守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 作:ギアっちょ
七日目。
怪盗Xiは、自分が騎士ではないことを、もう一度確認していた。
朝から三回は確認した。
まず起きてすぐ。
「僕は騎士じゃない」
スパッドのケースを見た時。
「僕は騎士じゃない」
そして、ソープと合流して、彼がにこにこと言った時。
「今日で一週間だね」
「僕は騎士じゃない」
ソープは少し首を傾げた。
「そこから始まるんだ」
「大事だからね」
Xiは真顔で言った。
「僕は怪盗。外注。業務委託。一週間限定。正式採用ではない。血の十字架も背負ってない。ミラージュナイトじゃない」
「うん」
「今日で終わり」
「うん」
「本当に分かってる?」
「分かってるよ」
ソープは穏やかに微笑む。
「一週間、ありがとう」
Xiは、少しだけ言葉に詰まった。
その言い方はずるい。
報酬の金貨よりずっと軽い声なのに、妙に重い。
「……まだ終わってないよ」
「そうだね」
「終わるまではちゃんとやる。依頼だから」
「うん」
ソープは嬉しそうに頷いた。
Xiは視線を逸らす。
「そういう顔もずるい」
*
最終日の予定は、穏やかなものだった。
午前中はいつものカフェで集合。
昼前に少し街を散歩。
午後に軽くお茶をして、夕方には任務終了。
Xiとしては、何事もなく終わらせたかった。
たい焼きもなし。
団子もなし。
ケーキの請求書もなし。
イナゴもなし。
紙ナプキンもなし。
もちろん、ソニックブレードの実戦使用などもなし。
「普通に終わる」
Xiは歩きながら呟いた。
「今日は普通に終わる。普通に散歩して、普通にお茶して、普通に報告して、普通に終わる」
ソープが隣で言う。
「普通って、難しいね」
「やめて。その言い方、昨日も聞いた」
「そうだっけ」
「聞いた。そして不吉だった」
カフェテラスには、すでに何人かが集まっていた。
カイエン。
アウクソー。
弥子。
泉。
キラ。
ラクス。
そしてネウロ。
露伴はいない。
それだけで、今日はまだ勝っている気がした。
「お、来たな。外注後輩」
カイエンが声をかける。
「最終日までその呼び方なんだ」
「気に入ってる」
「気に入らないで」
弥子が手を振る。
「Xi、おはよう! 今日で最後だね!」
「そう。最後」
Xiは強調した。
「一週間限定の最後の日。つまり明日から自由」
泉が穏やかに言う。
「最後まで気を抜かないでくださいね」
「泉さんの正論、最終日でも強い」
ラクスは微笑む。
「一週間、お疲れ様ですわ。Xiさん」
キラも小さく笑った。
「本当に、ずっとソープさんについていたんですね」
「一週間だけね」
Xiはまた言う。
「一週間だけ」
カイエンがにやりとする。
「名残惜しいのか?」
「まったく」
「即答が早すぎるな。怪しい」
「怪しくない」
ネウロが笑う。
「クク……否定の速度が上がるほど、内側の揺らぎは見えやすくなるものだ」
「魔人に心理分析されたくないんだけど」
弥子がネウロを見る。
「でも、Xi、ちょっと寂しそうだよ?」
「弥子ちゃんまで?」
「だって、ソープさんと息合ってきたし」
「合ってない」
その時、ソープがメニューを見て言った。
「季節限定のモンブラン」
Xiが即座に言った。
「今日は頼まない」
ソープは顔を上げる。
「まだ何も言ってないよ」
「言う前に止めた」
「息合ってますね」
泉が言った。
「合ってない!」
カイエンが笑う。
「完全に読んでるじゃねぇか」
Xiは頭を抱えた。
「最終日にこの評価やめてよ……」
*
午前中は、平和に過ぎた。
ソープはモンブランを諦めた。
弥子はパフェを一つに抑えた。
ネウロは弥子をからかった。
カイエンはラクスとキラを軽く冷やかして、アウクソーにたしなめられた。
露伴は来なかった。
信じられないほど平和だった。
だからこそ、Xiは逆に不安になっていた。
「平和すぎる」
Xiは言った。
「いいことじゃないか」
カイエンがコーヒーを飲みながら言う。
「そうだけど。こういう時って、何か起きるんだよ」
弥子が首を傾げる。
「Xi、そういうの気にするタイプ?」
「怪盗は気にするよ。平和な時ほど、罠がある」
ネウロが愉快そうに言った。
「ほう。悪くない警戒だ」
「褒められても嬉しくない相手から褒められた」
ラクスが少し笑う。
「でも、警戒してくださっているから、わたくしたちも安心できますわ」
「その言い方、逃げ道がない」
キラが真面目に言う。
「ありがとうございます、Xi」
「まだ何もしてないよ」
「いてくれるだけでも、違いますから」
「キラまでそういうこと言う」
Xiはますます居心地が悪くなった。
褒められると困る。
頼られるともっと困る。
でも、悪い気がしないのが一番困る。
*
昼前。
一行はカフェを出て、近くの商店街へ向かった。
道路沿いの歩道。
交差点。
信号。
買い物客。
車の音。
特別危険な場所ではない。
だが、Xiは周囲を見ていた。
ソープの視線。
弥子の足取り。
ラクスの位置。
キラの距離。
カイエンの立ち位置。
ネウロの気配。
六日間で、癖になっていた。
お目付け役として、周囲を見ることが。
「Xi」
ソープが言った。
「何?」
「あのお店、塩大福」
「最終日だからって駄目」
「一個だけ」
「今日は駄目」
「任務終了記念」
「終わってから」
「じゃあ終わったら?」
「……終わったら、自腹で」
ソープが笑う。
「やった」
Xiはしまったと思った。
「今のは、終わった後なら僕の任務外って意味だからね」
「うん」
「おごるとは言ってない」
「うん」
「本当に?」
「うん」
「その“うん”が一番信用できない」
カイエンが後ろで笑う。
「完全に読んでるな」
「読んでない!」
「いや、読めてる。いいお目付け役だ」
「褒めるな!」
その時だった。
交差点の向こうから、エンジン音が乱れた。
大きな車体が、角を曲がりきれずに膨らむ。
トラック。
荷台は空に近い。
だが、車体は重い。
タイヤが鳴り、歩道側へ流れる。
その先に、弥子がいた。
「弥子!」
泉が叫んだ。
弥子が振り向く。
反応が遅い。
トラックの影が、彼女に迫る。
カイエンが動いた。
それは、誰よりも早かった。
一歩。
踏み込みというより、空間が詰まったような動き。
カイエンは弥子の腕を取り、そのまま抱えるようにして歩道の内側へ跳んだ。
トラックがぎりぎりをかすめる。
弥子は、カイエンの腕の中で息を呑んでいた。
「……っ」
「動くな」
カイエンの声は低い。
「怪我は?」
「だ、大丈夫……」
「ならいい」
弥子は震えながら頷いた。
「ありがとうございます、カイエンさん……」
「礼はあとだ」
その瞬間。
Xiは、もう一つの音を聞いた。
金属が滑る音。
ゴムが路面を噛み損ねる音。
トラックの陰。
死角。
そこから、バイクが滑ってきていた。
転倒しかけた車体が、横滑りしながら歩道側へ流れている。
向かう先には、ラクス。
キラが動く。
だが、角度が悪い。
距離もある。
カイエンも反応する。
だが、弥子を抱えている。
一瞬、足が遅れる。
その一瞬を、Xiは見た。
目が、勝手に距離を測る。
ラクス。
滑るバイク。
キラの位置。
カイエンの遅れ。
ソープの視線。
そして、自分の手。
カイエンの声が、頭の中で響いた。
剣は抜く前から始まってる。
斬るな。流せ。
公共の場では剣は抜くな。
空気を通せ。
紙を動かす場所を作れ。
もう一つ。
騎士ってのは、君主と、美しい婦人のために戦うもんだ。
「僕は騎士じゃない」
Xiは呟いた。
それでも、手は動いた。
スパッドは抜かない。
抜いてはいけない。
右足を半歩引く。
重心を残す。
手首を返す。
肩で押さない。
空気を潰さない。
紙ナプキンの端。
イナゴの脚の角度。
枝を流した時の感覚。
小さな紙が滑った瞬間。
全部を、一つにする。
「――えいっ!」
掛け声は、やはり少し情けなかった。
だが、風が走った。
見えない刃。
未完成のソニックブレード。
バイクの前輪の軌道に、わずかな横風が入る。
車体が揺れる。
しかし、それだけでは足りない。
角度は変わった。
だが、まだラクスに近い。
その時。
ネウロの口元が、わずかに歪んだ。
「吾輩は今機嫌がいい」
弥子の耳元で、低く呟く。
「未完成の刃に虫を貸してやっても良いほどには……な」
「……?」
弥子は意味が分からず、ただネウロを見た。
その瞬間、誰にも見えないほど小さな何かが、バイクの前輪へ飛んだ。
タイヤの溝に、一瞬だけ、異様な影がはまる。
魔界の凝視虫。
イビルフライデー。
目玉のような、虫のようなそれが、タイヤの溝をほんのわずかに噛ませた。
バイクの前輪が、地面を噛み損ねる。
Xiの風が作った逃げ道へ、車体が乗った。
バイクはラクスの真横をかすめ、ガードレールに滑ってぶつかる。
金属音。
沈黙。
ラクスの髪が、風にふわりと揺れた。
彼女は、無事だった。
*
Xiは、手を伸ばした姿勢のまま固まっていた。
自分が何をしたのか、完全には分かっていない。
ただ、バイクは逸れた。
ラクスは立っている。
キラが駆け寄った。
「ラクス!」
「キラ、わたくしは大丈夫です」
ラクスは落ち着いていた。
だが、キラの顔は青ざめている。
彼はラクスを確認し、それからXiを見た。
「Xi……ありがとう」
Xiは、一歩下がった。
「いや、今のは……たまたま」
ラクスもXiを見る。
静かに、深く。
「ありがとうございました、Xiさん」
「やめてよ」
Xiは困ったように笑おうとした。
「そんな真面目に言われると、逃げ道がなくなる」
ラクスは微笑んだ。
「騎士さまでしたわ」
Xiは頭を抱えた。
「それが一番だめ!」
カイエンは弥子を安全な場所へ下ろし、Xiの方へ歩いてきた。
弥子はまだ少し震えていたが、泉が支えている。
「弥子、平気か」
ネウロが言った。
「う、うん……」
弥子は頷く。
「びっくりした……」
「貴様にしては珍しく、食欲より先に命の危機を理解したか」
「今はさすがに分かるよ!」
ネウロはくくっと笑った。
その笑いは、いつもの通り意地悪だった。
だが弥子は、なぜか少しだけ安心した。
*
カイエンは、Xiの前に立った。
「今のは」
Xiが先に言った。
「分かってる。完成形じゃない」
「そうだな」
「紙ナプキンよりはマシだったけど、ちゃんとしたソニックブレードじゃない」
「そうだ」
「たぶん、軌道も完全には変えられてなかった」
Xiは小さく息を吐く。
「でも、逸れた」
カイエンは、バイクの前輪へ視線を向けた。
タイヤの溝。
一瞬だけ、そこに何かがあった。
目玉のような。
虫のような。
この世のものではない小さな影。
それは、すぐに消えた。
カイエンは、ネウロを見た。
ネウロは何も言わない。
ただ、いつものように笑っている。
カイエンも、何も訊かなかった。
ただ、にやりとした。
「……悪くねぇな」
ネウロが言う。
「何の話だ、ヒッター子爵」
「さあな」
それだけだった。
カイエンは、Xiへ視線を戻す。
「今のは、ソニックブレードとは呼べねぇ」
「うん」
「だが」
カイエンは少しだけ笑った。
「入口には立った」
Xiは、目を細める。
「……それ、褒めてる?」
「褒めてる」
Xiは視線を逸らした。
「やめてよ。逃げ道がなくなる」
「減らしとけ」
「嫌だよ」
弥子が駆け寄ってきた。
「Xi! すごかった! 今の、風がぶわって!」
「弥子ちゃん、怪我は?」
「大丈夫! カイエンさんが助けてくれたから」
弥子は少し目を潤ませてカイエンを見る。
「本当に、ありがとうございました」
「だから礼はいい。無事ならそれでいい」
泉が静かに言った。
「お二人とも、本当にすごかったです」
カイエンは肩をすくめる。
「僕は間に合っただけだ」
Xiはすぐに言う。
「僕は間に合いかけただけ」
ラクスが微笑む。
「でも、その一瞬がなければ、わたくしは無事ではなかったかもしれません」
「ラクス、そういう言い方は逃げ道がなくなるって」
キラが真剣な顔でXiに頭を下げた。
「ありがとう。ラクスを守ってくれて」
Xiは、完全に困った顔になった。
「キラまで……」
ソープが近づいてきた。
その顔は、いつものように穏やかだった。
「Xi」
「何?」
「お目付け役、ありがとう」
Xiは、しばらく何も言えなかった。
それから、小さく言った。
「……今日で終わりだからね」
「うん」
「本当に終わり」
「うん」
「その“うん”、信用していい?」
ソープは微笑んだ。
「今日は、信用していいよ」
「今日は、って言った」
*
事故処理は、ほどなく落ち着いた。
幸い、トラックの運転手もバイクの運転手も軽傷で済んだ。
周囲に大きな被害はなく、誰も命に関わる怪我はなかった。
もちろん、現場は騒然とした。
しかし、それ以上に騒然とするべき事実――
怪盗Xiが未完成の真空斬りでバイクの軌道を逸らしたこと。
ネウロが魔界の凝視虫をタイヤに噛ませたこと。
カイエンが弥子をほとんど瞬間移動のように救ったこと。
それらは、誰もきちんと理解できなかった。
できなかったので、見なかったことになった。
この町の人々は、確実に強くなっている。
ただ一人。
岸辺露伴だけは、遠くの歩道橋の上から全てを見ていた。
「……今のは」
彼は手帳を握りしめていた。
目が輝いている。
「描ける。いや、描かなければならない」
その背後から、泉の声がした。
「露伴先生」
露伴は、ゆっくり振り向く。
「泉君」
「今は事故対応が先です」
「分かっている」
「手帳を閉じてください」
「今、閉じたら大事なものがこぼれる」
「閉じてください」
「……少しだけ」
「閉じてください」
露伴は悔しそうに手帳を閉じた。
「君は本当に手厳しい」
「お仕事です」
*
夕方。
いつものカフェテラス。
一週間の最後の報告を書くために、Xiはテーブルに向かっていた。
ソープは隣で紅茶を飲んでいる。
カイエンはコーヒーを飲み、弥子は大人しくジュースを飲んでいた。
さすがに今日は、パフェを食べる空気ではなかった。
ネウロは弥子の後ろに立っている。
Xiは、端末に文字を打ち込んだ。
『怪盗Xi 外注任務七日目・最終報告
・午前、通常通り集合
・ソープ、塩大福に興味を示すが購入なし
・商店街散歩中、交差点でトラックが歩道側へ進入
・弥子ちゃんが危険。カイエンが保護
・直後、死角から滑走バイク
・ラクス・クラインに接近
・キラ、カイエンともに反応するが角度および距離に問題あり
・スパッド抜刀なし
・簡易ソニックブレードを使用
・バイクの軌道を逸らす
・ラクス無事
・ただし、技は未完成。単独で完全に逸らせたかは不明
・ネウロが何かした気もするが、証拠なし
・カイエンに「入口には立った」と言われた
・キラに礼を言われた
・ラクスに騎士さまと言われた
・僕は騎士ではない。念のため記録
・一週間任務は本日終了。これも念のため記録
以上』
Xiは、少し迷ってから、もう一行足した。
『・ソープのお目付け役は、面倒だった。けど、悪くはなかった』
送信。
すぐには返信は来なかった。
Xiは端末を置いた。
ソープが隣で言う。
「最後の一行、書いたんだ」
「見てたの?」
「少し」
「見ないでよ」
「ごめん」
Xiは目を逸らした。
「……事実だから書いただけ」
「うん」
「便利に使わないでよ、その言葉」
「使ってないよ」
カイエンがコーヒーを置く。
「お疲れ、外注後輩」
「最後までその呼び方か」
「最後だからな」
「じゃあ明日からやめて」
「考えとく」
「絶対やめない顔だ」
弥子が明るく言う。
「Xi、すごかったよ! 本当に!」
「弥子ちゃんが無事でよかったよ」
「カイエンさんのおかげです」
弥子はぺこりと頭を下げる。
カイエンは照れくさそうに目を逸らした。
「だから礼はもういい」
ネウロが低く笑った。
「クク……珍しいな。貴様にしては、少しは騎士らしい顔をしていたぞ」
「お前に言われても嬉しくねぇ」
ネウロはXiを見る。
「そして貴様も、少しだけ刃の真似事をした」
「少しだけね」
「未完成だがな」
「分かってるよ」
ネウロは笑う。
「未完成であることを知っているなら、まだ喰い甲斐がある」
「食べないで」
「謎をな」
「それも嫌だ」
*
その頃。
ログナーは、端末に届いた最終報告を読んでいた。
静かに、最後まで。
読み終えた後、しばらく何も言わなかった。
イエッタがそばで控えている。
「マスター」
「……良い報告だ」
ログナーは低く言った。
「判断も悪くない。スパッドを抜かなかった。周囲への被害を抑えた。未完成とはいえ、ソニックブレードの基礎を実戦で用いた」
「一週間任務は成功、でしょうか」
「成功だ」
ログナーは端末に返信を打つ。
『報告確認。
一週間外注任務、完了とする。
ソープ様の同行補助、支出抑制、危険行動の制限、日次報告、いずれも一定水準を満たした。
七日目の護衛補助行動については、十分な成果と認める。
スパッドを抜かず、簡易ソニックブレードで周囲被害を抑えた判断は適切。
技の未完成については、カイエンの指導継続が望ましい。
正式採用ではないとの記載、確認済み。
一週間任務終了も確認した。
継続契約について、後日協議する。』
送信。
ログナーは端末を置いた。
「次は条件の見直しだな」
イエッタが尋ねる。
「報酬を上げられますか?」
「検討する」
「正式採用に近づきますか」
「近づく」
ログナーは、ほんのわずかに口元を緩めた。
「本人は嫌がるだろうがな」
*
Xiの端末が鳴った。
返信を読む。
途中までは、まだよかった。
一週間任務、完了。
一定水準。
成果。
判断は適切。
そこまでは、まだよかった。
問題は最後だった。
「……継続契約について、後日協議する」
Xiは、端末を持ったまま固まった。
「やっぱり来た!」
ソープが横から覗き込む。
「またお願いできるかもね」
「できるかもじゃない! 僕は終わったの!」
カイエンが笑う。
「でも、カイエンの指導継続が望ましいって書いてあるぞ」
「そこも見ないで!」
「じゃあ明日からも稽古だな」
「明日は休み!」
弥子が言う。
「でも、真空斬り、もう少しでできそうですよね!」
「弥子ちゃんまで!」
ラクスは穏やかに微笑んだ。
「また見せていただける日を、楽しみにしていますわ」
「ラクス、その言い方が一番逃げ道ない!」
キラが少し笑う。
「でも、本当にありがとう」
「だから真面目に言わないで!」
ネウロがくつくつ笑った。
「クク……一週間の終わりに、次の謎が生えたか」
Xiは頭を抱えた。
「僕は怪盗なのに……」
ソープが言った。
「うん。でも、この一週間はお目付け役だったね」
「終わった」
「うん」
「終わったんだよ?」
「うん」
「……悪くはなかったけど」
「うん」
ソープは、ただ嬉しそうに笑った。
Xiは端末を閉じ、深く息を吐いた。
「次は金貨三枚じゃ安いからね」
カイエンが笑った。
「お、継続する気はあるんだな」
「ない! 今のは交渉上の話!」
弥子が手を叩く。
「じゃあ次は値上げ交渉ですね!」
「しない!」
泉が穏やかに言う。
「でも、条件交渉は大事ですよ」
「泉さんの正論が最後まで逃げ道を塞いでくる!」
カイエンは立ち上がり、Xiの肩を軽く叩いた。
「ま、よくやったよ。外注後輩」
Xiは少しだけ黙った。
そして、珍しく小さく笑った。
「……ありがとう、師匠」
カイエンが目を見開いた。
「今、何て言った?」
「言ってない」
「言っただろ」
「言ってない!」
「師匠って言ったな」
「言ってないってば!」
ソープが笑う。
「言ったね」
弥子も言う。
「言いました!」
泉も微笑む。
「聞こえました」
ネウロが笑う。
「クク……怪物強盗も、なかなか素直ではないな」
Xiは耳まで赤くして叫んだ。
「全員、通行止め!」
その声に、皆が笑った。
怪盗Xiの一週間は終わった。
正式採用ではない。
血の十字架も背負っていない。
ミラージュナイトになったわけではない。
ただ、一週間だけ。
彼は、ソープのお目付け役だった。
そして、ほんの少しだけ。
剣の道の入口に立った。
それだけは、どうやら事実だった。