守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

2 / 175
この4人でファミレス会議

夕方。

 

駅前のサイゼリヤ。

学生、家族連れ、仕事帰りの会社員でそこそこ混んでいる。

 

その店の一角だけ、妙に空気が重かった。

 

四人掛けテーブル。

向かい合って座るのは、

 

キラ・ヤマト。

空条承太郎。

ダグラス・カイエン。

脳噛ネウロ。

 

どう考えても、同席していい面子ではない。

 

最初に口を開いたのはキラだった。

 

「ええと……

とりあえず、何か頼もうか」

 

承太郎はメニューを開きもせず、短く言う。

 

「ブレンドコーヒー」

 

カイエンは椅子に深く座って、ふうと息を吐いた。

 

「赤ワイン、デカンタで」

 

キラが目をぱちぱちさせる。

 

「えっ、飲むんですか」

 

「飲むさ」

カイエンは当然のように答えた。

「こういう会議ってのは、素面でやると疲れる」

 

承太郎が横からぼそりと言う。

 

「勤務中に酒か」

 

「勤務じゃない。巻き込まれだ」

カイエン。

 

その間、ネウロはメニューをじっと見つめていた。

 

キラが少しほっとした顔になる。

 

「ネウロも何か頼む?」

 

ネウロはページから目を離さず答えた。

 

「この店、妙だな」

 

キラの笑顔が止まる。

 

「あ、うん、そういう“妙”じゃなくて、食べ物の話なんだけど」

 

「違う」

ネウロは細い指でメニュー表をとんと叩いた。

「この間違い探し、右上のランプの形状差異が露骨すぎる。初心者向けの罠だ。

真に見るべきは、猫のしっぽの角度と皿の楕円率……

ククク、実に性格の悪い作りだ」

 

キラが固まる。

 

承太郎がちらっと見る。

 

「……もう見つけたのか」

 

「六つだ」

ネウロは愉快そうに笑った。

「残るは四つ。

この制作者、観察力を試しているのではない。人間の“思い込み”を弄んでいる」

 

カイエンがメニューを閉じる。

 

「いや、ほんとに何しに来たの君」

 

そこへ店員がやってきた。

 

「ご注文お決まりでしょうか?」

 

キラが慌ててメニューを開く。

 

「あっ、はい!

ええと、僕は……ミラノ風ドリアと、ドリンクバーで」

 

「コーヒー」

承太郎。

 

「赤ワイン、デカンタと、辛味チキン。

あと適当に肉」

カイエン。

 

店員がネウロを見る。

 

ネウロは静かに言った。

 

「謎を」

 

店員が止まる。

 

キラが電光石火で割って入った。

 

「すみません! じゃあ、えっと……

ポップコーンシュリンプと、ドリンクバーで!」

 

店員は営業スマイルのまま去っていった。

 

気まずい沈黙。

 

キラが小声で言う。

 

「ネウロ、せめて注文くらい普通にしてよ……」

 

「吾輩は普通だ」

ネウロは真顔で言った。

「この店で最も価値があるのは間違いなく“謎”だろう」

 

「たぶん一皿300円前後の料理にも、もうちょっと敬意を払ったほうがいい」

カイエンが言う。

 

承太郎は腕を組んだまま、低く呟く。

 

「で、会議ってのは何の話だ」

 

キラが居住まいを正す。

 

「ええと……

もし僕たち四人が同じ事件を担当するなら、どう動くのが一番いいか、って話で……」

 

「今さら確認か?」

承太郎。

 

「大事だよ」

キラは真面目に言う。

「みんなやり方が全然違うし、ちゃんと擦り合わせておかないと――」

 

「無駄だな」

ネウロ。

 

「えっ」

 

「擦り合わぬから面白いのだ」

ネウロは頬杖をついた。

「貴様は守ることを優先し、

この不良は敵を叩き潰すことを優先し、

そこの酔いどれ剣聖は損害計算で動く。

そして吾輩は謎の核心を喰う。

最初から一致するはずがない」

 

「酔ってない」

カイエンはまだワインが来ていないのに言った。

 

「でも、方向性は合わせられるだろ」

キラ。

 

「必要ねぇな」

承太郎が答える。

「敵がいて、被害者がいて、守るべきもんがある。

それで十分だ」

 

「雑っ!」

キラが思わず言った。

 

承太郎はちらっとキラを見る。

 

「だが間違っちゃいねぇだろ」

 

キラは言葉に詰まる。

確かに、間違ってはいない。

 

そこへ料理が運ばれてきた。

 

ミラノ風ドリア。

辛味チキン。

ポップコーンシュリンプ。

コーヒー。

赤ワインのデカンタ。

 

カイエンがようやく少し機嫌よさそうにグラスを持つ。

 

「ようやく人心地ついた」

 

ネウロはポップコーンシュリンプを一つつまみ、じっと見た。

 

「ふむ」

 

「食べるんだ」

キラがちょっと驚く。

 

「人間界の食物に意味がないわけではない」

ネウロは言う。

「だが、これはただの海老だ」

 

「海老以外の何を期待したんですか」

キラ。

 

カイエンがワインを飲みながら口を開く。

 

「結局のとこ、会議ってのは役割の確認でいいんじゃないのかい。

キラは話を聞く。承太郎は現場を押さえる。ぼくは最悪の事態を見積もる。

ネウロは……」

 

「喰う」

承太郎。

 

「喰う」

カイエン。

 

「喰うね」

キラ。

 

ネウロが不愉快そうに眉をひそめる。

 

「貴様ら、吾輩をなんだと思っている」

 

三人が一瞬黙る。

 

そしてキラが遠慮がちに言う。

 

「……謎を食べるひと?」

 

「魔人だ」

ネウロは訂正した。

「そこを間違えるな」

 

承太郎がコーヒーを一口飲む。

 

「似たようなもんだろ」

 

「テメーは俺を怒らせた、って言う側が言う台詞じゃないですよね、それ」

キラがつい突っ込む。

 

カイエンが少し笑う。

 

「やれやれ。だいぶ打ち解けてきたじゃないか」

 

「打ち解けてません!」

キラ。

「僕ずっと胃が痛いんですけど!」

 

「気のせいだ」

承太郎。

 

「いや絶対気のせいじゃないよ!」

 

そのとき、ネウロがふっと笑った。

 

「なるほど」

 

キラが嫌な予感を覚える。

 

「今度は何」

 

ネウロはメニュー票をひらりと持ち上げた。

 

「十個、全て見つけた」

 

「おお」

カイエンが少し感心したように言う。

「で?」

 

ネウロはゆっくりと顔を上げる。

 

「この卓に、異物が混じっている」

 

空気が変わる。

 

承太郎の目が鋭くなる。

キラも息を呑む。

カイエンはグラスを置いた。

 

「……何?」

キラ。

 

ネウロが指差したのは、テーブル端の小さな伝票立てだった。

 

「これだ」

 

承太郎が手に取る。

ただのレシート入れに見える。

 

「何かあるのか」

 

「裏」

ネウロ。

 

承太郎がひっくり返すと、底面に小さな紙片が貼りついていた。

手書きの文字。

 

“次は7番テーブル”

 

キラの顔色が変わる。

 

「なにこれ……」

 

カイエンが立ち上がりかける。

 

「店内で何かやってる連中がいるな」

 

「ククク」

ネウロの目が愉悦に細まる。

「ただの食事会が、“会議”になったな」

 

承太郎が静かに帽子を押さえる。

 

「7番テーブル、家族連れか」

 

キラがそちらを見る。

小さな子供を連れた親子が、楽しそうにピザを分けている。

 

「まさか……!」

 

「まだ分からん」

カイエンは冷静だった。

「だが、分からんからこそ確認する価値がある」

 

キラが立ち上がる。

 

「行こう」

 

「待て」

承太郎。

 

「え?」

 

「不用意に近づけば相手に悟られる」

承太郎は一瞬で店内を見渡した。

「出口は二つ。厨房側に一つ、正面に一つ。

見張りがいるなら、慌てた客を装って逃げる」

 

カイエンが頷く。

 

「ぼくが厨房側を見る。

キラ、おまえさんは家族連れに自然に接触しろ。変に脅かすなよ」

 

「うん」

 

「吾輩はこの“匂い”を辿ろう」

ネウロ。

 

承太郎が席を立つ。

 

「いいぜ。

ファミレスだろうが何だろうが、やることは変わらねぇ」

 

キラが息を吸う。

 

「誰も傷つけさせない」

 

カイエンはワインを一気に飲み干した。

 

「……まったく、厄介事は苦手なんだがな」

 

ネウロは舌なめずりするように笑う。

 

「この謎は、もう吾輩の舌の上だ」

 

そして四人は、

ミラノ風ドリアと辛味チキンの匂い漂う店内で、

それぞれのやり方で動き始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。