守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

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怪盗Xiは旧世代機なら安心だと思いたい

「今回は、少し気を楽にしていい」

 

ログナー司令は、いつものように真顔でそう言った。

 

怪盗Xiは、即座に警戒した。

 

「司令がそう言う時点で、もう気が楽じゃない」

 

「前回までのような特殊機ではない」

 

「特殊機じゃない?」

 

「そうだ」

 

Xiは指を折りながら確認する。

 

「LEDミラージュみたいな星団最強の白い悪魔じゃない?」

 

「違う」

 

「ヤクトみたいな規格外巨大兵器じゃない?」

 

「違う」

 

「KOGみたいなプロポーズ用黄金神話ロボじゃない?」

 

「違う」

 

「テロルみたいな忍者けん玉じゃない?」

 

「違う」

 

「スピードミラージュみたいに禁止兵器を持ってない?」

 

「持っていない」

 

Xiは、少しだけ肩の力を抜いた。

 

「……じゃあ、今回は本当に安心?」

 

カイエンが横で笑った。

 

「お前、まだ学習が足りないな」

 

「やめて。そういう前フリやめて」

 

ログナーは奥へ視線を向ける。

 

「ホーンド・ミラージュだ」

 

その名を聞いて、キラ・ヤマトが顔を上げた。

 

「ホーンド……角のあるミラージュ?」

 

「そうだ」

 

ラクスは静かに言う。

 

「ミラージュの名を持つ以上、やはり特別な機体なのでしょうか」

 

ログナーは頷いた。

 

「LEDミラージュが正式配備される以前、ミラージュナイトの主力として運用されていたMHだ」

 

Xiの顔が引きつった。

 

「旧世代機って言ってたよね?」

 

「旧世代だ」

 

「でもミラージュナイトの主力なんだよね?」

 

「そうだ」

 

「気が楽になる要素どこ?」

 

ログナーは淡々と答える。

 

「LEDよりは気負わずに済む」

 

Xiは両手を広げた。

 

「比較対象が星団最強の白い悪魔なんだよ!」

 

弥子が少し首を傾げる。

 

「でも、古い機体なら少し安心なんじゃないですか?」

 

カイエンが笑う。

 

「古いから弱い、とは限らんぞ」

 

キラも頷いた。

 

「そうですね。設計思想が古くても、運用者や整備状態、機体の素性次第では十分以上に強いです」

 

Xiはキラを見た。

 

「キラ、そういう正論で僕を追い詰めないで」

 

ネウロがくつくつと笑う。

 

「ククク……古い刃ほど、血を吸っていることもある」

 

「魔人はもっと追い詰めないで!」

 

やがて、一行は格納スペースの奥へ進んだ。

 

エンゲージSR-1のような静かな気品でもない。

バッシュのような黒い宿命でもない。

破烈の人形のような少年の憧れでもない。

 

そこに立っていたのは、白い騎士だった。

 

ホーンド・ミラージュ。

 

丸みを帯びた重厚な肩。

大きな盾。

長大な鎌のような武装。

額には、名の通り角を思わせる形状。

白い機体だが、LEDミラージュとは違う。

 

透明感ではない。

これは、もっと古い白だ。

 

磨き上げられた骨。

戦場を渡ってきた鎧。

美しさの中に、どこか歴戦の匂いがある。

 

弥子が小さく言った。

 

「なんか……ベテランっぽいです」

 

キラは目を細めた。

 

「旧世代機……でも、弱いという意味では全然ないですね」

 

ログナーは短く答える。

 

「当然だ」

 

露伴は、すでに目を輝かせていた。

 

「旧世代の主力機。新型に置き換えられたが、なお実戦の匂いを残すMH……いいじゃあないか」

 

Xiは即座に言う。

 

「先生、資料にする顔してる」

 

「もうしている」

 

「早い!」

 

承太郎が露伴の肩を掴む。

 

「ほどほどにしろ」

 

「見るだけだ」

 

「お前の見るだけは信用できん」

 

Xiはホーンド・ミラージュを見上げながら、恐る恐る言った。

 

「……で、これは本当に旧世代機なんだよね?」

 

ログナーが頷く。

 

「LEDミラージュ以前のミラージュナイト主力機だ」

 

「主力機」

 

「この頃は、ミラージュナイトと言えば――」

 

ログナーは、少し間を置いて言った。

 

「ホーンド・ミラージュを駆る死神たち、と呼ばれていた」

 

Xiは一拍置いた。

 

「二つ名が怖すぎる」

 

弥子も青ざめた。

 

「死神たち……」

 

ネウロは愉快そうに笑う。

 

「ククク……よい名だ。戦場で出会えば、終わりを告げる白い影というわけか」

 

「魔人が気に入った!」

 

キラはホーンド・ミラージュを見上げたまま、静かに言った。

 

「主力機として多数運用されていたなら、戦場での印象は相当強かったでしょうね」

 

ログナーが答える。

 

「ミラージュナイトが動かす以上、敵から見れば死神だ」

 

Xiは頭を抱えた。

 

「司令、さらっと怖いこと言う」

 

カイエンが笑う。

 

「だが、間違ってはいない」

 

「カイエンまで肯定しないで!」

 

ラキシスは、ソープの隣でホーンド・ミラージュを見ていた。

 

「白いのに、優しい白ではありませんね」

 

ソープが頷く。

 

「うん。これは戦うための白だね」

 

Xiは小声で言う。

 

「陛下の表現が的確すぎて怖い」

 

ラクスは、少し真剣な表情で言った。

 

「同じ白でも、意味が違うのですね」

 

「はい」

 

キラは頷く。

 

「ストライクやフリーダムの白とも違う。これは、部隊の象徴としての白、というより……戦場で相手に恐れられた白なんだと思います」

 

露伴が言う。

 

「白い死神か。いい表現だ」

 

Xiは振り向いた。

 

「先生、勝手にタイトルをつけないでください」

 

「つけたくなるだろう」

 

「分かるけど!」

 

ホーンド・ミラージュの前で、Xiは慎重にチェックを始めた。

 

「バスターランチャーは?」

 

ログナーが答える。

 

「ない」

 

「インフェルノ・ナパームは?」

 

「ない」

 

「けん玉フレイルは?」

 

「ない」

 

「エストさんにじっと見られる?」

 

「今回はない」

 

「じゃあ、やっぱり安心……?」

 

ログナーは言った。

 

「死神と呼ばれた機体だ」

 

「安心させる気がない!」

 

弥子が笑う。

 

「でも、今回は見た目はかっこいいですよ!」

 

Xiも頷いた。

 

「それは認める。古いけど古臭くない。むしろ歴戦の強キャラ感がある」

 

カイエンが言う。

 

「分かってきたじゃないか」

 

「分かりたくない方向も含めて、だいぶ分かってきました」

 

キラはホーンド・ミラージュの脚部や肩装甲を見ている。

 

「新型と違って、各部に余裕がありますね。重そうだけど、その分、安定している。扱いやすさというより、信頼性を重視しているように見えます」

 

ログナーがわずかに頷く。

 

「よい観察だ」

 

キラは少し嬉しそうにした。

 

Xiはすぐに言う。

 

「キラ、褒められてる場合じゃない。司令に褒められると装備が増える」

 

キラが苦笑する。

 

「僕は大丈夫だと思うけど……」

 

ラクスがにこりと微笑む。

 

「本当に?」

 

キラは少し黙った。

 

「……気をつける」

 

ネウロがホーンド・ミラージュを見上げて言った。

 

「新型の輝きではなく、古い獣の牙だな」

 

Xiはうなずく。

 

「それはちょっと分かる」

 

「貴様、今日はやけに素直だな」

 

「だって、これは怖いけど分かりやすいんだよ。LEDみたいに神話級でもなく、KOGみたいに黄金の愛でもなく、テロルみたいに変な武器でもなく、ただ“戦場で強かった機体”って感じがする」

 

カイエンは満足げに言う。

 

「それが主力機というものだ」

 

「主力機なのに死神呼ばわりは物騒だけどね」

 

ログナーが言う。

 

「敵がそう呼んだ」

 

「味方じゃないんだ」

 

「当然だ」

 

「そこはちょっと安心した」

 

泉さんは、メモを取りながら言う。

 

「旧世代機という言葉は、安心材料になりませんね」

 

Xiは大きく頷いた。

 

「今日の結論がもう出ました」

 

ログナーはホーンド・ミラージュを見上げる。

 

「それでも、LEDよりは精神的負担が少ないはずだ」

 

Xiは眉を寄せた。

 

「司令、本気で配慮してる?」

 

「している」

 

「配慮の形が重いんだよなあ」

 

カイエンが笑う。

 

「比較対象が悪いだけだろう」

 

「星団最強機と比べて軽い、って言われても!」

 

弥子が明るく言う。

 

「でも、もしXiさんが乗るなら、LEDよりこっちの方が入りやすいんじゃないですか?」

 

Xiは即座に振り向いた。

 

「弥子ちゃん、今“乗るなら”って言った?」

 

「言いました」

 

「言わないで!」

 

ログナーが言う。

 

「座ってみるか」

 

Xiは両手で耳を塞ぎかけた。

 

「出た!」

 

「座るだけだ」

 

「その言葉はもうミラージュ系列では禁止!」

 

ソープがにこにこしている。

 

「でも、旧世代なら少し楽じゃない?」

 

「陛下まで!」

 

ラキシスもやさしく言う。

 

「Xiさん、無理はなさらなくてよいと思います。でも、もし必要になった時に怖くないよう、少し慣れておくのも……」

 

Xiは胸を押さえた。

 

「姫様の善意がまた逃げ道を塞いでくる……!」

 

キラが控えめに言う。

 

「座るだけなら、構造理解にはなりますよね」

 

Xiはキラを見る。

 

「キラまで技術屋側に戻った!」

 

ラクスが言う。

 

「キラ」

 

キラはすぐに姿勢を正す。

 

「……本人が嫌ならやめるべきです」

 

Xiは親指を立てた。

 

「帰ってきた」

 

ログナーは少し沈黙した。

 

「今回は見学のみでもよい」

 

Xiは目を細める。

 

「“今回は”?」

 

「段階を踏む」

 

「段階を踏まないで!」

 

露伴が面白そうに言う。

 

「いいじゃあないか。旧世代機から慣らして、やがてLEDへ」

 

Xiは露伴を睨む。

 

「先生は黙っててください!」

 

承太郎が露伴を押さえる。

 

「やめておけ」

 

「まだ提案しただけだ」

 

「悪い提案だ」

 

ホーンド・ミラージュの周囲を見て回ることになった。

 

近くで見ると、印象はさらに変わった。

 

LEDミラージュほどの透明な冷たさはない。

クロスほど軽やかでもない。

だが、そこには古い主力機ならではの説得力があった。

 

装甲は重い。

武装は実用的。

盾も大きい。

角のような頭部は、見れば見るほど名前にふさわしい。

 

弥子が言った。

 

「なんか、ベテラン騎士って感じです」

 

カイエンが頷く。

 

「いい感想だ」

 

キラも言う。

 

「分かります。最新鋭のスマートさじゃなくて、戦場で信頼される感じがある」

 

Xiはホーンド・ミラージュの盾を見た。

 

「これを駆る死神たち、か」

 

ログナーが短く言う。

 

「当時、敵がそう呼んだ」

 

Xiは少しだけ黙った。

 

「味方から見れば頼もしいけど、敵から見れば終わりの象徴」

 

「そうだ」

 

「……ミラージュって、そういうの多いね」

 

ログナーは答えた。

 

「戦場とはそういうものだ」

 

ラクスが静かに言う。

 

「誰かにとっての守護者は、誰かにとっての死神にもなり得るのですね」

 

キラは、その言葉を聞いて表情を引き締めた。

 

「……はい」

 

Xiも、少しだけ真面目な顔になった。

 

「それは、分かる気がします」

 

ネウロが笑う。

 

「ククク……珍しく静かだな」

 

「うるさいな。考えてただけ」

 

ホーンド・ミラージュの白い装甲は、そこで静かに輝いていた。

 

古い機体。

 

だが、古いから軽いわけではない。

古いから安全なわけでもない。

むしろ、その歴史のぶんだけ、重い。

 

Xiはため息を吐いた。

 

「旧世代機なら安心だと思いたかった」

 

カイエンが笑う。

 

「思えたか?」

 

「無理」

 

「だろうな」

 

ログナーが言う。

 

「だが、LEDよりは気が楽だろう」

 

Xiは少し考えた。

 

「……それは、まあ」

 

ログナーがすぐに言った。

 

「記録する」

 

「記録しないで!」

 

弥子がにやにやする。

 

「今、少し認めましたね」

 

「相対評価だよ!」

 

キラが笑う。

 

「でも、相対評価でも大事ですよ」

 

「キラ、優しいようで追い詰めてる」

 

泉さんが冷静に言う。

 

「本日は見学のみです。搭乗も適性確認もありません」

 

Xiは泉さんを見る。

 

「泉さん、今日も命綱」

 

ログナーは短く言う。

 

「見学のみとする」

 

「よし!」

 

ソープは楽しそうに笑う。

 

「Xi、少し安心した?」

 

「少しだけです」

 

ラキシスも微笑む。

 

「よかったです」

 

Xiはホーンド・ミラージュをもう一度見上げた。

 

「でも、死神って呼ばれてたんだよなあ……」

 

ネウロが言う。

 

「似合うではないか」

 

「僕が乗る前提で言わないで!」

 

露伴が言う。

 

「怪盗Xi、旧世代の白い死神に乗る。題名としては悪くない」

 

「悪い!」

 

承太郎が言った。

 

「やれやれだぜ」

 

その日の結論。

 

ホーンド・ミラージュは、LEDミラージュ正式配備以前のミラージュナイト主力MH。

旧世代機ではある。

だが、ミラージュナイトが駆れば当然強い。

当時、敵からは「ホーンド・ミラージュを駆る死神たち」と恐れられた。

LEDよりは気が楽かもしれない。

しかし、ミラージュである時点で重い。

Xiは座らなかった。

ログナー司令は、段階を踏む気でいる。

泉さんは今日も常識で守った。

 

帰り道。

 

Xiはぽつりと言った。

 

「普通の旧世代機って、もっと安心するものじゃないの?」

 

カイエンが答える。

 

「普通ならな」

 

「普通じゃないよね」

 

ログナーが短く言う。

 

「ミラージュだ」

 

「知ってた」

 

キラは少し笑った。

 

「でも、いい機体でしたね」

 

Xiも頷いた。

 

「うん。怖いけど、いい機体だった」

 

ラクスは穏やかに言う。

 

「歴史のある機体でしたわ」

 

弥子が元気よく言った。

 

「白いベテラン死神ですね!」

 

Xiは慌てて言う。

 

「言い方!」

 

ネウロは笑う。

 

「悪くない」

 

「魔人に受けた!」

 

ソープとラキシスは楽しそうに笑っている。

露伴は何かを描きたそうで、承太郎に見張られている。

泉さんは「本日は備品破損なし」とメモしている。

ログナー司令は、何かを記録している。

 

Xiは、その様子を見て頭を抱えた。

 

「司令、何を書いてるの?」

 

「ホーンド・ミラージュ見学完了」

 

「それだけ?」

 

「旧世代機なら、精神的負担がやや軽い」

 

「余計なことを記録しないで!!」

 

カイエンが笑う。

 

「一歩前進だな」

 

「前進してない!」

 

それでもXiは、ほんの少しだけ思った。

 

LEDよりは、確かに気が楽だった。

 

だが。

 

ホーンド・ミラージュを駆る死神たち。

 

その二つ名が、帰り道の頭の中でずっと響いていた。

 

「旧世代機も、信用できないな」

 

Xiは、心底そう思った。

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