守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 作:ギアっちょ
「そういえば、ちゃんと紹介していなかったよね」
キラ・ヤマトがそう言った時、アスラン・ザラは少しだけ首をかしげた。
場所は、いつものカフェテラス。
先日の民明書房資料騒動――ボールガンダム、ファールガンダム、アウトガンダム、セーフガンダム、ホームランガンダム、そしてアウトフリーダムにセーフジャスティス、ホームランデスティニーまで飛び出した件で、アスランは半ば巻き込まれる形でこの場に現れた。
だが、よく考えれば、彼はまだこの一行に正式に紹介されていない。
キラは、改めてみんなの前にアスランを立たせた。
テーブルには、ラクス・クライン、桂木弥子、泉京香、怪盗Xi、ファティマ・バクスチュアル、レディオス・ソープ、ラキシス、そして足元にすえぞうがいる。
すえぞうはアスランを見上げた。
「ダレ?」
キラは微笑んだ。
「こちら、アスラン・ザラ。僕の幼馴染で……」
「ラクスの元婚約者でもある」
アスランが、きわめて自然に言った。
空気が止まった。
弥子の手が宙で止まる。
泉の目が一瞬だけ大きくなる。
Xiが飲みかけのコーヒーを止める。
バクスチュアルが静かにまばたきする。
ソープが興味深そうに顔を上げる。
ラキシスが「あら」と小さく呟く。
そしてキラが、誰よりも大きく反応した。
「アスラン?!」
アスランは真面目な顔で言う。
「事実だろう」
「事実だけど、今そこで言う必要あった?」
「誤解がないように、関係性を整理した方がいいと思った」
Xiが小声で言う。
「整理した瞬間に爆発したけどな」
弥子は目を白黒させている。
「えっ、えっ? キラさんの幼馴染で、ラクスさんの元婚約者?」
ラクスは穏やかに微笑んだ。
「ええ。昔のことですわ」
泉が慎重に尋ねる。
「政治的な婚約、ということでしょうか」
アスランは頷く。
「プラントでは、婚姻にも政治的な意味があった。
俺とラクスの婚約も、親が決めたものだ」
キラは慌てて補足する。
「でも、それはもう昔の話で」
アスランはキラを見た。
「良いんだ、キラ。所詮、親が勝手に決めたことだったし」
キラは額に手を当てた。
「アスラン、言い方」
ラクスは微笑んだまま言う。
「ふふ。けれど、本当のことですわ」
弥子はさらに混乱した顔をする。
「つまり、親が決めた婚約で、今は違って、でもお二人は普通に仲良くて……」
Xiが腕を組む。
「相関図が一気に重くなった」
バクスチュアルが淡々と言う。
「関係性、密度、高イ」
ソープは目を輝かせる。
「なるほど。血縁、婚約、政治、幼馴染、友人関係が複雑に絡んでいるのだね。地球圏、いやコーディネイター社会の婚姻制度は興味深い」
ラキシスがそっと言った。
「ソープ様、今は深掘りなさらない方がよろしいかと」
「そうかな」
「はい」
泉も頷いた。
「同感です」
キラは苦笑する。
「別に隠してたわけじゃないんです。ただ、説明するとややこしくなるから」
Xiが言う。
「今、すごいややこしくなってる」
「うん……」
アスランは真面目な顔で続けた。
「今は、ラクスとは友人だ。キラとも、昔からの友人で……色々あったが、今はこうして話せる」
ラクスが穏やかに頷く。
「ええ。アスランは大切な友人ですわ」
弥子は少し安心したように息を吐いた。
「よかった。なんかドロドロした話かと思いました」
キラが即座に言う。
「ドロドロしてません」
Xiが小声で言う。
「でも素材だけ見ると、だいぶ濃いぞ」
泉が真面目に言う。
「政治的背景を含めると、軽い話ではありませんね」
アスランは少しだけ視線を落とした。
「そうだな。軽くはなかった。けれど、それぞれ自分で選んだ道がある」
ソープは静かに頷いた。
「それは、とても大切なことだね」
少しだけ場が落ち着いた。
だが、アスランはそこでさらに言った。
「それに今は、俺もカガリと……まあ、仲良くやっている」
再び、空気が止まった。
キラはゆっくりとアスランを見た。
「そこも自分で言うんだ……」
弥子が反応する。
「カガリさん?」
Xiがキラを見る。
「誰?」
キラは少し照れくさそうに言う。
「僕の姉です」
弥子がさらに混乱した。
「キラさんのお姉さん」
泉が整理するように言う。
「つまり、アスランさんは、キラさんの幼馴染で、ラクスさんの元婚約者で、現在はキラさんのお姉さんであるカガリさんと親しい関係にある、と」
バクスチュアルが言う。
「相関図、過密」
Xiが言う。
「人間関係が満員電車」
キラは少し困った顔で言う。
「そんなに変かな」
Xiは即答した。
「初見にはかなり変」
ラクスはくすりと笑う。
「カガリさんは、わたくしにとっても大切な友人ですわ」
泉が小さく頷く。
「皆さん、それぞれ今は落ち着いた関係ということですね」
アスランは真面目に答える。
「ああ。そうだ」
弥子は感心したように言う。
「すごいですね。昔いろいろあっても、ちゃんと今の関係を作ってるんですね」
アスランは少し驚いたように弥子を見た。
「……そう言われると、そうかもしれない」
キラは笑った。
「アスラン、真面目だから。全部ちゃんとしようとするんだ」
Xiが言う。
「さっきもちゃんとしようとして、元婚約者情報を自分で投下したわけか」
アスランは少し眉をひそめる。
「省いた方がよかったのか?」
キラは即答した。
「よかった」
ラクスは微笑む。
「でも、アスランらしいですわ」
アスランは少しだけ困ったように目を逸らした。
すえぞうが、アスランの足元に近づく。
「アスラン?」
アスランはすえぞうを見下ろした。
「ああ。アスランだ」
「ハラへった」
アスランは一瞬だけ固まった。
「……そうか」
Xiが笑う。
「すえぞう相手だと、相関図関係ないから楽だろ」
アスランは少しだけ頷いた。
「ある意味、わかりやすい」
弥子が言う。
「すえぞうは基本的に、お腹が空いてるかどうかですから」
「ハラへった」
「うん、知ってる」
ソープは興味深そうにアスランを見ていた。
「アスランくんは、とても律儀な人だね」
アスランは少し身構える。
「そうでしょうか」
「事実を正確に伝えようとする。関係性を曖昧にしない。自分の立場をきちんと説明しようとする」
泉が頷く。
「真面目な方なのは伝わります」
Xiが小声で言う。
「真面目すぎて、場に爆弾を置くタイプ」
アスランは聞こえていた。
「爆弾のつもりはない」
キラが言う。
「だから怖いんだよ」
ラクスが楽しそうに笑った。
弥子はアスランを見て言った。
「でも、キラさんと幼馴染ってことは、小さい頃のキラさんも知ってるんですよね?」
キラの表情が変わった。
「弥子ちゃん?」
アスランは頷いた。
「ああ。昔から知っている」
Xiの目が光る。
「お、面白そうな話題」
キラは慌てる。
「面白くないよ」
ラクスも少し興味深そうに見る。
「わたくしも、幼い頃のキラのお話は少し気になりますわ」
キラはさらに慌てた。
「ラクスまで?」
アスランは真面目に考える。
「キラは昔から機械に強かった。細かい作業が得意で、よく何かをいじっていた」
弥子が感心する。
「へえ、やっぱり昔から」
アスランは続ける。
「それから、泣き虫だった」
キラが即座に止めた。
「アスラン」
Xiが吹き出した。
「泣き虫」
泉が少しだけ微笑む。
「幼少期なら自然なことです」
キラは顔を赤くする。
「自然でも今言わなくていいんです」
ラクスは優しく微笑む。
「可愛らしいですわ」
キラは完全に困った顔になった。
「ラクス……」
アスランは不思議そうに言う。
「悪口ではない」
「わかってる。わかってるけど」
Xiが言う。
「事実を正確に述べただけシリーズ、強いな」
バクスチュアルが頷く。
「攻撃力、高イ」
アスランは眉をひそめる。
「攻撃しているつもりはない」
キラは小さく笑った。
「そこがアスランなんだよね」
場の空気が、少し柔らかくなった。
弥子が言う。
「じゃあ、アスランさんはキラさんにとって、昔からの大事な友達なんですね」
キラは少しだけ間を置いて、頷いた。
「うん。色々あったけど、大事な友達だよ」
アスランも静かに言った。
「ああ。俺にとっても、キラは大切な友人だ」
ラクスはその二人を見て、穏やかに微笑んだ。
「よい紹介になりましたわね」
Xiが言う。
「途中で相関図が爆発したけどな」
泉が手帳を開く。
「整理しますと、アスランさんは、キラさんの幼馴染であり、かつてラクスさんと政治的な婚約関係にあり、現在はカガリさんと親しく、キラさんとは今も大切な友人関係にある、と」
キラが言う。
「泉さん、まとめるとやっぱり濃いですね」
「濃いです」
バクスチュアルが言う。
「濃厚」
Xiが笑う。
「コーヒーみたいに言うな」
ソープは楽しそうに頷いた。
「人の縁は、機体の設計図より複雑だね」
ラキシスが微笑む。
「だからこそ、美しいのかもしれませんわ」
アスランは少しだけ照れたように視線を逸らした。
「そんな大げさなものでは」
キラは笑う。
「アスランは、こういうところも真面目なんです」
弥子は大きく頷いた。
「よくわかりました!」
すえぞうも胸を張る。
「うっす」
アスランはすえぞうを見る。
「お前はわかったのか?」
すえぞうは堂々と言った。
「ハラへった」
アスランは少し黙ったあと、頷いた。
「……そうか」
Xiが言う。
「すえぞうには自己紹介よりメニュー紹介の方が効く」
弥子が笑う。
「じゃあ、せっかくだから何か食べましょう!」
泉が言う。
「軽めのものにしましょう。前回から甘いものが続いていますから」
弥子は真剣な顔で言った。
「軽めのパフェとか」
「軽くありません」
アスランが少し困ったようにキラを見る。
「いつもこうなのか?」
キラは笑った。
「だいたい、こうかな」
ラクスも微笑む。
「でも、とても賑やかで楽しい場所ですわ」
アスランは周囲を見た。
弥子とすえぞうがメニューを覗き込んでいる。
Xiがそれに突っ込んでいる。
バクスチュアルが静かにメニューの構造を分析している。
泉が摂取量を管理しようとしている。
ソープが人間関係と食文化を同時に観察している。
ラキシスが穏やかに見守っている。
ラクスが微笑んでいる。
キラが、少し安心した顔をしている。
アスランは、少しだけ表情を緩めた。
「……悪くないな」
キラは嬉しそうに言った。
「でしょ?」
Xiが横から言う。
「ただし、次から自己紹介で元婚約者を先に出すのは禁止な」
アスランは真面目に頷いた。
「わかった」
キラがほっとする。
「本当に?」
「必要なら最後にする」
キラは頭を抱えた。
「そうじゃない」
ラクスは楽しそうに笑った。
弥子も笑い、泉も少しだけ微笑み、Xiは肩をすくめた。
バクスチュアルは小さく呟く。
「自己紹介、難シイ」
すえぞうは、メニューを見上げて言った。
「ハラへった」
結局、その日も普通に食事が始まった。
アスラン・ザラの紹介は、やや過密で、やや爆発的で、少しだけキラの心臓に悪かった。
けれど、一行は彼の真面目さを知った。
ラクスとの過去も、カガリとの現在も、キラとの幼馴染としての絆も、少しだけ知った。
そしてキラは思った。
アスランは昔から変わらない。
真面目で、不器用で、事実を正確に言いすぎる。
でも、それも含めて。
彼は、やっぱり大切な友人なのだ。