守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

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ログナー司令は贈呈品の経路を洗う

「今までの“贈呈品”の経路を洗った」

 

ログナー司令がそう言った瞬間、カフェテラスの空気が変わった。

 

昼下がりの、いつもの席だった。

 

桂木弥子。

泉京香。

怪盗Xi。

ファティマ・バクスチュアル。

レディオス・ソープ。

ラキシス。

キラ・ヤマト。

ラクス・クライン。

脳噛ネウロ。

そして、すえぞう。

 

すえぞうは、テーブルの下から顔を出していた。

 

「ハラへった」

 

弥子が反射的に答える。

 

「あとで何か頼もうね」

 

「うっす」

 

Xiは、そのやり取りを横目に見ながらも、ログナーから視線を外さなかった。

 

「贈呈品って……シックスの?」

 

ログナーは頷く。

 

「そうだ」

 

泉が眉をひそめる。

 

「至高のカレー、プリン、唐揚げ、お好み焼き、加湿器、寝具類……あの一連の迷惑な贈り物のことですね」

 

ネウロが笑う。

 

「迷惑という言葉では温いな。悪意を包装紙で包み、リボンで締めたようなものだ」

 

弥子は嫌そうな顔をした。

 

「思い出すとお腹は空くのに、精神的にはイヤです」

 

Xiが苦々しく言う。

 

「最悪の感想だな」

 

ログナーは淡々と続けた。

 

「配送経路、偽装店舗、移動販売車、屋台、メールの発信元、決済履歴、資材調達先。照合可能なものはすべて照合した」

 

泉が小さく驚く。

 

「全部……ですか?」

 

「当然だ」

 

Xiは呆れたように笑った。

 

「当然なんだ」

 

ログナーの表情は変わらない。

 

「繰り返し接触してくる敵を放置する理由はない」

 

キラが静かに言った。

 

「……食べ物や贈り物を使って、人を試すようなことをしていたんだよね」

 

Xiは肩をすくめる。

 

「いつものことだよ、あいつは」

 

キラは首を振った。

 

「いつものことに、しちゃいけない」

 

その声は穏やかだった。

けれど、芯があった。

 

ラクスも続ける。

 

「ヘキサクスが物流網、偽装店舗、資金経路を用いているなら、これは単なる個人の嫌がらせではありませんわ」

 

泉が頷く。

 

「企業活動を装った、継続的な加害行為ですね」

 

ラクスは真っ直ぐにログナーを見た。

 

「死の武器商人シックス。その悪意が民間流通へ紛れ込んでいるなら、コンパスとしても看過できません」

 

ログナーは短く答える。

 

「助かる」

 

Xiは腕を組んだ。

 

「で、何がわかった?」

 

ログナーは懐から薄い端末を取り出し、テーブルの上へ置いた。

 

小さな立体地図が浮かび上がる。

 

街外れの倉庫街。

廃工場に見える建物。

複数の物流ルート。

一見、無関係な店舗や移動販売の記録。

 

それらが線で結ばれていく。

 

ログナーが言う。

 

「シックスの拠点候補の一つだ」

 

Xiの目つきが変わった。

 

弥子も息を呑む。

 

「拠点……」

 

その時だった。

 

弥子の胸元で、赤い光が小さく揺れた。

 

「え?」

 

弥子は、自分のペンダントを見下ろす。

 

すえぞうからもらった、真紅のドラゴンドロップ。

 

それが、わずかに光を放っていた。

 

「すえぞうから貰ったドラゴンドロップのペンダントが……光ってる……?」

 

すえぞうが顔を上げた。

 

「うっす!」

 

Xiは弥子のペンダントを見て、表情を硬くした。

 

「反応してるのか……?」

 

ソープが静かに言う。

 

「シックスの悪意か、あるいはヘキサクスに残った何かに反応しているのかもしれない」

 

泉が不安そうに言った。

 

「そんなことまでわかるんですか?」

 

ソープは首を振る。

 

「確証はないよ。ただ、ドラゴンドロップは単なる宝石ではない。まして、すえぞうのものだからね」

 

すえぞうは胸を張った。

 

「エライ?」

 

弥子はすぐに頭を撫でる。

 

「エライよ。すえぞう」

 

「うっす」

 

Xiは、端末の地図を睨んだまま言った。

 

「司令」

 

ログナーが見る。

 

「何だ」

 

「その拠点を攻め落とす」

 

泉が即座に立ち上がりかけた。

 

「待ってください! まず“攻め落とす”という表現をやめましょう!」

 

ネウロが口角を上げる。

 

「良い」

 

泉が振り向く。

 

「良くありません!」

 

ネウロは楽しそうだった。

 

「吾輩は攻めるのが大好きだ」

 

弥子が叫ぶ。

 

「ネウロ、顔が悪い!」

 

「当然だ。悪魔だからな」

 

Xiはネウロを見た。

 

「今回は頼もしいけど、頼もしさの方向が怖い」

 

ネウロは目を細める。

 

「相手の巣を暴き、蓄えた謎を丸ごと喰らう。実に効率が良い」

 

泉が頭を抱える。

 

「効率の問題ではありません」

 

Xiは続けた。

 

「カイエン師匠、いるんだろ」

 

その声に応えるように、カフェテラスの外から軽い声がした。

 

「呼んだかヨ」

 

ダグラス・カイエンが、いつの間にかそこにいた。

 

泉が目を丸くする。

 

「いつから?」

 

カイエンは笑う。

 

「面白そうな話になったあたりからだナ」

 

Xiはカイエンをまっすぐ見た。

 

「師匠。1日だけ力を貸して」

 

カイエンは片眉を上げる。

 

「俺を雇う気かヨ」

 

Xiは頷いた。

 

「報酬はフェザーゴールド金貨10枚払う。そのくらいの“貯金”は出来た」

 

カイエンの表情が、少し変わった。

 

ふざけた笑みが、ほんの少しだけ薄くなる。

 

「……言うじゃないか」

 

Xiは視線を逸らさなかった。

 

「俺は、あいつにこれ以上好き勝手されるのが嫌なんだ」

 

カイエンは腕を組む。

 

「誰のためだ?」

 

Xiは少しだけ黙った。

 

弥子を見る。

すえぞうを見る。

バクスチュアルを見る。

そして、またカイエンを見る。

 

「俺のためだよ」

 

カイエンは楽しそうに笑った。

 

「へえ?」

 

Xiは続ける。

 

「俺はシックスの実験材料じゃない。あいつの息子でも、部品でも、血族でもない」

 

バクスチュアルが静かにXiを見る。

 

Xiは低く言った。

 

「だから、俺の金で、俺の戦いを始める」

 

カイエンは、今度こそ本当に笑った。

 

「いい目になったじゃねぇか」

 

泉は、感動しかけたところで我に返った。

 

「待ってください。いい話の空気に流されかけましたが、今の流れだと戦力が過剰です」

 

カイエンが首を鳴らす。

 

「軽くMBTを一発で終わるナ」

 

泉が叫ぶ。

 

「軽く撃てるものではありません!!」

 

弥子が青ざめる。

 

「MBTって、あの……」

 

ソープが補足しようとする。

 

「マキシマム・バスター・タイフォーン。最強クラスの騎士が生身で放つ天技で、モーターヘッドすら破壊し得る――」

 

泉がさらに叫ぶ。

 

「説明すると余計に駄目です!!」

 

ネウロが笑う。

 

「破壊力としては悪くない」

 

泉が睨む。

 

「ネウロも乗らない!」

 

カイエンは肩をすくめた。

 

「山奥ならいけるだろ」

 

泉は即答する。

 

「いけません!」

 

ログナーが冷静に言った。

 

「市街地でのMH運用は不可。MBTの使用も不可。バスター砲は論外だ」

 

ソープが少し残念そうに言う。

 

「まだバスター砲は言っていないよ」

 

泉が即座に言った。

 

「言う顔でした!」

 

ラキシスが穏やかにソープを見る。

 

「ソープ様」

 

ソープは微笑んだ。

 

「言わないよ」

 

泉は胸を押さえた。

 

「今の“言わない”は、少し迷いましたよね?」

 

ログナーは話を戻す。

 

「作戦目標は制圧ではない。拠点機能の停止、資料押収、関係者の拘束、証拠保全だ」

 

Xiが言う。

 

「同じだろ」

 

泉が言う。

 

「同じではありません!」

 

カイエンが横から言う。

 

「だいたい同じだナ」

 

泉は振り向く。

 

「師匠側が煽らないでください!」

 

キラが静かに口を開いた。

 

「Xi、気持ちはわかるよ」

 

Xiはキラを見る。

 

「止めるの?」

 

「止める」

 

Xiの眉が動く。

 

だがキラは続けた。

 

「でも、何もしないって意味じゃない」

 

「……」

 

「壊すより先に、そこに何があるのかを押さえよう。人がいるなら助ける。証拠があるなら残す。逃げ道があるなら塞ぐ」

 

キラは地図を見る。

 

「その方が、シックスにとって嫌なはずだよ」

 

Xiは黙った。

 

カイエンがキラを見る。

 

「言うじゃねぇか」

 

Xiは少しだけ顔をしかめた。

 

「最近、俺の周りで“言うじゃないか”が多すぎる」

 

ラクスが優しく言う。

 

「コンパス側でも、ヘキサクス関連の資金移動と輸送記録を照合いたします。地球側での手続きと封鎖は、こちらで可能な範囲を担いますわ」

 

ログナーは頷く。

 

「通信遮断と退路封鎖は、こちらでも準備する」

 

泉はほっとした。

 

「やっとまともな作戦会議になってきました」

 

ネウロが不満そうに言う。

 

「攻撃衝動は待機か」

 

泉が答える。

 

「永遠に待機でお願いします」

 

バクスチュアルが、静かにXiの隣に立った。

 

「Xiサン」

 

「何?」

 

「本気」

 

Xiは少しだけ笑う。

 

「そう見える?」

 

「ハイ」

 

「怖い?」

 

バクスチュアルは首を振る。

 

「怖クナイ。補佐、シマス」

 

Xiは、少しだけ表情を和らげた。

 

「そっか。頼む」

 

ログナーは端末を閉じた。

 

「現時点での武力制圧案は保留。各組織の情報を統合し、作戦を詰める」

 

Xiは不満そうだった。

 

「すぐ行かないのかよ」

 

「行かない」

 

「師匠まで雇うつもりだったのに」

 

カイエンが笑う。

 

「俺のフェザーゴールド10枚は?」

 

ログナーが淡々と言う。

 

「まだ発生していない」

 

カイエンはつまらなさそうに言った。

 

「つまんねぇナ」

 

ログナーは短く答える。

 

「つまらないことが、最善の場合もある」

 

泉が深く頷いた。

 

「名言です」

 

ネウロは口角を上げる。

 

「だが、謎は残っている。拠点には、まだ味があるだろう」

 

Xiは地図が消えた端末を見ていた。

 

「……逃げるなよ、クソ親父」

 

その声は、小さかった。

 

けれど、確かにそこに怒りがあった。

 

 

そして、数日後。

 

同じカフェテラスに、一行は再び集まっていた。

 

Xiは珍しく落ち着かない様子だった。

カイエンも椅子にだらしなく座り、退屈そうにしている。

ネウロは弥子の横で、妙に楽しそうにしていた。

 

弥子が聞く。

 

「今日、ログナーさんから報告があるんですよね?」

 

泉が頷く。

 

「作戦の進捗でしょうか」

 

Xiは腕を組む。

 

「ようやく出番か」

 

カイエンも笑う。

 

「フェザーゴールド10枚、用意しておけヨ」

 

その時、ログナーが現れた。

 

いつものように、静かだった。

 

彼は席に着くと、淡々と言った。

 

「例の拠点は、昨夜制圧した」

 

沈黙。

 

Xiが固まった。

 

「……は?」

 

弥子が瞬きをする。

 

「え、もう?」

 

カイエンが眉を上げる。

 

「俺、呼ばれてねぇぞ」

 

ネウロが目を細める。

 

「吾輩もだ」

 

泉が恐る恐る聞く。

 

「制圧……したんですか?」

 

ログナーは頷いた。

 

「配下の隠密部隊を投入した。施設機能を停止。ヘキサクス関連資料を押収。現場責任者および関係者数名を拘束。人的被害なし。建物被害は最小限」

 

泉の顔が明るくなる。

 

「理想的です!」

 

Xiはテーブルを叩きそうになった。

 

「俺は?」

 

「待機」

 

「師匠は?」

 

「待機」

 

カイエンが不満そうに言う。

 

「つまんねぇナ」

 

ネウロも言う。

 

「吾輩の攻撃衝動も満たされていない」

 

泉が即答する。

 

「満たさなくていいです」

 

キラは安堵したように息を吐いた。

 

「人的被害がなかったなら、よかった」

 

ラクスも頷く。

 

「コンパス側でも、ヘキサクス関連の輸送記録と資金移動を押さえました。これで、いくつかの偽装会社は動けなくなるはずですわ」

 

ログナーは続ける。

 

「ただし」

 

Xiの表情が引き締まる。

 

「シックス本人は不在だった」

 

カフェテラスの空気が、少しだけ重くなった。

 

弥子が小さく言う。

 

「やっぱり……」

 

Xiは椅子にもたれた。

 

「だろうな」

 

キラが静かに言う。

 

「でも、尻尾は掴んだ」

 

ラクスも続ける。

 

「次へ繋がりますわ」

 

ネウロは笑った。

 

「ククク……本人はいなくとも、残された資料には謎の臭いが染みついている」

 

泉が少し嫌そうな顔をする。

 

「臭いと言わないでください」

 

ログナーは端末を置いた。

 

「押収資料の解析を進める。ネウロ、お前の知見も必要になるだろう」

 

ネウロの目が楽しげに細まる。

 

「良かろう。巣穴の壁に残った爪痕から、獣の腹の中を読むのも悪くない」

 

弥子が眉をひそめる。

 

「また表現が悪い」

 

「悪魔だからな」

 

Xiはログナーを見る。

 

「なんで俺に言わなかった?」

 

ログナーは即答した。

 

「お前が突撃するからだ」

 

泉が頷く。

 

「完全に正しい判断です」

 

Xiは顔をしかめる。

 

「味方がいない」

 

バクスチュアルが静かに言った。

 

「Xiサン、待機、出来タ」

 

Xiは少し黙った。

 

「……できたっていうか、知らされてなかったんだけど」

 

「結果、待機」

 

「結果だけ見るな」

 

バクスチュアルは小さく頷いた。

 

「デモ、無事」

 

Xiは、その言葉に反論できなかった。

 

すえぞうが、テーブルの下から顔を出す。

 

「うっす!」

 

弥子はすえぞうを見て笑った。

 

「すえぞう、なんか勝ったっぽいよ」

 

すえぞうは胸を張った。

 

「エライ?」

 

泉が微笑む。

 

「今回は、ログナーさんの配下の方々がエラいですね」

 

弥子はすえぞうの頭を撫でる。

 

「でも、すえぞうもエライ!」

 

「うっす」

 

カイエンは腕を組んだ。

 

「で、次は俺を呼べヨ」

 

ログナーは静かに答える。

 

「必要があれば」

 

「必要を作れ」

 

泉が即座に言った。

 

「作らないでください」

 

ソープが穏やかに微笑む。

 

「でも、被害なく一つ拠点を止められたのは大きいね」

 

ラキシスも頷く。

 

「皆様、ご無事で何よりですわ」

 

Xiは、少しだけ不満そうに端末を見た。

 

押収資料。

偽装会社。

物流ルート。

関係者拘束。

 

確かに、一歩進んだ。

 

だが、シックス本人はいない。

 

あいつはまだ、どこかで笑っている。

 

Xiは小さく呟いた。

 

「……次は逃がさない」

 

ネウロが笑う。

 

「その怒り、悪くない味だ」

 

泉が即座に言う。

 

「味わわないでください」

 

キラはXiを見た。

 

「次があっても、壊すだけじゃない方法で行こう」

 

Xiは少し顔をしかめた。

 

「わかってるよ」

 

ラクスが微笑む。

 

「そのために、私たちもいますわ」

 

バクスチュアルが静かに言う。

 

「補佐、シマス」

 

Xiは彼女を見て、少しだけ笑った。

 

「頼む」

 

すえぞうが元気よく言った。

 

「ハラへった」

 

弥子が即座に反応する。

 

「じゃあ、何か頼もう!」

 

泉がほっとしたように言う。

 

「ようやく普通のカフェタイムに戻れそうですね」

 

ネウロが言う。

 

「普通とは、何か。吾輩にはまだ謎だな」

 

Xiは疲れたように呟く。

 

「このメンツで普通を求めるのが間違いなんだよ」

 

それでも、注文は普通に始まった。

 

弥子はケーキを選び、すえぞうはおやつを待ち、ソープは珈琲を頼み、ラキシスは紅茶を選んだ。

 

カイエンは退屈そうに、次の出番を待っている。

 

ネウロは押収資料の話を聞きたそうにしている。

 

ログナーは、何事もなかったように珈琲を飲んでいた。

 

派手な戦いは起きなかった。

バスター砲も撃たれなかった。

MBTも放たれなかった。

ミラージュマシンも出なかった。

 

ただ、静かに一つの拠点が潰れた。

 

それは、ログナー司令らしい勝ち方だった。

 

Xiは少しだけ悔しそうに、けれど少しだけ安心したように呟いた。

 

「……出番、なかったな」

 

ログナーはカップを置いて、短く答える。

 

「出番がないことが、最善の勝利もある」

 

泉が深く頷く。

 

「本当に、その通りです」

 

カイエンがぼそりと言う。

 

「つまんねぇけどナ」

 

すえぞうは、おやつを見て嬉しそうに言った。

 

「ウマイ」

 

弥子が笑う。

 

「すえぞうは、それでいいね」

 

「うっす」

 

そしてその日も、カフェテラスには穏やかな時間が戻った。

 

ただし。

 

シックスの贈呈品は、もうただの迷惑な差し入れではなくなった。

 

それは、敵へ繋がる線だった。

 

そして、その線を最初に静かに手繰ったのは、ログナー司令だった。

 

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