守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
いつものカフェテラス。
交易会議も、これで四回目である。
第一回では、レディオス・ソープがバスター砲を現金化しようとして、キラ・ヤマトに全力で止められた。
第二回では、民生品に方向転換したものの、ミラージュ騎士団支給品の血の十字架が強すぎて、コンパス備品としては再検討となった。
第三回では、空条承太郎を通じて、スピードワゴン財団への販路も開けた。
星団銘菓。
すえぞうぬいぐるみ。
すえぞう柄ハンカチ。
すえぞう柄タオル。
すえぞう柄文房具。
このあたりは、地球圏向け商品としてかなり有望である。
ただし。
外貨獲得という意味では、もう少し単価の高い商品も欲しい。
その話になった時、ソープは楽しそうに言った。
「今回は、かなり安全な販路だと思うんだ」
その一言で、キラは少しだけ身構えた。
「ソープさん」
「うん?」
「念のため確認しますけど」
「うん」
「中身、動きませんよね?」
「動かないよ」
「撃ちませんよね?」
「撃たないよ」
「起動しませんよね?」
「しないよ」
ソープは、にこにこしながら大きな箱を机の上へ置いた。
「模型だから」
キラはまだ警戒を解かなかった。
これまでの交易会議で、彼は学んでいた。
ソープが言う「安全」は、地球圏の基準と少し違う。
いや、かなり違う。
ログナー司令も、静かに資料から顔を上げた。
「陛下。確認します。本当に模型ですね」
「うん」
「自律稼働は」
「しない」
「発光、発熱、射撃、空間転移、実機召喚は」
「ないよ」
キラは思わず聞いた。
「実機召喚って、確認する必要あります?」
ログナーは即答した。
「陛下の模型ですので」
「ひどいなあ」
ソープは困ったように笑った。
Xiが横から顔を出す。
「でも、模型から実物が出てきたら面白いよね」
「面白くありません」
キラが即答した。
ログナーもXiを見た。
「お前の発想は通行止めだ」
「まだ提案しただけだよ」
「採用されない提案だ」
「厳しいなあ」
ラクス・クラインは、穏やかに箱を見ていた。
「ずいぶん大きな箱ですのね」
「うん。見本として一個持ってきたんだ」
ソープは少し得意そうにした。
「AKDのある惑星デルタ・ベルンで、子どもたちにも大人気のプラモデル」
キラの眉が、ぴくりと動いた。
「プラモデル……?」
「そう」
ソープは箱を開き、ゆっくりと中身を見せた。
そこにあったのは、白い巨神の姿だった。
半透明の装甲。
黒いカウンターウェイト。
赤く刻まれた血の十字架。
巨大な肩。
鋭いライン。
人型でありながら、地球圏のモビルスーツとは全く異なる異質な美しさ。
そして、背負うように存在感を放つ、巨大な火器。
「1/100、LEDミラージュ。インフェルノナパーム付き」
キラの目が、はっきりと輝いた。
「……これ、プラモデルなんですか?」
「うん」
「組み立て式?」
「もちろん」
「接着剤は?」
「使うよ」
「塗装は?」
「してもいいし、しなくても綺麗だよ。これはクリア版だから、内部構造も見える」
キラは箱に一歩近づいた。
「ランナーを見てもいいですか?」
ラクスが微笑んだ。
「キラ?」
「ラクス、これは……見ないと」
Xiが笑う。
「その顔、前に実物のLEDミラージュを見た時と同じだね」
キラは少しだけ照れたように視線を逸らした。
「実物は怖かった。でも、これは……組める」
ログナーが淡々と言った。
「触れる距離まで小さくなっただけで、だいぶ危険な発言に聞こえます」
「違います。これは模型ですから」
「承知しています。だから通行可です」
キラは箱の中を覗き込んだ。
透明パーツのランナー。
黒い外装。
細かい内部フレーム。
赤いマーキング。
そして、説明書。
キラの表情は、完全に技術者のものになっていた。
「すごい……この装甲の分割、地球圏のモビルスーツとは考え方が違う。外装で守るというより、構造そのものを見せているみたいだ」
ソープは嬉しそうに頷いた。
「キラくんは、やっぱり見るところが面白いね」
「この関節、どうやって保持してるんですか? このシルエットで自立するんですか?」
「組み方に少しコツがいるけど、立つよ」
「すごい……」
ラクスは目を細めて微笑んだ。
「キラ、本当に楽しそうですわ」
「ラクス、これ、すごいよ。模型としてもだけど、設計思想の資料としてもかなり価値がある」
ログナーが言った。
「キラ殿。念のため申し上げますが、それは玩具です」
「わかっています」
「本当に?」
「わかっています。だからこそ、すごいんです」
Xiは机の端に頬杖をついた。
「メカ好きの顔だね」
「否定はしません」
キラは素直に答えた。
その素直さに、Xiが少し驚いた顔をした。
「開き直った」
ラクスがくすりと笑う。
「キラは昔から、こういうものを見ると目が輝きますもの」
「ラクス……」
「素敵ですわ」
その一言で、キラは何も言えなくなった。
ソープはさらに説明書を開く。
「これはLEDミラージュV3、インフェルノナパーム仕様。子どもたちにも人気なんだ」
キラは一瞬、手を止めた。
「インフェルノナパーム」
「うん」
「名前が、かなり物騒ですね」
「でも、模型だから撃たないよ?」
「撃たないのは大前提です!」
ログナーも補足した。
「付属武装はフレームランチャー。通称インフェルノナパームです。本物は当然ながら通行止めですが、模型ならば通行可と判断します」
キラは箱の写真を見つめた。
「バスター砲は付いていないんですよね?」
「そこは大丈夫」
ソープは笑った。
「LEDミラージュのこのキットには、バスター砲は付いていないよ」
キラは少し安心した。
「それなら……まあ」
Xiが横から言った。
「インフェルノナパームはいいんだ」
「よくはないです」
キラは即答した。
「でも模型なら、ギリギリ大丈夫です」
ログナーが静かに言った。
「キラ殿の基準が、少しずつ星団側へ寄っています」
「寄ってません」
「“模型ならギリギリ大丈夫”は、だいぶ寄っています」
キラは黙った。
ラクスは楽しそうに微笑んでいた。
その時、空条承太郎が低い声で言った。
「動かねぇなら、財団でも扱えなくはねぇな」
承太郎も、今日は販路相談の流れで同席していた。
帽子のつばに手をやりながら、LEDミラージュの箱をじっと見ている。
「ただし、動かねぇなら、だ」
「もちろん」
ソープが答える。
「動かないよ。組んだ人が動かして遊ぶだけ」
承太郎は箱の写真を見た。
「……出来は良さそうだな」
キラが勢いよく頷いた。
「良さそうです。かなり」
承太郎はキラを見た。
「てめーがそこまで言うなら、資料価値はあるか」
「模型としても、工芸品としても、十分に売れると思います」
キラは言った。
「ただし、説明文の書き方には注意が必要です」
ラクスが頷く。
「“星団最強の量産機”などと書くと、少し物騒に聞こえるかもしれませんわね」
ソープは不思議そうにした。
「でも、量産機だよ?」
キラは静かに言った。
「その量産機が強すぎるんです」
ログナーが補足する。
「“量産機”という言葉には、時に誤解があります。特にLEDミラージュの場合は」
「説明文は“星団の代表的な騎体の模型”くらいにするのがよろしいかと」
ラクスが提案した。
「それなら文化交流らしく見えますわ」
キラも頷いた。
「はい。商品としては、“高度なデザインと精密な造形を楽しむプラモデル”という方向がいいと思います」
ソープは感心したように頷いた。
「なるほど。キラくん、売り方も上手いね」
「売るためというより、余計な誤解を避けるためです」
Xiがにこにこしながら言った。
「限定版は?」
キラが警戒した。
「どんな限定版ですか?」
「血の十字架をもっと大きくするとか」
「やめてください」
ログナーも言った。
「民生向けの意匠は要調整です」
「じゃあ、すえぞう付き」
全員が少しだけ黙った。
ソープがぽんと手を打つ。
「それはいいね」
キラも少し考える。
「……マスコットとして、すえぞうの小さいフィギュアが付いてくるなら、売れるかもしれません」
ラクスが微笑む。
「親しみやすくなりますわね」
承太郎が言った。
「財団の売店なら、そっちの方が通しやすいだろうな」
ログナーが資料に書き込んだ。
「LEDミラージュ模型。地球圏向け商品として通行可。販路候補、コンパス、スピードワゴン財団。付属要素として、すえぞうミニフィギュアを検討」
Xiが手を上げた。
「僕の限定版は?」
「不可だ」
「早いなあ」
「怪盗Xi仕様のLEDミラージュ模型など、治安の観点から不要だ」
「透明だから盗みに向いてそうなのに」
「黙れ」
キラは箱から目を離さなかった。
ラクスが少し身を寄せる。
「キラ?」
「はい」
「今日、お持ち帰りになるおつもりですか?」
キラは一瞬だけ言葉に詰まった。
それから、ソープを見た。
「ソープさん」
「うん?」
「これ、見本ということでしたけど……いただいてもいいんですか?」
ソープは嬉しそうに笑った。
「もちろん。キラくんに組んでもらうために持ってきたんだから」
キラの表情が、ぱっと明るくなった。
「ありがとうございます!」
ラクスは微笑んだ。
「よかったですわね、キラ」
「うん」
キラは本当に嬉しそうだった。
だが、ログナーが静かに言った。
「キラ殿」
「はい」
「組み立て後、実機解析資料として扱わないようお願いいたします」
「扱いません」
「改造もしませんね」
「しません」
「発光機構、可動補強、武装追加、インフェルノナパームの再現なども」
キラは少しだけ黙った。
ラクスが横から言った。
「キラ?」
「……発光くらいなら、と思いました」
ログナーが言った。
「通行止めです」
キラは素直に頷いた。
「はい」
Xiが笑った。
「キラ、意外と危ないね」
「あなたに言われたくありません」
承太郎が短く言った。
「プラモは普通に組め」
キラは少し恥ずかしそうに頷いた。
「……はい」
ソープは楽しそうに言った。
「気に入ったなら、次はK.O.G.もあるよ」
キラの動きが止まった。
「K.O.G.?」
ラクスが静かに言った。
「キラ。置き場所はございますの?」
キラは、LEDミラージュの箱を見た。
そして、少しだけ考えた。
「……作ります」
ラクスは微笑んだ。
「置き場所を、ですのね」
「はい」
ログナーは資料を閉じた。
「陛下。その道は積みプラです」
「積みプラ?」
ソープが首を傾げる。
キラは目を逸らした。
「……通行止めにした方がいいかもしれません」
Xiが笑った。
「通行止めって便利だね」
承太郎は帽子のつばを押さえ、低く呟いた。
「やれやれだぜ」
カフェテラスの机の上には、星団銘菓とすえぞうぬいぐるみ、そして巨大なLEDミラージュの箱が並んでいた。
交易会議第四回。
結論。
実物の星団兵器は、全面通行止め。
だが、模型なら通行可。
LEDミラージュのプラモデルは、単価も高く、資料価値もあり、
メカ好きに刺さる有望商品。
コンパスおよびスピードワゴン財団向けに、試験販売を検討。
ただし、発光改造、武装追加、実機召喚、怪盗Xi仕様は通行止め。
そして、キラ・ヤマトは。
その日の夜、かなり遅くまで説明書を読んでいた。
組み立ては、まだ始めていない。
だが、ランナーを眺めるだけで、十分に楽しかった。
ラクスはその横顔を見て、静かに微笑んだ。
「キラ」
「うん?」
「本当に、楽しそうですわ」
キラは少し照れたように笑った。
「うん。これは……組みたい」
箱の中のLEDミラージュは、まだ静かに眠っている。
もちろん、動かない。
撃たない。
起動しない。
ただの模型である。
だからこそ、キラ・ヤマトは安心して、その白い巨神を見つめていられた。