守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

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怪盗Xiは一号機の存在を聞きたくなかった

「前回見せたスピードミラージュは、二号機だ」

 

ログナー司令が、何でもないことのように言った。

 

怪盗Xiは、そこで足を止めた。

 

「……今、二号機って言った?」

 

「言った」

 

「じゃあ何? 一号機があるってこと?」

 

レディオス・ソープが、にこにこと笑った。

 

「うん。別に、一号機が存在するってことさ」

 

Xiは頭を抱えた。

 

「聞きたくなかった!!」

 

ログナーは淡々と続ける。

 

「スピードミラージュ一号機、ワンダースカッツだ」

 

「名前だけならかっこいい。でも嫌な予感しかしない」

 

弥子が首を傾げた。

 

「前のスピードミラージュって、バスターランチャー持ってたやつですよね?」

 

キラが頷く。

 

「うん。高速機動型で、宇宙空間や空中戦を想定したような印象だった」

 

Xiはログナーを睨む。

 

「今回は違うんですよね? 一号機だから、もっと穏やかなんですよね?」

 

ログナーは答えた。

 

「対MH戦は想定していない」

 

Xiは少しだけ安心しかけた。

 

「ほら! 対MH戦じゃない!」

 

「拠点制圧用だ」

 

Xiは固まった。

 

「もっと悪い!!」

 

泉さんが真顔で言った。

 

「制圧、という言葉の範囲を確認したいです」

 

「標的拠点の無力化だ」

 

「火力が過剰!」

 

Xiは泉さんを指差した。

 

「もっと言って!」

 

格納庫の奥へ進むと、そこにあったのは、白く鋭い機影だった。

 

ワンダースカッツ。

 

機体というより、飛ぶ刃。

MHというより、空を裂く槍。

長く伸びたバスターランチャーが、機体の存在意義をこれでもかと主張している。

 

バクスチュアルは静かに見上げた。

 

「バスター……ランチャー……」

 

Xiは即座に頷いた。

 

「そう。普通じゃないやつ」

 

バクスチュアルは少しだけ間を置いて言った。

 

「普通……デハ……ナイ……」

 

「そう! バクスチュアルが正しい!」

 

ログナーは平然としている。

 

「シックスの拠点を見つけ次第、これで――」

 

泉さんが遮った。

 

「火力が過剰です!」

 

ログナーは短く答える。

 

「相手はシックスだ」

 

キラが苦い顔をする。

 

「気持ちは分かりますけど、周辺被害の計算が必要です。バスターランチャー級の兵器を拠点制圧に使うなら、退避範囲だけでも――」

 

ログナーは頷いた。

 

「退避勧告は出す」

 

Xiは叫んだ。

 

「退避勧告で済む兵器じゃないよね!?」

 

ネウロが愉快そうに笑う。

 

「ククク……怪盗の故郷掃除には、なかなか相応しい箒ではないか」

 

「掃除って規模じゃない!」

 

弥子はワンダースカッツを見上げて言った。

 

「でも、細くて速そうで、ちょっと鳥みたいですね」

 

露伴が目を輝かせる。

 

「鳥というより、空そのものに刃を入れるデザインだな。いいじゃあないか」

 

承太郎が低く言う。

 

「近づきすぎるなよ」

 

「分かっている」

 

「お前の分かっているは信用できん」

 

Xiはソープを見た。

 

「陛下、これも“優雅”とか言うんですか?」

 

ソープは少し考えてから言った。

 

「うん。速さのための優雅さかな」

 

Xiは顔を覆った。

 

「陛下の優雅、毎回何か混ざってる!」

 

ラキシスはうっとりと機体を見上げている。

 

「ソープ様の作られるものは、やはり美しいです」

 

「姫様の全肯定がまた発動した!」

 

カイエンが笑う。

 

「しかしまあ、こいつは乗るというより撃つための機体だな」

 

「乗る前提で話さないで!」

 

ログナーがXiを見た。

 

「二号機の方が良かったか?」

 

Xiは両手を広げた。

 

「そういう問題じゃない!!」

 

「二号機は高速戦闘向きだ」

 

「一号機は拠点制圧向き! どっちも怖い!」

 

「用途が違う」

 

「怖さの種類が違うだけ!」

 

バクスチュアルは、ワンダースカッツを見上げたまま言った。

 

「普通……守ル……タメ……異常……必要……?」

 

Xiは少しだけ黙った。

 

ログナーが答える。

 

「時にはな」

 

Xiは、苦々しく笑った。

 

「司令の正論は、だいたいバスター砲を背負ってくるんだよなぁ」

 

キラは静かに言った。

 

「でも、普通を守るために何を使うかは、ちゃんと考えないといけないと思います」

 

ラクスも頷いた。

 

「守りたい日常まで壊してしまっては、意味がありませんわ」

 

バクスチュアルは、ゆっくり繰り返した。

 

「日常……壊ス……意味……ナイ……」

 

Xiは彼女を見る。

 

「うん。そこ、すごく大事」

 

ログナーは少し沈黙した。

 

「運用には制限を設ける」

 

泉さんがすかさず言う。

 

「その制限を先に書面化してください」

 

「分かった」

 

Xiが驚く。

 

「泉さんが司令を止めた!」

 

弥子が拳を握る。

 

「常識の勝利!」

 

ネウロが言う。

 

「この面子で常識が勝つとは珍しいな」

 

ソープは楽しそうだった。

 

「でも、見るだけならいいだろう?」

 

Xiはため息を吐いた。

 

「見るだけなら、です」

 

ログナーが短く言う。

 

「座ってみるか」

 

「言うと思った!!」

 

カイエンが笑う。

 

「お約束だな」

 

「お約束にしないで!」

 

バクスチュアルはXiを見る。

 

「Xi……座ラナイ……?」

 

「座りません」

 

「高速……離脱……得意……?」

 

「そこも覚えなくていい!」

 

弥子が小声で言う。

 

「でも、逃げ足は速そうですよね」

 

「弥子ちゃん!?」

 

キラが慌ててフォローする。

 

「回避行動に向いている、という意味なら……」

 

「キラまで技術的に肯定しないで!」

 

ログナーは記録帳を開いた。

 

「Xi、ワンダースカッツ見学。搭乗拒否。高速離脱適性については未確認」

 

「記録しないで!」

 

「未確認だ」

 

「未確認って書くな!」

 

スピードミラージュ二号機クラウドスカッツには、一号機が存在した。

その名は、ワンダースカッツ。

対MH戦ではなく、拠点制圧用。

バスターランチャー標準装備。

火力は過剰。

ただし、相手がシックスだと少しだけ反論しづらい。

泉さんは運用制限の書面化を求めた。

キラとラクスは、日常を壊さない守り方の必要性を説いた。

バクスチュアルは「普通ではない」と正しく判断した。

Xiは座らなかった。

 

帰り道。

 

Xiはぽつりと言った。

 

「僕、つい最近までカプレーゼ食べて、普通って素晴らしいって言ってたんだけど」

 

ログナーが答える。

 

「普通を守るには、異常への備えも必要だ」

 

Xiは肩を落とした。

 

「正論の形をしたバスターランチャー……」

 

バクスチュアルが隣で小さく言う。

 

「普通……守ル……難シイ……」

 

Xiは頷いた。

 

「うん。難しい」

 

「デモ……普通……良イ……」

 

Xiは少し笑った。

 

「そうだね」

 

「バスター……普通……デハ……ナイ……」

 

「それもそうだね」

 

ラキシスが微笑む。

 

「でも、今日は見学だけで済みました」

 

Xiはすぐに言った。

 

「姫様、それが一番の救いです」

 

ソープはにこにこしている。

 

「次はもう少し小さいものにしようか」

 

Xiは身構えた。

 

「陛下の“少し小さい”は信用できません!」

 

ログナーが記録帳を閉じる。

 

「次回検討」

 

「検討しないで!!」

 

その声が、格納庫の通路に響いた。

 

普通の日常を取り戻しつつある怪盗Xi。

 

しかし、ミラージュの外堀は、今日もまた一つ、静かに埋まった。

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