【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ! 作:詠符音黎
子供の頃から今でもずっと見ているアニメに出てくるタイムマシン。
私はそれを最初見た時、ものすごい憧れを抱いた。
自由に過去にも未来にも行き来が出来てその時代の真実を自らの目で見て体験する。
とても素晴らしく、楽しそうだった。
この経験は当時世の中すべてがつまらなく思えていた子供だった私にとって、唯一世界を彩ってくれた輝きだった。
だから私は、自らの世界に彩りを与えるためにこのタイムマシンの制作をずっと願い突き進んできた。
はっきり言って、中学までの私の人生はそれ以外はすべてが灰色だったから。
だってしょうがないだろう?
みんな私の頭についてこれなくて、およそ年相応の楽しい経験などしたことがなかったのだから。
同年代の子供達はみんな程度の低い事しか考えないし知識もない。
大人達もよくそんな無知浅慮で生きているなと呆れるしかないヤツばかりだった。
誰も彼も私と話すと話が合わないと距離を取っていく。私にとってそれはあまりにも愚かにしか思えなかったし、私から合わせる気も沸かなかった。
なぜ天才の私がバカ共に合わせなければならないのか。その理由も見つけられなかったから。
たまに私が気に入らないと喧嘩を売ってくる奴もいたが、力でも私に敵わないと知ると誰も彼も私に近づかなくなった。
故に私は自らの夢のための研究にしか興味がなかったのだが……ミレニアムに入学して、そんな私が井の中の蛙だということを思い知ったのだ。
ヒマリやリオ、ウタハのような初めて私と対等に会話できる者達。
はっきり言って頭脳では明確な差があるというのに、それを鼻にかけているこんないけ好かない私にずっと関わってくれて、なんなら私を力で屈服させて来たネル。
彼女らとの交流を重ね、私はそこで気づいたのだ。
私は、自分が見下していたような連中を実は羨んでいたのだと。
孤高の天才を気取っていたが、本当はずっと友達が欲しかったのだと。
タイムマシンを作るという夢はずっと変わっていないし情熱も衰えていない。
でもそれと同じくらい、私はこんなどうしようもない自分にできた友達を大切にしたいと、そう心から思えるようになった。
夢も友達も、どっちも諦めたくない。
この輝かしく色鮮やかな世界を大事にしたい。
それが今の私、八薙リリカの心からの願いだ。
*****
今日のミレニアムは気持ちの良い晴れ模様。
天気予報だと午後から曇りがちになるが降水確率は低いと言っていた。
やったら「反省してないのかお前は」とネルにどやされる。
「リリカー、この前貰った
「ああそれは良かった! まあ私が最初に使ったときは強盗が乗ったタンクローリーのいきなりのエントリーに驚きぶつかって派手に空の星になってしまったんだが……」
「おはよーリリカ!
「うむ、そうだろうそうだろう! このジーニアスをどんどん崇めるとよいぞ! ……まあ私がデモンストレーションしたときは偶然投げ捨てられたゲルマニウムブレスレットが天文学的な確率で駆動部に挟まって辺り一帯まるごと重力逆転させてしまったんだが……」
以前の発明を使い感謝してくれているみんなの声に喜びつつもつい最初にお披露目したときの失敗を思い出して苦笑してしまう。
こういうのの積み重ねでセミナーに毎度怒られて要注意人物扱いされてしまったのである。
どうしてこうもついてないのだろうか……一回本当にヒマリからラッキーアイテムでも貰ってみるべきか?
いやでもヒマリのラッキーアイテムってたまにどうすればいいんだそれみたいなアイテムとかムチャ過ぎる条件状況を指定してきてよっぽどひどくなりかねんのだよな……。
あとやっぱりタイムマシンを志しているんだからこれくらいは自力でなんとかすべきだと思う。
いや今まで全戦全敗なんだがまだ試合は一回の表だと思うし。
うちの野球部はそっから勝てたことのないクソザコなんだがたまーに奇跡の勝利を掴むし。
ともかくまだ諦めるのはよくない、そう思うんだうん。
「まああれだ! とにかくミラクル! リリカルッ!! ジィーニアスゥ!!! な私の絶対勝利のプロトコルに不可能はない! この大天才八薙リリカ! いついかなるときも前進あるのみだ! カーッカッカッカッカ!」
ちょっと陰気な事を考えてしまった自分を笑い飛ばすように大声で謳い私は登校する。
道行くミレニアム生からは「まーたリリカがうるさいよ」とか言われたがそんなのむしろ褒め言葉である。
偉大なるジーニアスの存在感はどうやっても隠せないものだからな。
「ヤァヤァヤァ! 我こそは大天才八薙リリカ! 邪魔するぞぉメイドの諸君! カッカッカ!」
「うるせぇ邪魔するなら死ね」
「死ね!? 帰れではなく!?」
ネル達C&Cが部室として利用している部屋に私が入った瞬間これである。
本当に抜き身のコミュニケーションだな彼女は。
だがそれがいい。
「そういえばアスナとアカネ君は? ネル一人だけかい?」
「ん? まーそうだよ。二人とも今は別件でいねえ。んで、お前は何しに来たんだよお邪魔虫」
「別に誰彼の出歯亀をしたことはないからな? まあそれはともかくだ……ネル、君にプレゼントだ」
こういうのは勿体ぶっても仕方がない。
そもそもこれを渡すために時間を食っても本末転倒なので、私は背中に隠していた花束をさっと彼女に渡す事にした。
「え? これは……花束か?」
「それ以外の何に見えるというのか。そうだ花束だ。……まあそのなんだ、先日は気にするなと言われたが、やはりたまには私からネルへの感謝の気持ちを形にせねばと思ってな。それで私に用意できるものといったら、これぐらいしかなくてな」
……言ってて恥ずかしくなってきたな。
何なんだこの今の私の言動は。これではまるで母親に感謝する子供ではないか。
自分で例えてなんだがこんなやり取り実の両親とは一回もしたことないがそれはそれこれはこれだ。
「……あたしはお前の母親か?」
「思ってたことそのまま言われた!? エスパーか!?」
バカな!? 完成していたのか思考盗聴装置……! 疑似科学部の奴らが言っていた事は本当だった!? アルミホイル被らないと!
「いやそりゃそんな態度取られたらあたしだって思うよソリャ……。まあでも、気にするなっつったのにコレかよ」
「う……それはその、すまない……」
もしかして機嫌を損ねてしまっただろうか……。
ミレニアムに入るまで他人の心情など慮った事がないどころか平気で踏みにじっていた自覚がある私だ。やらかしたかもしれない……。
「だーから謝るなって。ホントこういうときに急にヘタれるんだからよぉ……。…………まあ、花ってガラじゃねぇけど、あんがとよ」
「……おっ、おおおおっ!!」
あの! あのネルが! 凄いおとなしい感じで笑って私に感謝を!?
こんな事があるだなんて……!
「うう……私は今とても尊いモノを目にしたのかもしれん……!」
「なっ、何感極まってんだテメェ!? だーっ!!!! だからそういうの調子狂うっつってんだろーがーっ!!」
「よーし分かった私も破れかぶれだ! 今度こそタイムの更新を目指すぞネルゥ!」
「だから人様との喧嘩で記録狙おうとすんじゃねーよ!? せめて勝つ事を目的にやれや!」
「カッカッカ! 真に歴史に名を残す天才とは実現可能な目標達成を積み重ね誰にも到達できない大いなる結果を出すものなのだよっ! ミラクル! リリカルッ!! ジィーニアスゥ!!!」
兎にも角にも私はネルに薔薇の花束を渡す事に成功し、晴れやかな心持ちになる事ができた。
ちなみにタイムは二分九秒。
前回より二秒下がってしまった。
目標としている二分三十秒の壁は大きい……。
「フフッ。先程は随分とお楽しみだったようですね、リリカ」
ネルとの一幕を終えていつもヒマリやリオと意見交換を行っている教室に着くと、ニコニコと笑みを湛えたヒマリがそう言ってきた。
私は知っている。こういうときのヒマリは人をからかって楽しんでいるときなのだと。
「色々と言いたい事はあるが……まず盗撮を前提に話さないでくれるか?」
「盗撮ではありませんよ、公共に設置されている監視カメラの映像をハッキングして見させていただきましたから正規の撮影による視聴です」
「ハッカーの屁理屈を真に受けると思ったら大間違いだぞ?」
「それにしても八本の薔薇の花束ですか……確かこれの意味する花言葉は『あなたの思いやりに感謝します』でしたかね……ウフフッ、相変わらず少女らしい奥ゆかしさと趣味をお持ちで……」
「頼むから一回チーちゃんにぶん殴られてくれ、あっちも相当溜まってるから」
「そこであなた本人ではなくチーちゃんを出すあたり本当に奥ゆかしい事で。あなたに大事に思われるこのコンクリートジャングルすら華やかにするミレニアムに咲く一輪の白百合美少女としては大変嬉しい限りです」
「……んんっ~~~~~! そうだけどそうじゃないんだがぁ~~~~っ!」
駄目だ技術絡みに議論ならともかく口喧嘩で私はヒマリに勝てない!
そもそもなぜこいつはこんな口が回るのだ? 対人経験値の差か? 割と後学のために知りたいがさすがに本人に堂々とそれを聞くのもできんな……。
「あの、純粋に疑問なのだけれど……花言葉なんてネルは知らないでしょうにそこに意味を持たせて渡すなんて無意味ではないのかしら?」
「……リオォ」
「仕方ないですよリリカ。彼女にそういう機微を期待するなど工場排水に透き通る清流を求めるぐらいの無駄というものです」
「随分な言いようね。そのように悪しざまに例えて私を罵倒する事こそが最も無駄だと思うわ。リリカもそう思うでしょう?」
「え? この流れで私にそれ聞くのか?」
さすがリオだ。ぜひ彼女はこのままでいて欲しい。
いや本当にこのままでいいのか? なんだか将来的によくない事になりそうな気もするが……。
とはいえ、私はリオのこういうところはわりと好意的に捉えているところもあるから肯定はしていきたいとも思う。
人の感情に依らずあくまで大局的な結果だけを見て合理的な判断を下せる彼女はとても貴重だと私は思っているからだ。これはそうそうできる事ではないからね。
「それにしても今日は本当に元気ですねリリカ。先程のネルへの花束の贈呈を踏まえてもいつもより上機嫌に思えますが、何かありましたか?」
「えっ!? あ、あー……まあそのなんだ、そのうち教えるよ、うん」
どうやら態度に出ていたらしい。
ネルに渡す薔薇を机に置いての作業は思った以上に私のやる気を出させてくれて、製造用のロボのデータを見ながらの効率が非常に捗った。
結果、元より近日中に完成予定だったのが早まり今日ついに完成の予定となったのだ。
「はぁ……また勝手に何か作ってるのね。お願いだからトラブルは起こさないで欲しいものだわ」
「仕方ないですよリオ。リリカに不運を回避することを期待するなどカフェインを過剰に入れたエナジードリンクに体に染み渡る程に清らかな純水の清廉さを求めるくらい無駄というものです」
「リオへの罵倒の言い回しを私にも流用するんじゃない! あとその中でさらっと自分を持ち上げる文脈を入れているな貴様!?」
ワイワイとしながらも、私は思う。
まさか私がこんなふうに友人と楽しく雑談をする日が来るなんて昔は思っても見なかった。
本当に、人生どう転ぶか分からないものだな。
*****
心落ち着かぬ帰路を経て、実質自宅と同義になっている研究所についた私ははしたない早足で自室へと駆け込んで
何度も何度も入念にチェックし、胸が早鐘を打つなかで私は言った。
「よし……完成だ!」
自らの声が上ずっているのが分かる。
しかし此度ばかりはそうなるものしょうがないと自分に甘い判断を下してしまう。
この
タイムラインの動向を制御加えて介入するためタキオン粒子への干渉目的で作った
しかも終着点を目前とした、である。
「カカカ……カーッカッカッカ! やったぞ……さすが私、このキヴォトスナンバーワンの天才である八薙リリカ……! あとは実際にこれを動かし、未来と平行世界を観測するだけだ……! さて、手始めに一番可能性の高いタイムラインの未来を観測するとしようか……! そうだな、ざっと一年後ぐらいでいいだろう。その方がより確定された可能性として分かりやすいだろうからな……!」
まるで新しいゲームを買って貰ったばかり――いや私は親からもそういうプレゼントをされた経験はないし自分の体験に当て嵌めるなら買ったばかりというのがより適切か――の子供のようだとふと自分の今の姿について思った。
「カカカッ! ではいくぞ、起動だっ!」
でもそんな感情で苦笑する暇もなく私は興奮で頬を火照らせながら
この
時間とは過去と現在、そして未来をわたる河川であり、それが様々な要因で未来へと分派していくというのが私の立てた理論における見方だ。
これにより今自分自身が存在し観測している現在からさまざまな可能性のある未来へと繋がっていく。
こうした分派していくタイムラインの中で最も可能性の高いラインをこれから私は見ようとしているのだ。
また一方でこの
ここで言う平行世界は並行世界ではない。
タイムライン同士が平行……つまり決して交わらない世界の事だ。
これは先程言った原理とは逆で、今現在いるタイムラインからは決して辿ることのない可能性世界を観測するのである。それはこのタイムラインに存在しない要因、あるいは今いるタイムラインに存在している要因のせいで分派する事のできない可能性を計算、検知し観測するといった仕組みだ。
ここまで長々と説明して来たがざっくりと言えばあり得る未来と有りえない未来両方視る事ができるマシン、という事なのだ。
高校数学で例えて言うなら命題における真と偽の判別、と言ったら直感的に分かりやすいやもしれない。
これこそがいずれ発明するタイムマシンにおける地図の役割を果たしてくれる。
行先が分からなければ、船は大海で彷徨い朽ち果て沈むのだから。
「ああ……来たぞ、来たぞっ……!」
目の前の
それが未来を観測する窓となり、この目で観測させ、共にそのデータをリンクさせた端末に送信する、という仕組みとなっているのだ。
「ああ、私の華やかな未来が今――」
間違いなく歴史に私の名を残すだろう発明によってついに見えた未来の世界。
その光景に、私は今までの熱がすべて消え、途端に凍りついてしまった。
「――な、んだ……これ、は……」
そこに広がっていたのは、荒廃したキヴォトスだった。
建物はほとんどが崩壊し、たくさんの死体が転がっている。
生きている者はわずかでみな目に光をともしていない。まさに滅びを迎えた世界だった。
「そ、んな……一体、何が……」
私はいつの間にかタブレットで装置を操作し、とある場所に視点を映した。
そこはミレニアムサイエンススクール。我が愛しの学び舎。
大事な友人達と共に過ごす、かけがえのない場所で――
「――あっ、ああ……あああああああああっ!?」
死んでいた。
私の大切な友人達が、そこで息絶えていた。
ヒマリも、リオも、ウタハもチヒロもアスナも、そしてあのネルでさえ。
みんな頭のヘイローが砕け、力なくその体を崩壊した校舎に晒していた。
「バカな……バカなバカなバカな!? 何が一体、どうしてこんな事に!?」
私は必死に他のタイムラインの可能性を視る。
何かの要因があってこうなったのならば、とにかくたくさんの例を並べそこから問題を洗い出すのが必要だからだ。
だけれども、更に私はそこで新たなる絶望を叩きつけられる事となる。
「嘘だろう……? どうやっても、今の私がいるタイムラインは、滅びに繋がる、というのか……!?」
タイムラインの分岐は無限ではなく有限である。
けれどもそれでも膨大なそれを事例として並べる際には情報のデータ化が必要でありタイムラインの地図となりコンパスとなる
そして出された答えが、それだった。
キヴォトスは、どうやっても滅亡する。
あるときは《名もなき神々の王女》によって。
あるときは《暁のホルス》によって。
あるときは《死の神アヌビス》によって。
あるときは《色彩》によって。
あるときは《デカグラマトン》によって。
あるときは、あるときは、あるときは、あるときは、あるときは……。
多種多様の滅亡のパターンにこのタイムラインは繋がっていた。救いの可能性は、なかった。
「クソッ、クソッ、クソッ……なんだこれは、なんだこれはっ!? ……そうだ! 平行世界! 平行世界の観測を! このタイムラインからは存在しない、あるいは存在している要因の可能性の検出を!」
半狂乱になりながらも私は今度は平行世界の観測を行った。
そして、視た。
平行世界は苦難を乗り越え、輝かしい未来へと繋がるタイムラインが幾重にもある事を。
《名もなき神々の女王》が女王とならずに勇者となり、《暁のホルス》や《死の神アヌビス》となるはずだった生徒は仲間達と苦難を乗り越え、《色彩》は払われ、《デカグラマトン》はリオやヒマリが打ち倒す。
だが、その奇跡へと導かれるタイムラインとこちらのタイムラインの差が分からなかった。
だって、本当に違いが見つからないのだ。細かい差異はあれど、大筋は変わらないはずなのだ。
連邦生徒会長は失踪し、外から先生という大人が来る。そんな成功する世界と同じ最大の要因、
「ああ……何だ……一体、何が原因で……クソッ!」
私は思わず近くの机に拳を叩きつけてしまう。
すると、机の上においた花瓶が倒れ、水がこぼれた。
ネルのために作った花束を一時的に生けていた花瓶をそのままにしていたのだ。
床にこぼれた水たまりは、
「――――――あ」
気づいた。
いや、気づかざるを得なかった。
目を逸らしていた、本当は薄々気づいていたその事実に。
データによって示されていた、このタイムラインにだけある、たった一つの要因に、私は今気づいたのだ。
だって、私は今、それを
「……私、だ」
奇跡を歩めるタイムラインになくてこのタイムラインだけにある存在。
それはこの私、八薙リリカだ。