守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

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怪盗Xiは苦い茶を知っている

 その甘味処は、古い商店街の一角にあった。

 

 木の格子戸。

 暖簾。

 小さな庭の見える座敷席。

 壁には季節の和菓子の品書き。

 卓上には黒文字と小皿。

 

 そこに、どういうわけか、いつもの面々が揃っていた。

 

 ソープ。

 カイエン。

 アウクソー。

 桂木弥子。

 泉京香。

 岸辺露伴。

 空条承太郎。

 ラクス・クラインとキラ・ヤマト。

 そして、怪盗Xi。

 

 今日の主役は、Xiだった。

 

「なんで僕が主導なんだろうね」

 

 Xiは座敷に座りながら呟いた。

 

 弥子は甘味のメニューを開きながら答える。

 

「Xi、世界中を渡り歩いて、変なものも盗み、変なものも飲んできたんでしょ?」

 

「言い方」

 

 カイエンが笑う。

 

「でもまあ、怪物強盗なら通るな」

 

「通るの?」

 

「通るだろ。怪しい富豪の屋敷とか、妙な茶を出されそうだしな」

 

 Xiは少し嫌そうな顔をした。

 

「実際、出されるんだよ。眠気が飛ぶ茶、胃が軽くなる茶、脂っこい料理の後に飲む茶、あと苦すぎて一瞬自分の正体を忘れそうになる茶」

 

 弥子が目を輝かせる。

 

「それ、ちょっと気になります!」

 

「気にしない方がいい」

 

 ネウロが、弥子の背後にいつの間にか立っていた。

 

「クク……貴様の胃袋でも、精神から折られる味というものはある」

 

「精神から?!」

 

 泉が苦笑する。

 

「今日は健康茶や日本茶の飲み比べ、ということでいいんですよね?」

 

「そう」

 

 Xiは頷いた。

 

「珈琲は露伴先生が妙に詳しかった。紅茶はラクスが優雅に選んだ。なら健康茶とか苦い茶は、僕が少し案内するよ」

 

 ソープが楽しそうに言った。

 

「地球には、体に良いと言われるお茶がたくさんあるんだね」

 

「あるよ。ただし、体に良いと味が優しいは別」

 

 弥子がメニューを見ながら言う。

 

「でも甘味処なら安心ですね! 口直しがいっぱいあります!」

 

「それが今日ここにした理由だよ」

 

 Xiは真顔で言った。

 

「弥子ちゃんの避難経路を確保しておかないと危ない」

 

「避難経路扱い?!」

 

 露伴が手帳を開く。

 

「甘味処を避難経路とする健康茶会。これはなかなか悪くない」

 

「露伴先生、今日は取材じゃなくて試飲会」

 

「試飲会も取材になる」

 

 泉が静かに言った。

 

「先生、今日は飲み物の感想だけにしてください」

 

「それも取材だ」

 

「手帳を閉じてください」

 

「……少しだけ」

 

「閉じてください」

 

     *

 

 最初に出されたのは、煎茶だった。

 

 急須から注がれた緑の水色。

 香りは青く、口当たりはすっきりしている。

 

 ラクスが静かに一口飲んだ。

 

「落ち着きますわね。香りがとても清らかです」

 

 キラも頷く。

 

「うん。飲みやすい」

 

 ソープは湯呑を両手で持って、しばらく香りを確かめていた。

 

「これが日本茶の基本なんだね」

 

「基本の一つだね」

 

 Xiが言う。

 

「お茶の種類も、製法や淹れ方で全然違う」

 

 弥子は一口飲み、すぐに団子の皿へ手を伸ばした。

 

「渋い! でもお団子に合う!」

 

「弥子ちゃん、初手から口直し」

 

「合うんです!」

 

 泉が微笑む。

 

「確かに、和菓子とは合いますね」

 

 露伴が頷いた。

 

「甘味の後に渋味で切る。理屈としては正しい」

 

「ほら!」

 

 Xiは弥子を見た。

 

「たまに食べ物絡みで正解を出すのが厄介なんだよなあ」

 

「厄介って言わないでください!」

 

 承太郎は煎茶を一口飲み、短く言った。

 

「悪くねぇ」

 

 露伴が反応する。

 

「出たな」

 

「何がだ」

 

「君の飲料感想の最終形だ」

 

「十分だ」

 

「十分じゃあない」

 

「やれやれだぜ」

 

     *

 

 次に出たのは、ほうじ茶だった。

 

 香ばしい香りが座敷に広がる。

 

 カイエンが湯呑を持ち、少しだけ目を細めた。

 

「これは悪くねぇな。香ばしい」

 

 アウクソーが微笑む。

 

「マスターには、こちらの方がお好みでしょうか」

 

「飲みやすいな。苦味もきつくない」

 

「カフェインも煎茶より少なめと言われることがあります」

 

「アウクソーが言うと、やっぱり健康管理になるな」

 

「マスターのお体が心配ですので」

 

 カイエンは少し照れたように湯呑を見た。

 

「……じゃあ、もう一杯」

 

 露伴が手帳を開こうとする。

 

「書くな」

 

 カイエンが先に言った。

 

「まだ何も書いていない」

 

「書く顔だった」

 

 Xiが笑う。

 

「露伴先生も完全に行動読まれてるね」

 

「君に言われたくないな」

 

 ソープはほうじ茶を飲んで、穏やかに言った。

 

「これは火の香りがするね」

 

「焙じてあるからね」

 

「火を通すことで香りが変わる。面白いね」

 

 弥子はすぐに言う。

 

「焼き団子にも合いそう!」

 

「また団子」

 

「だって香ばしいから!」

 

 泉が言った。

 

「今回は、弥子ちゃんの発想もかなり筋が通っていますね」

 

 弥子が胸を張る。

 

「食べ物のことなら任せてください!」

 

 ネウロが笑う。

 

「誇る方向が胃袋一直線だな」

 

     *

 

 三番目は玄米茶だった。

 

 煎茶に炒った玄米が混ざり、香ばしさと軽さがある。

 

 ソープは一口飲んで、不思議そうに言った。

 

「お茶にお米の香りがする」

 

「玄米茶」

 

 Xiが説明する。

 

「香ばしくて飲みやすい。食事にも合わせやすいよ」

 

 弥子が即座に言う。

 

「おにぎりに合いそう!」

 

「その発想は分かる」

 

 Xiは頷いた。

 

「むしろかなり自然」

 

「やった!」

 

 ラクスも飲んで、微笑む。

 

「親しみやすい香りですわね」

 

 キラが言う。

 

「うん。これ、落ち着く」

 

 承太郎も飲む。

 

「悪くねぇ」

 

 露伴が肩をすくめる。

 

「もう君の感想は予測できるな」

 

「なら聞くな」

 

「聞きたいんだ」

 

「面倒な奴だ」

 

 カイエンは玄米茶を飲みながら言った。

 

「飯の香りがすると、腹が減るな」

 

 弥子がぱっと顔を上げる。

 

「ですよね!」

 

 泉がすぐに見る。

 

「弥子ちゃん」

 

「まだ何も言ってません!」

 

「言う前の顔でした」

 

 Xiが感心したように言う。

 

「泉さん、だいぶ僕と同じ読み方になってきたね」

 

「それは喜んでいいのでしょうか」

 

「分からない」

 

     *

 

 次に出されたのは、烏龍茶だった。

 

 メジャーな中国茶。

 香りは爽やかで、ほんの少し焙煎の深みがある。

 

 Xiが湯呑を手にした。

 

「これはかなり馴染みがある人も多いと思う。烏龍茶」

 

 弥子が頷く。

 

「焼肉屋さんとか中華料理屋さんで飲むやつ!」

 

「そう。脂っこい料理に合う」

 

「じゃあ唐揚げと!」

 

「すぐ食べ物に接続する」

 

「合うんでしょ?!」

 

「合うけど、今日はお茶の回」

 

 泉が苦笑する。

 

「でも、烏龍茶は食事と一緒に飲む印象も強いですね」

 

 ソープは烏龍茶を飲み、少し考えた。

 

「口の中がすっきりするね」

 

「そう。脂を流す感じがある」

 

 Xiは言う。

 

「実際、そういう印象で飲む人も多い」

 

 カイエンは湯呑を置いた。

 

「これは普通に飲めるな」

 

 承太郎も言う。

 

「悪くねぇ」

 

 露伴が言う。

 

「君たち、感想が近いな」

 

 カイエンが肩をすくめる。

 

「飲み物に難しいことを言う気はねぇよ」

 

 露伴が眉を上げる。

 

「マンデリンでは少し語っていたじゃあないか」

 

「忘れろ」

 

「覚えておく」

 

「面倒な漫画家だな」

 

     *

 

 続いて出てきたのは、プーアル茶だった。

 

 少し土のような、熟成した香り。

 

 弥子は湯呑に顔を近づけて、少しだけ固まった。

 

「……土っぽい?」

 

 Xiが頷く。

 

「好き嫌いが分かれるやつ」

 

 ソープは興味深そうに香りを確かめる。

 

「熟成の香りだね。さっきまでのお茶と全然違う」

 

 露伴も飲み、少し頷いた。

 

「これはこれで面白い。時間が味に出る」

 

 カイエンは一口飲む。

 

「僕は飲めるな」

 

 アウクソーが言う。

 

「マスター、こちらもお気に召しましたか」

 

「酒の熟成とは違うが、まあ分からなくもない」

 

 弥子は恐る恐る飲む。

 

「……うーん」

 

「無理しなくていいよ」

 

 Xiが言う。

 

「いや、飲めなくはないです。でも、お菓子より……中華料理が欲しくなります」

 

「それは分かる」

 

 泉が頷いた。

 

「甘味処で飲むには、少し個性が強いかもしれませんね」

 

 ネウロが笑う。

 

「弥子。貴様の胃袋が菓子ではなく料理を要求するとは、茶も侮れんな」

 

「食べたいのは変わってないじゃないですか!」

 

     *

 

 そして、健康茶ゾーンが始まった。

 

 Xiは、そこで少しだけ声を低くした。

 

「ここからは、飲みやすさより健康志向が強くなる」

 

 弥子が姿勢を正す。

 

「健康茶!」

 

「美味しいとは言ってない」

 

「えっ」

 

「大事なことだから先に言う。健康に良さそうな味と、美味しい味は一致しないことがある」

 

 ソープが楽しそうに言う。

 

「経験者の声だね」

 

「潜入先で何度もやられたからね。出されたものを飲まないと怪しまれる場面ってあるんだよ」

 

 カイエンが笑う。

 

「怪物強盗の苦労だな」

 

「分かってくれる?」

 

「分からんが、面白い」

 

「ひどい」

 

 最初に出たのは、杜仲茶だった。

 

 香ばしくも、少し独特な薬草っぽさがある。

 

 泉が飲んで、静かに言った。

 

「健康には良さそうな味ですね」

 

 弥子が一口飲む。

 

「……健康には良さそう」

 

 Xiが頷く。

 

「でしょ。美味しいじゃなくて、健康には良さそうになるんだよ」

 

 ラクスは落ち着いて飲む。

 

「慣れれば、穏やかにいただけそうですわ」

 

 キラも少し考える。

 

「毎日飲むなら、薄めがいいかな」

 

 承太郎は飲んだ。

 

「悪くねぇ」

 

 露伴が即座に言う。

 

「本当に?」

 

「悪くねぇ」

 

「君の“悪くねぇ”は範囲が広すぎる」

 

「便利だ」

 

「便利じゃない」

 

     *

 

 次に出たのは、苦丁茶だった。

 

 Xiはそれを見て、少しだけ真顔になった。

 

「これは苦い」

 

 弥子が身構える。

 

「どれくらいですか?」

 

「名前に苦いって入ってるくらい」

 

「分かりやすい!」

 

「分かりやすく危険」

 

 湯呑に注がれた茶は、見た目にはそこまで凶悪ではなかった。

 

 だが、香りにどこか鋭さがある。

 

 弥子が恐る恐る一口飲んだ。

 

 瞬間。

 

「苦っっっ!!」

 

 座敷に声が響いた。

 

「これ健康になる前に心が折れます!」

 

 Xiは冷静に頷く。

 

「だから言ったでしょ」

 

 弥子は慌てて団子へ手を伸ばす。

 

「お団子! お団子ください!」

 

「避難経路が機能している」

 

 泉が言った。

 

 カイエンも飲む。

 

「……薬湯だな」

 

 アウクソーは少し眉を下げる。

 

「マスター、ご無理はなさらず」

 

「大丈夫だ。だが、二杯目はいらん」

 

 ソープは一口飲み、少し目を丸くした。

 

「すごい苦味だね」

 

「ソープ、無理しなくていい」

 

「うん。これは一口でいいかな」

 

 Xiが少し安心する。

 

「よかった。君が“もう少し”って言ったらどうしようかと思った」

 

 ラクスは少量だけ飲み、静かにカップを置いた。

 

「これは、甘味が欲しくなりますわね」

 

 弥子が全力で頷く。

 

「ですよね!」

 

 ネウロが笑う。

 

「弥子。貴様の胃袋ではなく精神が甘味を求めているな」

 

「今は本当にそうです!」

 

 露伴は苦丁茶を飲み、少し笑った。

 

「これは、味というより経験だな」

 

 Xiが言う。

 

「露伴先生、また変なところにリアリティ見出してる」

 

「苦味も情報だ」

 

「情報量が多すぎる」

 

 承太郎も飲む。

 

 少し間があった。

 

「……苦いな」

 

 露伴が目を見開く。

 

「君が“悪くねぇ”以外を言った!」

 

 承太郎は帽子のつばを下げた。

 

「これは苦い」

 

 全員が少しだけ笑った。

 

     *

 

 苦丁茶の後に出されたのは、蕃爽麗茶だった。

 

 Xiは少しだけ得意そうに言った。

 

「これは蕃爽麗茶」

 

 弥子が湯呑を見つめる。

 

「名前が強い!」

 

「食事の時に飲む人も多いね。血糖値の上昇を穏やかにする、みたいな印象で知られてる」

 

 その瞬間、弥子の目が輝いた。

 

「血糖値の上昇を抑えるお茶……」

 

 Xiは嫌な予感がした。

 

 弥子は両手を合わせて言う。

 

「つまり、これでカロリーによる罪悪感はゼロ!」

 

「ならないよ!」

 

 Xiが即座に叫んだ。

 

 泉も同時に言う。

 

「なりません」

 

 ネウロも言う。

 

「ならん」

 

 カイエンまで言う。

 

「ならねぇ」

 

 弥子は不満そうにする。

 

「みんなで言わなくても!」

 

 Xiは湯呑を指さした。

 

「健康茶は免罪符じゃない。お茶を飲んだからって、ケーキが消えるわけじゃない」

 

「でも、気持ちは軽くなりません?」

 

「気持ちの問題にするな!」

 

 泉が優しく説明する。

 

「食事と一緒に取り入れる方はいらっしゃいますが、だからといって食べすぎてよいわけではありません」

 

 弥子は少し考えた。

 

「じゃあ、食べすぎた後に反省しながら飲む」

 

「反省が先です」

 

 ソープは蕃爽麗茶を飲んで、興味深そうに言った。

 

「味は飲みやすいね。さっきの苦いお茶よりずっと穏やかだ」

 

 Xiが頷く。

 

「飲みやすい方だと思う。だから続けやすい」

 

 ラクスも飲む。

 

「すっきりしていますわね」

 

 キラが言う。

 

「食事と一緒なら合いそう」

 

 弥子がまた顔を上げる。

 

「じゃあ唐揚げと!」

 

「また唐揚げ」

 

 Xiが呆れる。

 

「さっきから唐揚げの出番多くない?」

 

「烏龍茶にも合うし、蕃爽麗茶にも合うなら、唐揚げは優秀です!」

 

「お茶の評価じゃなくて唐揚げの評価になってる」

 

 承太郎は蕃爽麗茶を飲んで、少し間を置いて言った。

 

「悪くねぇ」

 

 露伴が頷く。

 

「これは戻ったな」

 

     *

 

 健康茶の飲み比べは、少しずつ座敷に疲れをもたらしていた。

 

 珈琲や紅茶の時とは違う。

 

 優雅さよりも、効きそう、苦い、体に良さそう、でも甘味が欲しい、という感情が交互に来る。

 

 弥子は団子と羊羹を口直しにしていた。

 

 泉が見ている。

 

「弥子ちゃん、口直しの量が増えています」

 

「だって苦いお茶が多かったので!」

 

「蕃爽麗茶は飲みやすかったでしょう?」

 

「飲みやすかったです! だから甘味にも合うかなって!」

 

 Xiが言う。

 

「弥子ちゃん、何でも甘味に接続するね」

 

「甘味処ですから!」

 

 露伴が手帳に書く。

 

「甘味処で健康茶を飲むという矛盾。いや、矛盾ではなく均衡か」

 

「露伴先生、綺麗にまとめようとしてるけど、だいたい弥子ちゃんが食べてるだけだよ」

 

 弥子が叫ぶ。

 

「食べてるだけじゃないです! 飲んでます!」

 

「そこは威張れない」

 

 ソープは一通り飲み終えて、満足そうだった。

 

「地球のお茶は、ただ味を楽しむだけじゃなくて、体や食事との関係も考えるんだね」

 

「そうだね」

 

 Xiは頷く。

 

「体に良さそうだから飲む。食事に合うから飲む。眠る前だから選ぶ。苦いけど効きそうだから頑張る。そういうのも文化だよ」

 

 カイエンが湯呑を置いた。

 

「お前、こういう時はちゃんと案内役だな」

 

「褒めないで」

 

「逃げ道が減るか?」

 

「もう任務終わってるのに、減る気がする」

 

 ソープが笑う。

 

「でも、楽しかったよ」

 

「それも逃げ道が減る言い方」

 

 ラクスが静かに言った。

 

「Xiさんは、いろいろな場所をご存じなのですね」

 

「変な場所ばっかりだけどね」

 

「それでも、経験は宝物ですわ」

 

 Xiは少し黙った。

 

「……盗んできたものも多いけど」

 

 ネウロが笑う。

 

「クク……ならば今日は、盗んだ経験を茶として出したわけだ」

 

「その言い方、ちょっと嫌だなあ」

 

     *

 

 最後に、店の女将がサービスで抹茶を出してくれた。

 

 小さな茶碗に立つ泡。

 鮮やかな緑。

 横には小さな干菓子。

 

 弥子が嬉しそうに言う。

 

「抹茶!」

 

 Xiが言う。

 

「これは健康茶というより、締めだね」

 

 露伴が茶碗を見て、少しだけ姿勢を正した。

 

「茶道となると、また別の文化だな」

 

 泉が微笑む。

 

「先生、今日は語りすぎないでくださいね」

 

「分かっている」

 

「本当に?」

 

「……少しだけ」

 

「始まりました」

 

 カイエンは抹茶を一口飲み、顔を少ししかめた。

 

「苦いが、さっきのよりはいい」

 

 弥子は干菓子と一緒に飲む。

 

「お菓子があると美味しいです!」

 

 アウクソーは静かに言った。

 

「苦味と甘味の組み合わせですね」

 

 ソープは抹茶をじっと見つめる。

 

「この緑は綺麗だね」

 

 ラクスも頷く。

 

「はい。静かな色ですわ」

 

 承太郎は飲んで言った。

 

「悪くねぇ」

 

 露伴がもう何も言わなかった。

 

 全員が少し笑った。

 

     *

 

 会計の時間。

 

 健康茶の回は、なぜか甘味の会計もそこそこ膨らんでいた。

 

 主な理由は、弥子だった。

 

 弥子は満足そうだった。

 

「今日は健康になった気がします!」

 

 Xiが伝票を見ながら言う。

 

「口直しの甘味で相殺されてる気もする」

 

「蕃爽麗茶飲みました!」

 

「だから免罪符じゃないってば」

 

 泉が頷く。

 

「弥子ちゃん、今日の教訓ですね」

 

「はい。健康茶は、食べすぎの免罪符ではない」

 

「よろしいです」

 

「でも、甘味処で飲む苦いお茶は、口直しがあって安心!」

 

「そこは学習したんだ」

 

 カイエンは立ち上がりながら言った。

 

「まあ、面白かったな。健康茶ってのも」

 

 アウクソーが微笑む。

 

「マスターには、ほうじ茶とプーアル茶が合っていたようです」

 

「次からはそのあたりにしとく」

 

 ソープはXiに言った。

 

「案内ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「また別の変なお茶も教えてね」

 

「変なのはもういい」

 

「少しだけ」

 

「その言葉は通行止め」

 

 ラクスが微笑む。

 

「次は、日本茶をゆっくりいただく会も良いかもしれませんね」

 

 弥子が反応する。

 

「和菓子も!」

 

 泉がすぐに言う。

 

「量は控えめに」

 

 承太郎は帽子をかぶり直す。

 

「ほうじ茶は悪くねぇ」

 

 露伴が手帳に最後の一文を書いた。

 

『怪盗Xiは苦い茶を知っている。

 苦味は、時に薬であり、記憶であり、旅の痕跡でもある。

 甘味を求める者がいて、健康を求める者がいて、

 それでも最後には、誰かが団子を食べる。』

 

 泉が横から見て言った。

 

「先生、それは少し良いですね」

 

 露伴は得意げに笑う。

 

「そうだろう」

 

 弥子が言った。

 

「団子、もう一皿だけ――」

 

 Xiと泉が同時に言った。

 

「通行止め」

 

「通行止めです」

 

 弥子は頬を膨らませた。

 

「二人とも息ぴったりすぎません?!」

 

 ソープが楽しそうに笑う。

 

「Xi、お目付け役が抜けてないね」

 

「抜けてる」

 

「抜けてないよ」

 

「抜けてる!」

 

 甘味処の女将は、静かに湯呑を片付けていた。

 

 たぶん、今日もまた何も聞かなかったことにしている。

 

 ただ、座敷にはしばらく、ほうじ茶の香りと、苦丁茶の強烈な記憶と、弥子の「苦っ!!」という声の余韻が残っていた。

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