守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

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すえぞうは友情を確認する

「普通の工房には出せない」

 

ログナー司令は、いつものように淡々と言った。

 

桂木弥子は、両手で小さなケースを抱えたまま固まっていた。

 

中には、真紅のドラゴンドロップが入っている。

 

先日、すえぞうを庇った弥子に、LEDドラゴンの幻影が授けた宝石。

星団中の権力者が欲しがるような、とんでもない宝。

 

ただし、すえぞうの口から出た。

 

その事実もまた、忘れがたかった。

 

弥子は恐る恐る言う。

 

「えっと……普通のアクセサリー屋さんに頼んだら駄目なんですか?」

 

ログナーは首を横に振った。

 

「危険だ」

 

Xiが頷く。

 

「まあ、それはそう。店員さんに『この石は何ですか?』って聞かれて、『LEDドラゴンの口から出ました』って答えるわけにもいかないし」

 

弥子は少し困った顔で笑った。

 

「ですよね……」

 

ソープは、にこにこと笑っていた。

 

「だったら、AKDで加工しよう。普段身につけられるように、ペンダントヘッドにするのがいいかな」

 

ラキシスが嬉しそうに頷く。

 

「素敵です、ソープ様」

 

泉さんは念のため確認する。

 

「普段使いできるデザインでお願いします。国家元首級の儀礼装飾みたいにならない方向で」

 

Xiが即座に乗る。

 

「大事! AKD基準の“普段使い”は信用できない!」

 

ソープは少し首を傾げる。

 

「そうかな?」

 

「陛下の普通は、金とミラージュマークと星団最高技術が普通に入るんです」

 

ログナーが言う。

 

「保護加工は必要だ」

 

Xiは顔をしかめる。

 

「ほら来た」

 

「真紅のドラゴンドロップを傷、衝撃、盗難、紛失、魔導的干渉から保護する必要がある」

 

泉さんは少しだけ考えた。

 

「……保護加工は必要ですね」

 

Xiが驚く。

 

「泉さんが折れた!」

 

「今回は中身が中身です」

 

弥子はケースを見つめる。

 

「でも、あんまり大げさにしすぎると、普段つけづらいかなって」

 

すえぞうが、弥子の足元でぴょこっと跳ねた。

 

「ヤコ! アカイ!」

 

弥子はしゃがんで、ケースを見せる。

 

「うん。すえぞうからもらったやつだよ」

 

すえぞうは胸を張った。

 

「プレゼント!」

 

弥子は笑った。

 

「そう。プレゼント」

 

すえぞうは少し考えた。

 

「トモダチ?」

 

弥子は、迷わず答えた。

 

「友達だよ」

 

すえぞうは元気よく言った。

 

「うっす!」

 

その場の空気が、ふわっと柔らかくなった。

 

ネウロが横で言う。

 

「食欲で結ばれ、事故で固まり、宝石で確認する友情か」

 

弥子が振り向く。

 

「いいでしょ!」

 

「悪くはない」

 

「お、ネウロが素直」

 

「調子に乗るな」

 

ソープは、弥子の手元を見ていた。

 

「じゃあ、台座はシンプルにしよう。表は石を見せて、裏に名前を彫る」

 

弥子は目を丸くした。

 

「名前ですか?」

 

「うん。なくしたら困るだろう?」

 

Xiが思わず突っ込む。

 

「星団最高位の宝石に、持ち物記名!?」

 

ソープは当然のように言った。

 

「僕のにも彫ってあるよ。レディオス・ソープって」

 

Xiは頭を抱えた。

 

「神様級の宝物に小学生の持ち物みたいな管理!」

 

キラが苦笑する。

 

「でも、理にかなってますね」

 

ラクスも微笑む。

 

「大切なものに名前を入れるのは、素敵ですわ」

 

弥子は、少し照れながら言った。

 

「じゃあ……カツラギ ヤコ、でお願いします」

 

ログナーが記録する。

 

「刻印、カツラギ ヤコ」

 

Xiが言う。

 

「カタカナなの、なんか良いね」

 

バクスチュアルが静かに見つめる。

 

「カツラギ……ヤコ……友情……証……」

 

弥子は少し照れた。

 

「うん。すえぞうとの友情の証」

 

すえぞうが元気よく跳ねる。

 

「アカシ!」

 

Xiが首を傾げる。

 

「証、覚えた?」

 

すえぞうは胸を張る。

 

「アカシ!」

 

弥子は笑った。

 

「うん、証!」

 

加工は、ソープとログナーの手配で、あっという間に進んだ。

 

もちろん、普通の「あっという間」ではない。

 

AKDの技術者が慎重に真紅のドラゴンドロップを確認し、

星団最高レベルの保護処理を施し、

日常でも使いやすい小ぶりなペンダントヘッドへ仕上げる。

 

表は、真紅の石が美しく見えるように。

裏は、シンプルな台座。

 

そこに、小さく刻まれた文字。

 

カツラギ ヤコ

 

完成品を受け取った弥子は、しばらく言葉を失った。

 

「……すごい」

 

赤い宝石は、強い光を放っているわけではない。

 

けれど、じっと見ていると、奥に何かがあるように思えた。

火のようで、血のようで、夕焼けのようで。

 

すえぞうが、弥子の手元を覗き込む。

 

「アカイ!」

 

「うん。赤いね」

 

「ヤコ!」

 

「そう。私の名前も入れてもらったんだよ」

 

すえぞうは、ペンダントの裏面を覗き込もうとして、鼻先を近づけた。

 

「ヤコ!」

 

「読める?」

 

「ヤコ!」

 

「読めてるってことでいいかな」

 

Xiが横から見ていた。

 

「うわあ……これはすごい。怪盗としての本能が反応する」

 

泉さんが即座に言った。

 

「怪盗さん、盗んじゃ駄目ですよ」

 

Xiは両手を上げる。

 

「弥子ちゃんとすえぞうの友情の証だよ? 盗まないよ!」

 

少し間。

 

「……欲しいけど」

 

泉さんがじっと見る。

 

「本音が漏れています」

 

「星団中の権力者が欲しがる宝だよ!? 怪盗としては反応だけはするでしょ!」

 

ネウロが笑う。

 

「ククク……盗めばLEDドラゴンに追われる怪盗か。なかなか愉快な最期だな」

 

Xiは顔を引きつらせる。

 

「盗まないって言ってるでしょ!」

 

カイエンが、ペンダントを見ながらぼそっと言った。

 

「俺も欲しい……」

 

Xiが振り向いた。

 

「師匠まで!?」

 

カイエンは腕を組んだまま、かなり真面目な顔をしていた。

 

「いや、だってよ。ドラゴンドロップだぜ。しかも真紅。ロマンあるだろ」

 

アウクソーが静かに言う。

 

「マスター、お気持ちは分かりますが、それは弥子様とすえぞう様の友情の証です」

 

カイエンは少し気まずそうに目を逸らす。

 

「分かってるヨ。言ってみただけだ」

 

Xiは呆れた。

 

「剣聖も欲しがる友情ペンダント……」

 

キラも、じっとペンダントを見ていた。

 

「でも、分かります。持っていれば、何かあるとあの凄いドラゴンが来る可能性があるんですよね」

 

ラクスが微笑む。

 

「ロマンがありますわ」

 

キラは少し照れた。

 

「うん。ちょっと憧れる」

 

Xiが指差した。

 

「キラ、少年心と技術屋心が同時に出てる」

 

キラは苦笑した。

 

「否定はできないかな」

 

ログナー司令は淡々と補足する。

 

「ただし、安易に使用すべきものではない」

 

弥子は、ペンダントをそっと胸元に当てた。

 

「うん。できれば呼ばないで済む方がいいよね」

 

すえぞうが弥子を見る。

 

「ヤコ! マモル!」

 

弥子は笑った。

 

「ありがと。じゃあ、これはお守りにする」

 

すえぞうは満足そうに頷く。

 

「オマモリ!」

 

「そう、お守り」

 

バクスチュアルが静かに言った。

 

「お守リ……友情……証……」

 

弥子は頷いた。

 

「うん」

 

「身ニ……ツケル……」

 

「うん。せっかくのすえぞうからのプレゼントだから」

 

ラキシスは、弥子の首元にペンダントをつける手伝いをした。

 

「とてもよくお似合いですわ」

 

「ありがとうございます」

 

「すえぞうも、きっと嬉しいです」

 

すえぞうは弥子を見上げていた。

 

「ヤコ! アカイ! アカシ!」

 

弥子は胸元のペンダントに触れた。

 

「うん。証だよ」

 

ソープは、それを見て柔らかく笑った。

 

「いいね。宝石は、しまい込むだけが大事にすることじゃない。

 身につけて、一緒に日常へ連れていくのも大事だよ」

 

Xiは少し黙った。

 

「陛下、今日はいいこと言いますね」

 

「今日は?」

 

「今日は」

 

ログナーが短く言う。

 

「記録する。真紅のドラゴンドロップ、ペンダントヘッド加工完了。裏面刻印、カツラギ ヤコ。所有者、桂木弥子。由来、すえぞうとの友情の証」

 

弥子は少し照れながら言った。

 

「所有者って言われると大げさです」

 

ネウロが言う。

 

「星団最高級の宝物を首から下げる女子高生か。肩書きだけならなかなかだな」

 

「普通の女子高生だよ!」

 

「普通の女子高生はドラゴンの召喚権を持たん」

 

「それはそうだけど!」

 

Xiが笑った。

 

「普通って、最近よく分からなくなるね」

 

バクスチュアルが頷く。

 

「普通……時々……スゴイ……」

 

「うん。今日も正しい」

 

すえぞうは、弥子の胸元で揺れる赤いペンダントをじっと見た。

 

「ヤコ」

 

「なに?」

 

「トモダチ?」

 

弥子は、すえぞうの目を見て笑った。

 

「友達」

 

「ハラヘリ?」

 

「コンビ!」

 

すえぞうが前足を上げる。

 

「コンビ!」

 

弥子も拳を合わせる。

 

「コンビ!」

 

その瞬間、すえぞうは満足そうに胸を張った。

 

友情は確認された。

 

大げさな儀式ではない。

国家の調印でもない。

星団最高技術の加工でもない。

 

ただ、すえぞうが聞いた。

 

弥子が答えた。

 

それだけで十分だった。

 

 

帰り道。

 

弥子の胸元で、真紅のドラゴンドロップが小さく揺れていた。

 

すえぞうは、それを何度も見上げる。

 

「ヤコ! アカイ!」

 

「うん」

 

「プレゼント!」

 

「うん。ありがとう」

 

「トモダチ!」

 

「うん、友達」

 

すえぞうは、しばらく満足そうに歩いていた。

 

そして、ふいに言った。

 

「ハラへった!」

 

弥子も即座に反応する。

 

「私も!」

 

Xiが頭を抱える。

 

「友情確認の次が空腹確認!?」

 

ネウロが笑った。

 

「友情も食欲も、どちらも確かなようだな」

 

バクスチュアルが静かに言う。

 

「友情……空腹……確認……」

 

Xiは苦笑した。

 

「そこ、並べて記録しなくていいよ」

 

ログナー司令は、少し離れた場所で記録帳を開いていた。

 

「記録する」

 

Xiが叫ぶ。

 

「司令まで!?」

 

ソープは楽しそうに笑っていた。

 

ラキシスは弥子の胸元の赤い光を見て、優しく微笑んだ。

 

「よかったね、すえぞう」

 

すえぞうは元気よく言った。

 

「うっす!」

 

弥子はペンダントに手を添えた。

 

それは、宝石だった。

お守りだった。

そして、友達からのプレゼントだった。

 

ハラヘリコンビの友情の証。

 

今日もまた、普通ではないけれど、とても大切な日常がひとつ増えた。

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