守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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岸辺露伴はラキシスを取材する

岸辺露伴は、敗北を認める人間ではない。

 

たとえ、剣聖ダグラス・カイエンを読むことに失敗しても。

たとえ、キラ・ヤマトとラクス・クラインをアスラン・ザラに徹底的に守られても。

たとえ、魔人・脳噛ネウロに魔界777ツ能力で手帳を台無しにされても。

 

それは敗北ではない。

 

取材の途中経過である。

 

露伴はそう考えることにしていた。

 

そして次の取材対象を決めた。

 

ラキシス。

 

レディオス・ソープの隣に立つファティマ。

ただのファティマではない。

ソープが彼女を見る時の目。

彼女がソープに向ける声。

その間にある空気。

 

そこには、必ず何かがある。

 

以前、露伴はレディオス・ソープ本人を前にして、質問内容どころか語彙まで失ったことがある。

 

あれは屈辱だった。

 

人間でも、怪物でも、魔人でもない。

ただそこにいるだけで、こちらの言葉を削り取るような存在。

 

だからこそ、今回は正面からは行かない。

 

将を射んと欲すれば、先ず馬を射よ。

 

露伴は手帳にそう書きかけて、少しだけ手を止めた。

 

「……馬、という表現は少し失礼か」

 

だが、考え方としては間違っていない。

 

ソープ本人ではなく、ラキシスを取材する。

ラキシスを知れば、ソープの輪郭も見える。

それが岸辺露伴の狙いだった。

 

店は、いつものトニオ・トラサルディーのイタリア料理店である。

 

露伴は、いつもより少し早く店に着いた。

 

トニオが笑顔で迎える。

 

「イラッシャイマセ、露伴先生」

 

「ああ。今日は三名を招待している」

 

「三名デスね」

 

「レディオス・ソープ。ラキシス。そして……」

 

露伴は少しだけ顔をしかめた。

 

「ログナー司令も来る」

 

トニオは首をかしげた。

 

「ログナー司令?」

 

「監視役だ」

 

「監視」

 

「そうだ。実に邪魔な監視役だ」

 

その声が終わるより早く、店の入口が静かに開いた。

 

まず入ってきたのは、レディオス・ソープだった。

 

柔らかな表情。

穏やかな佇まい。

いつものように、人当たりのよい青年に見える。

 

その隣にはラキシス。

 

彼女は静かに微笑み、ソープの半歩後ろに寄り添っている。

白く、優雅で、どこか非現実的なほど整った気配をまとっていた。

 

そして、その少し後ろに。

 

ログナーがいた。

 

露伴は、思わず眉をひそめる。

 

ログナーは露伴を見た瞬間、挨拶より先に言った。

 

「おい、漫画家」

 

露伴は目を細めた。

 

「久しぶりに会って第一声がそれか」

 

ログナーは表情を変えない。

 

「陛下とラキシス様に失礼のないように」

 

「僕は食事に招待したんだぞ」

 

「貴様の前歴を考えれば、十分に必要な警告だ」

 

「前歴?」

 

「カイエン殿への接触未遂。

 キラ・ヤマトおよびラクス・クラインへの接触未遂。

 魔人への接触失敗」

 

露伴は少し黙った。

 

「……情報共有が早すぎるな」

 

ログナーは淡々と言った。

 

「必要な情報だ」

 

ソープが苦笑する。

 

「ログナー、今日は食事だよ」

 

「承知しております、陛下。ですから、問題が起きる前に止めます」

 

露伴は言った。

 

「問題が起きる前に問題扱いするな」

 

ログナーは露伴を見た。

 

「通行止めだ」

 

「まだ道に入ってすらいない」

 

「入口で止めている」

 

ラキシスが口元に手を当てて、少しだけ笑った。

 

「露伴様、本日はお招きありがとうございます」

 

その声は、柔らかい。

 

露伴はすぐに姿勢を整えた。

 

「こちらこそ。以前から、君には一度じっくり話を聞きたいと思っていた」

 

ログナーが一歩前に出る。

 

「じっくり、は不要だ」

 

露伴は睨む。

 

「君は本当に邪魔だな」

 

「職務だ」

 

ソープは楽しそうに店内を見回した。

 

「ここがトニオさんのお店なんだね。噂は聞いていたよ」

 

トニオは丁寧に頭を下げる。

 

「イラッシャイマセ。本日は、お客様に合わせた料理をお出ししマス」

 

トニオはまずソープを見た。

 

そして、少しだけ動きを止めた。

 

「……」

 

露伴がすぐに反応する。

 

「どうした。何が見える?」

 

トニオは慎重に言葉を選んだ。

 

「本日のお客様は……体調、というより、存在の状態が、少し普通ではありまセン」

 

ソープは微笑む。

 

「そうかな」

 

ラキシスが静かに言う。

 

「ソープ様、普通ではございませんわ」

 

「ラキシスに言われると、そうかもしれない」

 

露伴はそのやり取りを聞き、即座にペンを取った。

 

ログナーが言った。

 

「おい、漫画家」

 

露伴は手を止める。

 

「何だ」

 

「許可なく記録するな」

 

「会話の記録だ」

 

「不可だ」

 

「不可?」

 

「不可だ」

 

露伴は額に手を当てた。

 

「アスラン・ザラもかなり面倒だったが、君は最初から上限だな」

 

ログナーは静かに言った。

 

「光栄だ」

 

「褒めていない」

 

トニオは次にラキシスを見る。

 

そして、また少しだけ表情を変えた。

 

「こちらのお客様も……非常に整っていマス」

 

ラキシスは微笑む。

 

「ありがとうございます」

 

「ですが、整いすぎていマス。身体の調子というより、調律された楽器のようデス」

 

露伴の目が光る。

 

「調律された楽器。いい表現だ」

 

ログナーが言う。

 

「書くな」

 

「まだ書いていない」

 

「書く顔だ」

 

露伴はログナーを見る。

 

「このシリーズ、みんな僕の目を読みすぎじゃあないか?」

 

ソープは楽しそうに笑った。

 

「露伴さんは、わかりやすいのかもしれないね」

 

「君に言われたくない」

 

ログナーは最後に自分を見るトニオへ言った。

 

「私は護衛です。料理は通常で構いません」

 

トニオはログナーを見て、少し困ったように微笑む。

 

「お客様は、体調管理が非常に行き届いていマス。ですが、常に緊張状態にありマスね」

 

ログナーは答えた。

 

「職務上、必要です」

 

「食事中クライは、少し力を抜いてもよいカト」

 

「状況によります」

 

露伴が言う。

 

「今日は抜く気がないな」

 

「貴様がいるのでな」

 

「はっきり言うな」

 

席に着くと、露伴は自然な流れでラキシスの正面に座ろうとした。

 

ログナーが、無言でその席に座った。

 

露伴は固まる。

 

「……そこは、僕が座るつもりだったんだが」

 

ログナーは淡々と言う。

 

「この道は通行止めだ、ほかを当たれ」

 

「席を道扱いするな」

 

「取材経路だ」

 

ソープが苦笑する。

 

「ログナー、露伴さんも食事をしに来ているんだよ」

 

「承知しております。食事だけなら問題ありません」

 

露伴は不満そうに、斜め向かいの席に座った。

 

ラキシスはソープの隣。

ログナーは、その視線を遮る位置。

露伴からすれば、非常にやりにくい配置だった。

 

最初の料理が運ばれてきた。

 

色鮮やかな前菜。

皿の上に、季節の野菜と小さな魚介が美しく並んでいる。

香りは穏やかで、酸味と甘みが柔らかく立ち上がった。

 

トニオが説明する。

 

「まずは、身体を食事に向けて整える前菜デス。緊張をほどき、味覚を開きマス」

 

ソープは一口食べた。

 

「おいしいね」

 

ラキシスも口に運ぶ。

 

「はい。とても優しい味ですわ、ソープ様」

 

その表情は、静かに柔らかい。

 

露伴は反射的にペンを取った。

 

ログナーが言う。

 

「漫画家」

 

露伴は歯を食いしばる。

 

「食事の感想くらい書かせたまえ」

 

「ラキシス様の表情を記録しようとした」

 

「表情も食事の感想の一部だ」

 

「詭弁だ」

 

「君は担当編集より厳しいな」

 

「護衛だ」

 

ラキシスが穏やかに言う。

 

「ログナー、露伴様はお仕事熱心なのです」

 

ログナーは即座に答える。

 

「ラキシス様、それは承知しております。だから危険です」

 

露伴は言った。

 

「本人の前で危険物扱いするな」

 

「危険物だ」

 

「言い切ったな」

 

ソープは前菜を味わいながら、トニオに言った。

 

「料理は不思議だね。素材を壊さずに、別の状態へ導く」

 

トニオは嬉しそうに頷く。

 

「ハイ。食材の良さを引き出すのが料理デス」

 

ラキシスはソープを見る。

 

「ソープ様は、何でも文化としてご覧になりますのね」

 

「ラキシスと一緒に食べると、なおさらそう思うよ」

 

露伴はその会話を聞き、心の中で呟いた。

 

いい。

 

これはいい。

 

ソープ本人の言葉よりも、ラキシスの反応を通して見える距離。

彼女がソープを見る時の声。

それを拾えば、あの男の輪郭が見える。

 

将を射んと欲すれば――。

 

「露伴様」

 

ラキシスが静かに言った。

 

露伴ははっとする。

 

「何だい」

 

ラキシスは微笑んでいる。

 

「馬ではございませんわ」

 

露伴の手が止まった。

 

ソープはきょとんとする。

 

「馬?」

 

ログナーは露伴を見た。

 

「おい、漫画家」

 

露伴は冷や汗をかきかけた。

 

「待て。僕は何も言っていない」

 

ラキシスは穏やかに首を傾げる。

 

「ええ。おっしゃってはいません」

 

「なら、なぜ」

 

「そういうお顔をされていましたので」

 

露伴はしばらく黙った。

 

ログナーが低く言う。

 

「通行止めだ」

 

「今のは、君よりラキシス姫の方が怖かったぞ」

 

ラキシスは微笑むだけだった。

 

次に運ばれてきたのは、温かいスープだった。

 

白い器の中に、柔らかな香りが満ちている。

一口飲むと、身体の奥から静かに温まるような味だった。

 

トニオが言う。

 

「これは、深いところの緊張をほどくスープデス。眠りの前に、身体が安心する味を目指しまシタ」

 

ソープはスープを口にして、少し目を細めた。

 

「本当に、落ち着く味だね」

 

ラキシスも頷く。

 

「ソープ様のお好きな味ですわ」

 

「ラキシスは、僕より僕の好みを知っているね」

 

「当然ですわ」

 

その「当然ですわ」が、露伴には非常に興味深かった。

 

当然。

 

迷いがない。

誇示でもない。

従属とも違う。

ただ、そこにある事実として口にされる当然。

 

露伴はペンを取った。

 

ログナーが手を伸ばし、露伴の手帳の上に指を置いた。

 

「不可だ」

 

露伴は睨む。

 

「君、そろそろ本当に失礼だぞ」

 

「陛下とラキシス様に対して失礼を働くよりはましだ」

 

「僕はまだ何もしていない」

 

「その“まだ”を消すためにいる」

 

露伴は深く息を吐いた。

 

「君はアスラン・ザラと気が合いそうだな」

 

「その人物は、職務意識が高いと聞いている」

 

「たぶん君とは違う方向で面倒だ」

 

ログナーは答えなかった。

 

露伴はスープを飲んだ。

 

悔しいが、うまい。

 

身体が温まる。

思考も少し落ち着く。

 

そのせいで、余計に目の前の取材対象がよく見える。

 

ラキシスは、スープを味わいながらソープを見ていた。

ソープは穏やかに笑っている。

 

その二人の間にある空気は、ただの恋人や主従という言葉では足りない。

 

露伴は思った。

 

これを言葉にしたい。

 

だが、言葉にしようとすると、どこかで足りなくなる。

 

以前、ソープ本人を前にした時ほどではない。

だが、ラキシスにも同じ危うさがあった。

 

言葉が追いつかない。

 

露伴は小さく舌打ちした。

 

ログナーがすぐに言う。

 

「何を企んでいる」

 

「何も企んでいない。考えているだけだ」

 

「その考えの先が問題だ」

 

「君は僕の脳内検問か」

 

「必要ならそうする」

 

「本当に厄介だな」

 

パスタが運ばれてきた。

 

香草と野菜、魚介を使った軽いパスタ。

見た目は素朴だが、香りの重なりは複雑だった。

 

ソープは楽しそうに皿を見る。

 

「地球の麺料理も奥が深いね」

 

ラキシスが言う。

 

「ソープ様、冷めないうちに召し上がってくださいませ」

 

「うん」

 

露伴はそのやり取りを見て、思わず言った。

 

「ラキシス姫」

 

ログナーの視線が鋭くなる。

 

「何を聞くつもりだ」

 

露伴はログナーを無視して続ける。

 

「君にとって、レディオス・ソープとは何だ?」

 

店内の空気が、ほんの少しだけ変わった。

 

ソープは少し驚いたようにラキシスを見る。

 

ラキシスは、静かにフォークを置いた。

 

ログナーは露伴を睨む。

 

「漫画家」

 

露伴は手を上げた。

 

「失礼な質問ではない。取材として、いや、会話として当然の範囲だ」

 

ログナーは低く言った。

 

「線を越えるな」

 

ラキシスが、静かに言った。

 

「ログナー」

 

ログナーは黙る。

 

ラキシスは露伴を見た。

 

「ソープ様は、私のすべてです」

 

露伴は言葉を失いかけた。

 

ラキシスは続ける。

 

「けれど、私がそう申し上げる時、それは私だけの言葉ではありません。私が私であるための、ただひとつの中心です」

 

ソープは静かにラキシスを見ている。

 

ラキシスは、少しだけ微笑んだ。

 

「ソープ様がいらっしゃるから、私はここにいます。私がここにいるから、ソープ様もまた、ここにいらっしゃるのです」

 

露伴は、ペンを取ることすら忘れていた。

 

重い。

 

だが、ただ重いのではない。

 

信仰。

愛情。

存在理由。

それらが混ざっているのに、濁っていない。

 

露伴は小さく言った。

 

「……実に、いい」

 

ログナーがすぐに言う。

 

「記録は不可だ」

 

露伴は苦々しく言った。

 

「今のは記録するべきだろう」

 

「不可だ」

 

「君は文化の敵か」

 

「護衛だ」

 

ソープが少し困ったように笑う。

 

「ログナー、そこまでしなくても」

 

ログナーは即答する。

 

「陛下、必要です」

 

「露伴さんは悪い人ではないよ」

 

露伴は少しだけ得意げにする。

 

ログナーはすぐ言った。

 

「悪い人ではなく、危険な人間です」

 

露伴は顔をしかめた。

 

「褒めているのか貶しているのかはっきりしたまえ」

 

「警告です」

 

メイン料理が運ばれてきた。

 

ソープには、香草を使った軽い肉料理。

ラキシスには、白身魚と野菜を合わせた優しい皿。

ログナーには、無駄のない栄養設計の一皿。

露伴にも、集中力を整えるような料理が出された。

 

トニオは言う。

 

「本日は、皆サンが少しでも楽にお食事できるよう、整えまシタ」

 

露伴はログナーを見る。

 

「僕は全然楽ではない」

 

ログナーは答える。

 

「こちらは楽だ」

 

「君が楽なのは、僕を苦しめているからだろう」

 

「職務だ」

 

ラキシスは白身魚を一口食べた。

 

「優しい味ですわ」

 

ソープはその言葉を聞いて、嬉しそうに微笑む。

 

「ラキシスが気に入ってくれてよかった」

 

露伴は、その瞬間を見た。

 

ソープがラキシスを見る目。

ラキシスが、それを当然のように受け取る姿。

 

露伴の指が、わずかに動いた。

 

ヘブンズ・ドアー。

 

ラキシスを読めば。

この二人の関係、その根底にあるものが――。

 

ログナーの声が、低く響いた。

 

「通行止めだ」

 

露伴は動きを止める。

 

ログナーは立っていない。

武器も構えていない。

ただ、露伴を見ている。

 

それだけで、十分だった。

 

露伴は言った。

 

「君は、本当に一瞬も隙を見せないな」

 

「貴様相手に隙を見せる理由がない」

 

「ラキシス姫本人は、穏やかに食事をしているじゃあないか」

 

ログナーは静かに言った。

 

「ラキシス様がお優しいことと、安全であることは同義ではない」

 

露伴は少しだけ黙った。

 

「……今、かなり重要なことを言ったな」

 

ログナーは答えない。

 

ラキシスは、ただ微笑んでいた。

 

その微笑みは美しい。

 

だが、露伴は一瞬だけ思った。

 

この人を、本当に読んでいいのか。

 

その内側にあるものを、軽々しく本にしていいのか。

 

もし開いたとして、自分はそれを読み切れるのか。

 

その疑問が浮かんだ時、ラキシスが露伴を見た。

 

「露伴様」

 

「……何だい」

 

「今日は、お食事を楽しんでくださいませ」

 

露伴は言葉に詰まった。

 

それは、優しい言葉だった。

 

だが同時に、それ以上進むなという境界線でもあった。

 

露伴はフォークを取った。

 

「……わかったよ」

 

ログナーが短く言う。

 

「賢明だ」

 

「君が言うと腹が立つな」

 

デザートは、果物を使った軽い菓子だった。

 

甘すぎず、香りがよい。

食後の身体を静かに整える味だった。

 

ソープは満足そうに言う。

 

「いい食事だったね」

 

ラキシスも頷く。

 

「はい、ソープ様」

 

ログナーは静かに食べ終え、皿を置いた。

 

露伴は手帳を開こうとした。

 

ログナーが見る。

 

「何を書く」

 

露伴はため息をつく。

 

「感想だ。取材ではない」

 

「読ませろ」

 

「君は本当に担当編集より厳しいな」

 

「確認だ」

 

露伴はしばらく迷ったが、手帳を少しだけ見せた。

 

そこには、短くこう書かれていた。

 

**レディオス・ソープ。

以前ほど語彙は消えなかったが、やはり危険。**

 

**ラキシス。

優雅。静謐。

ソープを語る言葉が重く、澄んでいる。

取材対象として極めて有望。

ただし、近づく道は封鎖されている。**

 

**ログナー司令。

最悪の同席者。

取材経路をすべて通行止めにする男。**

 

ログナーはそれを見て、少しだけ目を細めた。

 

「最後の一文は不要だ」

 

露伴は手帳を閉じる。

 

「必要だ。僕の感想だからな」

 

ソープは笑った。

 

「通行止め、か。ログナーらしいね」

 

ログナーは静かに言う。

 

「必要な措置です、陛下」

 

ラキシスは微笑む。

 

「露伴様、今日は十分に取材できましたか?」

 

露伴は少し考えた。

 

読めなかった。

核心には近づけなかった。

ログナーに何度も止められた。

 

だが。

 

ラキシスの言葉。

ソープの表情。

ログナーの警戒。

そして、自分が一瞬感じた、ラキシスを読むことへのためらい。

 

それは、十分に収穫だった。

 

「まあね」

 

露伴は、少し不本意そうに言った。

 

「完全ではないが、無駄ではなかった」

 

ログナーが言う。

 

「次はない」

 

「それを決めるのは君じゃあない」

 

「決める。通行止めだ」

 

露伴は顔をしかめる。

 

「便利な言葉だな」

 

食事を終え、店を出る。

 

トニオが深く頭を下げた。

 

「またのお越しをお待ちしておりマス」

 

ソープが微笑む。

 

「ありがとう。とても美味しかったよ」

 

ラキシスも続ける。

 

「ごちそうさまでした」

 

ログナーは静かに会釈する。

 

露伴は店の外で、ラキシスの後ろ姿を見た。

 

ソープの隣を歩く彼女は、どこまでも穏やかだった。

 

穏やかで、美しい。

 

そして、おそらく。

 

露伴が思っているより、ずっと危険だった。

 

露伴は小さく呟く。

 

「……次は、ログナー抜きで」

 

その瞬間、前を歩いていたログナーが振り返らずに言った。

 

「聞こえているぞ、漫画家」

 

露伴は舌打ちした。

 

「耳が良すぎる」

 

ログナーは短く告げる。

 

「この道は通行止めだ、ほかを当たれ」

 

ラキシスが、少しだけ笑った。

 

ソープも楽しそうに微笑む。

 

露伴は手帳を閉じた。

 

岸辺露伴は、その日、ラキシスを読むことには失敗した。

 

だが、ひとつだけ理解した。

 

レディオス・ソープに近づく道は遠い。

ラキシスに近づく道もまた、決して平坦ではない。

そして、その道の入口には、必ずログナー司令が立っている。

 

通行止めの札を持って。

 

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