守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 作:ギアっちょ
変な飲み物試飲会は、もはや試飲会ではなかった。
テーブルの中央には、候補リスト。
その横には、透明な小さな試飲カップが整然と並べられている。
ドクターペッパー。
チェリーコーク。
ガラナ。
ルートビア。
サルサパリラ。
メッコール。
ノニジュース。
マックスコーヒー。
ラプサンスーチョン。
マサラチャイ。
そして、変わり種ラムネ各種。
見た目だけなら、ちょっとした飲料イベントである。
だが、席に座るログナー司令の表情は、軍務査察のそれだった。
「まず、基本方針を確認する」
ログナーは低く言った。
「試飲量は一口以下。強い匂いを持つものは、まず香りを確認。陛下への提供は、私の確認後とする」
弥子が手を挙げる。
「ログナーさん、飲み物ですよね?」
「飲み物かどうかは確認後に判断する」
「飲み物かどうかから?!」
Xiが深く頷いた。
「今日のラインナップなら、その慎重さは正しい」
カイエンは笑いをこらえていた。
「真面目すぎるだろ……」
ログナーは視線を動かさない。
「陛下の安全がかかっている」
ソープは少し困ったように笑った。
「一口ずつだよ」
「一口で済まないものもあります」
泉が静かに言う。
「今日はログナーさんの方針に賛成です」
露伴は手帳を構えながら言った。
「これは面白い。飲料文化調査が安全保障案件になっている」
「露伴先生、言い方」
Xiが呆れる。
承太郎は、テーブルの上の瓶を見ていた。
その目が、ドクターペッパーのラベルで止まる。
「せっかくだから俺は飲むぜ」
露伴が目を細めた。
「まじか」
承太郎は缶を開け、小さなカップに注がれたそれを一口飲んだ。
少し間があった。
「……まっず!」
露伴が思わず叫ぶ。
「おい!」
全員が承太郎を見た。
Xiが驚く。
「承太郎が“悪くねぇ”じゃないこと言った!」
弥子も目を丸くする。
「そんなに?!」
承太郎は眉をひそめながら、もう一度缶を見る。
「いや、知ってる味だ。だが、久しぶりに飲むと……まっず」
露伴が呆れる。
「それをなぜ飲んだ」
「せっかくだからだ」
「君、意外と無茶をするな」
「やれやれだぜ」
ログナーは冷静にメモを取った。
「ドクターペッパー。承太郎の評価、まっず。要注意」
Xiが吹き出した。
「それ公式記録にするの?!」
ソープは興味深そうにカップを見る。
「薬のような香りがするね」
「薬じゃないけどね」
Xiが言う。
「いや、でも薬っぽいって言われる」
ラクスが少量だけ口に含んだ。
しばらく味わってから、静かに言う。
「不思議なお味ですわ。甘くて、香りが複雑で……」
キラが心配そうに見る。
「ラクス、大丈夫?」
「ええ。でも、毎日いただくものではないかもしれません」
ログナーが即座に言った。
「陛下への提供は一口まで」
「ログナー、もう飲んだよ」
ソープが言う。
「次回以降も一口までです」
Xiが小声で言った。
「次回を想定してるのがすごい」
*
次は、チェリーコークだった。
これは比較的平和だった。
弥子が飲む。
「あ、これは普通に美味しいです!」
Xiが頷く。
「チェリーの香りが平気なら、飲みやすい方だね」
ラクスも微笑む。
「甘い香りが華やかですわね」
キラがほっとする。
「これは大丈夫そう」
ログナーも少量確認し、淡々と言う。
「提供可。ただし糖分量には注意」
泉が頷く。
「そこは大事ですね」
弥子がそっと二口目に行こうとした。
ログナーと泉とXiが同時に言った。
「一口まで」
「一口までです」
「一口まで」
弥子はカップを置いた。
「三人がかり……」
カイエンが笑う。
「強い監視体制だな」
ソープは嬉しそうに言った。
「Xi、またお目付け役みたいだね」
「違う。今日は臨時安全係」
「似てる」
「似てない」
*
ガラナも、比較的好評だった。
独特の甘みと香りはあるが、炭酸飲料として分かりやすい。
弥子はすぐに気に入った。
「これ好きです!」
Xiが頷く。
「北海道とかで有名なやつだね。地域性があって面白い」
ソープは興味深そうに言う。
「同じ炭酸飲料でも、地域ごとに違うんだね」
露伴がすぐに補足する。
「ローカル飲料は面白いぞ。味だけでなく、土地の記憶や流通の癖が残る」
カイエンが言う。
「露伴、お前、何でも語るな」
「語れるものを語っているだけだ」
承太郎はガラナを飲んで、短く言った。
「悪くねぇ」
露伴が安心したように言う。
「戻ったな」
承太郎は帽子のつばを下げた。
「これは悪くねぇ」
ログナーはメモを取る。
「ガラナ。提供可」
弥子が笑顔になる。
「やった!」
「追加は不可」
「早い!」
*
次に現れたのは、ルートビアだった。
缶が開いた瞬間、独特の香りが広がる。
湿布のような。
薬草のような。
甘いのに、どこか医療用品のような。
カイエンが眉をひそめた。
「……何だこれは」
ソープは目を輝かせた。
「本当に湿布のような香りがするね」
「喜ぶところではありません」
ログナーが即座に言った。
Xiは苦笑する。
「好きな人は好きなんだけどね」
露伴が香りを確かめる。
「なるほど。サルサパリラやバニラ、薬草的な香味が重なっている。文化としては面白い」
泉が言う。
「先生、“文化としては”という言い方はだいたい警戒が必要です」
承太郎はカップを手に取った。
露伴が見る。
「また飲むのか」
「せっかくだからな」
承太郎は一口飲む。
沈黙。
「……これは湿布だ」
露伴が笑った。
「飲み物の感想じゃあないな」
「湿布だ」
弥子は恐る恐る飲む。
すぐに顔をしかめた。
「うわっ……! 甘いのに、薬箱みたい!」
ネウロが笑う。
「クク……貴様の胃袋が薬箱に遭遇したか」
「ネウロ、これ飲んでみてよ!」
「吾輩は謎を喰うのであって、湿布味の液体を喰うのではない」
Xiが言う。
「魔人にも拒否された」
ソープがカップを手に取ろうとした瞬間、ログナーが止めた。
「陛下。一口以下で」
「一口以下?」
「舌先で確認する程度です」
「そこまで?」
「そこまでです」
ソープは本当に少しだけ口にした。
そして、目を瞬かせた。
「……面白いね」
ログナーが即座に言う。
「追加不可」
「まだ何も」
「言う前の目です」
Xiが思わず拍手した。
「ログナー司令、分かってきた!」
*
サルサパリラは、ルートビアに近い香りを持っていた。
露伴が説明しようとしたが、泉が先に言った。
「先生、短めにお願いします」
「植物由来の香味をもつ、歴史ある飲料だ」
「短い」
「不満か?」
「いえ、助かります」
カイエンが飲んで、少し首を傾げる。
「さっきのよりは飲めるが、やっぱり薬っぽいな」
承太郎は飲んだ。
「悪くねぇ。さっきよりはな」
露伴が驚く。
「君の基準が分からない」
「俺は分かってる」
弥子は一口飲んで、団子を食べた。
「口直しが必要です!」
Xiが言う。
「甘味処じゃないから、今日は団子ないよ」
弥子が絶望した顔をした。
「避難経路がない?!」
泉があらかじめ用意していたクッキーを差し出す。
「念のため、持ってきました」
弥子が感動する。
「泉さん!」
Xiが感心する。
「完全に危機管理担当」
ログナーも頷いた。
「適切だ」
泉は少し複雑そうに笑った。
「ありがとうございます……?」
*
メッコールが出された。
麦の香り。
コーラのような見た目。
しかしコーラとは違う。
カイエンが一口飲む。
少し黙る。
「……麦なのか、コーラなのか、はっきりしろ」
Xiが笑った。
「分かる」
露伴が飲んで言う。
「中途半端さも含めて味だな」
泉が飲む。
「不思議ですね。飲めなくはありませんが、予想と違います」
弥子は一口飲んで、真剣な顔になる。
「なんか、頭が混乱します」
ネウロが言う。
「貴様の舌が分類に失敗しているな」
「分類って何?!」
承太郎も飲んだ。
少し考えた。
「……二本はいらねぇ」
露伴がすぐに言った。
「つまり一本なら?」
「一本も途中でいい」
「かなり厳しいな」
ログナーはメモする。
「メッコール。要審査。陛下への追加提供不可」
ソープは少しだけ飲んで、首を傾げた。
「これも文化なのかな」
Xiが言う。
「文化だと思う。美味しいかは別」
「地球は難しいね」
「飲み物でそれを学ぶの、ちょっと嫌だなあ」
*
マックスコーヒーは、場の空気を一気に変えた。
甘い。
とにかく甘い。
弥子は一口飲んで、顔を輝かせた。
「甘い! これは正義!」
泉がすぐに言う。
「弥子ちゃん、飲みすぎ注意です」
「でも美味しいです!」
Xiが頷く。
「弥子ちゃんの避難所としては強いね」
ソープも飲む。
「これは、珈琲というより、甘い飲み物だね」
露伴が言う。
「練乳入りの甘い缶コーヒーとして有名だな。地域色もある」
カイエンは一口飲んで、眉を上げた。
「甘いな」
アウクソーが言う。
「マスターには、少し甘すぎるかもしれません」
「いや、疲れた時なら分からなくもない」
承太郎は飲んで言った。
「甘ぇ」
露伴が少し笑う。
「今日は君の語彙が増えているな」
「飲み物が変だからだ」
「それはそうだ」
ログナーは真面目にメモを取る。
「マックスコーヒー。提供可。ただし糖分に注意」
弥子が小さく言った。
「注意ばっかり……」
泉が答える。
「大事です」
*
ラプサンスーチョンが出された時、空気が変わった。
煙。
はっきりとした燻香。
まるで焚き火か、燻製か。
カイエンがカップを近づけ、少し目を細めた。
「……煙いな」
アウクソーが心配する。
「マスター、お嫌いですか?」
カイエンは一口飲む。
そして、少しだけ笑った。
「いや、悪くねぇ。野営の火みたいだ」
露伴がすかさず言う。
「意外と詩的な感想を言うじゃあないか」
「今のは書くな」
「もう書いた」
「おい」
ソープも香りを楽しんでいる。
「これは面白いね。飲み物なのに、火の記憶がする」
ラクスも少量飲んで言う。
「とても個性的ですわね。お好きな方には深く響きそうです」
キラは少し苦笑する。
「僕は少しだけでいいかな」
承太郎は飲んで、短く言った。
「悪くねぇ」
露伴が頷く。
「君はこれを悪くないと言うのか」
「言う」
「ルートビアは湿布で、これは悪くない。なるほど、少し分かってきた」
「分からなくていい」
ログナーはメモする。
「ラプサンスーチョン。提供可。ただし好みが分かれる」
弥子はカップを嗅いで、少し悩む。
「これ、飲む燻製……?」
Xiが言う。
「だいたい合ってる」
*
マサラチャイは、場をかなり救った。
ミルク。
紅茶。
スパイス。
甘み。
弥子が一口飲んだ瞬間、顔が明るくなる。
「美味しい! これ好きです!」
ラクスも微笑む。
「香辛料とミルクの香りが、とても華やかですわ」
キラもほっとしたように言う。
「これは飲みやすいね」
承太郎が飲む。
「濃く淹れるなら悪くねぇ」
露伴が目を輝かせる。
「またミルクティー系になると具体的だな、君は」
「別にいいだろ」
「非常にいい」
「何だその反応は」
カイエンも飲み、頷いた。
「これは普通に美味いな」
アウクソーが微笑む。
「マスターのお口にも合ったようで」
「さっきまでのが変だったから、余計にそう思う」
ログナーも少量確認した。
「マサラチャイ。提供可」
弥子が嬉しそうに言う。
「おかわりは?」
「一杯まで」
ログナー、泉、Xiがまた同時に言った。
弥子は肩を落とした。
「監査が強い……」
*
そして、ついにノニジュースが来た。
ボトルが開いた瞬間、場の空気が止まった。
香りが強い。
果物のようで、発酵したようで、薬草のようで、どこか土っぽい。
弥子が目を丸くする。
「……これは?」
Xiが言った。
「ノニジュース」
「健康に良さそう」
「“美味しそう”が出なかった」
カイエンも顔をしかめる。
「これは飲み物なのか?」
露伴が香りを確認する。
「なるほど。非常に個性的だ」
泉が言う。
「先生の“個性的”は、かなり警戒すべき言葉ですね」
ログナーはボトルを見て、成分表示を確認した。
そして、静かに言った。
「陛下への提供を却下する」
ソープが少し驚く。
「まだ一口も」
「香りと情報で十分です」
「でも、地球では飲まれているんだよね?」
「飲む者がいることと、陛下が飲むべきことは別です」
Xiが深く頷く。
「名言出た」
弥子は恐る恐るカップを持つ。
「じゃあ、あたしが……」
泉が止める。
「弥子ちゃん、無理しないでください」
ネウロが笑う。
「飲む前から負けの気配がするぞ」
「負けません!」
弥子は一口飲んだ。
すぐに、表情が固まる。
「……健康になりそう」
Xiが叫ぶ。
「“美味しい”が出なかった!」
カイエンが笑いをこらえる。
「弥子が美味いと言わない時点で相当だな」
弥子はクッキーを口に入れた。
「口直しください……」
泉が静かに差し出す。
「はい」
露伴は一口だけ飲んだ。
少し沈黙する。
「……リアリティはある」
Xiが言う。
「その言い方で逃げた」
承太郎はカップを見た。
露伴が言う。
「飲むのか?」
承太郎は少し考えた。
「せっかくだから」
「またか」
承太郎は一口飲んだ。
顔が一瞬止まった。
「……まっず」
露伴が即座に叫ぶ。
「だからなぜ飲んだ!」
承太郎は帽子のつばを下げた。
「せっかくだからだ」
Xiは腹を抱えて笑った。
「承太郎、今日だいぶチャレンジャーだね!」
ログナーは淡々とメモする。
「ノニジュース。陛下への提供却下。弥子、承太郎、露伴が試飲。評価、健康になりそう、リアリティ、まっず」
「記録がひどい!」
弥子が叫んだ。
*
最後の難関。
変わり種ラムネ。
弥子の持ち込んだ一覧には、こう書かれていた。
・たこ焼き風ラムネ
・餃子風ラムネ
・カレーラムネ
・激辛わさびラムネ
・うなぎラムネ
・杏仁豆腐ラムネ
・コーンポタージュラムネ
ログナーはそれを見て、しばらく黙った。
「……これは、本当に飲料なのか」
Xiが言う。
「飲料の形をした企画会議の暴走です」
露伴が笑う。
「いい表現だ」
「書かないで」
「書いた」
弥子は目を輝かせている。
「たこ焼き風、気になりません?」
泉が言う。
「気になりますが、飲みたいかどうかは別です」
カイエンは瓶を一本手に取る。
「ソースの匂いがする炭酸って、何だ」
ソープは真剣に見ていた。
「味の再現というより、名前と体験を楽しむものなんだね」
ログナーは即座に言う。
「陛下は香り確認まで」
「香りだけ?」
「香りだけです」
ソープは少し残念そうに、たこ焼き風ラムネの匂いを確認した。
「……本当にたこ焼きのような香りがする」
「陛下。そこまでです」
「ログナー、早い」
「十分です」
弥子は一口飲んだ。
すぐに顔が複雑になった。
「……たこ焼きの幻が炭酸で流れていく」
Xiが笑う。
「すごい感想」
露伴が言う。
「今のは書く価値がある」
「書かないでください!」
カレーラムネは、カイエンが飲んだ。
「……カレーだな」
Xiが訊く。
「美味しい?」
「カレーだ」
「質問に答えて」
「カレーだ」
「答えになってない!」
承太郎も一口飲んだ。
「……変だ」
露伴が嬉しそうに言う。
「今日は“変だ”が出た!」
餃子風ラムネは、泉が匂いだけでカップを置いた。
「これは、飲まなくてもよい気がします」
ログナーが頷く。
「同意する」
弥子は飲んだ。
「ニンニクが……炭酸で……!」
ネウロが笑う。
「クク……貴様の胃袋が混乱しているな」
激辛わさびラムネは、全員がかなり慎重になった。
ログナーは即答した。
「陛下への提供却下」
「早い」
ソープが言う。
「辛味刺激系は不可です」
Xiも頷く。
「これは僕も賛成」
弥子が飲もうとした。
泉が止めた。
「弥子ちゃんも今日はやめましょう」
「でも……」
ネウロが低く言う。
「鼻から抜ける刺激で泣くぞ」
弥子は瓶を置いた。
「やめます」
Xiが感心する。
「ネウロの警告が効いた」
「弥子の学習能力が珍しく働いたな」
ネウロが言った。
杏仁豆腐ラムネは、比較的平和だった。
弥子が飲んで笑顔になる。
「これは美味しい!」
ソープも少量飲むことを許可された。
「甘くて、デザートみたいだね」
ログナーはメモする。
「杏仁豆腐ラムネ。提供可。ただし少量」
コーンポタージュラムネは、全員の判断をまた揺らした。
キラが一口飲み、困ったように笑う。
「温かければ……いや、炭酸だから違うか」
ラクスも少量飲み、静かに言った。
「不思議ですわね」
Xiが頷く。
「その言葉に全部詰まってる」
*
試飲会が終わった頃、テーブルの上には大量の小さなカップと、半端に残った瓶が並んでいた。
全員、どこか疲れていた。
特にログナーは、真面目に審査し続けたせいで、表情こそ変わらないが、少しだけ空気が重かった。
「総評を述べる」
ログナーが言った。
弥子が姿勢を正す。
「はい」
「提供可。チェリーコーク、ガラナ、マックスコーヒー、マサラチャイ、杏仁豆腐ラムネ」
Xiが頷く。
「妥当」
「要審査。ドクターペッパー、ルートビア、サルサパリラ、メッコール、ラプサンスーチョン、カレーラムネ、コーンポタージュラムネ」
カイエンが苦笑する。
「カレーラムネ、要審査に残るのか」
「文化性はある」
露伴が言う。
「ログナー司令、意外と分かっているじゃあないか」
「文化性と提供可否は別だ」
「冷静だな」
「却下。ノニジュースの陛下への提供。激辛わさびラムネ。餃子風ラムネの追加試飲。たこ焼き風ラムネの陛下への実飲」
弥子が小さく言う。
「けっこう却下されましたね」
「当然だ」
ソープは楽しそうに笑った。
「でも、面白かったよ」
ログナーはすぐに言う。
「面白いことと、陛下が飲むべきことは別です」
「今日何回も聞いたね」
Xiが言う。
「でも今日の結論だと思う」
承太郎は残ったドクターペッパーを見た。
「……久しぶりに飲むと、やっぱり変だな」
露伴が呆れる。
「君はそれを分かっていて飲んだのか」
「せっかくだからな」
「今日の君は、それで何度も失敗している」
「やれやれだぜ」
ラクスはマサラチャイのカップを手に、穏やかに微笑んだ。
「クセのあるものも、それぞれに背景があるのですね」
キラが頷く。
「でも、ラクスには無理してほしくないな」
Xiが言う。
「キラは今日ずっと正しい」
カイエンも頷く。
「守りが早かったな」
「変な飲み物からラクスを守る日が来るとは思いませんでした」
キラは少し困った顔で言った。
弥子はマックスコーヒーと杏仁豆腐ラムネを見比べていた。
「この二つは持ち帰りたいです」
泉が即座に言う。
「一本まで」
「二本」
「一本まで」
「間を取って一本半」
「一本まで」
「強い……」
ネウロが笑う。
「クク……貴様の交渉術は、糖分の前では幼児並みだな」
「ひどい!」
*
最後に、ログナーはソープを見た。
「陛下」
「うん」
「今後、地球の飲料文化を調査される際は、事前に候補を共有してください」
「ログナーが忙しくなるね」
「必要な業務です」
Xiが小声で言う。
「本当に業務化した」
カイエンが肩を震わせる。
「変な飲み物監査部門だな」
ログナーは真顔で言う。
「陛下の安全に関わるなら、設置を検討する」
カイエンが耐えきれず笑った。
「冗談で言ったんだぞ!」
ログナーは淡々と答える。
「冗談で済まない場合がある」
露伴は手帳に書いた。
『ログナー司令は変な飲み物を許可しない。
彼にとって飲料とは、味ではなく安全審査の対象である。
地球文化は自由だ。
だが、自由すぎる液体には、監査が必要になる。』
泉が横から見て、少し笑った。
「先生、それは少し良いですね」
露伴は得意げに言う。
「そうだろう」
Xiはテーブルを見渡した。
「今回分かったこと」
弥子が身を乗り出す。
「何ですか?」
「変な飲み物は、単独で飲むより、みんなで騒ぎながら一口ずつ飲む方が楽しい」
ソープが頷く。
「文化調査としては、よかったね」
ログナーが付け加える。
「ただし、監査付きで」
「それがなければもっと楽しかったかも」
弥子が言う。
「監査があったから無事だった」
Xiが言った。
カイエンも頷く。
「それはそうだな」
ソープは少しだけ笑った。
「ログナー、ありがとう」
ログナーは静かに頭を下げる。
「当然のことです」
Xiはぼそっと言った。
「次は普通の飲み物にしよう」
弥子が言う。
「普通って、例えば?」
全員が少し黙った。
ソープが楽しそうに言った。
「地球の“普通”も、案外難しいね」
ログナーは即座に言った。
「次回も監査する」
Xiが頭を抱えた。
「終わらない!」
こうして、地球の変な飲み物文化調査は終了した。
犠牲者は出なかった。
ただし、全員の舌と記憶には、いくつかの強烈な痕跡が残った。
特に、承太郎の一言は、しばらく語り継がれることになる。
「せっかくだから俺は飲むぜ」
そして。
「まっず」
その率直さは、どの飲み物よりも強烈だった。