守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

157 / 174
怪盗Xiは目薬も信用しない

いつものカフェテラス。

 

本来ならば、そこは穏やかな場所であるはずだった。

 

陽射しは柔らかい。

風もほどよい。

テーブルには紅茶と珈琲。

弥子の前には、どう見ても一人分ではない量のケーキとサンドイッチ。

ラクスは上品にカップを手に取り、キラは少し疲れた顔ながらも、

ようやく落ち着いた時間を取り戻しつつあった。

 

東山温泉の旅。

歌。

温泉卓球。

シックスの差し入れ。

…ガム。

 

振り返れば、休むための旅行だったはずなのに、どう考えても休めていない。

 

「……ようやく、普通のお茶の時間に戻れそうだね」

 

キラが、少しだけ安心したように呟いた。

 

ラクスが微笑む。

 

「ええ。こうして皆さんと静かに過ごせる時間は、大切ですわ」

 

「静か……」

 

弥子は、フォークを止めて遠い目をした。

 

「静かって、いい言葉だよね……」

 

「お前が咀嚼音を立てている時点で静かではないがな」

 

ネウロが、いつものように酷いことを言った。

 

「ケーキは静かに食べてます!」

 

「量がうるさい」

 

「量に音はないでしょ!?」

 

承太郎は、無言で珈琲を飲んでいた。

露伴はスケッチブックを広げ、誰に許可を取るでもなく、周囲の表情を観察している。

 

そしてソープは、テーブルの上に置かれた小箱をじっと見ていた。

 

黒い小箱。

 

銀色の六角形の紋章。

 

誰が見ても、明らかに不穏だった。

 

「……で」

 

露伴が、ペンを止めた。

 

「これは何だ?」

 

全員の視線が、テーブル中央の小箱に集まった。

 

怪盗Xiは、椅子に座ったまま、両手で顔を覆っていた。

 

「見なかったことにしたい」

 

「見えているものを見なかったことにはできませんわ」

 

ラクスが静かに言う。

 

「いや、ラクス。今はそういう綺麗な話じゃないんだ」

 

Xiは顔を上げた。

 

その表情は、すでにかなり疲れていた。

 

「これはたぶん、シックスからだ」

 

一瞬で、空気が変わった。

 

弥子がフォークを置く。

キラの表情が硬くなる。

承太郎がカップを静かに下ろす。

ネウロだけが、愉快そうに口元を歪めた。

 

「またか」

 

承太郎が短く言った。

 

「まただよ」

 

Xiは力なく頷いた。

 

「どうしてあの人は、人がやっとお茶を飲もうとしている時に限って、悪意を宅配してくるんだろう」

 

「悪意の時間指定便ですね」

 

弥子が嫌そうに言った。

 

「不在票が欲しいよ」

 

「受け取ったのか?」

 

露伴が訊く。

 

「受け取りたくなかった」

 

Xiは小箱を睨んだ。

 

「でも、店員さんが『お連れ様宛てのお荷物です』って持ってきたんだよ。ここで受け取り拒否したら、店員さんが困るでしょ」

 

「人がいいな」

 

「人がいいんじゃない。一般人を巻き込みたくないだけ」

 

「それは人がいいと言うんじゃあないのか?」

 

露伴の言葉に、Xiは少しだけ黙った。

 

そして、すぐに顔をしかめる。

 

「それより、この箱をどうするかだよ」

 

「開けるのか?」

 

キラが言った。

 

Xiは即答した。

 

「開けたくない」

 

「では開けなければよいのでは?」

 

ラクスがもっともなことを言った。

 

「普通ならそうなんだけど、シックス製品は放置しても怖いんだよ。開けなかったら開けなかったで、三日後に勝手に歌い出すとか、箱の中から追加の箱が増えるとか、カードだけ移動するとか、そういう嫌な可能性がある」

 

「なにその呪物」

 

弥子が真顔になった。

 

「シックスが作ったものは、だいたい呪物だよ」

 

ネウロが低く笑う。

 

「ククク……人間界では、それを贈答品と呼ぶのか」

 

「呼ばない!」

 

Xiは叫んだ。

 

「少なくとも僕は呼ばない!」

 

露伴は、黒い小箱に興味深そうな視線を向けた。

 

「しかし、いつまでも眺めていても仕方ない。中身を確認し、危険なら処分すればいい」

 

「先生、すごくまともなことを言ってるのに、目が駄目です」

 

「何がだ」

 

「未知のものを見たい目をしてる」

 

「漫画家だからな」

 

「それを免罪符にしないで!」

 

承太郎が、Xiの方を見た。

 

「開けるなら、俺がやる」

 

「いや、承太郎さんが開けて飛沫とか煙とか出たら困る」

 

「ならスタープラチナで開ける」

 

「それは助かるけど、スタープラチナの視力がよくなったりしない?」

 

「知らん」

 

「知らないのが怖いんだよ」

 

ソープが、そっと小箱を見つめた。

 

「Xi」

 

「なに、ソープ」

 

「たぶん、中身はもう悪さをしていない。箱そのものは、ただの箱だよ」

 

「本当?」

 

「うん。少なくとも、今すぐ爆発したり、増えたり、歌ったりはしない」

 

「歌う可能性を否定するところから始まるの、本当に嫌だなあ」

 

Xiは深く息を吐いた。

 

「……わかった。開けよう。ただし、誰も中身に触らない。露伴先生は特に触らない」

 

「名指しか」

 

「名指しだよ」

 

「失礼だな。僕は危険物に無分別に触れるほど愚かじゃあない」

 

Xiはじっと露伴を見た。

 

「資料としてなら?」

 

露伴は一拍置いた。

 

「……触れるかもしれない」

 

「ほら!!」

 

弥子が思わず吹き出した。

 

「露伴先生、正直すぎる!」

 

「正直なのは美徳だ」

 

「危険物の前では欠点です!」

 

承太郎が、低く言った。

 

「スタープラチナ」

 

次の瞬間、誰にも触れられないまま、黒い小箱の蓋が静かに開いた。

 

中には、細長い銀のケース。

さらに、その中に収められていたのは、小さな目薬の瓶だった。

 

透明な液体。

無駄に美しいラベル。

そこに記された名前。

 

HEXA-EYE DROP

 

「……目薬?」

 

キラが呟いた。

 

Xiは椅子の背にぐったりともたれた。

 

「最悪だ」

 

「目薬で最悪判定なの?」

 

弥子が訊く。

 

「シックス製の目薬だよ? 目に入れるんだよ? 体内どころか粘膜直撃だよ? 悪意の投与経路として最悪寄りだよ」

 

「言い方が嫌すぎる……」

 

箱の底には、カードが入っていた。

 

Xiは触りたくなさそうにしていたが、スタープラチナがそのカードをつまみ上げ、テーブルの上に置いた。

 

カードには、整った筆跡でこう記されていた。

 

我が一族自慢の研究所で精製した、至高の目薬だ。慣れると癖になる。

常人では視界が驚くほどクリアになる代わりに、

見たくない他人の本音まで見えるようになるがね。

 

沈黙。

 

カフェテラスの穏やかな空気が、一気に死んだ。

 

弥子が、ものすごく嫌そうな顔をした。

 

「見たくない他人の本音……」

 

キラは、何も言わなかった。

 

ラクスもまた、静かに目を伏せた。

 

承太郎が短く吐き捨てる。

 

「くだらねえ」

 

「いや、くだらないだけならいいんだよ」

 

Xiはカードを睨んだ。

 

「シックスは、こういうのを本気で“贈り物”として送ってくるんだ。相手がどう揺れるか、どう疑うか、どう壊れるかまで計算して」

 

ネウロは愉悦を隠さず笑う。

 

「なるほど。目薬とは名ばかりだな」

 

「何だと思う?」

 

露伴が訊いた。

 

「視界を良くする薬ではない。人間関係を悪くする薬だ」

 

ネウロは楽しげに言った。

 

「見えぬからこそ保たれているものを、わざわざ暴く。人間の弱さを突くには、なかなか悪くない」

 

「褒めるな」

 

Xiが睨む。

 

「評価しただけだ」

 

「評価もするな」

 

その時だった。

 

キラの携帯端末が、小さく震えた。

 

キラは画面を見て、眉を寄せる。

 

「……僕宛てにも、荷物が届いてる」

 

空気が、もう一段冷えた。

 

「今?」

 

Xiが顔を上げる。

 

「うん。ホテルのフロントに預けられてるって」

 

「差出人は?」

 

キラは画面を見たまま、少し黙った。

 

「……ヘキサクス関連の名義みたいだ」

 

Xiは天を仰いだ。

 

「別便!!」

 

弥子が椅子から少し身を乗り出す。

 

「え、同じやつ?」

 

「たぶん同じ」

 

Xiは顔を覆った。

 

「いや、同じじゃないかもしれない。同じ目薬でも、キラ宛てなら文面が違う。あの人、そういう嫌がらせにだけは手間を惜しまないから」

 

「丁寧な悪意ですわね」

 

ラクスの声は柔らかかったが、目が笑っていなかった。

 

「ラクス、怒ってる?」

 

キラが小さく訊いた。

 

「ええ」

 

ラクスは微笑んだ。

 

「怒っていますわ」

 

その微笑みが一番怖かった。

 

しばらくして、フロントから届けられた小箱が、テーブルに置かれた。

 

Xi宛ての箱と、ほとんど同じ。

黒。

銀色の六角形。

妙に高級感のある質感。

 

ただし、箱の端に小さく、宛名があった。

 

KIRA YAMATO

 

キラはその文字を見て、ほんの少しだけ息を止めた。

 

Xiが静かに言う。

 

「キラ。開けなくてもいい」

 

「……でも、中身は確認した方がいいんだよね」

 

「うん。でも、君がやらなくていい。承太郎さん」

 

承太郎は何も言わず、スタープラチナで箱を開けた。

 

中身は、同じだった。

 

HEXA-EYE DROP

 

そしてカード。

 

今度は、キラの名前が書かれていた。

 

キラ・ヤマト君。

君は人を守りたいのだろう。

ならば、守るべき者たちの本音を知っておくべきではないかね。

彼らが何を恐れ、何を隠し、何を君に押しつけているのか。

この一滴で、すべて見える。

 

キラは、カードを見つめたまま動かなかった。

 

誰も、すぐには声をかけられなかった。

 

風が吹く。

カップの中の紅茶が、かすかに揺れる。

 

やがて、キラは静かに言った。

 

「……使わないよ」

 

ラクスが、そっと頷く。

 

「はい」

 

「使わない。そんなものに頼って、人の心を覗くつもりはない」

 

「ええ」

 

「でも」

 

キラは、カードから目を離さなかった。

 

「こういうものを送ってくるってことは、僕が……そういうことを気にするって、わかってるんだね」

 

Xiは、少しだけ目を細めた。

 

「だからシックスなんだよ」

 

その声には、珍しく冗談がなかった。

 

「使わせる前に、考えさせる。使わなくても、相手の中に引っかき傷を残す。そういうやり方をする」

 

キラは苦く笑った。

 

「嫌な人だね」

 

「うん。嫌な人だよ」

 

露伴が、カードを覗き込む。

 

「だが、問いとしては鋭い」

 

「露伴先生」

 

Xiの声が低くなった。

 

「今、その目をするのやめて」

 

「僕はただ、文章の構造を見ているだけだ」

 

「先生が“構造”って言う時、だいたい解剖する気なんだよ」

 

「漫画家だからな」

 

「万能免罪符にしないでって何回言わせるの!?」

 

ラクスは、キラの前に置かれた箱に手を伸ばした。

ただし、中身には触れない。

箱の蓋を、静かに閉じる。

 

「キラ」

 

「うん」

 

「本音は、覗くものではありませんわ」

 

キラは、ラクスを見た。

 

ラクスは穏やかに続ける。

 

「聞くものです。待つものです。そして、相手が言葉にできる日まで、そばにいるものです」

 

「……うん」

 

「見えたからといって、わかるわけではありません。見えなかったからといって、信じられないわけでもありません」

 

キラの表情が、少しだけ緩んだ。

 

「ありがとう、ラクス」

 

「いいえ」

 

その横で、ソープが静かに言った。

 

「見えすぎる目は、たぶん目じゃないよ」

 

全員がソープを見る。

 

ソープは、いつもの柔らかな顔で、閉じられた小箱を見つめていた。

 

「それは、疑いだ。相手の言葉を待てなくなる。表情を信じられなくなる。沈黙に意味を探しすぎる。……そういう目は、よく見えるんじゃなくて、きっと曇っているんだ」

 

Xiは、小さく息を吐いた。

 

「ソープ、たまにすごくいいこと言うよね」

 

「たまに?」

 

「かなり頻繁に言うけど、普段の言動で相殺されてる」

 

「ひどいなあ」

 

弥子が、少しだけ明るくするように言った。

 

「でも、使わないで済んでよかったですね」

 

「済んでない」

 

Xiは即答した。

 

「えっ?」

 

「問題はここから。この現物をどう処分するか」

 

「捨てればいいんじゃ?」

 

「シックス製の液体を?」

 

弥子は黙った。

 

「排水口に流したら?」

 

「下水道が本音まみれになるかもしれない」

 

「嫌すぎる都市伝説!」

 

「ゴミに出したら?」

 

「回収業者さんが被害に遭う」

 

「じゃあ、割る?」

 

「飛沫が飛ぶ」

 

「燃やす?」

 

「普通の火で燃え残ったらどうするの」

 

弥子は頭を抱えた。

 

「目薬一本の処分がなんでこんなに面倒なの!?」

 

「シックス製だから」

 

Xi、キラ、承太郎が同時に言った。

 

露伴は腕を組んでいた。

 

「処分というが、完全に破壊するのは惜しいな」

 

Xiが、ゆっくりと露伴を見た。

 

「今、何て?」

 

「資料としての価値はあると言った」

 

「言ってないけど言ったも同然だよ!!」

 

「未知の薬品だぞ。人の本音を視覚化するというなら、漫画表現として極めて興味深い」

 

「だから使わないって言ってるでしょ!」

 

「使うとは言っていない。保管しておくだけだ」

 

「その台詞を言った人間は、九割の確率で後日使うんだよ!」

 

承太郎が、低く言った。

 

「露伴には渡さねえ」

 

「君に決定権があるのか?」

 

「ある」

 

「横暴だな」

 

「お前に関しては妥当だ」

 

ネウロがくつくつと笑う。

 

「ククク……岸辺露伴。おまえの好奇心は実に見事だ。己の破滅に対しても食指を伸ばすとはな」

 

「僕は破滅などしない」

 

「するタイプの者ほどそう言う」

 

「魔人に人生訓を説かれたくはないな」

 

Xiは二つの小箱を見た。

 

「処分は、ログナー司令に頼む」

 

ソープが少し首を傾げる。

 

「ログナーに?」

 

「うん」

 

「どうやって?」

 

Xiは真顔で言った。

 

「LEDミラージュのインフェルノナパームで焼く」

 

弥子が固まった。

 

「……目薬を?」

 

「目薬を」

 

「小瓶ですよね?」

 

「小瓶だよ」

 

「火炎放射器で?」

 

「超高温のフレームランチャーで」

 

「過剰じゃない!?」

 

Xiは即答した。

 

「シックス製品に過剰処分はない」

 

承太郎が頷いた。

 

「妥当だな」

 

「承太郎さんまで!?」

 

キラも、少し困った顔で言う。

 

「でも……誰かが間違って使う可能性をなくすなら、それくらいした方がいいと思う」

 

「キラまで!?」

 

ラクスも微笑んだ。

 

「灰も残らないのでしたら、安心ですわね」

 

「ラクスさんまで!?」

 

弥子が周囲を見回す。

 

「え、私がおかしいの? 目薬一本を巨大ロボの火炎放射器で焼くの、そんなに普通?」

 

ネウロが楽しげに言った。

 

「普通ではない。だが、普通ではない相手には、普通ではない処分がふさわしい」

 

「それはそうかもしれないけど!」

 

露伴は不満そうだった。

 

「まったく。文化的価値への敬意が足りない」

 

Xiが即座に指を突きつける。

 

「今の発言で、インフェルノナパーム処分が正しいって確定したからね!」

 

「僕を危険物判定の根拠にするな」

 

「なってるんだよ!」

 

こうして、二つの小箱は厳重に封印された。

 

触れない。

開けない。

嗅がない。

揺らさない。

露伴に近づけない。

 

その注意書きが、Xiの字で封印袋に書かれた。

 

数日後。

 

ログナー司令のもとに、封印容器が届いた。

 

添えられていたメモには、こうある。

 

シックス製目薬。

人の本音が見えるらしい。

絶対に開封しないでください。

通常処分不可。

可能ならLEDミラージュのインフェルノナパームで、灰も残さず焼却してください。

追伸:露伴先生には絶対に渡さないでください。

 

ログナーは、メモを読み終えると、わずかに目を細めた。

 

「……妥当だな」

 

控えていた者が、思わず聞き返した。

 

「司令。対象は、目薬の小瓶二本とのことですが」

 

「だからどうした」

 

ログナーの声に、迷いはない。

 

「通常焼却では残渣が出る。薬品処理では反応生成物が不明。保管すれば、いつか誰かが開ける。破砕すれば飛散の危険がある」

 

彼は封印容器を見下ろした。

 

「灰すら残すな」

 

白い巨神、LEDミラージュが起動する。

 

その姿は、目薬二本に向けるには、あまりにも壮大だった。

だが、相手はただの目薬ではない。

シックスが作った、人の心を疑わせるための道具である。

 

フレームランチャーが、静かに照準を定める。

 

ログナーが命じた。

 

「焼却処分」

 

次の瞬間。

 

インフェルノナパームの炎が奔った。

 

それは、ただの火炎ではなかった。

超高温の白い奔流。

悪意を焼き尽くすための、過剰にして適正な炎。

 

黒い小箱も。

銀のケースも。

小瓶も。

液体も。

ラベルも。

シックスの気取ったカードも。

 

すべてが、音もなく消えた。

 

燃えかすはない。

 

灰もない。

 

臭いすら残らない。

 

ただ、そこにあったはずの悪意だけが、最初から存在しなかったかのように消滅していた。

 

ログナーは、短く告げる。

 

「処分完了」

 

そして、少しだけ遠くを見る。

 

「……やはり、陛下のお側には、お目付け役が必要だ」

 

その言葉の意味を、遠く離れたXiはまだ知らない。

 

後日。

 

いつものカフェテラスで、Xiの端末にログナーから通信が入った。

 

処分した。

 

Xiは、ほっと息を吐く。

 

「ありがとう。助かったよ。ちなみに、どうやって?」

 

インフェルノナパームだ。

 

「……目薬を?」

 

目薬を。

 

「小瓶二本だよ?」

 

シックス製だ。

 

Xiは一瞬で頷いた。

 

「うん。正しいね」

 

弥子が横で小さく叫ぶ。

 

「納得が早い!」

 

露伴は、まだ少し不満そうに紅茶を飲んでいた。

 

「惜しい資料だった」

 

Xiは即座に振り向いた。

 

「ほら!! やっぱり焼いて正解だった!!」

 

承太郎が帽子の庇を下げる。

 

「やれやれだぜ」

 

ラクスは穏やかに微笑む。

 

「見えなくてもよいものは、見えないままでよいのですわ」

 

キラは、その言葉に静かに頷いた。

 

「うん。僕は、見えるものだけじゃなくて……ちゃんと、聞くよ」

 

ソープがにこりと笑う。

 

「それでいいんだよ、キラ」

 

ネウロは、つまらなさそうでいて、どこか愉快そうに笑った。

 

「人間とは面倒なものだな。見えぬものに怯え、見えすぎることにも怯える」

 

「でも」

 

弥子がケーキを一口食べてから言った。

 

「見えないからこそ、信じるってこともあるんじゃない?」

 

ネウロは弥子を見た。

 

「ほう」

 

「なによ」

 

「貴様にしては、まともなことを言った」

 

「褒め方が最低!」

 

Xiは、ようやく紅茶に手を伸ばした。

 

「さて、と。今度こそ普通のお茶の時間に――」

 

その時。

 

カフェの店員が、少し困った顔で近づいてきた。

 

「すみません。こちら、皆様宛てにお届け物が……」

 

テーブルの上に置かれたのは、小さな包み。

 

黒い包装紙。

銀色の六角形。

 

Xiの手から、カップが滑りかけた。

 

「……次は何?」

 

弥子が青ざめる。

 

「差し入れですか?」

 

キラが、力なく笑う。

 

「差し入れって言葉が怖くなってきた……」

 

露伴だけが、少し身を乗り出す。

 

「開けてみよう」

 

Xiが叫んだ。

 

「先生は一回黙って!!」

 

カフェテラスに、今日もまた、平穏は訪れなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。