守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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岸辺露伴はXiとバクスチュアルを取材する

岸辺露伴は、今日こそ勝算があると思っていた。

 

剣聖ダグラス・カイエンは読めなかった。

キラ・ヤマトとラクス・クラインは、アスラン・ザラの監視がきつすぎた。

脳噛ネウロには魔界777ツ能力で手帳を台無しにされた。

ラキシスを取材しようとした時は、ログナー司令に取材経路をすべて通行止めにされた。

 

だが、今日は違う。

 

今日の取材対象は、怪盗Xiとファティマ・バクスチュアル。

 

シックスの因子を持ち、怪物強盗として生まれ、それでも自分の意志で日常の側に立とうとしているXi。

そして、その隣にいるバクスチュアル。

ファティマでありながら、単なる補佐とも主従とも言い切れない関係性を育てつつある彼女。

 

これは面白い。

 

漫画家として、見逃す理由がない。

 

しかも今日は、ログナー司令がいない。

 

露伴はトニオ・トラサルディーの店で、静かに手帳を開いた。

 

「今日は、邪魔が入らない」

 

その声に、店主のトニオが穏やかに言った。

 

「露伴先生、今日はお食事会デスね」

 

「もちろんだ。食事会だ」

 

露伴は平然と答えた。

 

「ただし、食事をしながら人間を観察することは、漫画家として当然の行為だ」

 

「そうデスか」

 

「そうだ」

 

そこへ、店の入口が開いた。

 

まず入ってきたのは、怪盗Xiだった。

 

少し警戒した顔。

だが、以前よりもその警戒は鋭すぎない。

隣には、ファティマ・バクスチュアルが静かに立っている。

 

「露伴先生、本当に食事だけ?」

 

Xiがいきなり言った。

 

露伴は眉をひそめる。

 

「君までそんなことを言うのか」

 

「今までの流れを考えたら言うでしょ」

 

バクスチュアルは店内を見回してから、静かに言った。

 

「匂イ、良イ」

 

Xiは少しだけ表情を緩める。

 

「だろ。トニオさんの店は、本当に美味しいらしいから」

 

露伴はすかさずその表情を見た。

 

バクスチュアルの反応を見るXi。

その顔に、ほんの少しだけ柔らかいものが混じる。

 

露伴の指が、ペンに伸びる。

 

その時。

 

「露伴センセ」

 

柔らかな声がした。

 

露伴の手が止まった。

 

入口に、ラキシスが立っていた。

 

白く、静かで、優雅な姿。

彼女はにこやかに微笑みながら、店内へ入ってくる。

 

Xiが驚いた顔をする。

 

「姫様?」

 

バクスチュアルも目を瞬かせる。

 

「ラキシス」

 

ラキシスはバクスチュアルのそばへ歩み寄った。

 

「バクスチュアル姉様。少し心配でしたので、ご一緒させていただきますわ」

 

Xiは少し困ったように笑う。

 

「姫様まで来る必要あった?」

 

「あります」

 

ラキシスは即答した。

 

「露伴センセは、とても熱心な方ですから」

 

露伴は不満そうに言った。

 

「熱心という表現なら、悪くない」

 

ラキシスは微笑む。

 

「ですから、お二人に変なことしないでくださいね?」

 

露伴は、ほんの少しだけ黙った。

 

「……変なこととは?」

 

ラキシスは柔らかく首を傾げる。

 

「露伴センセがお考えになっていることです」

 

Xiが露伴を見る。

 

「何考えてたの」

 

露伴は即座に答えた。

 

「取材だ」

 

「変なことじゃん」

 

「失礼だな」

 

バクスチュアルが小さく言った。

 

「取材、警戒」

 

ラキシスは微笑んだまま、バクスチュアルの隣に座った。

 

露伴は内心で舌打ちした。

 

ログナー司令はいない。

 

だが、ラキシスがいる。

 

前回はログナー司令の妨害で、ラキシス本人の本質には深く触れられなかった。

今回も、彼女は穏やかに見える。

あくまで、Xiとバクスチュアルを心配して同席しただけに見える。

 

ならば、まだ取材は可能だ。

 

露伴はそう判断した。

 

トニオが料理の準備を始める。

 

その前に、彼は三人を順に見た。

 

まず、Xi。

 

「お客様は……身体の疲れよりも、ご自身を警戒し続けている疲れがありマスね」

 

Xiは少しだけ顔をしかめた。

 

「自分を警戒?」

 

トニオは頷く。

 

「ハイ。外ではなく、内側を見張っているようデス」

 

Xiは黙った。

 

露伴の目が鋭くなる。

 

シックスの因子。

自分の中にある怪物性。

それを警戒する疲れ。

 

これは、いい。

 

露伴がペンを取るより早く、ラキシスが言った。

 

「露伴センセ」

 

露伴は手を止めた。

 

「何だい」

 

「今は、お食事の時間ですわ」

 

「わかっている」

 

「なら、まずは召し上がってくださいませ」

 

その言い方は、あくまで柔らかい。

 

だが、露伴はなぜか従った。

 

次に、トニオはバクスチュアルを見た。

 

「こちらのお客様は、とても静かデス。ですが、静かすぎるわけではありまセン」

 

バクスチュアルは首を傾げる。

 

「静カ」

 

「ハイ。ご自身の感情を、言葉にする途中にいらっしゃいマス」

 

バクスチュアルは、少しだけ視線を落とした。

 

「途中」

 

トニオは優しく頷く。

 

「ゆっくり味わってクダサイ。料理も、気持ちも」

 

Xiは思わずバクスチュアルを見る。

 

「……ゆっくりでいいよ」

 

バクスチュアルは、Xiを見た。

 

「Xiサン」

 

「うん」

 

「ゆっくり、スル」

 

Xiは少し照れたように目を逸らした。

 

露伴は思った。

 

これはいい。

 

実にいい。

 

怪盗とファティマ。

警戒と信頼。

ぎこちない言葉。

その間にある、名前のつかない関係。

 

露伴は今度こそペンを取ろうとした。

 

ラキシスが静かに微笑む。

 

「露伴センセ」

 

「……何だい」

 

「お二人を、急がせないでくださいね」

 

露伴は眉をひそめた。

 

「僕は何も言っていない」

 

「お顔に出ております」

 

Xiが小声で言う。

 

「露伴先生、顔に出やすいね」

 

「君に言われたくない」

 

最初の料理が運ばれてきた。

 

前菜だった。

 

色鮮やかな野菜に、軽い酸味のあるソース。

香りは穏やかで、食欲を静かに開くような一皿だった。

 

トニオが説明する。

 

「まずは、緊張をほどく前菜デス」

 

Xiは一口食べた。

 

「……うまい」

 

バクスチュアルも小さく口に運ぶ。

 

「酸味。甘味。油、少シ」

 

「どう?」

 

Xiが聞く。

 

バクスチュアルは、少し考えてから答えた。

 

「嫌ジャナイ。良イ」

 

Xiは少し笑った。

 

「そっか」

 

ラキシスはそれを見て、嬉しそうに微笑む。

 

「よかったですわ、バクスチュアル姉様」

 

バクスチュアルはラキシスを見る。

 

「ラキシス、心配、シテクレタ」

 

「もちろんです」

 

「嬉シイ」

 

「私も嬉しいです」

 

露伴は、その会話を見ながら、また手帳を開いた。

 

ファティマ同士。

姉様という呼び方。

ラキシスがバクスチュアルを心配する理由。

そこには、単なる同族意識以上のものがある。

 

露伴は静かに書こうとした。

 

その瞬間、ラキシスが露伴を見た。

 

「露伴センセ」

 

露伴は止まる。

 

「……君は、ログナー司令より柔らかいが、やっていることは同じだな」

 

ラキシスは微笑む。

 

「ログナーほど厳しくはありません」

 

「十分厳しい」

 

「そうでしょうか」

 

Xiは小さく笑った。

 

「姫様、笑顔で止めるから逆に怖いんだけど」

 

ラキシスはXiを見る。

 

「Xiさん」

 

「はい」

 

「バクスチュアル姉様を困らせてはいけませんよ」

 

Xiは少し慌てる。

 

「困らせてないつもりだけど」

 

バクスチュアルが静かに言った。

 

「Xiサン、困ラセナイ」

 

Xiはほっとする。

 

「だって」

 

ラキシスはにこりと笑った。

 

「では、露伴センセにも困らせないでいただかないと」

 

露伴は言う。

 

「僕は困らせるつもりはない」

 

「取材熱心なだけですものね」

 

「そうだ」

 

「だから心配なのです」

 

「話が戻ったな」

 

次の料理は、温かいスープだった。

 

トニオが言う。

 

「これは、身体の内側を温めるスープです。警戒で固くなった呼吸を、少し楽にしマス」

 

Xiはスープを飲んだ。

 

しばらくして、ほんの少しだけ息を吐く。

 

「……なんか、落ち着く」

 

バクスチュアルもスープを飲む。

 

「温カイ」

 

「熱くない?」

 

「大丈夫」

 

「ゆっくりね」

 

「ハイ」

 

そのやり取りは、とても小さなものだった。

 

だが、露伴には見えた。

 

Xiは、バクスチュアルの反応を見ている。

バクスチュアルは、Xiの言葉を聞いている。

互いにまだぎこちないのに、それでも確かに寄っている。

 

露伴は尋ねた。

 

「バクスチュアル」

 

Xiがすぐに警戒する。

 

「何?」

 

露伴は手を上げる。

 

「質問だ。読むわけじゃあない」

 

ラキシスは静かに露伴を見る。

 

「質問だけなら」

 

露伴はバクスチュアルに向き直った。

 

「君にとって、Xiとは何だ?」

 

バクスチュアルは、少しだけ黙った。

 

Xiは明らかに落ち着かない顔になる。

 

「露伴先生、急に何聞いて――」

 

バクスチュアルが言った。

 

「Xiサン」

 

露伴は言う。

 

「それは名前だ」

 

バクスチュアルは考える。

 

「マスター……違ウ」

 

Xiは息を止める。

 

「バクスチュアル」

 

「補佐対象。デモ、それダケ、違ウ」

 

ラキシスは静かに見守っている。

 

バクスチュアルは、ゆっくり言葉を探した。

 

「Xiサン、私ヲ、選ンダ。服、選ンダ。珈琲、選ンダ。甘イ物、選ンダ」

 

Xiは顔を赤くしかけた。

 

「そこ全部言う?」

 

「嬉シカッタ」

 

バクスチュアルは、まっすぐXiを見た。

 

「Xiサン、私ノ、隣ニ居ル人」

 

店内が静かになった。

 

露伴は、思わずペンを取った。

 

これは書くべきだ。

 

この言葉は、今しか出ない。

 

ファティマが、自分の言葉で、マスターでも補佐対象でもない何かを言おうとしている。

 

露伴の指が動く。

 

ヘブンズ・ドアー。

 

読めば、もっとわかる。

このぎこちなさの奥にある感情。

この二人の関係が、どこへ向かおうとしているのか。

 

その瞬間。

 

「露伴センセ」

 

ラキシスの声がした。

 

柔らかい声だった。

 

だが、空気が変わった。

 

露伴は、動けなかった。

 

ラキシスは微笑んでいる。

怒ってはいない。

声を荒げてもいない。

立ち上がってもいない。

 

ただ、そこにいる。

 

それだけで、露伴の指が止まる。

 

Xiも気づいた。

 

「姫様……?」

 

バクスチュアルもラキシスを見る。

 

「ラキシス」

 

ラキシスは、露伴を見たまま言った。

 

「お二人に、変なことしないでくださいね、と申し上げました」

 

露伴は、喉が少しだけ乾くのを感じた。

 

「僕は……」

 

「読もうとなさいました」

 

「……まだ、読んでいない」

 

「はい。ですから、こうしてお話ししております」

 

その言葉は優しい。

 

だが、露伴はその奥に、決定的な線を感じた。

 

越えてはいけない線。

 

ラキシスは続ける。

 

「露伴センセは、知りたいのですね」

 

露伴は答えない。

 

「Xiさんとバクスチュアル姉様が、何になろうとしているのか。お二人の内側に何があるのか。言葉にできないものを、本にして読みたい」

 

露伴は、静かに言った。

 

「漫画家なら当然だ」

 

「そうかもしれません」

 

ラキシスは微笑む。

 

「けれど、露伴センセ。お二人は今、言葉を探している途中です」

 

バクスチュアルが小さく呟く。

 

「途中」

 

「ええ、姉様」

 

ラキシスは優しく言った。

 

「途中の言葉を、先に読んではいけません」

 

露伴は、何も言えなかった。

 

ラキシスの声は、なおも柔らかい。

 

「ソープ様なら、きっとお許しになるかもしれません。お優しい方ですから」

 

そして、ほんの少しだけ、微笑みの温度が変わった。

 

「でも、私は帝ほど甘くありません」

 

露伴の背筋に、冷たいものが走った。

 

店内の温度は変わっていない。

トニオの料理の香りも、まだ穏やかに漂っている。

 

それなのに。

 

露伴は一瞬、理解した。

 

AKDを支配するもの。

 

恐怖と強さ。

圧倒的な力。

ただ優しいだけでは、人も国も時代も支配できない。

 

アマテラス陛下とラキシス姫。

 

その隣にいる彼女は、ただ可憐なファティマではない。

ただソープに愛されている存在でもない。

 

露伴は、前回ログナー司令が言った言葉を思い出した。

 

ラキシス様がお優しいことと、安全であることは同義ではない。

 

今なら、少しだけわかる。

 

ログナーは、ラキシスを守っていた。

だが同時に、露伴を守っていたのかもしれない。

 

露伴は、ゆっくりとペンを置いた。

 

「……わかったよ」

 

ラキシスは、またいつもの柔らかな表情に戻った。

 

「ありがとうございます、露伴センセ」

 

Xiは、小さく息を吐いた。

 

「今の、何……?」

 

バクスチュアルはラキシスを見る。

 

「ラキシス、強イ」

 

ラキシスは微笑む。

 

「姉様を守りたかっただけですわ」

 

Xiがぼそっと言う。

 

「姫様、やっぱり怖いな……」

 

ラキシスはXiを見る。

 

「Xiさん」

 

「はい」

 

「バクスチュアル姉様を大切になさってくださいね」

 

Xiは、少しだけ背筋を伸ばした。

 

「……わかってる」

 

バクスチュアルが言う。

 

「Xiサン、大切、シテクレル」

 

Xiは照れたように横を向く。

 

「そういうことは、もうちょっと小声で」

 

「小声?」

 

「いや、いい」

 

トニオは、静かに次の料理を運んできた。

 

パスタだった。

 

香草と魚介の香り。

軽く、優しく、それでいて深い味。

 

トニオは言った。

 

「今のお話の後には、少し落ち着く料理がよいと思いマシタ」

 

露伴はトニオを見た。

 

「……料理人の判断が的確すぎる」

 

トニオは微笑む。

 

「お食事は、場の空気も大切デス」

 

Xiはパスタを食べた。

 

「うまい」

 

バクスチュアルも食べる。

 

「ウマイ」

 

Xiが笑う。

 

「それ、すえぞうみたい」

 

「ウマイ、短イ。便利」

 

「便利なんだ」

 

ラキシスは嬉しそうに二人を見ている。

 

露伴は、それを見ていた。

 

今ならわかる。

 

この場で記録できるものはある。

だが、読んではいけないものもある。

 

漫画家としては、腹立たしい。

 

だが、取材対象を壊してまで読むのは、露伴の求めるリアリティではない。

 

露伴は手帳を開き、今度は静かに書いた。

 

**怪盗Xi。

自分自身を警戒し続ける少年。

だが、バクスチュアルを見る時だけ、警戒の形が変わる。**

 

**バクスチュアル。

感情を言葉にする途中。

「Xiサン、私ノ、隣ニ居ル人」

これは記録する価値がある。**

 

少し考え、露伴は続けた。

 

**ラキシス。

柔らかい声で境界線を引く。

ログナー司令の通行止めは、外側の壁。

ラキシス姫の微笑みは、内側から道を消す。**

 

露伴はそこで手を止めた。

 

ラキシスがこちらを見ている。

 

「露伴センセ」

 

露伴は手帳を閉じた。

 

「感想だ」

 

「そうですか」

 

「君の許可を得るつもりはない」

 

ラキシスは、にこりと笑った。

 

「では、そういうことにいたしましょう」

 

露伴は小さく呟く。

 

「本当にやりにくいな」

 

メイン料理が出る頃には、場の空気は少し落ち着いていた。

 

Xiは料理を食べながら、ちらりとバクスチュアルを見る。

 

「美味しい?」

 

「美味シイ」

 

「よかった」

 

「Xiサンハ?」

 

「俺も美味しい」

 

「同ジ」

 

「うん。同じ」

 

ラキシスは、それを見て幸せそうに微笑んだ。

 

「よかったですわ」

 

露伴は言った。

 

「ラキシス姫」

 

「はい、露伴センセ」

 

「君は、なぜそこまでバクスチュアルを気にかける?」

 

ラキシスは少しだけ考えた。

 

「姉様ですもの」

 

「ファティマだから?」

 

「それもあります。でも、それだけではありません」

 

ラキシスはバクスチュアルを見る。

 

「バクスチュアル姉様は、今、ご自身の言葉で世界を見ようとなさっています。私は、それが嬉しいのです」

 

バクスチュアルは、静かにラキシスを見た。

 

「ラキシス」

 

「はい」

 

「私、途中」

 

「ええ」

 

「デモ、進ム」

 

ラキシスは優しく頷いた。

 

「はい。ゆっくりでよろしいのです」

 

Xiは、何も言わなかった。

 

ただ、バクスチュアルの隣にいた。

 

露伴は、その沈黙を見た。

 

なるほど。

 

この関係は、今まさに形になろうとしている。

だからこそ、無理に読めば壊れる。

 

露伴は、少しだけ悔しそうに笑った。

 

「まったく。今日は取材対象に止められ、付き添いに止められ、料理人には空気を整えられる」

 

トニオが言う。

 

「それも食事会デス」

 

「そうかもしれないな」

 

デザートは、果物を使った軽い菓子だった。

 

甘すぎず、柔らかく、食後の身体を穏やかに整える味。

 

バクスチュアルは一口食べて、ほんの少しだけ目を細めた。

 

「甘イ」

 

Xiが聞く。

 

「好き?」

 

「嫌ジャナイ」

 

少し間を置いて、バクスチュアルは言った。

 

「好キ」

 

Xiは完全に横を向いた。

 

「そっか」

 

ラキシスは口元に手を当てて微笑む。

 

「まあ」

 

露伴はその瞬間を記録したかった。

 

だが、ペンは取らなかった。

 

そのかわり、目で見た。

 

今の表情は、紙に残すより先に、自分の中に入れるべきだと思った。

 

食事が終わり、席を立つ。

 

トニオが深く頭を下げる。

 

「またのお越しをお待ちしておりマス」

 

Xiは言った。

 

「ごちそうさまでした。美味しかったです」

 

バクスチュアルも丁寧に頭を下げる。

 

「美味シカッタ、デス」

 

ラキシスも微笑む。

 

「とてもよいお食事でしたわ」

 

露伴は会計を済ませながら、手帳を閉じた。

 

店を出ると、夜風が少しだけ涼しかった。

 

Xiとバクスチュアルが、並んで歩く。

ラキシスは少し後ろから、その二人を見守っている。

 

露伴は、ラキシスの横に並んだ。

 

「今日わかったことがある」

 

ラキシスは微笑む。

 

「何でしょう、露伴センセ」

 

「ログナー司令がいない方が、安全とは限らない」

 

ラキシスは、少しだけ楽しそうに笑った。

 

「それは、よい学びでしたわね」

 

露伴は顔をしかめる。

 

「君は、自分が怖いと言われているのをわかっているだろう」

 

「怖がらせるつもりはありませんでした」

 

「嘘をつけ」

 

ラキシスは否定せず、ただ微笑んだ。

 

露伴は、少しだけ肩をすくめた。

 

「だが、収穫はあった。Xiとバクスチュアルの関係は、まだ途中だ。途中だからこそ面白い」

 

「ええ」

 

「そして、途中のものを勝手に読もうとすると、ラキシス姫が出てくる」

 

「必要でしたら」

 

「必要にならないことを祈るよ」

 

前を歩くXiが振り向いた。

 

「露伴先生、また変なこと考えてない?」

 

露伴は即答した。

 

「考えている」

 

Xiは顔をしかめる。

 

「考えないでよ」

 

バクスチュアルが言う。

 

「露伴センセ、警戒」

 

露伴は不満そうに言った。

 

「君たちまでラキシス側につくのか」

 

ラキシスは穏やかに笑った。

 

「皆さま、ご自身を守ることを覚えていらっしゃるのですわ」

 

露伴は、空を見上げた。

 

今日、彼はXiとバクスチュアルを読むことには失敗した。

 

だが、二人が自分の言葉で少しずつ近づいていく過程を見た。

そして、ラキシス姫の優しさの奥にある、恐ろしく静かな力の一端を知った。

 

完全な敗北ではない。

 

そう思うことにした。

 

ただし。

 

次にラキシス姫が同席する時は、もう少し慎重に動くべきだ。

 

岸辺露伴は、そう手帳に書き足した。

 

そして最後に、小さく一行加えた。

 

**ラキシス姫。

帝ほど甘くない。**

 

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