守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
それは、穏やかな午後だった。
トニオ・トラサルディーの店で、キラ・ヤマト、ラクス・クライン、アスラン・ザラ、シン・アスカの四人は、ようやく純粋な食事会を終えた。
露伴はいない。
誰も読まれない。
誰も警戒で胃を固くしない。
シンも一応、アスランに何度か「急ぐな」と言われただけで済んだ。
「今日は本当に美味しかったですね!」
店を出てからも、シンはまだ少し興奮していた。
キラは笑う。
「シン、ずっと言ってるね」
「だって美味しかったんです!」
ラクスも楽しそうに微笑む。
「ふふ。美味しいものを美味しいと言えるのは、とても素敵なことですわ」
アスランが静かに言う。
「ただし、食べる速度はもう少し落とせ」
「はい……」
シンは少し肩を落とした。
その時だった。
「やあ、ちょうどよかった」
声がした。
四人が振り返ると、そこにはレディオス・ソープがいた。
隣にはラキシス。
少し離れて、怪盗Xiとバクスチュアル。
そして、なぜか桂木弥子もいた。
シンは一瞬だけ嫌な予感を覚えた。
本能的なものだった。
キラも同時に、少しだけ表情を曇らせた。
「……ソープさん?」
ソープはいつもの穏やかな笑顔で言った。
「デスティニーガンダムに、ゼウスシルエットっていう追加兵装があるって聴いたんだ」
シンは目を丸くする。
「えっ、はい。ありますけど」
キラが小さく呟いた。
「なにか嫌な予感がします」
アスランはすでに警戒を開始していた。
ラクスは口元に手を当てて、静かに成り行きを見守る姿勢に入っている。
ソープは楽しそうに続けた。
「ゼウスという名はいいね。神の名を冠した追加兵装。とても力強い」
シンは少し照れたように胸を張る。
「まあ、デスティニーにふさわしい装備ではありますね!」
キラが言う。
「シン、油断しないで」
「え?」
ソープは頷いた。
「そこで考えたんだ」
アスランが即座に言う。
「考えないでください」
ソープは構わず言った。
「デスティニーガンダム・ホームランシルエット……面白いと思わないか?」
沈黙。
キラは目を閉じた。
アスランは眉間を押さえた。
ラクスは「あら」とだけ言った。
シンは叫んだ。
「思いません!!」
その声は、店先の穏やかな空気を一瞬で吹き飛ばした。
弥子は目を輝かせる。
「ホームランシルエット!? 何ですかそれ、すごく見たいです!」
シンが振り向く。
「桂木さん!?」
Xiは腹を抱えて笑い始めた。
「いや、待て。デスティニーが巨大バット持って敵艦をかっ飛ばすのは、ちょっと見たい」
「Xiまで!?」
バクスチュアルは首を傾げる。
「ホームラン……シルエット」
Xiは笑いながら説明する。
「敵を打って、遠くに飛ばす装備」
バクスチュアルは少し考えた。
「豪快」
シンは頭を抱えた。
「豪快じゃないです!!」
ソープは楽しそうに言う。
「ほら、面白いと思う人もいる」
キラは静かに言った。
「面白いと実用性は別です」
アスランも続ける。
「いや、その前に面白がるな。兵器開発の入口に立たせるな」
シンはアスランを見る。
「アスランさん!」
「シン、まだ間に合う。拒否しろ」
「はい!」
シンはソープに向き直った。
「止めてください!」
ソープは不思議そうに首を傾げる。
「まだ作るとは言っていないよ」
キラが言う。
「“まだ”って言いましたね」
アスランが鋭く続ける。
「作る気がある者の言葉だ」
ソープは楽しそうに微笑んだ。
「巨大金属バット用に最適な素材も、AKDにあるよ。
とても丈夫でね、LEDミラージュの剣にも使ってる」
アスランが一歩前に出た。
「待ってください。素材の話に進まないでください」
シンは青ざめる。
「もう作る気じゃないですか!」
Xiがふと顔を上げた。
「それ、この間もらったミラージュナイト用カトラリーと一緒の素材じゃ」
シンが固まる。
「カトラリー?」
弥子が反応する。
「えっ、フォークとかナイフと同じ素材で巨大バットを?」
Xiは真顔で言う。
「同じ素材で、たぶん敵艦も料理できる」
「料理しません!!」
ソープはうんうんと頷く。
「食卓にも戦場にも使える優秀な素材だね」
キラが真剣に言った。
「まとめ方がおかしいです」
アスランも頷く。
「陛下。その素材をスポーツ用品に転用しないでください」
ソープは訂正する。
「スポーツ用品ではないよ。対艦打撃兵装だ」
シンが叫ぶ。
「もっと嫌です!!」
ラクスはシンの肩にそっと手を置いた。
「シン、落ち着いて」
「落ち着けませんよ! 俺の機体が野球にされてます!」
ソープは空を見上げるように言った。
「運命を打ち返す翼……」
キラが小さく呟く。
「ちょっと良い感じにまとめようとしてる」
アスランがラクスを見る。
「ラクス、反応するな」
ラクスは微笑む。
「言葉だけは、少し美しいですわね」
「ラクスさん!?」
シンの声が裏返った。
弥子は楽しそうに手を挙げる。
「必殺技は何ですか?」
ソープは即答した。
「フルスイング・デスティニー」
Xiが吹き出す。
「名前が強い」
シンは両手を振った。
「強くないです! 強そうに言わないでください!」
アスランは真面目な顔で言う。
「シン、反応するな。採用されたと思われる」
「してません!!」
ソープはもう少し考える。
「ただ、ホームランシルエットという名称が少し直球すぎるかな」
キラは嫌な汗をかいた。
「そこで止まってください」
ソープは穏やかに続けた。
「名前がイマイチなら、『ホムーランシルエット』にして……」
シンの顔色が変わった。
「それマンガのネタじゃないですか!」
キラが驚いてシンを見る。
「シン、反応が早い」
アスランも真面目に問う。
「なぜ知っている」
シンは慌てる。
「いや、なんか昔の文化資料で……!」
Xiは笑いすぎて少し屈んでいる。
「ホムーランシルエット。急に胡散臭さが増したな」
弥子は嬉しそうに言う。
「でも語感はちょっとかわいいです!」
「かわいくないです! 俺のデスティニーに装備させないでください!」
ソープは真面目に頷いた。
「ホムーランバット、ホムーランボール、ホムーランシルエット」
アスランが即座に止める。
「系列化しないでください」
キラも言う。
「商品展開みたいになってきた……」
ラクスは静かに呟いた。
「ホムーラン……不思議な響きですわね」
「ラクスさん、気に入らないでください!!」
ソープはさらに話を進めた。
「親しみやすさは大切だよ。兵器名に柔らかさを持たせることで――」
アスランが遮る。
「兵器名に柔らかさは不要です」
Xiがぼそっと言う。
「子どもにも安心、艦隊にも致命傷」
キラが即座に突っ込む。
「安心ではない」
弥子は目を輝かせている。
「敵艦をホームランしたら、実況も必要ですね!」
シンは振り返る。
「実況!?」
Xiはすぐ乗った。
「打ったー! これは大きい!」
弥子も続ける。
「伸びる、伸びる! まだ伸びるー!」
キラが空を見上げる。
「敵艦が大気圏外まで飛んでいく……」
アスランが低い声で言う。
「実況するな」
ソープは指を立てた。
「スコアボードも作ろうか」
シンが悲鳴を上げた。
「戦場に球場を建てないでください!!」
バクスチュアルがぽつりと言う。
「ホームラン、勝利?」
Xiが笑いながら頷く。
「まあ、勝利ではあるな」
シンは必死に首を振った。
「違います! そういう勝ち方じゃないです!」
ソープはさらに真面目な顔になった。
「問題は、スイング時の慣性制御だね」
アスランがすぐに言った。
「問題はそこではありません」
キラも続く。
「もう設計課題に入ってる……」
ソープは手を顎に当てる。
「光の翼で加速し、バット型対艦兵装で対象を打ち返す。命中時の反作用をどう逃がすかが課題になる」
シンは震えた。
「やめてください。話してるだけで図面ができていく気がします」
アスランは深く頷く。
「シン、警戒レベルを上げろ」
「はい!」
ソープは穏やかに言った。
「大丈夫。デスティニー本体には改造を加えない。あくまで追加装備として――」
シンが即座に叫ぶ。
「その言い方がもう正式装備っぽいんです!」
アスランも言う。
「“あくまで”で安心させないでください」
キラは真剣な顔でシンを見た。
「シン、設計仕様書は絶対に渡しちゃだめだよ」
「もちろんです!」
その瞬間、ソープはぽんと手を打った。
「そうだ。接続規格をきちんと合わせられるようにしたいから、まずはデスティニーガンダムの設計仕様書を見せてもらって……」
シンは全力で叫んだ。
「絶対に貸さないです!!」
声がまた裏返った。
ソープは少し残念そうにする。
「もちろん複写で構わないよ」
「原本でもコピーでもダメです!!」
キラはシンの横に立った。
「シン、正しい判断だよ」
アスランも続く。
「ああ。ここで渡したら終わりだ」
ソープは首を傾げる。
「終わりではないよ。始まりだ」
シンが両手で耳を塞ぎかける。
「もっと嫌です!!」
Xiは腹を抱えながら言った。
「ホームランシルエット開発計画、第一球」
「第一球って言うな!!」
弥子は無邪気に問う。
「設計仕様書って、レシピみたいなものですか?」
ソープは嬉しそうに答える。
「そうだね。機体にとってのレシピだ」
弥子はぱっと顔を明るくする。
「じゃあトニオさんに見せたら、もっと良くなったり?」
シンが叫ぶ。
「料理の話に戻してください!!」
キラは苦笑しながらも真剣だった。
「設計仕様書を見せたら、多分一晩で試作機ができます」
アスランはさらに厳しい表情になる。
「いや、一晩もかからないかもしれない」
シンは二人を見る。
「なんでそんな信頼感あるんですか!?」
キラは静かに答えた。
「技術力への信頼と、やってほしくない気持ちは別なんだ」
アスランはシンに向き直る。
「いいか、シン。設計仕様書は絶対に渡すな」
「はい!」
「データ端末も見せるな」
「はい!」
「機体の背中も見せるな」
「背中もですか!?」
アスランは真剣に頷く。
「見るだけで接続規格を推測される可能性がある」
シンは震えた。
「怖すぎる!!」
ソープは少し考えた。
「では、目視で推測するしかないね」
アスランが即座にシンの前に立った。
「見るな」
ソープは穏やかに言う。
「まだ何もしていないよ」
アスランは言い切った。
「する顔です」
キラがぽつりと呟く。
「ログナー司令みたいなこと言い始めた」
Xiは頷く。
「でも今回は正しい」
ラクスはシンに優しく言う。
「シン、どうか落ち着いて」
シンは半泣きで言った。
「俺のデスティニーが野球にされかけてるんです!」
ラキシスは柔らかく微笑んだ。
「ソープ様」
ソープはラキシスを見る。
「何だい、ラキシス」
「シンさんが大変お困りですわ」
「そうかな」
シンは全力で頷いた。
「そうです!!」
ラキシスはさらに穏やかに言う。
「ですので、今日はこのあたりで」
ソープは少し考えた。
「うーん」
シンの顔が強張る。
「まだ考えてる……」
ラキシスは微笑んだまま、ほんの少しだけ声を低くした。
「ソープ様」
ソープはにこりと笑った。
「わかった。今日はここまでにしよう」
シンはその場に崩れ落ちそうになった。
「助かった……」
キラが肩を叩く。
「よかったね、シン」
アスランはまだ警戒を解いていない。
「油断するな。“今日は”と言った」
シンは再び顔を上げる。
「そうでした!」
ソープは楽しそうに言った。
「試作名称だけ決めておこうか。D-HS-01《ホムーラン》で」
シンは叫んだ。
「試作番号を振らないでください!!」
アスランが前に出る。
「ここから先は通行止めです」
キラが小声で言う。
「やっぱりログナー司令になってる」
Xiは笑いながら言った。
「アスランが通行止めを継承した」
弥子は少し残念そうだ。
「見たかったのにー、ホームランシルエット」
「俺は見たくないです!!」
ソープはシンを見る。
「本当に嫌かい?」
シンは即答した。
「嫌です!」
「デスティニーの新しい可能性だよ」
「可能性の方向がおかしいです!」
「運命を打ち返すんだ」
「言い方だけカッコよくしないでください!」
ラクスはそっと微笑む。
「シンの運命は、シン自身が決めるものですものね」
シンはぱっと顔を輝かせた。
「ラクスさん……!」
キラも頷く。
「そうだね。少なくとも、巨大金属バットで決めるものじゃない」
「キラさん!」
アスランが静かに言う。
「デスティニーは、シンの機体だ。本人が拒否するなら、それで終わりだ」
シンは深く頷いた。
「はい!」
ソープは少しだけ残念そうにしながらも、笑って言った。
「わかった。本人の意思は尊重しよう」
シンは胸を撫で下ろす。
「よかった……」
その時、弥子が小さく呟いた。
「でも、もしプラモデルが出たら売れそうですよね」
シンは勢いよく振り返った。
「出ません!!」
Xiが言う。
「限定版、光るバット付き」
「やめてください!」
キラが言う。
「プレミアムバンダイで――」
シンがキラを見る。
「キラさん!?」
キラは少し笑った。
「ごめん。ちょっと想像した」
アスランは厳しく言った。
「想像するな。商品化される」
ラクスは楽しそうに微笑む。
「皆様、想像力が豊かですわね」
シンは頭を抱えた。
「豊かじゃなくていいです、今だけは!」
ソープは最後に、穏やかに言った。
「では、ホームランシルエットは保留ということで」
シンは即座に言う。
「却下です!」
「保留ではなく?」
「却下です!」
「検討段階にも?」
「入りません!」
「資料だけでも?」
「作りません!」
「名前だけなら?」
「残しません!」
「ホムーランも?」
「ダメです!!」
ソープは少し笑った。
「なかなか強固だね」
シンは胸を張る。
「デスティニーの名誉に関わりますから!」
アスランは頷く。
「よく言った」
キラも笑う。
「うん。今日のシンは正しい」
ラクスも穏やかに言った。
「とても立派ですわ」
シンは少し照れた。
「ありがとうございます!」
Xiはまだ笑っている。
「でも、デスティニーガンダム・ホームランシルエットって名前だけで面白すぎるだろ」
弥子も頷く。
「ずるいですよね。タイトルだけで笑えます」
シンは叫んだ。
「笑わないでください!!」
バクスチュアルは静かに呟いた。
「シン、必死」
Xiは頷く。
「ああ。あれは守る者の顔だ」
キラは少し真面目に言った。
「うん。シンは今日、デスティニーを守ったね」
アスランも言う。
「仕様書も守った」
ラクスが微笑む。
「ホムーランからも守りましたわ」
シンは疲れ切った顔で言った。
「本当に疲れました……」
ソープはにこやかに手を振る。
「では、また何か面白い兵装を思いついたら相談するよ」
シンは即座に後退した。
「相談しないでください!!」
アスランがシンの前に立つ。
「その相談は通行止めです」
キラは笑いながら言った。
「アスラン、完全に使いこなしてるね」
アスランは真顔で答える。
「便利だ」
Xiが腹を抱える。
「ログナー司令に怒られるぞ」
ラキシスは楽しそうに微笑んだ。
「ふふ。ソープ様、今日はこのくらいになさいませ」
ソープは少しだけ残念そうに頷いた。
「そうだね」
シンはようやく深く息を吐いた。
その日、シン・アスカはデスティニーガンダムの新装備案を拒否した。
ゼウスシルエットに続く、謎の追加兵装。
大型対艦打撃兵装。
ミラージュの剣にも使われる素材の巨大金属バット。
接続規格を合わせるための設計仕様書要求。
そして、恐るべき名称変更案、ホムーランシルエット。
すべてを拒否した。
拒否し続けた。
全力で拒否した。
キラは言った。
「シン、今日はよく頑張ったね」
シンは疲れた顔で答える。
「はい……俺、デスティニーを守りました……」
アスランは頷く。
「ああ。仕様書も守った」
ラクスは微笑む。
「運命を打ち返すのではなく、守り抜きましたのね」
シンは少しだけ考えた。
「……それは、ちょっとカッコいいですね」
ソープが嬉しそうに顔を上げる。
「だろう?」
シンはすぐに叫んだ。
「でも作らないでください!!」
その声は、今日一番はっきりしていた。