守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

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ラクス・クラインは紅茶を選ぶ

 午後のカフェテラスには、紅茶がよく似合う。

 

 白いテーブル。

 薄い日差し。

 風に揺れるパラソル。

 磨かれたカップ。

 そして、三段のティースタンド。

 

 それだけで、場の空気は少しだけ優雅になる。

 

 少しだけ、である。

 

 なぜなら、そのテーブルには桂木弥子がいた。

 

「三段!!」

 

 弥子の目は、ティースタンドに釘付けだった。

 

 一段目には小さなサンドイッチ。

 二段目にはスコーン。

 三段目にはミニケーキと焼き菓子。

 

 彼女は紅茶の説明よりも先に、食べ物の配置を確認していた。

 

 泉京香が、すぐ横で静かに言う。

 

「弥子ちゃん、今日はアフタヌーンティーの文化調査です。食べ放題ではありません」

 

「分かってます!」

 

「目が分かっていません」

 

「分かってます!」

 

 怪盗Xiはテーブルの端に座り、すでに警戒態勢に入っていた。

 

「三段トレーは危険だね。弥子ちゃんの目が完全に戦闘態勢だ」

 

「戦闘じゃないよ! お茶会だよ!」

 

「お茶会にしては獲物を見る目だったよ」

 

 ソープは楽しそうにティースタンドを眺めていた。

 

「午後に紅茶と軽食を楽しむ文化か。面白いね」

 

 Xiが即座に振り向く。

 

「ソープ、その目は文化調査から追加注文に行く目」

 

「まだ何も言ってないよ」

 

「言う前の目だよ」

 

 カイエンは椅子にもたれ、苦笑していた。

 

「珈琲の次は紅茶か。地球の飲み物文化も忙しいな」

 

 アウクソーは、カイエンの前に水を置きながら穏やかに言った。

 

「マスター、紅茶は珈琲より飲みやすいかもしれません」

 

「酒じゃねぇからな」

 

「本日も飲みすぎにはご注意ください」

 

「紅茶でもか」

 

「カフェインがございますので」

 

「アウクソーが言うと、全部健康管理になるな」

 

 そこへ、ラクス・クラインが微笑みながら席に着いた。

 

 隣にはキラ・ヤマト。

 

 ラクスは白いティーポットに目を向けて、静かに言った。

 

「せっかくですから、今日は紅茶をいくつか選んでみましょうか」

 

 その声だけで、テーブルの空気が一段やわらかくなる。

 

 Xiは小声で言った。

 

「ラクスが言うと、文化調査がちゃんと文化調査になるなあ」

 

 ソープが頷く。

 

「うん。頼もしいね」

 

 弥子はティースタンドを見ながら言う。

 

「紅茶に合うお菓子も頼もしいです!」

 

 泉が即座に言った。

 

「弥子ちゃん」

 

「はい」

 

     *

 

 最初に選ばれたのは、ダージリンだった。

 

 淡い琥珀色。

 華やかな香り。

 軽やかで、少し青みを感じる余韻。

 

 ラクスはカップを手に取り、香りを確かめた。

 

「ダージリンは、香りがとても繊細ですわね。午後の最初には、よろしいかもしれません」

 

 キラも一口飲む。

 

「すっきりしてる。紅茶って、もっと濃いものだと思ってたけど」

 

「淹れ方や茶葉で変わりますの」

 

 ラクスが穏やかに言う。

 

「香りを楽しむもの、ミルクと合わせるもの、冷やして楽しむもの。紅茶もいろいろですわ」

 

 露伴が、なぜかすでに手帳を開いていた。

 

「ラクス・クライン、紅茶の香りを歌の余韻のように捉える。これは良い」

 

 キラが苦笑する。

 

「露伴さん、もう書いてるんですね」

 

「書く価値があるからな」

 

 泉が見る。

 

「露伴先生、今日は取材ではなくお茶会です」

 

「お茶会も取材になる」

 

「なりません」

 

「なる」

 

「なりません」

 

 承太郎がカップを置き、短く言った。

 

「悪くねぇ」

 

 露伴がそちらを見た。

 

「またそれか。君は珈琲の時もそれだったな」

 

「十分だ」

 

「もう少し具体的に言えないのか?」

 

「香りがある」

 

「当たり前だ」

 

「やれやれだぜ」

 

 カイエンが笑う。

 

「承太郎は飲み物の感想が強いな。短すぎて」

 

 ソープはダージリンを飲み、少し目を細めた。

 

「珈琲より、香りが軽いね。花みたいだ」

 

「そうですわね」

 

 ラクスが微笑む。

 

「紅茶は、香りの印象がとても大切ですもの」

 

 弥子は恐る恐る飲み、すぐにスコーンへ手を伸ばした。

 

「紅茶は飲みやすいです! でも、スコーンと一緒だともっと美味しいです!」

 

 Xiが言った。

 

「弥子ちゃん、結局食べ物中心」

 

「でも合います!」

 

 露伴が言う。

 

「それは正しい。紅茶とスコーンは基本だ」

 

「ほら!」

 

 泉が注意する。

 

「ただし、食べる量は基本を超えないでください」

 

     *

 

 次はアールグレイだった。

 

 ベルガモットの香りが、カップから立ち上る。

 

 ソープがすぐに反応した。

 

「これは香りがはっきりしているね」

 

 ラクスが頷く。

 

「柑橘の香りをつけた紅茶ですわ。お好きな方も多いです」

 

 Xiはソープを見る。

 

「ソープ、その目は“香りの文化調査”の目」

 

「香りだけなら、追加料金はかからないよ」

 

「そういう問題じゃない」

 

 弥子が一口飲む。

 

「あ、これは分かりやすい! いい匂い!」

 

 泉が微笑む。

 

「弥子ちゃんには、こういう香りがあるものの方が飲みやすいかもしれませんね」

 

「はい! あとケーキにも合います!」

 

「またケーキ」

 

「紅茶に合うケーキは大事です!」

 

 カイエンはアールグレイを飲み、首を傾げる。

 

「これは少し香りが強いな」

 

 アウクソーが言う。

 

「マスターには、先ほどのダージリンの方がよろしかったでしょうか」

 

「いや、悪くはない。だが、香りが先に来すぎる」

 

 露伴がすかさず見る。

 

「意外とちゃんと感想を言うじゃないか」

 

「お前に褒められると気分が悪い」

 

「失礼な男だな」

 

 承太郎は黙ってアールグレイを飲んだ。

 

 露伴が期待する。

 

「で、これは?」

 

「香りが強い」

 

「それはカイエンも言った」

 

「なら同じだ」

 

「君は本当に……」

 

 露伴は言葉を飲み込んだ。

 

 承太郎が涼しい顔でカップを置く。

 

     *

 

 三番目はセイロンだった。

 

 色は明るく、味は素直だった。

 

 キラが飲んで言う。

 

「これは飲みやすいね」

 

 ラクスが微笑む。

 

「キラは、やはりこういう素直な味がお好きですのね」

 

「そうかな」

 

「ええ」

 

 Xiがすかさず言った。

 

「また自然に甘い会話」

 

 キラが少し困ったように笑う。

 

「Xi、もう任務は終わってるよね」

 

「ツッコミは任務外でも出るんだよ」

 

 ラクスはくすりと笑った。

 

「楽しいですわ」

 

「ラクスまで楽しんでる」

 

 弥子はセイロンを飲んで、ほっとしたように言う。

 

「これ、普通においしいです!」

 

 泉が言った。

 

「弥子ちゃんの“普通においしい”は、かなり高評価ですね」

 

「はい! 砂糖少しでいけます!」

 

 Xiが警戒する。

 

「“少し”ってどれくらい?」

 

「スプーン一杯」

 

「本当に?」

 

「一杯半」

 

「増えた」

 

「一杯!」

 

 泉が砂糖壺をそっと遠ざけた。

 

 カイエンが笑う。

 

「泉さん、本当に制御が上手いな」

 

「弥子ちゃんのためです」

 

 ネウロが背後から言った。

 

「クク……この娘は放っておくと、紅茶を甘味汁に変える」

 

「甘味汁って何?!」

 

「貴様が作るものだ」

 

「作りません!」

 

     *

 

 そしてアッサムが出された。

 

 濃い色。

 しっかりしたコク。

 ミルクに負けない強さ。

 

 ラクスが言った。

 

「アッサムは、ミルクティーにも合いますわ」

 

 弥子の顔が輝く。

 

「ミルクティー!」

 

 その瞬間だった。

 

 承太郎が低く言った。

 

「……濃く淹れろ」

 

 全員が一瞬、承太郎を見た。

 

 露伴の目が光る。

 

「待て、空条承太郎。君、紅茶にこだわりがあるのか?」

 

「別にねぇ」

 

「今のは完全に、こだわりがある人間の言い方だったぞ」

 

 承太郎は帽子のつばを少し下げる。

 

「ミルクを入れるなら、薄い紅茶じゃ負ける」

 

 カイエンが目を丸くした。

 

「具体的だな」

 

 Xiも言った。

 

「承太郎が急に喋った」

 

 承太郎は無表情で続ける。

 

「アッサムなら、少し濃い目でいい。ミルクを入れても味が残る」

 

 ラクスが穏やかに微笑む。

 

「その通りですわ」

 

 泉も感心したように言う。

 

「承太郎さん、意外とお詳しいんですね」

 

「祖父がうるさかっただけだ」

 

 露伴が即座に食いつく。

 

「祖父。ジョースター家か」

 

「……」

 

「なるほど。イギリス系の紅茶文化が家庭内に残っていたわけか。これは面白い」

 

「面白くねぇ」

 

「面白い」

 

「やれやれだぜ」

 

 弥子が手を挙げる。

 

「ミルクは先ですか? 後ですか?」

 

 場に、妙な緊張が走った。

 

 露伴が笑う。

 

「来たな。ミルクを先に入れるか、後に入れるか」

 

 ラクスが楽しそうに言う。

 

「紅茶では、よく語られる話ですわね」

 

 カイエンが眉をひそめる。

 

「それで揉めるのか?」

 

 Xiが言った。

 

「地球人は、食べ物と飲み物の細かい順番で揉める生き物なんだよ」

 

「お前も地球人じゃねぇか」

 

「怪盗だから少し距離を置いてる」

 

「便利だな怪盗」

 

 承太郎は静かに言った。

 

「俺はミルクが先でいい」

 

 露伴が身を乗り出す。

 

「理由は?」

 

「熱い紅茶を少し冷ませる。味もなじむ」

 

「ほう」

 

「ただし、店では店のやり方でいい」

 

 ラクスが頷く。

 

「とても自然なお考えですわ」

 

 露伴が少し悔しそうに言う。

 

「珈琲では僕の領域だったが、紅茶で君に意外な引き出しがあるとはな」

 

「勝負してねぇ」

 

「僕はしている」

 

「やれやれだぜ」

 

 弥子はミルクティーを飲んで、目を輝かせた。

 

「おいしい! これなら砂糖少なくてもいけます!」

 

 泉が安心したように言う。

 

「それはよかったです」

 

 ネウロが言う。

 

「ようやく砂糖壺の寿命が延びたな」

 

「そんなに使いません!」

 

     *

 

 紅茶が進むにつれ、ティースタンドの中身も少しずつ減っていった。

 

 特に弥子の前で。

 

 スコーンにジャムとクリームを乗せる段階で、また議論が起きた。

 

「ジャムが先ですか? クリームが先ですか?」

 

 弥子が訊く。

 

 露伴が言う。

 

「それも地方によって流儀が違う」

 

 弥子の目が輝いた。

 

「じゃあ両方試しましょう!」

 

 泉がすぐに止める。

 

「試す数が増える言い方ですね」

 

 Xiも言った。

 

「弥子ちゃん、その道は通行止め」

 

「えー!」

 

 ソープはスコーンを見つめる。

 

「これも地球の午後のお茶文化なんだね」

 

 Xiがソープを見る。

 

「ソープ、その目は“スコーン全種類調査”の目」

 

「まだ何も言ってないよ」

 

「言う前の目」

 

 ラクスが微笑む。

 

「一つずつ、丁寧にいただきましょう」

 

 その一言で、場が少し落ち着いた。

 

 弥子も、しぶしぶ頷く。

 

「はい」

 

 カイエンが感心する。

 

「ラクスが言うと、弥子も止まるんだな」

 

「説得力が違いますね」

 

 泉が言う。

 

 Xiが小声で言った。

 

「歌姫の制圧力」

 

 キラが苦笑する。

 

「Xi……」

 

 ラクスは楽しそうに紅茶を飲んだ。

 

     *

 

 紅茶の会は、ここで終わらなかった。

 

 ラクスがメニューの別ページを開く。

 

「ノンカフェインのものも、いくつかあるようですわ」

 

 ソープが興味を示した。

 

「ノンカフェイン?」

 

「カフェインを含まない、あるいは少ないお茶です。夜にも飲みやすいですわ」

 

 アウクソーがすぐにカイエンを見る。

 

「マスター、それは良いかもしれません」

 

「僕を眠らせたいのか?」

 

「夜はお休みいただきたいので」

 

「アウクソーが言うなら、飲むか」

 

 カイエンが素直に言う。

 

 露伴が書こうとする。

 

「書くな」

 

 カイエンが先に言った。

 

「まだ何も書いていない」

 

「書く顔だった」

 

 最初に出たのは、カモミールだった。

 

 やわらかな香り。

 

 ソープは一口飲んで、少し目を細める。

 

「これは、落ち着くね」

 

 ラクスが頷く。

 

「おやすみ前にもよく合いますわ」

 

 キラが言う。

 

「ラクスが夜に飲んでそう」

 

「ええ。たまに」

 

 Xiが小声で言う。

 

「また生活感ある会話」

 

 次に、ルイボス。

 

 独特の香りと、少し甘みのある味。

 

 弥子が飲んで言う。

 

「これは、ちょっと不思議な味ですね」

 

 泉が頷く。

 

「好き嫌いは分かれるかもしれません」

 

 承太郎は一口飲んで言った。

 

「悪くねぇ」

 

 露伴が即座に言う。

 

「君、全部それだな」

 

「悪くないからな」

 

 そして、最後にローズヒップ。

 

 赤みのある水色。

 爽やかな酸味。

 

 その名前を聞いた瞬間、Xiとカイエンが同時に反応した。

 

「ローズヒップ?」

 

「誰の畑だ?」

 

 ラクスが少し驚く。

 

「普通のローズヒップですわ」

 

 泉も言う。

 

「普通の、ですね」

 

 Xiは慎重にカップを見る。

 

「普通のなら……」

 

 ソープが笑う。

 

「警戒しすぎじゃない?」

 

「その単語は危険ワードなんだよ」

 

 カイエンも頷いた。

 

「“我が一族自慢”が付いたら即撤退だ」

 

 弥子が言う。

 

「普通のローズヒップなら大丈夫ですよね?」

 

 Xiはまだ警戒している。

 

「普通ならね。普通なら」

 

 ラクスはローズヒップティーを一口飲む。

 

「酸味が爽やかですわ」

 

 弥子も飲む。

 

「すっぱ! でも、ハチミツ入れたら美味しそう!」

 

 泉が言う。

 

「ハチミツは少しだけですよ」

 

「少しだけ!」

 

 Xiが小さく言う。

 

「少しだけ警戒」

 

 ソープはローズヒップティーを飲んで、静かに笑った。

 

「本当に、地球のお茶は色々あるんだね」

 

「危険じゃないものだけにしようね」

 

 Xiが言う。

 

「うん」

 

「今の“うん”は信用できる?」

 

「たぶん」

 

「たぶん禁止」

 

     *

 

 会も終盤に差しかかった頃、露伴は手帳を開き、満足げに何かを書いていた。

 

 泉が横から覗く。

 

「先生、また書いていますね」

 

「これは今日の記録だ」

 

「取材ではなく?」

 

「記録だ」

 

「言い方を変えただけでは?」

 

「違う」

 

 露伴はペンを走らせる。

 

『ラクス・クラインは紅茶を選ぶ。

 紅茶は、人の好みを静かに映す。

 香りを聴く者。

 甘味を求める者。

 濃さにこだわる者。

 守るように注ぐ者。

 警戒しながら飲む者。

 そして、少しだけ場を整える者。』

 

 泉は少し黙った。

 

「……それは、良いですね」

 

 露伴は得意そうに笑う。

 

「そうだろう」

 

 カイエンが言う。

 

「褒めると調子に乗るぞ」

 

 泉が微笑む。

 

「今日は少しだけなら」

 

 ソープが反応する。

 

「少しだけ」

 

 Xiが即座に言った。

 

「その言葉はやっぱり危険」

 

 弥子は最後のスコーンを見つめていた。

 

 泉がそれに気づく。

 

「弥子ちゃん」

 

「見てただけです!」

 

「本当に?」

 

「……半分なら」

 

「出ました」

 

 Xiが言う。

 

「半分にするには一個必要理論」

 

 ラクスがくすりと笑った。

 

「では、皆さまで分けましょうか」

 

 弥子の顔が明るくなる。

 

「いいんですか?」

 

「最後に少しだけ」

 

 Xiは空を仰いだ。

 

「ラクスが言う“少しだけ”は、なぜか許されるんだよなあ」

 

 キラが微笑む。

 

「ラクスだからね」

 

「はい、また自然に甘い会話」

 

 全員が笑った。

 

     *

 

 会計の時間になった。

 

 アフタヌーンティーは優雅だった。

 

 だが、会計は現実だった。

 

 Xiは伝票を見て、少し目を細める。

 

「やっぱり三段トレーは強いね」

 

 弥子が満足そうに言う。

 

「満足度も高いです!」

 

「それは知ってる」

 

 ソープが何か言いかける。

 

 Xiがすぐに言った。

 

「ソープ、文化調査費にしようとしない」

 

「まだ何も言ってないよ」

 

「目が言ってる」

 

 カイエンが笑う。

 

「もう完全に読めるな」

 

「やめてよ。お目付け役の名残だから」

 

 ラクスが穏やかに言った。

 

「でも、そのおかげで、今日も楽しいお茶会になりましたわ」

 

「ラクスにそう言われると、また逃げ道がなくなる」

 

 承太郎は席を立ちながら言った。

 

「ミルクティーは悪くなかった」

 

 露伴が最後まで諦めない。

 

「悪くなかった、じゃなくて、もっと具体的にだな」

 

「濃く淹れればいい」

 

「またそこだけ具体的だ」

 

「やれやれだぜ」

 

 アウクソーはカイエンに言った。

 

「マスター、次はカフェインの少ないものもお試しください」

 

「ああ。アウクソーが淹れてくれるならな」

 

 カイエンはさらっと言った。

 

 アウクソーは少しだけ頬を緩めた。

 

 露伴が書こうとした。

 

「書くな」

 

「まだ何も」

 

「書く顔だ」

 

「君たちは僕の顔を読みすぎだ」

 

 Xiが言った。

 

「露伴先生もだいぶ行動読まれてるね」

 

「君ほどではない」

 

「僕も読まれてない」

 

 ソープが微笑む。

 

「読めるよ」

 

「読まないで」

 

「うん」

 

「その“うん”も読めない」

 

 ラクスは最後にティーカップを置いた。

 

「次は、皆さまのお好きなお茶を、それぞれ選んでみるのも良いかもしれませんね」

 

 弥子がすぐに言う。

 

「お茶に合うお菓子も!」

 

 泉が即座に続ける。

 

「量は控えめに」

 

 承太郎が帽子のつばを下げる。

 

「ミルクティーは濃く」

 

 露伴がペンを構える。

 

「これは続編になるな」

 

 Xiは深く息を吐いた。

 

「また始まる……」

 

 ソープは楽しそうに笑った。

 

「地球の午後は、忙しいね」

 

 午後の日差しの中、紅茶の香りがまだ少し残っていた。

 

 カフェテラスは、今日もまた何も見なかったことにする技術を磨いている。

 

 ただ、香りだけは残る。

 

 ダージリンの華やかさ。

 アッサムの濃さ。

 アールグレイの柑橘。

 ローズヒップの酸味。

 

 そして、少しだけ甘い会話の余韻。

 

 ラクス・クラインは、静かに微笑んだ。

 

 紅茶は、今日も優雅に選ばれた。

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