守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

233 / 235
キラ・ヤマトはアウトフリーダムを拒否する

「ところで、あの資料の出どころなんだけど」

 

レディオス・ソープがそう言った瞬間、キラ・ヤマトはまた嫌な予感を覚えた。

 

場所は、いつものカフェテラス。

 

先日、ソープが持ち込んだGAT-Xシリーズ初期設計案の資料は、

一行に少なからぬ衝撃を与えた。

 

GAT-X106 ボールガンダム。

GAT-X107 ファールガンダム。

GAT-X108 アウトガンダム。

GAT-X109 セーフガンダム。

GAT-X110 ホームランガンダム。

 

そのすべてを、キラは全力で否定した。

 

特にボールガンダムについては、思い出すだけで少し頭が痛くなる。

 

すえぞうは、テーブルの下から顔を出していた。

 

「ボール?」

 

キラは反射的に言う。

 

「違うよ」

 

すえぞうは首をかしげる。

 

「オモチャ?」

 

「違う。違ってよかった」

 

怪盗Xiは、少し笑いながらキラを見た。

 

「まだダメージ残ってるな」

 

「残りますよ。丸い胴体にガンダム顔が埋まってるんですよ?」

 

泉京香が冷静に言う。

 

「確かに、兵器としても精神衛生上も不安がありますね」

 

ラクス・クラインは、キラの隣で穏やかに微笑んでいた。

 

「でも、正式採用されなかったのですから」

 

「うん。本当に、それだけは救いだよ」

 

ソープは、問題の端末を取り出した。

 

「それで、あの資料だけれど。出所が少し気になって、改めて確認してみたんだ」

 

Xiが眉を上げる。

 

「出所、わかったんですか?」

 

「うん」

 

ソープは画面を表示した。

 

そこには、資料の末尾にあった出典らしき記載が拡大されていた。

 

**出典:民明書房刊

『連合軍極秘兵器開発史・未採用機大全』**

 

沈黙。

 

泉が真っ先に言った。

 

「その時点で資料としての信頼性がありません」

 

Xiが頷く。

 

「一気に怪しくなった」

 

弥子が目を輝かせる。

 

「でも、民明書房って書いてあると、逆にそれっぽい気もします!」

 

泉が弥子を見る。

 

「弥子さん、それっぽさと信頼性は別です」

 

「はい」

 

キラは端末を見て、額に手を当てた。

 

「僕は民明書房の資料で精神的ダメージを受けていたんですか……」

 

ラクスが優しく言う。

 

「キラ、落ち着いて」

 

ソープは真面目だった。

 

「ただ、形式番号が綺麗に並んでいたからね」

 

キラは即座に言った。

 

「綺麗に並んでいるから嫌なんです」

 

Xiが笑う。

 

「ボール、ファール、アウト、セーフ、ホームラン。もう野球じゃん」

 

「本当に野球なんだよね……」

 

弥子は少し考えた。

 

「でも、ボールガンダムからホームランガンダムまで綺麗に揃ってるの、

 資料としては美しいですよね」

 

泉が言う。

 

「美しさの方向が違います」

 

バクスチュアルは、端末の出典を見つめていた。

 

「民明書房。信頼性、低イ?」

 

Xiが答える。

 

「低い。かなり低い」

 

「デモ、面白イ」

 

「そこが厄介なんだよ」

 

ソープは頷いた。

 

「資料としては疑わしい。

 けれど、兵器の命名がパイロットの心理に与える影響を考える上では興味深い」

 

泉が少し警戒する。

 

「ソープ様、どちらへ話を持っていくおつもりですか」

 

ソープはキラを見た。

 

「つまり、命名の流れによっては、

 キラくんの新しいMSが『アウトフリーダム』だった可能性が……」

 

キラは即答した。

 

「ありません」

 

その速度は、誰よりも早かった。

 

弥子が少しだけ首をかしげる。

 

「でも、アウトフリーダムって、なんか反骨的でカッコいい気が」

 

キラは弥子を見た。

 

「やめてください」

 

Xiが腕を組んで言う。

 

「自由からも外れてる感じあるな」

 

「Xiさんも乗らないでください」

 

バクスチュアルが淡々と呟く。

 

「規格外ノ、自由」

 

弥子が手を叩く。

 

「ほら、なんかカッコいい!」

 

キラは両手で顔を覆った。

 

「やめてください」

 

ラクスが少し笑いをこらえながら言う。

 

「アウトフリーダム、ですか」

 

キラはラクスを見る。

 

「ラクスまで?」

 

「いいえ、私はキラが嫌がるなら、その名前はおすすめしませんわ」

 

「ありがとう」

 

「ただ、響きだけなら、少し物語性はありますわね」

 

「ラクス」

 

Xiが笑った。

 

「ラクスさんまで少しだけ乗った」

 

泉が手帳を開きかける。

 

「アウトフリーダム。既存の自由の枠から外れた自由、という解釈なら――」

 

キラが止める。

 

「泉さん、分析しなくていいです」

 

「失礼しました」

 

ソープはさらに考え込んでいた。

 

「では、アスランくんの機体は『セーフジャスティス』になるのかな」

 

その瞬間、どこからともなく声がした。

 

「やめろ」

 

全員が振り向く。

 

アスラン・ザラが、いつの間にかカフェテラスの入口に立っていた。

 

Xiが驚く。

 

「アスランさんまで来た」

 

キラも驚いた。

 

「アスラン、いたの?」

 

アスランは表情を硬くしたまま言う。

 

「今来た。だが、今のは聞き捨てならない」

 

弥子が小さく言う。

 

「セーフジャスティス……」

 

アスランは即座に言った。

 

「やめろ」

 

Xiが笑いをこらえる。

 

「ギリギリ正義って感じですね」

 

「ギリギリでは困る」

 

泉が真面目に頷く。

 

「正義はセーフ判定で運用するものではありませんね」

 

キラは深く頷いた。

 

「アスラン、僕もそう思う」

 

ソープは少し楽しそうだった。

 

「でも、セーフガンダムの設計思想は、生存性重視だった。

 ジャスティス系列と組み合わせれば、仲間を守る方向性として――」

 

アスランが強めに言う。

 

「名前が悪い」

 

ラクスは微笑んだ。

 

「名称変更前提でしたら?」

 

アスランは一瞬だけ考えた。

 

「……名称変更前提なら」

 

キラが言う。

 

「そこは考えるんだ」

 

アスランは咳払いした。

 

「思想は悪くない。名前が悪いだけだ」

 

Xiが言う。

 

「さっきのキラと同じ反応だ」

 

ソープは端末に指を滑らせる。

 

「では、シンくんの機体は……」

 

キラとアスランが同時に身構えた。

 

ソープは穏やかに言った。

 

「ホームランデスティニー」

 

少し離れた席から、怒った声が飛んできた。

 

「なんで俺だけ打撃特化なんですか!?」

 

シン・アスカがいた。

 

泉が目を丸くする。

 

「今日は増えますね」

 

Xiが笑う。

 

「ガンダム関係者の召喚ワードになってる」

 

シンは席に近づきながら言った。

 

「デスティニーはそういう機体じゃないです!」

 

ソープは真面目に返す。

 

「大型打撃兵装との相性は、機体の出力次第では――」

 

シンが叫ぶ。

 

「相性を考えないでください!」

 

その時、さらに別の声がした。

 

「ホームランデスティニー、悪くねぇナ」

 

ダグラス・カイエンだった。

 

シンは思わず身構える。

 

「誰ですか!?」

 

Xiが諦めたように言う。

 

「剣聖です」

 

「剣聖がなんでホームランデスティニーを肯定してるんですか!?」

 

カイエンは笑う。

 

「当てりゃいいんだろ?」

 

キラが静かに言った。

 

「その理屈が一番危険なんです」

 

泉も頷く。

 

「カイエンさん基準で兵器を評価してはいけません」

 

カイエンはつまらなさそうに肩をすくめる。

 

「つまんねぇナ」

 

シンはキラを見る。

 

「キラさん、何なんですかこの資料!」

 

キラは疲れた声で答えた。

 

「民明書房らしい」

 

シンは止まった。

 

「……民明書房?」

 

アスランが目を閉じる。

 

「なら、真に受ける必要はない」

 

Xiが言う。

 

「でも精神的ダメージは来る」

 

キラは頷いた。

 

「来る」

 

シンが端末を覗き込む。

 

「ボールガンダム、ファールガンダム、アウトガンダム、セーフガンダム、ホームランガンダム……」

 

少し沈黙。

 

「もう野球じゃないですか!」

 

Xiが指を鳴らす。

 

「同意見」

 

弥子が笑う。

 

「みんなそこに行き着くんですね」

 

バクスチュアルが呟く。

 

「野球、強イ」

 

「いや、強いのは野球じゃなくて命名の圧」

 

ソープは、なおも真面目に言う。

 

「けれど、もしアウトフリーダム、セーフジャスティス、ホームランデスティニーが存在した場合、三機の連携はどうなるだろう」

 

キラが即座に言う。

 

「存在しません」

 

アスランも言う。

 

「存在させるな」

 

シンも続く。

 

「存在してたまるか!」

 

Xiが楽しそうに言う。

 

「出撃コール聞いてみたいな」

 

キラは嫌そうな顔をした。

 

「嫌です」

 

Xiはわざとらしく手を上げた。

 

「キラ・ヤマト、アウトフリーダム、行きます!」

 

キラが即座に止める。

 

「やめてください」

 

弥子が続ける。

 

「アスラン・ザラ、セーフジャスティス、出る!」

 

アスランが低く言う。

 

「やめろ」

 

シンが慌てて後退る。

 

「俺のは言わなくていいですからね」

 

カイエンがにやりと笑う。

 

「シン・アスカ、ホームランデスティニー、ぶっ飛ばす!」

 

シンが叫んだ。

 

「違う!!」

 

ラクスが口元に手を当てて笑っている。

 

キラはその様子を見て、深くため息をついた。

 

「ラクス、笑ってるよね」

 

「少しだけですわ」

 

「少しだけならいいけど」

 

「でも、キラはフリーダムでよかったですわね」

 

キラは心から頷いた。

 

「本当に」

 

アスランも言う。

 

「ジャスティスでよかった」

 

シンも頷く。

 

「デスティニーでよかったです」

 

Xiが笑いながら言う。

 

「三人の絆が、変な名前を拒否することで深まってる」

 

泉が真面目にまとめる。

 

「命名は重要ですね。名称が搭乗者の士気、周囲の印象、運用思想に与える影響は大きいです」

 

ソープは頷いた。

 

「そうだね。兵器の名は、ただの識別記号ではない。理念、用途、願い、あるいは恐怖を背負う」

 

キラは少しだけ落ち着いた表情になった。

 

「だからこそ、変な名前をつけないでください」

 

「うん。よくわかったよ」

 

弥子が手を挙げる。

 

「でも、アウトフリーダムはちょっとカッコいいと思います」

 

キラはすぐに言った。

 

「思わないでください」

 

バクスチュアルが静かに言う。

 

「反骨的」

 

「バクスチュアルまで……」

 

Xiが笑う。

 

「まあ、名前だけならな」

 

キラはXiを見る。

 

「Xiさん、自分の機体名がアウト何とかだったら嫌でしょう?」

 

Xiは一瞬考えた。

 

「アウトミラージュ?」

 

カイエンが吹き出した。

 

「悪くねぇナ」

 

泉が即座に言う。

 

「悪いです」

 

Xiは少し顔をしかめた。

 

「……確かに嫌だな」

 

キラは頷いた。

 

「そういうことです」

 

ソープは端末を閉じた。

 

「では、この資料は参考程度ということで」

 

泉が言う。

 

「参考にしない方がいいと思います」

 

「民明書房だしね」

 

「そうです」

 

弥子が笑う。

 

「でも、面白かったです」

 

すえぞうが、足元から顔を出した。

 

「ボール?」

 

キラはすぐ言った。

 

「ないよ」

 

「オモチャ?」

 

「違うよ」

 

「ハラへった」

 

弥子は笑った。

 

「じゃあ、今日は何か丸いおやつでも頼む?」

 

キラが反射的に言った。

 

「ボール型はやめてください」

 

Xiが笑う。

 

「まだ引きずってる」

 

ラクスが優しく言う。

 

「では、普通のケーキにしましょう」

 

アスランも頷いた。

 

「普通がいい」

 

シンも深く頷いた。

 

「普通が一番です」

 

カイエンはつまらなさそうに言う。

 

「ホームランっぽいメニューはねぇのか?」

 

泉が即答した。

 

「ありません」

 

結局、その日も普通のおやつが注文された。

 

資料の出所は民明書房。

信頼性は限りなく低い。

しかし、キラ、アスラン、シンの心には、確かな傷跡を残した。

 

キラ・ヤマトは、改めて思った。

 

フリーダムでよかった。

ストライクでよかった。

そして何より。

 

アウトフリーダムでなくて、本当によかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。