発は既に目前となるだろう……カッカッカ……!」

 

 私は自分の夢が目前となっている事への期待から、つい笑い声を上げてしまった。

 でも仕方ないと思う。

 これまで作った数々の発明、そしてこの前の天界の鼻(ヘヴンズ・ノーズ)の完成を土台に、ついに明確にタイムマシンへと繋がる発明をする事ができるやもしれないのだから。

 私の眼前で組上げられているのは、高さ二メートルで底面の方がやや面積が広い上面と底面にそれぞれ幅の厚い装置が備え付けられたガラスの円柱。上面と底面を繋ぐコの字の支柱は、その役目を果たすときには円をなぞるように回転するようになっている。

 一見すれば巨大なランタンのようにも見えるだろう。

 だがこの自室――一番落ち着く場所ゆえにあくまでそう呼んでいるが、実態はあらゆる外部の監視、介入を拒むために研究所で独自に作った秘密ラボ――にあるこれはそんなチャチなものでは決してない。

 その名も、

 『裂け目の瞳(ティア・アイズ)

 未来及び平行世界の観測をこの目で見て行う事のできる、”裂け目の窓”を作る装置。

 これが完成すれば、タイムマシンは、もう目の前となるのだ。

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