【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ!   作:詠符音黎

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6. 証明

 世界を構成する要素で、果たしてどれほどまでに未来を識る事ができるのか?

 真理を追求する哲学の分野に置いて、言い回しや考えの道筋、それが途中の前提か結果かなどは色々と種別はあれども同時に多く議論されてきた問題の一つだ。

 私もタイムマシンの開発に際し先達の思想を参考にしながらも、実際にその理論を組み立ていく中で一つの結論に至った。

『その世界に存在する要因によって、そのタイムラインが至る可能性はある程度確定する』

 と。

 この“存在”は必ずしもタイムラインが至る可能性に関与する必要はない。

 例えば特定のモニュメントがその世界に存在するとして、それがまったくその世界の情勢に影響しなくとも、その『そのモニュメントが存在する、あるいは存在しない』という事実が要因となってタイムラインの行先をある程度決定付けてしまう。

 例をより具体的にするならばそのモニュメントが荒野にそびえ立つという環境の中にありそれが持つ属性が黒い板であるという事により、星の反対側にある湖が廃水によって汚染されるのか確定する、という事があり得るのだ。

 そんな双方はまったく無関係の関係性であるのに湖が汚染される未来がある程度決まってしまうのである。

 この特定要因におけるタイムラインの可能性の確定を変化させるには他の要因のほぼすべてを大幅に改変するか、その要因が持つ属性そのものを改変させなくてはならない。

 ここでまたそのモニュメントを例にして言うのならば、その荒野にそびえ立つ黒い板のモニュメントが初めからそれがある場所が雑多な都市のビル内の一室の隅に横になってしまわれているものであったこと周囲の環境すべてを改変するか、あるいはそれを白い円柱にするというまったく別の属性を付与するしかない。

 つまりは、世界をまるごと変えるかその存在をなかったものにするか、これしかないのである。

 私がたどり着いたこのタイムラインの可能性における理論は、今までの私の発明においてほぼ実証されている。

 そしてそれは今、最悪の形で私に突きつけられたのだ。

 私こそが、世界を崩壊させる存在、要因であるのだと。

 

 ――ああしかし、されどしかし。私は、その現実を未だ、受け止める事ができずにいた。

 

 

   *****

 

 

「リリカ、これは……」

「…………なるほど」

 

 いつもの私達の溜まり場で、ヒマリとリオが私が渡した裂け目の瞳(ティア・アイズ)の“設計図”を真剣な面持ちで眺めている。

 私は、いつものように設計図だけを彼女らに見てもらっていた。

 キヴォトス破滅の未来を視た事は何一つ語っていない。

 ただ、この設計図に不備があってそれを二人に指摘して貰えればあの光景が間違っていたか統計で私がこの世界を破滅させる要因であるという私の出した答えを否定できるのではないかと、そんな期待を抱いての事だった。

 本当の事はとても言えない。

 それは私が二人の前ではカッコつけていたいというちっぽけなプライドからであり、そしてもし本当に私の存在で滅亡を避けられないのだと分かったなら、そのとき二人がどんな顔をするのかが怖いという、無様なノミの心臓からだった。

 

「二人には正直な見解を述べて欲しい。これは私の発明にとって大きな一歩となりうるからね」

 

 表面上はいつもの通りの態度を心がける。

 しかし心の内ではとにかく縋る思いで祈りの言葉を口にしていた。

 

 ――ああお願いだ、二人とも私が間違っていたと言ってくれ。君達が言ってくれるなら信じられる。あらゆる分野での抜きん出た頭脳により合理的で現実的な判断を下してくれるリオと学園の歴史上三人しかいない『全知』の二つ名を持つミレニアム屈指の天才であるヒマリなら、きっと異なった答えを出してくれるだろう? 問題点と改善点を洗い出しそれを私に指摘してくれるんだろう? いつだってそうしてくれたじゃないか。だからお願いだ、どうか、どうか今回もそうしてくれ。私はもうナンバーワンの天才なんかじゃなくていいから、どうか、どうか……。

 

「……そうね、言わせてもらうとするならば――」

 

 と、そこでリオが静かに設計図からこちらに視線を移し、いつもと変わらぬ落ち着いた声音で唇を震わせて、言った。

 

「――完璧。その一言に尽きるわ」

 

 私の哀れな望みを、粉々に打ち砕く言葉を。

 

「はい、私もリオと同意見です。以前あなたがいくつか上げていた時間に関する論文。それを裏付けるあなたのこれまでの発明とその実績。それらを照らし合わせこの『全知』の異名を持つ超天才美少女ハッカーの持ちうる知識すべてを用いて考えさせてもらいましたが……ええ、正直、ケチのつけどころがありません」

 

 ヒマリの声はどこかいつもより上機嫌な色が含まれていた。

 まさに目の前の発明の設計図の内容に興奮を隠せない、と言ったところだろう。

 あの普段は飄々としたところがあるヒマリがここまでなるのだ。間違いなく嘘やお世辞を言っているわけではなかった。

 

「そうね……さすがに今回は私も下手な忠告をする気にはならないわ。このキヴォトスに秘められた数々の不透明な神秘……その領域にあなたはたった一人で踏み込んだと言ってもいい。それほどまでにこれは、とんでもない代物よ」

 

 あのリオまでもが素直に大げさな称賛を私に投げかけてくれている。

 いや、彼女からしたらそんな意識はないのだろう。それほどまでに私が作り上げた裂け目の瞳(ティア・アイズ)は完全無欠の羅針盤であったのだ。

 私に並ぶ天才であるヒマリとリオ。

 設計図と知識だけではあるが、彼女らの言葉ほど信頼できるモノはない。

 それはこれまで彼女らと交わしてきた『技術的な議論』からもそう信頼できる。

 

 つまりは、私が視た滅びの未来は、私の存在がこのキヴォトスを崩壊させるという答えは、絶対に覆らないという事を二人に証明されてしまったのだ。

 

「……そう、か。……カカ、カカカカカッ……」

 

 なんとか私は、いつも通りに笑ってみせる。

 でもどうしても心中に沸き起こる絶望、そして身勝手にも彼女らに感じてしまった「なぜここで否定するような答えを出せないのだ」という失望から、どうしても俯き小さな声量しか振り絞れなかった。

 

「……リリカ?」

 

 ああ、ヒマリが心配して私に声をかけてくれている。

 さすが彼女は人の事をよく見ている。だからこそ、こんな優しい彼女を心配させてはいけない。

 共にいる友人だろうと敵対する想定をする猜疑心を持ち合わせる事ができるリオに疑われてはいけない。

 あくまで私は、彼女らにこの事実を隠したい。

 

「いやいや、さすがの私も少し自らの発明に驚き、緊張をしてしまっていてね。何せこれを作る事ができれば私の夢は目前となるのだ。このキヴォトスナンバーワンの天才とて、人の子という事だよ」

 

 だってもし二人に憐れまれてしまったら、もはや私は彼女らと対等な友人ではなくなってしまうから。

 

「ありがとう二人とも……私は、君達のような天才を友に持てて、心から嬉しいと思うよ」

 

 どうすることもできないのに私への同情に心を砕き、悲しむ二人の姿なんて見たくないから。

 

「……少し、一人になってくるよ。どうやら……恥ずかしい程に私はナイーヴだったようだ」

 

 私なんかのために、親友に涙など流してほしくは、ないから。

 

 

   *****

 

 

 公園のベンチから見上げる空は、どこまでいっても透き通った青空だ。

 空に浮かぶ大きなヘイローもその青に溶け込み、どこまでも気持ちの良い色が広がっている。

 けれども、こんな青空も私がいるせいで壊れてしまう。黒く、赤く、汚れ染まってしまう。

 私がいる。

 ただそれだけで、この公園で楽しく過ごしている他のミレニアム生の未来も断たれてしまう。

 私の大切な友人達の世界が、壊れてしまう。

 

「……私は……どうしたら……」

 

 辛い。

 苦しい。

 泣きたい。

 叫びたい。

 でもできない。

 この公園にも当然カメラはあって、それをヒマリに見られたら勘付かれてしまう。

 今はただ必死に感情を抑えて『自らの夢が近づいた事で戸惑ってしまっている八薙リリカ』を演じなければいけない。

 こうして空を見上げている私はただ夢が形になる事を前に足が竦んでしまった臆病者、ただそうでなくてはならないのだから。

 

「おい、どうしたよそんなところで?」

 

 後ろからぶっきらぼうな声が聞こえてきた。

 ベンチにもたれていた背中と頭を持ち上げ振り返る。

 その声はよく知る声であり、私が彼女の声を間違える訳もなかった。

 

「ネル……いや、ちょっと考え事をね」

 

 この私が大好きな親友の一人、実は誰よりもおせっかいな女である偽メイドの声を間違えたりなんか、するものか。

 

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