守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

106 / 200
岸辺露伴は獲物を逃がさない

カフェテラスの一角は、今日も静かに騒がしかった。

 

 港町旅行の精算は、ようやく大筋でまとまりつつあった。

 まとまりつつあった、というだけで、完全に終わったわけではない。なぜなら、カイエンの釣具レンタル費が最後まで妙な存在感を放っていたからだ。

 

「だから、それは延長料金じゃなくて、保証金の返金控えだって言ってるだろ」

 

 カイエンが言う。

 

 ログナーは伝票を見下ろしたまま、冷淡に返した。

 

「ではなぜ返金額が記載されていない」

 

「店が書き忘れたんだろ」

 

「都合のいい解釈だな」

 

「お前の都合が悪すぎるんだよ」

 

 アウクソーが、もう一枚の控えを静かに差し出した。

 

「マスター。こちらに延長料金と明記されています」

 

「アウクソー」

 

「はい」

 

「今日は味方してくれ」

 

「事実ですので」

 

「そればっかりだな!」

 

 ソープは紅茶を飲みながら、にこにこと見ていた。

 

「カイエン、釣りも文化調査だったことにすればいいんじゃないかな」

 

「陛下、それは通らない」

 

 ログナーが即答した。

 

 カイエンが額を押さえる。

 

「また言ったぞ」

 

 ログナーは一瞬だけ黙った。

 

「……ソープ様、それは通らない」

 

「言い直しても遅いんだよ」

 

 横から声がした。

 

 岸辺露伴である。

 

 彼はいつの間にか現れていた。

 手には手帳。目には取材対象を見つけたとき特有の光。

 カイエンはそれを見た瞬間、露骨に嫌な顔をした。

 

「来たか」

 

「来たとも」

 

 露伴は堂々と言った。

 

「前回、僕はひとつ学んだ。ソープについては、現時点では描けない。ならば、描けるものから描くしかない」

 

「それで僕を見るな」

 

 カイエンが即座に言った。

 

 露伴は椅子を引き、勝手に座った。

 

「ヒューア・フォン・ヒッター子爵」

 

「その名前で呼ぶな」

 

「なぜだ。重要な情報だ」

 

「お前が呼ぶと面倒くさい」

 

「面倒くさいから呼ぶんだ」

 

「最悪だな、お前」

 

 露伴はペンを構えた。

 

「まず聞きたい。ヒューア・フォン・ヒッター子爵とは何者だ。カイエンとは同一人物なのか。剣聖とは称号か、階級か、能力か。ファティマとは何だ。アウクソー君が君をマスターと呼ぶ理由は? シュペルターとの関係は? そして、なぜあれほどの男が朝の防波堤で魚一匹釣れなかった?」

 

「最後のは関係ねぇだろ!」

 

「関係ある」

 

 ログナーが言った。

 

「お前は黙ってろ!」

 

 カイエンが叫ぶ。

 

 露伴は満足そうに頷いた。

 

「いい反応だ。取材対象として申し分ない」

 

「取材対象にするな」

 

「君はソープほど描けないわけではない。つまり、描ける」

 

「それ褒めてねぇよな?」

 

「もちろん」

 

「もちろんって言うな!」

 

 少し離れた席で、桂木弥子がパフェを食べながら見ていた。

 

「今日のターゲットはカイエンさんなんだ」

 

 泉京香がアイスティーを手に頷く。

 

「露伴先生、完全に獲物を見つけた顔ですね」

 

「野生の漫画家だ」

 

「危険ですね」

 

「危険だよ。主に周囲が」

 

 その時、テラスの入口付近で白い煙がふわりと揺れた。

 

 カイエンが顔をしかめ、ログナーが無言で視線を向ける。

 

 煙が晴れると、そこには黒衣の怪盗が立っていた。

 

 怪盗Xi。

 

「やぁ、今日はまた随分と賑やかな会計監査だね」

 

 Xiは軽やかに帽子を取って一礼した。

 

「帰れ」

 

 ログナーが即座に言った。

 

「歓迎の言葉がそれかい?」

 

「不敬の前科がある者に歓迎は不要だ」

 

「前科とは心外だね。芸術的挑戦と言ってほしい」

 

「言わない」

 

 ソープが手を上げた。

 

「やあ、Xi」

 

「やあ、ソープ。今日は本物だね」

 

「うん。今日は本物だよ」

 

「それは残念だ。もう一度試してみようかと思ったけど、審査が厳しそうだからね」

 

 弥子がすぐに言った。

 

「圧が足りないからね」

 

 泉も頷く。

 

「語彙が残りますし」

 

「その評価軸、定着しているね」

 

 Xiは苦笑した。

 

 ログナーは、Xiをじっと見た。

 

 その視線が、伝票を見るときのそれとは少し違うことに、露伴はすぐ気づいた。

 

「何だ。今度は彼を睨んで終わりじゃないのか?」

 

 露伴が言う。

 

 ログナーは答えず、少しだけ考えるようにXiを観察した。

 

 そして、静かに言った。

 

「陛下」

 

「うん?」

 

「この怪盗Xiを、この際ミラージュナイトの一人として採用し、

 陛下の影武者にしませんか」

 

 怪盗Xiの笑顔が止まった。

 

「おい」

 

 カイエンが一瞬黙り、それから口の端を上げた。

 

「なるほど。つまり、これからはログナーや僕の後輩であり、部下だな」

 

「話が一方的に進んでる!」

 

 Xiが叫んだ。

 

 ソープはのんびりと首を傾げた。

 

「うーん。変装は上手だったしね」

 

「評価しないで!」

 

 ログナーは淡々と続ける。

 

「姿、声、所作の再現精度は一定水準。逃走能力も高い。度胸もある。軽薄さ、不敬、買い食い衝動、勤務意欲の欠如には問題があるが、技術面は評価できる」

 

「問題点が人格に集中している!」

 

「事実だ」

 

「事実で刺すな!」

 

 露伴は目を輝かせた。

 

「怪盗Xi、ミラージュナイト採用疑惑……これは面白い」

 

「疑惑じゃない。冤罪だ!」

 

「いや、採用候補だ」

 

 ログナーが言った。

 

「やめろ、正式名称にするな!」

 

 弥子が手を上げる。

 

「ミラージュナイトって、お給料出るんですか?」

 

「そこじゃない!」

 

 Xiが振り向く。

 

 ログナーは少しだけ考えた。

 

「待遇は任務内容による」

 

「食事手当は?」

 

「制限が必要だ」

 

「ひどい!」

 

 ネウロが、いつの間にか弥子の後ろに立っていた。

 

「当然だ。貴様に食事手当を与えれば、国家予算が削れる」

 

「そんなに食べないよ!」

 

「失礼な。九割くらいだよ、と言った女が何を言う」

 

「あれは旅行の記憶の話!」

 

「同じだ」

 

「違う!」

 

 Xiは両手を広げた。

 

「少し落ち着いて。僕は怪盗だ。自由な怪盗だよ。

 騎士団員でも影武者でも新人部下でもない」

 

「怪盗なら犯罪者だろう」

 

 露伴が言った。

 

「漫画家が正論を言うな!」

 

 カイエンがにやにやしながら言う。

 

「ミラージュ騎士団には、表のライトナンバーと、厄介者や犯罪者も含むレフトメンバーがいる。お前はどう見てもレフトだな」

 

「自然に犯罪者枠へ入れるな!」

 

 ログナーが頷いた。

 

「ライトには不適格だ」

 

「当たり前だろ、入らないからね」

 

「だがレフトなら問題ない」

 

「問題しかない!」

 

 ソープが楽しそうに言う。

 

「じゃあ、レフトに仮採用?」

 

「仮もやめて!」

 

 露伴がメモする。

 

「怪盗Xi、ミラージュ騎士団レフトメンバー仮採用」

 

「描くな!」

 

「描けるものは描く」

 

「僕は描かれたくない!」

 

「なら描かれるようなことをするな」

 

「ぐっ……!」

 

 露伴が勝った顔をした。

 

 カイエンは笑いながらXiの肩を叩いた。

 

「後輩、まずは先輩に挨拶だな」

 

「誰が後輩だ!」

 

「お前だろ、レフト新入り」

 

「まだ契約してない!」

 

 その言葉に、ソープが少しだけ目を輝かせた。

 

「契約金はちゃんと払うよ。国家規模で」

 

 Xiの動きが止まった。

 

「契約……なんて……しない……」

 

 カイエンが吹き出した。

 

「おい、揺れてるぞ」

 

「揺れてない。これは光の反射だ」

 

「今の姿、光ってねぇだろ」

 

 ログナーが、さらに畳みかける。

 

「住居、身分保証、任務経費、必要に応じた変装資料も支給する」

 

 Xiの目がわずかに動いた。

 

「……変装資料?」

 

「食いついたな」

 

 カイエンが言う。

 

「食いついてない!」

 

「必要なら、星団各国の要人資料も閲覧できる」

 

 ログナーは淡々と言った。

 

「ただし、閲覧権限には制限をかける。不敬防止のためだ」

 

「条件が生々しい!」

 

 ソープがのんびり付け加える。

 

「あと、塩大福も経費で落ちるかもしれない」

 

「落ちません」

 

 ログナーが即座に言った。

 

「落ちないの?」

 

「落ちません」

 

 Xiが小さく呟いた。

 

「そこは落ちないんだ……」

 

「貴様も残念そうにするな」

 

 ログナーの視線が刺さる。

 

 弥子が首を傾げた。

 

「でも、怪盗騎士って字面はちょっとかっこいいよね」

 

「弥子まで乗らないで!」

 

「怪盗騎士Xi」

 

 泉がぽつりと言った。

 

「響きはいいですね」

 

「泉さんまで?!」

 

 ネウロが笑う。

 

「クク……盗む者が守る側へ回るか。なかなかの皮肉だ」

 

「ネウロ!面白がらないで」

 

「面白いものを面白がらずにどうする」

 

 Xiはため息をついた。

 

「まったく。僕は今日、何をしに来たんだったかな」

 

「採用面接だ」

 

 ログナーが言った。

 

「違う!」

 

「では志望動機を述べろ」

 

「志望してない!」

 

「勤務意欲の欠如。要改善」

 

「評価票に書くな!」

 

 露伴が即座にメモする。

 

「勤務意欲の欠如。要改善」

 

「君も書くな!」

 

 カイエンが腹を抱えた。

 

「だめだ。面白すぎる」

 

 Xiはカイエンを睨む。

 

「君も他人事ではないよ、ヒッター子爵」

 

 その瞬間、露伴の目が光った。

 

「そうだ。話を戻そう」

 

 カイエンの笑顔が消えた。

 

「戻すな」

 

「ヒューア・フォン・ヒッター子爵。君への質問がまだ山ほどある」

 

「今はXiの採用問題だろ」

 

「僕にとっては君の方が重要だ」

 

「やめろ」

 

「逃げるな」

 

「逃げる」

 

「逃がさない」

 

 露伴は立ち上がり、カイエンに詰め寄った。

 

「剣聖とは何だ。君の剣は人間の理屈で説明できるのか。シュペルターとは何だ。アウクソー君との関係は? ファティマとは人工生命なのか、パートナーなのか、兵器なのか、それとももっと別のものか。そしてヒッター子爵という名はどこから来た?」

 

「多い! 一度に聞くな!」

 

「では順番に答えろ」

 

「答えねぇ!」

 

「なぜだ」

 

「面倒だからだ!」

 

「答えた。君は面倒だから答えない性格、と」

 

「書くな!」

 

 アウクソーが静かに言った。

 

「マスター。露伴様は、マスターが反応されるほど記録を増やされるようです」

 

「わかってるよ!」

 

「では、反応を控えるべきかと」

 

「できたらやってる!」

 

 ログナーが冷淡に言う。

 

「未熟だな」

 

「お前に言われたくねぇ!」

 

 露伴が即座に書く。

 

「カイエン、挑発に弱い」

 

「だから書くな!」

 

 Xiはその様子を見て、少しだけ安心した顔をした。

 

「どうやら今日の獲物は僕だけじゃないね」

 

 ログナーが振り向く。

 

「逃げる気か」

 

「怪盗だからね」

 

「採用面接中だ」

 

「受けてない!」

 

「では仮面接だ」

 

「何だ仮面接って!」

 

 ソープが笑った。

 

「Xi、ログナーは逃がさないよ」

 

「お前が止めてくれてもいいんだよ、ソープ」

 

「でも、ちょっと面白いから」

 

「陛下!」

 

 ログナーが珍しく少しだけ困ったように言った。

 

「おや、君も面白がってるじゃないか」

 

「私は実務的に検討しているだけです」

 

「実務的に怪盗を採用しようとしている時点でおかしいよ」

 

「実際、ミラージュも人手不足でね。お偉いさんにお目付け役一人派遣してる余裕もない」

 

 ソープがにこりとした。

 

「僕のことかな」

 

「陛下のことです」

 

「言い切った」

 

 カイエンが呆れたように言う。

 

 ログナーは少しも悪びれない。

 

「陛下が地球で文化調査と称して塩菓子を買い込み、防波堤を凪がせ、漫画家に正体を追及され、怪盗に御姿を真似られる。これに毎回専任のお目付け役をつけていては、人員が足りない」

 

「言い方」

 

 ソープが困ったように笑う。

 

「でも、だいたい合ってるね」

 

「合ってるのかよ」

 

 カイエンが突っ込む。

 

 ログナーはXiを見る。

 

「そこで、変装能力があり、機動力が高く、状況判断もできる者を予備の影武者として確保する意義がある」

 

「ない!」

 

 Xiが叫ぶ。

 

「僕は自由な怪盗だ。誰かの影武者として予定表に組み込まれる人生などごめんだね」

 

「自由契約でもいいよ」

 

 ソープが言った。

 

 Xiがまた止まった。

 

「自由契約……」

 

 カイエンが指さした。

 

「また揺れた」

 

「揺れてない!」

 

 ログナーが眉をひそめる。

 

「陛下、余計な条件を増やさないでください」

 

「だって、その方が来てくれそうじゃない?」

 

「来させる話ではなく、拘束する話です」

 

「怖い単語が出た!」

 

 Xiが一歩下がる。

 

 ログナーはさらに一歩前に出る。

 

 露伴も、カイエンに一歩詰め寄る。

 

 結果として、カフェテラスの一角では、二つの追跡劇が同時に発生した。

 

 露伴がカイエンを追う。

 

 ログナーがXiを追う。

 

 カイエンとXiは、互いに目を合わせた。

 

「お前も大変だな」

 

 カイエンが言った。

 

「君もね」

 

 Xiが返す。

 

「逃げるか」

 

「逃げたいね」

 

 その会話を聞いて、露伴とログナーが同時に言った。

 

「逃がさない」

 

「逃がさん」

 

 カイエンとXiは、同時に叫んだ。

 

「「勘弁しろ!」」

 

 弥子はテーブルを叩いて笑った。

 

「息ぴったり!」

 

 泉も笑いをこらえきれない。

 

「追う側も逃げる側も、妙に息が合っていますね」

 

 ネウロは愉快そうに顎を上げた。

 

「獲物が二匹、狩人が二人。なかなか見応えのある見世物だ」

 

「見世物じゃねぇ!」

 

 カイエンが叫ぶ。

 

「僕は見世物でも採用候補でもないよ!」

 

 Xiも叫ぶ。

 

 ログナーは冷静に言った。

 

「ならば逃げるな」

 

「逃げるよ! 怪盗だからね!」

 

「逃走能力、高評価」

 

「評価するな!」

 

 露伴はカイエンに言う。

 

「君も逃げるな」

 

「逃げるに決まってるだろ!」

 

「取材対象としては低評価だ」

 

「評価すんな!」

 

 ソープがにこにこと二人を見比べた。

 

「カイエンもXiも、人気者だね」

 

「陛下」

 

 ログナーが言う。

 

「何?」

 

「その言い方は、火に油です」

 

「そうかな」

 

「そうです」

 

 カイエンがXiに小声で言った。

 

「あいつ、悪気ないから余計にたち悪いぞ」

 

「分かる気がしてきた」

 

 Xiが真顔で頷く。

 

 しかし、怪盗は怪盗だった。

 

 Xiはふっと笑みを戻すと、帽子に手をかけた。

 

「さて。実に魅力的な……いや、厄介な提案だったが、今日のところは辞退するよ」

 

「今日のところ、か」

 

 露伴が言った。

 

「言葉尻を拾うな、漫画家」

 

「拾うさ。僕は岸辺露伴だからな」

 

 ログナーも言った。

 

「保留扱いにしておく」

 

「するな!」

 

「契約条件は後日整理する」

 

「整理しなくていい!」

 

「国家規模の契約金についても」

 

「……」

 

 Xiがわずかに黙った。

 

 カイエンがすぐに言う。

 

「また揺れたぞ」

 

「揺れてない!」

 

 ソープが楽しそうに言う。

 

「資料だけでも見ていく?」

 

「見ない!」

 

「変装資料もあるよ」

 

「……見ない」

 

「今ちょっと迷ったね」

 

「迷ってない!」

 

 ログナーが一枚の白紙を取り出した。

 

「では仮登録だけでも」

 

「やめろ!」

 

 Xiが指を鳴らす。

 

 白い煙幕が広がった。

 

 ログナーが一歩踏み出す。

 

「この道は通行止めだ」

 

 しかし、Xiの声が煙の向こうから聞こえた。

 

「それなら、今日は屋根を使わせてもらうよ」

 

 煙が晴れる。

 

 怪盗Xiの姿は消えていた。

 

 テーブルの上には、カードが一枚。

 

 露伴が拾い上げた。

 

『怪盗は自由契約を結ばない。

 ただし、条件提示は聞くだけ聞く。

 怪盗Xi』

 

 カイエンが笑った。

 

「完全に揺れてんじゃねぇか」

 

 ログナーは無表情のまま言った。

 

「次回、条件を詰める」

 

「本気かよ」

 

「本気だ」

 

 ソープは少し困ったように笑った。

 

「Xi、逃げきれるかな」

 

「無理だろ」

 

 カイエンが言う。

 

「ログナーに目ぇつけられた時点で半分終わりだ」

 

 露伴はカードを手帳に挟んだ。

 

「面白いな。怪盗Xiは獲物として十分だ」

 

「おい」

 

 カイエンが身構える。

 

 露伴はゆっくり振り向いた。

 

「だが、今日の僕の獲物は逃げていない」

 

「……」

 

「ヒューア・フォン・ヒッター子爵」

 

「やめろ」

 

「質問の続きだ」

 

「やめろ」

 

「剣聖とは何だ」

 

「やめろって言ってんだろ!」

 

「ファティマとは何だ」

 

「アウクソー、助けろ!」

 

 アウクソーは静かに首を傾げた。

 

「マスター。露伴様の質問は、ある程度当然かと」

 

「裏切った!」

 

「事実ですので」

 

「事実が嫌いになりそうだ!」

 

 ログナーは伝票を手に取り、さらりと言った。

 

「取材が終わったら、釣具レンタル費の件も続ける」

 

「お前もか!」

 

 カイエンは天を仰いだ。

 

 ソープは楽しそうに紅茶を飲む。

 

 弥子はパフェを追加注文しようとして、泉に軽く止められている。

 

 ネウロは愉快そうに笑い、露伴はペンを走らせ、ログナーは伝票を揃えた。

 

 逃げた怪盗。

 逃げられない剣聖。

 追う漫画家。

 追う司令官。

 

 カフェテラスの一角だけが、またもや完全に通行止めだった。

 

 露伴が最後に、手帳へ一行を書き足す。

 

『岸辺露伴は獲物を逃がさない。

 ただし、ログナー司令もまた同類である。』

 

 ログナーがそれを覗き込む。

 

「同類ではない」

 

「同類だろう」

 

「違う」

 

「獲物を逃がさないところが?」

 

「私は職務だ」

 

「僕は取材だ」

 

「なら違う」

 

「いや、同じだ」

 

 ソープがくすくす笑った。

 

「二人とも、楽しそうだね」

 

 露伴とログナーは同時に言った。

 

「楽しくない」

 

「楽しくない」

 

 弥子が小声で言う。

 

「やっぱり仲良しだ」

 

 泉が頷く。

 

「ですね」

 

 その言葉を聞いた露伴とログナーの視線が、同時に弥子たちへ向いた。

 

 弥子は慌ててパフェのメニューで顔を隠す。

 

「見てない。何も見てない」

 

 泉も静かにアイスティーを飲んだ。

 

「私も何も聞いていません」

 

 ソープが笑う。

 

「それ、流行ってるのかな」

 

 カイエンが疲れた声で言った。

 

「お前のせいだよ、だいたい」

 

今日もまた、平和だった。

 

 少なくとも、世界は滅びていない。

 

 ただし、カイエンと怪盗Xiにとっては、かなり厄介な一日だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。