【完結】私は八薙リリカ! キヴォトスナンバーワンの天才だ!   作:詠符音黎

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9. WAR! WAR! 争いをSTART IT!

「みんな! 今宵はわざわざこの場に集まってくれてありがとう!」

 

 私が入念に準備をし続けついに訪れたX-dayの夜。

 私はパーティ会場にある少し床よりも高い壇上に立ち、布で覆われ隠された高さ二メートル程の()()の隣で声を張り言った。

 表向きは『裂け目の瞳(ティア・アイズ)完成披露パーティ』という名目であり、さらにそこに私からの友人達への感謝の場という別の名目も重ね集めていた。

 もちろん、真の目的はより楽しい終焉舞台の開幕である。

 

「今日集まってくれたみんなは私が日頃から世話になり友だと思っている者らだ。中にはもしかしたらこちらとは感情の矢印が釣り合わない者もいるかもだが……まあタダ飯を食らう場とでも思ってくれたまえ。カッカッカ!」

 

 その言葉通り、このパーティ会場として借りた広間にはできうる限りの友人達を集めた。

 ネルにヒマリにリオ、ウタハやチヒロにコタマにアスナ、他にも普段仲良くしている後輩達もいる。

 みなこの会場に様々な表情を浮かべているが、少なくとも嫌悪感を出している者はいないようだった。

 私は友に恵まれたなとつくづく思う。

 まあその関係もこれからすべて楽しく壊すのだがな。

 

「今日は私の夢へと大きく近づく日だ。だがその前に皆には日頃の感謝の印としてぜひこのパーティでの歓談と飲食を楽しんでもらいたい。楽しみは後に取っておくのがデキるエンターテイナースタイルだと思ってくれ。……それではみんな、乾杯!」

 

 私は高らかに宣言し同時に白手袋越しに持ったシャンパングラス――中身はミレニアムらしくエナジードリンクの妖怪MAXである――を掲げ言った。

 私の乾杯の音頭に対する対応はこれまた様々だった。

 アスナなんかはとても元気に応えてくれたし、一方でリオやヒマリは静かに合わせてくれる。

 ネルに至っては凄く渋々やっているといった感じだ。きっと隣でアカネ君がフォローしてくれていなければやってすらくれなかっただろう。

 とてもありがたい話だし、これからやる事を考えたら滑稽さがある流れとも言える。

 

「まったくしかし先を越されてしまったね。いや、まずはおめでとうとお祝いしてあげるのが先だったか」

「ウタハ」

 

 会場に下りて食事の並べられたテーブルの前にいると、後ろからそう彼女が話しかけてきた。

 振り返ったウタハの顔は口ぶりとは裏腹に実に楽しげだ。

 

「すまないね。私が一人抜け駆けしてしまった」

「まったくだ。まあでもすぐに追いつくさ。せいぜい追い抜かれないよう気をつけるんだね」

「残念。君が私を追い抜く事はないよ。なぜなら私は常にナンバーワンだからさ」

 

 私の不遜な言葉にやれやれと肩をすくめるウタハ。

 でもそれは本当だからね。仕方ない事なんだよ。

 

「まさかあなたがこんな催しを開くなんて……いえ、今までの行動からは納得できるけれどそれでも意外と感じてしまうわね」

「いえ、それも統計に基づいた発言と言えますよリオ? リリカはこれまで突発的なデモンストレーションは行ってもこうして準備した場を催す事はなかったですし。これもそういう意味ではデータにない情報と言えますね」

「ったくこういうときにも理屈ばらなきゃ気がすまねーのかおめーらは。素直に柄にねーなーで笑って後は楽しむでいいんだよこんなのは」

 

 ウタハの次に表れたリオ、ヒマリ、ネル。

 三人とも態度はそれぞれまったく異なるが、でもこの場を楽しんでくれているのは分かる。

 普段からよく共にいるメンバーではあるが、こうした賑やかな場で全員揃うというのは案外珍しく新鮮な気持ちになる。こういう場にこの中で誰か出てきたとしても、大抵他の一人か二人欠けているなどザラにあったからね。

 だから本当に珍しい。最後にこういう体験ができるとは面白い人生の転がり方だ。

 

「ふふっ。三人共、今日は来てくれて本当に嬉しかったよ。私は本当にいい友人を持ったと、心から言えるね」

「……リリカ?」

 

 思わず口から出てしまった言葉に、ネルが不思議そうな顔して聞いてくるし、ヒマリやリオも同様だ。

 私だって感傷的な部分など出す予定はなかったから、少し情けなさを感じてしまう。

 でもこれが言えたのはむしろ良かったのかもしれない。どうせこの後全部壊すのだから、できるだけ綺麗に飾り付けしてやったほうが、より派手に散る。

 

「……すみませんリリカさん、少し聞きたい事があるので今いいですか?」

 

 と、そこでまた新たな声が私にかかる。

 コタマだった。

 それはつまり、タイムリミットを知らせるブザーと同義だった。

 

「……なんだい、コタマ」

「以前、ヴェリタスの部室からMr.ニコライさんのド級ぬいぐるみを買いましたよね? 抽選販売だからうちの裏口を使いたいと」

「……ああ、そんな事もあったね」

 

 普通にハッキングをしたという話の内容だが、ここの話の本質はそこではないという事をそこにいたメンバーは(みな)一瞬で感じ取ったのか、茶々を入れてくる者はいなかった。

 そこにはコタマのいつもよりもずっと真面目な雰囲気、そして私の妙に落ち着いた様子も作用したのは間違いない。

 

「あれ、後々から考えるとなにか違和感があったので調べてみたのですが……そこで気づいたんです。あのド級ぬいぐるみ、あくまで完全受注生産であって抽選販売じゃなかったんですよ。しかもまだまだ受注期間は終わっていません。……あなたはあのとき、何をしたんですか?」

「…………」

 

 私はグラスの中身をその言葉に応える代わりに飲み干すと、テーブルの上に静かにグラスを置く。

 

「……おい、今の話、どういうことだ?」

 

 裏を感じ取っただろうネルが、声色を落として聞いてくる。

 彼女に、私は軽く笑ってやる。

 

「どういうことか、か……さて、どう言ったらいいものか……」

 

 わざとはぐらかして言う私。

 できうるなら、もっと派手に、もっと悪辣な形でネタバラシをしてやりたい。天才たるエンターテイナーとしての責務があるからね、私には。

 

「あれー? みんなどうしたの?」

 

 と、そこで何も知らないアスナが呑気な声でやって来た。

 かと思いきや、彼女はすっと足を止め私の白手袋に覆われた手元をじっと見てきた。

 

「……ねぇリリカ、その手袋、ちょっと脱いでもらっていいかな?」

「……何故だい?」

「いや、なーんか気になってねー……その下、何かあるんじゃないかなって」

 

 さすがアスナだ。彼女の直感はもはや超能力の域と言っていいだろう。

 でも、おかげでいい感じの演出にはできそうだ。

 

「まったく……運命とは、こういった事を言うのか」

「……リ――!?」

 

 ヒマリが何か私に言おうとする前に、私は()()()()()()

 その場にいた全員が、急に立ってられなくなり強い力で押しつぶされたように倒れたのだ。

 他にも並んでいたテーブルも食べ物も何もかもが潰れてしまう。

 

「てめぇっ……!? 何、を……!?」

「何を? 簡単な事さ。このエリア制圧用に改造した引き合う両手β(グラビティ・ハンズ・ベータ)で、この部屋の私以外の(みな)の重力を操作した。君達は今、その重力の重さに押しつぶされろくに動けなくなっている、それだけだよ」

「なんだ……と……!?」

 

 歯で指先を噛んで白手袋を脱ぎ、下にある黒いメカニカルなグローブを見せた私にネルが驚愕と怒りの目線を私に向けてくる。

 他のメンバーも抱く感情はそれぞれ別種なれど、信じられないものを見る目をこちらに向けていたのは変わらなかった。

 

 ――はああぁ、本当に始まったね……実に昂ぶるよ……。

 

「そのまま寝ていてくれたまえ。そうすれば私としても苦労が減って楽だからね」

 

 そう言いながら私はまだ壇上へと歩みを進め()()にかかっていた布を勢いよく取り去る。

 まるで華々しいモニュメントのお披露目のように。

 

「っ!? それは……圧縮水素反応炉!?」

「さすが、一目で見抜くとはお見事だねリオ。その通り、これはあの天界の鼻(ヘヴンズ・ノーズ)の動力として利用した圧縮水素反応炉を爆弾として利用したものだ。そうだねぇ……あと三分でこの会場となってるビルを丸ごと倒壊させるぐらいには派手に吹き飛ぶんじゃないかなァ? カカカカカ……!」 

 

 それはきっと美しい光景だろう。

 爆破は人の心を引きつける。このキヴォトスがいくら爆破を見慣れた世界とは言え、それは変わらない。

 それで皆が大怪我をするのは申し訳なく思うが、すべてが死に絶えるよりはずっとマシだし、ぜひ私を恨み倒して欲しい。

 

「では諸君、これにてパーティはお開きだ。一足先におさらばさせてもらうよ。では」

 

 私はそこであえて陽気にターンして皆に背中を向け入口に向かっていく。

 そのときだった。

 

「「――ネルッ!!」」

 

 ヒマリとリオの声が、重なり響いた。

 

「おうっっ!!」

 

 振り向くとそこには、強い重力で押し付け動けなかったはずのネルが、いつもと変わらぬ動きで私に向かってきている姿が。

 なるほど、ヒマリが何か緊急用のデバイスを操作し、リオが私対策として用意していた手段の内の一つ――つまりは今回の重力操作に対して講じていた手段を使い、ネルを重力の楔から解き放った、というわけか。

 彼女ら三人はこれを言葉を交わさず、おそらく最小のアイコンタクトで済ませたのだろう。

 さすが私の愛する親友達だ。

 

 ――完璧に、私の読み通りの動きだ。

 

「なっ!?」

 

 ネルが驚愕の声を上げた。

 私が今まで見せた事もない速さ……いや、もはや瞬間移動とも言える速度で彼女の背後に回り、その背中に我が“ウォーデン・オブ・タイム”を突きつけたのだ。彼女が驚くのも無理はない。

 

「残念、今回は私の勝ちだ」

 

 引き金を引き、さらに直後ポンプアクションのコッキングして射撃を繰り返す。

 

「ガッ……ハッ……!?」

 

 そのまま左右にある二本のチューブラーマガジン全弾合わせて十四発の12ゲージスラグ弾を接射、倒れても続けてその背中に追い撃ちしてやった。ネルにはこれぐらいやってもまだ不安だが、とりあえず今回はこれで十分でもあるだろう。

 

「あ……う、ぐ……! て、め……今、のは……」

 

 膝から崩れ落ちるネルは、這いつくばりながらも私を睨み言って来た。

 私はそれにニタニタと笑いながら答えてやる。

 

「答え合わせかね? いいだろう。思いの外あっけない勝利の瞬間であったが、勝ち誇る美酒に酔うぐらいの余韻はあるからねぇ」

 

 私は白いコートの足元を大きく広げ、見せてやる。

 私の足に装着された強化外骨格を。

 

「これもまた以前の発明を戦闘用に改造した疾走する脚・γ(アクセル・レッグス・ガンマ)さ。これにより私は短時間ではあるが光速すら越えた移動ができるのだよ。カカカッ、つまりこの状況にまで持ってこられた時点で、私の勝利は確定していたのさ」

 

 私が存在することにより滅びる未来。そんな要因である私が勝利の確定を語るのだから本当に嗤えてくる。

 

「カッカッカッカ……! 悪いねぇネル、これが天才の本気、というやつだよ。それでは今度こそ、さらば――ん?」

 

 また背を向け去ろうとした私だったが、足首を掴まれた。

 驚いたことに、あの射撃とさらに今の攻撃で重力操作への対策の効力も切れていて押しつぶされるような重力で床にへばりつけられえいるはずなのに、ネルは私を未だ止めてきたのだ。

 

「テメェ……何、考えて、やがる……おい……どうしちまった……何が、あった……!」

 

 血まみれになりながらも未だ衰えぬ眼光で問うてくるネル。

 それに、私は――

 

「――カカッ……カカカカカカ……何故か……だと……? カカカカカカ……カッカッカッカッカッカッ!!!!」

 

 思わず、笑ってしまったのだ。

 

「何故か? 何故かだと!? 何故私が狂ったのか、だと!? カッカッカッ……! 言うに事欠いて、なんたる愚問ッ! いつの世も科学者を狂気たらしめるものなど、陳腐にして決まっているではないか! ああされど、しかしてされど! 答えてあげようその愚問! つまびらかにしよう自明の()! ……世がこの天才を、認めぬからだよォ……!」

 

 引き裂いてしまうのではないかと思うぐらい、口角が歪むのを感じる。

 この目が一瞬で乾いてしまうのではないかと思うくらい、瞳が露わになる。

 喉がもう使い物にならないのではないかと思うくらい、激しい大声が湧き出てくる。

 嘘は言っていない。本当の事だ。

 私を認めぬ世があるからこそ、私はこうしているのだ……私はその世のため、認められる私自らが退場するために、こうしているのだよ……!

 でもそれが、まさかこんなに笑えるイベントなるとは、ねぇ……!

 

「ならば、そうならば! 我が想い、我が悲願! それを果たすために狂気の催しを心から愉しんで、何が悪いと言うか! つまらなき世界ならば、この私が自ら全身全霊を持って遊び呆ける! それこそが人としてのあり方ではないのかねェ!? カッカッカ……カーッカッカッカ!」

 

 すべてを振り切ってやりたい放題やってしまう。

 まさかこんなにも楽しい事だとは思っていなかった。

 あまりにも楽しく止まらぬ笑いを上げながらネルの手を振り払い、私はビルを後にした。

 それからすぐ、私の背後で大きな爆炎が瞬いたのが見ずとも分かった。

 華々しいフィナーレの始まりを報せる、いささか派手な花火だ。

 

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