【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ!   作:詠符音黎

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8. Welcome to this crazy Wise! このイカれた叡智にようこそ!

 一度覚悟を決めてしまえば、これまでの苦悩が嘘のように晴れやかな気持ちになった。

 元々頂点に立つ者は孤独な者。彼女らを友と思う気持ちは変わらないが、今はそれよりもこの私がキヴォトスで誰よりも優れた天才だと証明する事の方がよっぽど私を高揚させる。

 ただすべてを派手に壊すと決めたとて、その勢いのままに何も準備せずに戦争を仕掛けるわけではない。

 私はこれから私が比肩すると認めた友人達を相手にするのだ。それ相応の準備をせねばなるまい。

 どうせこの世界に奇跡(ミラクル)は訪れぬ。

 ならばできるだけ叙事詩的(リリカル)に演出してやる。

 それこそが偉大な天才(ジーニアス)たるこの八薙リリカの絶対勝利のプロトコルなのだ。

 

「まずやるべきは当然過去改変を行う装置であるが……これは裂け目の瞳(ティア・アイズ)の技術を流用することでできるだろう。しかしそのためには設計図をこしらえそのための材料を集めねばな。ああ、エネルギーの確保も考えねば。“視る”と“干渉する”では圧倒的に必要なエネルギー量に差はあるのは当然だ。そしてそれを秘密裏に、だがしかしある程度の痕跡は残してやらねば……黒幕の悪事は気づいたときにできるだけ道筋が辿れるのがお約束だからな……アァ、なんと心躍る企みなのだろうか……カカカカカッ……!」

 

 大天才たる私のもたらす破滅は一流のエンターテイメントでなくてはならない。

 分かりやすく、華々しく、破壊と再生へと至るレッドカーペットを敷いてやるのだ。

 そしてその道を歩むのは私ではなく、私の愛しい親友達であり、その先で待ち受け叩き潰す。

 なんと絶望的で、なんと面白き情景だろうか。

 

「ああネル、ヒマリ、リオ……きっと君達ならば最高の主演たりえるだろう……この天才に折られ、同情されるべき可哀想な主演としてね……カカカ……!」

 

 私と彼女らが世界の命運をかけて戦う舞台。

 それを想像しただけで、私は興奮に体が震えるのだった。

 

 

   *****

 

 

 大舞台へと至る陰謀の種を撒くには隠しすぎてもいけないが派手過ぎてもいけない。

 あくまで普段はいつもと変わらぬ私であらねばならない。

 故に私は準備を進めながらもミレニアムには登校しいつも通りに学園生活を送る。

 

「やあウタハ、おはよう」

「おや? どうしたんだいリリカ、わざわざエンジニア部の部室にまで来るなんて。もしかしてついにエンジニア部に入部してくれる気になったのかな?」

 

 ちょうど機械いじりをして汚れだらけになっていたウタハが私を出迎えてくれた。

 今回ウタハの顔を見に来たのはただ遊びに来たというだけではない。

 それも理由としてはあるが、同時に私の陰謀を進めるための布石を打つためでもある。

 

「いいや残念ながらそうじゃない。むしろ今日は別のお願いをしにきたのだよ」

「お願い?」

「ああ。実は今とあるモノを開発していてね……それに君の協力を頼みたい。と言ってもただ君の発明品を少し融通して欲しいだけなんだが」

「なるほど。しかしモノによるな。さすがに重要な発明品や依頼を受けて作ってるものだと難しいが……」

「そこは大丈夫だ。むしろ君からもらいたいのは失敗作の方だからね」

「失敗作? 一体何を? それにどうして?」

 

 珍しくウタハが何も分からないと言った顔を見せている。

 私はそんな彼女のために、あらかじめ用意した理由を備えて答えてやった。

 

「あのコーヒーロボのAIだよ。こちらで少し手を加えて、ちょっとしたタイムマシン用の防衛機能用にしたいと思ってね。なにせ、時間旅行は苦難が付きまとうものと相場が決まっているから」

 

 ニッコリと言った私に、ウタハは「なるほど、それはロマン溢れるな!」と同じくニコニコになって承諾してくれた。

 

 ――ありがとうウタハ。君のそういうところ、大好きだったよ。

 

 ――すまないねウタハ。私は君を利用して、君を傷つけるよ。

 

 

 

 

 

「なあリオ。一つ聞きたいんだが」

「あら、何かしら」

 

 いつもの溜まり場で、私はリオと背中合わせでキーボードを叩きながら言った。

 ここはこうしてただ作業するだけにもよく使う。

 いつもの場所となったこの部屋は、いつしかそれぞれが落ち着ける空間ともなっていたから。

 そして今この部屋にいるのは私とリオのみ。ヒマリは推しの演歌歌手の新曲が出たのでじっくりと聞きたいとまだ来ていない。

 ならば、仕込みの一つを行うなら今だ。

 

「君……なんだか随分な資源をどこかに運んでるみたいだけど何やってるんだい?」

「ッ!? ……それを、どこで」

 

 フフッ、食いついたね。

 当然か。私がこうやって口にした時点でバレているのは明白だから下手な隠し立ては不合理だ。

 でも「どこで」という問いには答えられない。だってそれは未来を視た中で知ったチート知識なのだから。

 要塞都市『エリドゥ』。

 名もなき神々の力を用いるものからこのキヴォトスを守るためにリオが秘密裏に建造し、そして私が視た未来では逆に利用されて滅びの引き金となった都市。

 ああ、リオ……あまりにも君らしい発想と行いだよ。

 

「いーや、私が欲しい素材が君が今使ってた素材と被ってね。それでできるだけ安く大量に仕入れようといろいろと調べてたら、偶然ね」

「偶然……なるほど、確かに非常に低い確率とは言え起こりうる話ではあり想定していなかった訳ではないけれども……それをまさかあなたが知る事になるとはね」

「ああ。だからそこで一つお願いなんだが……その素材、少しでいいから私に安く融通してくれないか? 何をやってるのかは知らないけどヒマリにバレたらどうせ面倒が起こる事をしているんだろう? 口止め料という事で、ね?」

「ハァ……分かったわ。流通価格の三分の一で必要量提供しましょう。あなたなら契約を違えることもないでしょうし」

 

 と言いながらも分かっているよ。

 それでいてこっそりと私を監視するのが君という人間だ。

 とことん心配性で、すべてを疑い、それらの予測を元に合理的な計画を立てる。

 それで例え自らが罵倒され悪とされ孤独になろうともそれがもっとも正しい決断と信じたならば誰もが批判するようなトロッコをレールを替えて犠牲を生む役割を担う。

 私は君のそんなところが尊敬できると思っているんだよ。

 

「ところであんな素材、何に使うのかしら。また何か秘密で作っているの?」

「まあ当たらずとも遠からず、といったところかな。新たな段階へと移行した私の発明においてあの素材が……エネルギー伝導率が非常にいいあの金属がタイムマシンにおける開発に使えるのかどうか、それを試したい、そんなところだよ」

 

 半分嘘で半分本当。

 タイムマシン絡みなのは間違いないが、タイムマシンそのものではない。

 むしろ時間を壊すためのマシンを作る、それに必要なのだ。

 嘘をつくときは本当の事を混ぜる事で言う側も聞く側も真実味が増す。これが嘘をつくコツなのだ。

 

「そう……じゃあ期待しているわね、今度はその設計図をこの前みたいにあらかじめ出してくれる事に」

「おやまあ、そっちかい?」

「ええ、そっちよ。……フフッ」

「ははっ。まったく、いつもそういうふうに笑えばいいのに」

 

 不器用ながらも珍しく笑ってくれた彼女に、私も笑い返す。

 お互い秘密を抱えている上でのやり取りだったが、良い時間だった。

 

 

 

 

 

「珍しいですね、リリカがこちらに来るなんて」

 

 今度はヒマリと会っているのだけれど、彼女が少し驚いた様子を見せているのも無理はない。

 私がヒマリを尋ねて来たのは彼女が部長を務めるハッカー集団、ヴェリタスの部室だ。

 ヒマリと私はだいたいいつもの溜まり場で話すのでどちらかがどちらかのいる場所にわざわざ赴く、という事はほとんどないのである。

 

「別に来ない訳ではないですよ。たまにここにゲームしに来ますのでリリカさん」

 

 近くでPCゲームをやっていた同じ二年のコタマが補足するように言った。

 これは本当で、今はここにはいないハレ君とかと無理矢理チーちゃんも捕まえてワイワイと遊ぶときがある。

 ちなみに今コタマが遊んでいるのはこの前も一緒に遊んだ四人プレイのPvEのTPSで、ガチガチのアーマーを身にまとった少女達が並み居る大量の昆虫エイリアンやロボット軍団やイカを相手に派手に銃をぶっ放したり航空支援や軌道兵器での攻撃を行っている。うむ、今日もスーパーキヴォトスの自由は全宇宙に広まっているようだ。

 

「あらそうなんですか、仲間はずれみたいで少し寂しいですね」

「まあタイミングが悪かったようなものだよ。それはそれとして、どうだい? 先程の話については」

「そうですね……まあ別に断る理由はないですが、やはりそちらの目的を言うのが先かと。どうしてわざわざヴェリタスのPCを利用したいのです?」

「ああそうだったね。いやほら……多分そっちのPCにならルート、仕込んでるんだろう? こう……ネット抽選とかオンラインストアへのバックドアやマルウェアあたりを」

「…………あぁ、なるほどそういうことですか」

 

 ヒマリが少しだけ間をおいてから呆れたようにため息をつく。

 私が用意した『嘘の理由』を概ね理解したようだった。

 

「それでお目当てのモノはやはりモモフレンズですか?」

「そうなんだよ! 実は今度Mr.ニコライさんの全長一メートルになるド級ぬいぐるみが出るんだがそれがなかなかの争奪戦が予想されて……! だからちょっと使わせてもらえないかなーと……」

「あーそういえばそういう告知ありましたね。私はさすがにあのサイズとお値段は……と思い特に調べずにスルーしたんですが、リリカさんは買うんですねアレ」

「うむ! このキヴォトスナンバーワンの八薙リリカ、推しのぬいぐるみもナンバーワンのサイズではないと気がすまないからな! カーッカッカッカッ!」

「……好きですねぇ、あなたも」

 

 コタマとウキウキで話す私にやはり少し呆れた様子でヒマリが言ってきた。

 何を隠そう私はそれなりにモモフレンズが好きで、特にMr.ニコライさんが推しでたくさんグッズを集めている。研究所にはわざわざMr.ニコライさん専用部屋があるぐらいだ。

 もちろん、これはあくまで副次的な目的で主目的ではないのだが。

 

「まあいいでしょう。私とて普段それなりに使っているツールですし、存在が分かっている相手にわざわざ隠し立てする気はありません。ただチーちゃんにだけは言わないでくださいよ? 怖いですから」

「うむ、分かっている分かっている! それじゃあさっそく使い方を教えてくれ。あとはこちらでやるのでね」

「わかりました。ではこのソフトを使って――」

 

 ある程度ヒマリから説明を受けると私はウキウキでPCを操作する――フリをする。

 ヒマリは私のモモフレ趣味に少し呆れているところがあるのですぐに私から目を逸らして自分のPCの画面に向き直った。コタマもゲームに集中し始めていて私の動きを気にしていない。

 まあ、やはりこうなったか。

 人間関係を利用するのはハッキングの一番の手段だろうに。

 ……とはいえ、わざと“痕跡”も残しているから、私の見立てが正しければまさに計画実行の日には少なくとも“彼女”にはバレている可能性は高いだろうね。ただそのときにはもう遅いのだが。

 

 

 

 

 

 そしてまた別の日。

 できるだけ急ピッチで準備を進めていた私だったがある程度目処が立ったため、ついに最後の仕掛けをする事にした。

 そのために訪れたのはC&Cの部室……つまりネルの場所だ。

 

「はぁ? パーティがしたいから開催手伝えだぁ?」

「頼むっ! この通りだよネルっ!」

 

 私はネルにパンッ! といい音で両手を合わせて拝み倒す。

 大げさに頭は下げているがネルが怪訝な顔をしているのが分かるし、我が友の一人アスナや後輩のアカネ君がそれぞれ楽しそうな様子で見てきているのも分かる。

 

「先日言ってたモノがついに完成したんだ! だからそれを派手にデモンストレーションしたくて……!」

「んで、それをあたしらに手伝えってのかよ」

「ああ! ネルだって言ってたではないか! デモンストレーションをするなら事前に連絡しろと! 今、それをしているのだよ! C&Cのメイド部としての姿は世を忍ぶ仮の姿ではあるがちゃんとスキルもあると思っての依頼だ! だから頼む! なぁ!?」

 

 顔を少し上げ彼女の目を見て言う。

 するとネルは少しめんどくさそうに頭をポリポリして「あーもう……」と軽く悪態を吐きながらもまたこっちを見て、さらにもう一息軽くため息をついてから言った。

 

「わーったよ! しゃあねえ、今回はその殊勝な態度に免じて手伝ってやる。それにまあ……お前がそこまで心血注いだもんだ、あたしだって祝ってやらんこともねぇしな」

「うわーっ! リーダーがデレてるーっ! フフッ、かーわいー!」

「あらまあ、これは珍しいものを見れましたね。常にそうしてたらもっと人気が出るんじゃないですかリーダー?」

「だーーーーーっ! うるせぇぞてめぇら! オラ! さっさと仕事内容言いやがれリリカ!」

 

 照れ隠しに乱暴に言いながらも、楽しそうにするネル達C&C。

 先程の彼女の言葉は、本当に嬉しかった。

 あまりにも嬉しくて泣いてしまいたいぐらいだったけれども、もう私は涙を流さないと決めたのである。

 私はこれより皆の敵になり、この世界と敵対する悪のマッドサイエンティストなのだ。

 そんな者が感傷で泣くなどありえない。

 するとしたら、狂った高笑い、それだけだ。

 

「カッカッカ! 私もネルの可愛いところもうちょっと見たいし、伸ばしては駄目かね?」

「駄目に決まってんだろーがこのバカっ! あんまぐだぐだやってると取り消すぞっ!」

「分かった分かったカッカッカ! それじゃあ説明するが、まず借りる予定の場所は――」

 

 こうして私はネルと詳細を詰めておく。

 いつも通り、嘘と真を入り混ぜた計画を。私が開く最後の宴、そして始まりの合図について。

 

「ふふっ……」

「……ん? どした?」

「ああいや。ただ、本当に楽しみだなぁと、そう思っただけさ」

「………………ふうん? まあいいや。じゃあ今度はメシについての段取りだけどよ――」

 

 一瞬怪訝な顔を向けてきたネルだが、彼女の中で湧いたらしい違和感は一旦放置され私との計画の話に戻ってくれた。

 さすが、鋭く聡いな、ネルは。

 これが仕事モードの君だったらもしかしたら気づかれていたかもしれないな。

 

 ――……でも、君は気づけなかった。ならばもう、これで勝負は決したも同然だよ。ネル、君は今私達が計画したパーティの日に、私に初めて敗北するのさ。

 

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