守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

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怪盗Xiがお目付け役になる件 その2

その日、カイエンは久しぶりに静かな午後を迎えていた。

 

 場所は、いつものカフェテラス。

 白いテーブル。

 通りを抜ける風。

 カップに注がれたコーヒー。

 そして、目の前には伝票も請求書もない。

 

 ログナーはいない。

 

 その事実だけで、カイエンの肩から何かが軽くなった。

 

「……平和だ」

 

 カイエンはしみじみと言った。

 

 隣に座るアウクソーが、静かに頷く。

 

「はい、マスター」

 

「伝票を見られない。釣具レンタル費も蒸し返されない。ソープの塩菓子も僕の責任にされない。今日はいい日だ」

 

「露伴様が来られなければ、ですが」

 

「アウクソー」

 

「はい」

 

「そこは言わないでくれ」

 

 アウクソーは少しだけ申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「失礼いたしました」

 

 カイエンはコーヒーを一口飲む。

 

 久しぶりに、本当にただの休憩だった。

 

 そこへ、柔らかな声がかかった。

 

「カイエンさん」

 

 顔を上げると、キラ・ヤマトとラクス・クラインが立っていた。

 

 ラクスは穏やかに微笑み、キラは少し遠慮がちに会釈する。

 

「ご一緒してもよろしいですか?」

 

「ああ。もちろんだ」

 

 カイエンは椅子を引いた。

 

「今日は珍しく静かだ。座るなら今のうちだぞ」

 

 キラが苦笑する。

 

「珍しく、ですか」

 

「珍しすぎるくらいだ」

 

 ラクスがくすりと笑った。

 

「それでは、その静けさをご一緒させていただきますわ」

 

 アウクソーが店員を呼び、紅茶とコーヒーが追加された。

 

 風は穏やかで、日差しも柔らかい。

 

 ラクスがカップを手に取り、ふと目を細める。

 

「港町でのことが、もう少し昔のことのように感じますわね」

 

 キラが頷く。

 

「色々ありましたから」

 

「ありすぎたな」

 

 カイエンは少し笑った。

 

「怪異、歌、防波堤、釣り、旅館、卓球、請求書。旅行ってのは、もっと楽なもんだと思ってたが」

 

「でも、楽しかったです」

 

 ラクスは静かに言った。

 

「怖いこともありましたけれど、それでも……皆さまと過ごした時間は、とても大切なものでした」

 

 キラはラクスを見て、少しだけ表情を和らげる。

 

「ラクスがそう思えるなら、よかった」

 

 カイエンはその様子を見て、口元を緩めた。

 

「相変わらずだな、お前ら」

 

 キラが少し照れる。

 

「え?」

 

「いや、何でもない」

 

 カイエンはコーヒーを飲んだ。

 

 平和だった。

 

 実に、平和だった。

 

 少なくとも、カイエン側は。

 

     *

 

 一方、その頃。

 

 同じ通りの少し先で、怪盗Xiはすでに疲れていた。

 

 任務開始二日目。

 

 制服の外套は目立ちすぎるため、今日は畳んでバッグに入れている。

 スパッドもケースに入れて携行しているが、できれば一度も出したくない。

 

 そして隣には、ソープがいる。

 

 ただ歩いているだけなら、問題はない。

 

 ただ歩いているだけなら。

 

「Xi、あれは何かな」

 

 ソープが立ち止まった。

 

 Xiは嫌な予感とともに視線を向ける。

 

 そこには、たい焼き屋があった。

 

 焼き台から甘い香りが漂っている。

 皮が焼ける匂い。

 あんこの匂い。

 道行く人が紙袋を持って歩いている。

 

 Xiは即座に言った。

 

「見ない」

 

「まだ何も言ってないよ」

 

「目が言ってる」

 

「目?」

 

「“文化調査したいなあ”って目をしてる」

 

 ソープは少しだけ困ったように笑った。

 

「たい焼きも文化だよ」

 

「そう言うと思った」

 

「地球の庶民的な菓子文化として興味深いね」

 

「言い方を学術っぽくしても駄目」

 

「一個だけ」

 

「駄目」

 

「半分なら」

 

「半分食べるためには一個買う必要があるでしょ」

 

「じゃあ一個を半分こ」

 

「巻き込まないで!」

 

 ソープはにこにこしている。

 

「お目付け役なら、毒見も任務のうちだよ」

 

 Xiは顔をしかめた。

 

「誘惑しないで!」

 

「毒は入っていないと思うけど」

 

「なら毒見じゃない!」

 

「でも、味を知らないと危険かどうか分からないよ」

 

「言葉の組み方がうまいなあ!」

 

 Xiはたい焼き屋とソープを交互に見る。

 

 任務内容。

 

 陛下の地球滞在時における同行補助。

 支出抑制。

 危険行動の防止。

 食文化調査は要監督。

 

 ログナーの顔が頭に浮かんだ。

 

 次に、たい焼きの香りが鼻をくすぐった。

 

 Xiは目を閉じた。

 

「……一個だけ」

 

 ソープの表情が明るくなる。

 

「いいの?」

 

「一個だけ。半分こ。追加なし。報告書には“少額文化調査”って書く」

 

「うん」

 

「ログナー司令に怒られたら、ソープが希望したって書くよ」

 

「うん」

 

「それでもいいんだね?」

 

「うん」

 

「返事が軽い!」

 

     *

 

 たい焼きは、焼きたてだった。

 

 Xiは紙袋を受け取り、ソープとベンチに座った。

 

 半分に割ると、湯気と一緒にあんこの香りが広がる。

 

 ソープはその半分を手に取り、少しだけ目を細めた。

 

「熱いね」

 

「焼きたてだからね」

 

「形が魚なのに、中身は甘い」

 

「それがたい焼き」

 

「面白いね」

 

「そこは文化調査っぽいこと言うんだ」

 

 ソープは一口食べた。

 

 少し黙る。

 

 それから、穏やかに笑った。

 

「おいしい」

 

 Xiも自分の半分を食べた。

 

 皮は香ばしく、あんこは熱くて甘い。

 

「……うん。おいしい」

 

「毒見、成功だね」

 

「毒見じゃない」

 

「じゃあ文化調査?」

 

「少額文化調査」

 

「報告書に書くの?」

 

「書くよ。隠すと後で怖いから」

 

「ログナーは細かいからね」

 

「君がそれを言う?」

 

 ソープは楽しそうに笑った。

 

 Xiはたい焼きを食べながら、端末を取り出してメモを打った。

 

『二日目途中報告メモ

・たい焼き屋を発見

・ソープ、興味を示す

・一個のみ購入

・半分ずつ試食

・追加購入なし

・味は良好

・支出小

・文化調査としては妥当

・毒見ではない』

 

 送信はしない。

 

 夜にまとめて送るつもりだった。

 

 ソープが端末を覗き込む。

 

「“味は良好”なんだ」

 

「そこは正直に書く」

 

「おいしかった?」

 

「おいしかった」

 

「じゃあもう一個――」

 

「駄目」

 

「早いね」

 

「学習したからね」

 

     *

 

 カフェテラスでは、カイエンが静かな時間を満喫していた。

 

 ラクスは紅茶を飲み、キラはコーヒーを前に穏やかに座っている。

 

 アウクソーは静かに控えていた。

 

 そこへ、桂木弥子と泉京香がやって来た。

 

「あ、いたいた!」

 

 弥子は明るく手を振る。

 

「カイエンさん、キラさん、ラクスさん!」

 

 泉も軽く会釈する。

 

「こんにちは。少しだけご一緒してもよろしいですか?」

 

「もちろんですわ」

 

 ラクスが微笑む。

 

 カイエンは少しだけ身構えた。

 

「弥子、今日は珍味の話はなしだぞ」

 

「しませんよ! 今日は普通にお茶です!」

 

 泉が弥子を見る。

 

「弥子ちゃん、普通に、ですよ」

 

「分かってます!」

 

 弥子は椅子に座り、すぐメニューを開いた。

 

「普通にパフェで!」

 

「やっぱり食べるのか」

 

 カイエンが言う。

 

「お茶には甘いものが必要です!」

 

 キラが苦笑する。

 

「それは、分かる気もします」

 

 ラクスは楽しそうにメニューを覗いた。

 

「こちらの季節のパフェ、綺麗ですわね」

 

「ラクスさんも食べます?」

 

「少しだけなら」

 

 カイエンはその言葉に反応した。

 

「少しだけ、か」

 

 泉も反応した。

 

「少しだけ、ですね」

 

 弥子も反応した。

 

「少しだけなら、二つ頼んで分けるとか!」

 

「弥子ちゃん」

 

 泉が止める。

 

 その時、カイエンの目が細くなった。

 

「……ログナーがいないと、誰が止めるんだと思ったが」

 

 彼は泉を見た。

 

「泉さんがいるなら大丈夫だな」

 

「え?」

 

 泉が少し驚く。

 

「君、かなり制御役として優秀だ」

 

「それ、ログナーさんにも言われました」

 

 カイエンは笑った。

 

「あいつが言うなら本物だ」

 

 弥子がむっとする。

 

「あたし、そんなに制御必要ですか?」

 

 ネウロの声が背後からした。

 

「必要だ」

 

「ネウロ!」

 

 いつの間にかネウロがいた。

 

 弥子が驚く間もなく、ネウロは席の後ろに立ち、にやりと笑う。

 

「貴様は甘味を前にすると、理性の椅子から立ち上がる」

 

「変な言い方しないで!」

 

 ラクスがくすくす笑う。

 

「賑やかですわね」

 

 キラも少し笑う。

 

「本当に」

 

 カイエンはコーヒーを飲みながら、少しだけ満足そうに目を細めた。

 

 ログナーはいない。

 露伴も、今のところいない。

 ソープもXiに任せている。

 

 カフェの午後は、久しぶりに穏やかだった。

 

 その穏やかさが、逆に少し不気味なくらいだった。

 

     *

 

 一方、Xiとソープは次の危機に直面していた。

 

 たい焼き屋の数十メートル先。

 

 今度は、団子屋だった。

 

 みたらし団子。

 あん団子。

 草団子。

 

 Xiは立ち止まる前にソープの腕を軽く引いた。

 

「行かない」

 

「まだ見てないよ」

 

「見たら終わり」

 

「でも、みたらし団子は――」

 

「文化調査って言うんでしょ」

 

「うん」

 

「駄目」

 

 ソープは少しだけ残念そうにした。

 

「たい焼きはよかったのに」

 

「一個だけって言った」

 

「団子は串だから、一串だけ」

 

「単位を変えて突破しようとしないで」

 

「Xi、厳しいね」

 

「仕事だからね!」

 

 そう言った瞬間、Xiは自分で少し嫌な顔をした。

 

「今、僕、仕事って言った?」

 

「言ったね」

 

「聞かなかったことにして」

 

「うん」

 

「本当に聞かなかった?」

 

「ううん」

 

「どっち?」

 

 ソープは笑った。

 

「お目付け役、ちゃんとしてるね」

 

 Xiは顔をしかめた。

 

「褒められても嬉しくない」

 

「そう?」

 

「そう。逃げ道が減る気がする」

 

 ソープは少しだけ黙り、それから穏やかに言った。

 

「でも、僕は助かってるよ」

 

 Xiは一瞬、返事に詰まった。

 

 こういう言い方をされると困る。

 

 ログナーの評価や、カイエンのからかいや、露伴の取材なら反発できる。

 だが、ソープがただ素直に「助かっている」と言うと、逃げ方が分からなくなる。

 

「……一週間だけだからね」

 

「うん」

 

「その間だけ」

 

「うん」

 

「団子は買わない」

 

「うん……」

 

「今の“うん”は納得してないでしょ」

 

「してるよ」

 

「目がしてない!」

 

     *

 

 その頃、カフェテラスでは弥子のパフェが届いた。

 

「わー!」

 

 弥子は目を輝かせる。

 

 ラクスも小さなケーキセットを頼んでいた。

 

 キラは控えめにコーヒー。

 泉は紅茶。

 カイエンは二杯目のコーヒー。

 アウクソーは静かに水を注ぐ。

 

 カイエンは、ふとキラを見た。

 

「そういや、ラクスを守るって話、あれから冷やかされたか?」

 

 キラは一瞬だけ固まった。

 

 ラクスは、ほんの少しだけ楽しそうに目を伏せた。

 

「カイエンさん」

 

「いや、ちょっと気になってな」

 

 キラは耳まで少し赤くなる。

 

「あれは、その……状況が状況でしたから」

 

 弥子がスプーンを止めた。

 

「あっ、防波堤の時の!」

 

 泉が苦笑する。

 

「弥子ちゃん、声が大きいです」

 

 カイエンはにやりと笑う。

 

「いいじゃねぇか。男としては悪くない台詞だったぞ」

 

 キラはますます困る。

 

「やめてください……」

 

 ラクスは穏やかに微笑んだ。

 

「わたくしは嬉しかったですわ」

 

 キラがラクスを見る。

 

「ラクス……」

 

 カイエンは笑いながらコーヒーを飲んだ。

 

「やっぱりお前ら、見てて飽きねぇな」

 

 アウクソーが静かに言う。

 

「マスター、あまり冷やかされますと、後でご自身にも返ってくるかと」

 

「僕に?」

 

 カイエンは肩をすくめた。

 

「僕は大丈夫だろ」

 

 その時だった。

 

 背後から声がした。

 

「大丈夫ではないな」

 

 カイエンの肩がぴくりと動いた。

 

 振り向く。

 

 そこには岸辺露伴がいた。

 

 手帳を持っている。

 

「……帰れ」

 

 カイエンが低く言った。

 

「嫌だね」

 

 露伴は当然のように席に近づく。

 

「ヒューア・フォン・ヒッター子爵、恋愛観および騎士道的女性観。これは非常に重要な取材項目だ」

 

「増やすな!」

 

 泉が立ち上がりかけた。

 

「露伴先生」

 

「泉君、今日は僕はまだ何もしていない」

 

「手帳を開いています」

 

「開いているだけだ」

 

「ペンも出ています」

 

「持っているだけだ」

 

 カイエンは頭を抱えた。

 

「ログナーがいなくても、こいつが来るんだった……」

 

 ラクスは少し笑い、キラは困った顔をし、弥子はパフェを食べながら完全に見物体勢に入っていた。

 

 平和は、少しずつ崩れ始めていた。

 

     *

 

 Xiは、団子屋をなんとか通過した。

 

 ソープは三回ほど振り返ったが、買わなかった。

 

 それだけでも大戦果である。

 

 Xiは端末にメモを追加する。

 

『・団子屋発見

・ソープ、興味を示す

・購入せず通過

・みたらし団子は強敵

・僕は仕事と言ってしまった。訂正したい』

 

 ソープが横から覗く。

 

「みたらし団子は強敵なんだ」

 

「強敵だったよ」

 

「次は勝てるかな」

 

「次も勝つよ。買わない方向で」

 

 その時、ソープがふとカフェテラスの方を見た。

 

「あれ、カイエンたちだ」

 

 Xiも見る。

 

 少し離れた先のカフェテラス。

 カイエン、ラクス、キラ、弥子、泉。

 そして――露伴。

 

 Xiは即座に嫌な顔をした。

 

「露伴先生がいる」

 

「取材かな」

 

「取材だろうね」

 

「行く?」

 

「行かない」

 

「でも、カイエンが困っているみたいだよ」

 

「カイエンはいつも困ってる」

 

「それはそうかも」

 

 ソープは少しだけ考えた。

 

「でも、お目付け役として、露伴が僕に近づくのを防ぐのも任務だよね」

 

 Xiは目を細めた。

 

「今、カフェに行きたい理由を任務に変換した?」

 

「少しだけ」

 

「正直だね!」

 

 ソープは微笑む。

 

「たい焼きのお礼に、カイエンを助けるのはどうかな」

 

 Xiはため息をついた。

 

「……行くだけ。甘味追加なし」

 

「うん」

 

「露伴先生の取材がこっちに飛んできたら、すぐ撤退」

 

「うん」

 

「団子屋に戻らない」

 

「……うん」

 

「間があった!」

 

     *

 

 カフェテラスでは、露伴がカイエンを追い詰めていた。

 

「君は先ほど、キラ・ヤマトの発言を男として悪くないと言った。つまり、君には騎士として、あるいは男としての理想像が存在するわけだな?」

 

「存在しねぇ」

 

「即答するな。嘘が雑だ」

 

「嘘じゃねぇ」

 

「では、騎士とは何だ?」

 

「またそれか!」

 

 露伴はペンを走らせる。

 

「ヒューア・フォン・ヒッター子爵、騎士観への言及を回避」

 

「書くな!」

 

 その時、白い外套を肩にかけた黒衣の怪盗が現れた。

 

「露伴先生」

 

 Xiが言った。

 

「その取材、今日は通行止め」

 

 露伴が振り向く。

 

 目が輝いた。

 

「怪盗Xi。ちょうどいい。君にも聞きたいことが増えていた」

 

「しまった」

 

 カイエンが笑った。

 

「来たな、外注後輩」

 

「助けに来たのにその呼び方!」

 

 弥子が目を輝かせる。

 

「Xi、その制服やっぱりカッコいい!」

 

「ありがとう。でも目立つから嫌なんだよ」

 

 泉がソープを見る。

 

「ソープさん、たい焼きの匂いがしますね」

 

 ソープは少しだけ目を逸らした。

 

「文化調査を少し」

 

 Xiが即座に言う。

 

「一個だけ。半分こ。追加なし。団子は阻止」

 

 ログナーはいない。

 

 だが、泉が頷いた。

 

「かなり頑張っていますね」

 

 Xiは少し胸を張った。

 

「でしょ?」

 

 カイエンも笑う。

 

「悪くねぇな。ちゃんとお目付け役してるじゃねぇか」

 

「褒められても逃げ道が減るからやめて」

 

 露伴が手帳を開く。

 

「怪盗Xi、お目付け役として機能し始める。これは面白い」

 

「その面白いが危険なんだよ!」

 

 ソープは席に座り、楽しそうに言った。

 

「みんなでお茶にしようか」

 

 Xiは即座に言った。

 

「追加注文は一人一品まで」

 

 弥子が叫ぶ。

 

「ログナーさんみたいになってる!」

 

 Xiは一瞬固まった。

 

「……今のなし」

 

 カイエンが腹を抱えて笑った。

 

「だめだ、お前、もうかなり染まってるぞ」

 

「染まってない!」

 

 泉が静かに言う。

 

「でも、適切な判断です」

 

「泉さんの正論が追い打ち!」

 

 ラクスが微笑む。

 

「頼もしいお目付け役さんですわね」

 

 Xiは少しだけ困ったように目を逸らした。

 

「一週間だけだから」

 

 キラが笑った。

 

「でも、助かっているみたいですね」

 

「……まあ、今のところは」

 

 ソープがにこにこしている。

 

 カイエンはコーヒーを飲みながら、久しぶりに心から笑った。

 

「面白ぇな。ログナーがいないと平和かと思ったら、今度はXiが小さいログナーみたいになってる」

 

「小さいログナー?!」

 

 Xiが叫ぶ。

 

「それ、今日一番嫌な評価だよ!」

 

 その場の全員が笑った。

 

 露伴だけは、こっそり手帳に書いていた。

 

『怪盗Xi、お目付け役二日目。

 ソープの買い食いを一部許可し、一部阻止。

 弥子の追加注文を制限。

 ログナー化の兆候あり。』

 

 Xiがそれを見つけた。

 

「消して!」

 

「断る」

 

「正式採用じゃないって書いて!」

 

「それはもう何度も書いた」

 

「もっと書いて!」

 

     *

 

 その夜。

 

 ログナーの端末に、二日目の報告が届いた。

 

『怪盗Xi 外注任務二日目報告

・ソープ、たい焼き屋に興味

・一個のみ購入。半分ずつ試食

・味は良好

・追加購入なし

・団子屋を発見。みたらし団子に強い関心

・購入せず通過。大きな成果

・カフェテラスにてカイエン、キラ、ラクス、弥子、泉さん、露伴先生と合流

・露伴先生がカイエンを取材中。危険

・ソープへの接近は一応阻止

・弥子ちゃんの追加注文を一人一品までと提案

・カイエンに“小さいログナー”と言われた。不服

・僕は正式採用されていない。念のため記録

以上』

 

 ログナーは報告を読み、しばらく黙った。

 

 イエッタが静かに尋ねる。

 

「マスター、いかがでしたか」

 

「たい焼きは許可範囲内。団子屋を通過したのは評価できる」

 

「買い食いは完全には防げなかったようですが」

 

「一個に抑えた」

 

「なるほど」

 

「弥子の追加注文も制限している」

 

「……かなり有用ですね」

 

 ログナーは端末を置いた。

 

「小さいログナー、か」

 

 イエッタが少しだけ首を傾げた。

 

「お気に召しましたか?」

 

「悪くない」

 

 その頃、遠くでXiがくしゃみをした。

 

「……今、ものすごく嫌な評価を受けた気がする」

 

 彼の一週間は、まだ二日目だった。

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