守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

251 / 266
キラ・ヤマトはLEDミラージュを組みたい

 いつものカフェテラス。

 

 交易会議も、これで四回目である。

 

 第一回では、レディオス・ソープがバスター砲を現金化しようとして、キラ・ヤマトに全力で止められた。

 

 第二回では、民生品に方向転換したものの、ミラージュ騎士団支給品の血の十字架が強すぎて、コンパス備品としては再検討となった。

 

 第三回では、空条承太郎を通じて、スピードワゴン財団への販路も開けた。

 

 星団銘菓。

 すえぞうぬいぐるみ。

 すえぞう柄ハンカチ。

 すえぞう柄タオル。

 すえぞう柄文房具。

 このあたりは、地球圏向け商品としてかなり有望である。

 

 ただし。

 外貨獲得という意味では、もう少し単価の高い商品も欲しい。

 

 その話になった時、ソープは楽しそうに言った。

 

「今回は、かなり安全な販路だと思うんだ」

 

 その一言で、キラは少しだけ身構えた。

 

「ソープさん」

 

「うん?」

 

「念のため確認しますけど」

 

「うん」

 

「中身、動きませんよね?」

 

「動かないよ」

 

「撃ちませんよね?」

 

「撃たないよ」

 

「起動しませんよね?」

 

「しないよ」

 

 ソープは、にこにこしながら大きな箱を机の上へ置いた。

 

「模型だから」

 

 キラはまだ警戒を解かなかった。

 これまでの交易会議で、彼は学んでいた。

 

 ソープが言う「安全」は、地球圏の基準と少し違う。

 いや、かなり違う。

 

 ログナー司令も、静かに資料から顔を上げた。

 

「陛下。確認します。本当に模型ですね」

 

「うん」

 

「自律稼働は」

 

「しない」

 

「発光、発熱、射撃、空間転移、実機召喚は」

 

「ないよ」

 

 キラは思わず聞いた。

 

「実機召喚って、確認する必要あります?」

 

 ログナーは即答した。

 

「陛下の模型ですので」

 

「ひどいなあ」

 

 ソープは困ったように笑った。

 

 Xiが横から顔を出す。

 

「でも、模型から実物が出てきたら面白いよね」

 

「面白くありません」

 

 キラが即答した。

 

 ログナーもXiを見た。

 

「お前の発想は通行止めだ」

 

「まだ提案しただけだよ」

 

「採用されない提案だ」

 

「厳しいなあ」

 

 ラクス・クラインは、穏やかに箱を見ていた。

 

「ずいぶん大きな箱ですのね」

 

「うん。見本として一個持ってきたんだ」

 

 ソープは少し得意そうにした。

 

「AKDのある惑星デルタ・ベルンで、子どもたちにも大人気のプラモデル」

 

 キラの眉が、ぴくりと動いた。

 

「プラモデル……?」

 

「そう」

 

 ソープは箱を開き、ゆっくりと中身を見せた。

 

 そこにあったのは、白い巨神の姿だった。

 

 半透明の装甲。

 黒いカウンターウェイト。

 赤く刻まれた血の十字架。

 巨大な肩。

 鋭いライン。

 人型でありながら、地球圏のモビルスーツとは全く異なる異質な美しさ。

 そして、背負うように存在感を放つ、巨大な火器。

 

「1/100、LEDミラージュ。インフェルノナパーム付き」

 

 キラの目が、はっきりと輝いた。

 

「……これ、プラモデルなんですか?」

 

「うん」

 

「組み立て式?」

 

「もちろん」

 

「接着剤は?」

 

「使うよ」

 

「塗装は?」

 

「してもいいし、しなくても綺麗だよ。これはクリア版だから、内部構造も見える」

 

 キラは箱に一歩近づいた。

 

「ランナーを見てもいいですか?」

 

 ラクスが微笑んだ。

 

「キラ?」

 

「ラクス、これは……見ないと」

 

 Xiが笑う。

 

「その顔、前に実物のLEDミラージュを見た時と同じだね」

 

 キラは少しだけ照れたように視線を逸らした。

 

「実物は怖かった。でも、これは……組める」

 

 ログナーが淡々と言った。

 

「触れる距離まで小さくなっただけで、だいぶ危険な発言に聞こえます」

 

「違います。これは模型ですから」

 

「承知しています。だから通行可です」

 

 キラは箱の中を覗き込んだ。

 

 透明パーツのランナー。

 黒い外装。

 細かい内部フレーム。

 赤いマーキング。

 そして、説明書。

 

 キラの表情は、完全に技術者のものになっていた。

 

「すごい……この装甲の分割、地球圏のモビルスーツとは考え方が違う。外装で守るというより、構造そのものを見せているみたいだ」

 

 ソープは嬉しそうに頷いた。

 

「キラくんは、やっぱり見るところが面白いね」

 

「この関節、どうやって保持してるんですか? このシルエットで自立するんですか?」

 

「組み方に少しコツがいるけど、立つよ」

 

「すごい……」

 

 ラクスは目を細めて微笑んだ。

 

「キラ、本当に楽しそうですわ」

 

「ラクス、これ、すごいよ。模型としてもだけど、設計思想の資料としてもかなり価値がある」

 

 ログナーが言った。

 

「キラ殿。念のため申し上げますが、それは玩具です」

 

「わかっています」

 

「本当に?」

 

「わかっています。だからこそ、すごいんです」

 

 Xiは机の端に頬杖をついた。

 

「メカ好きの顔だね」

 

「否定はしません」

 

 キラは素直に答えた。

 

 その素直さに、Xiが少し驚いた顔をした。

 

「開き直った」

 

 ラクスがくすりと笑う。

 

「キラは昔から、こういうものを見ると目が輝きますもの」

 

「ラクス……」

 

「素敵ですわ」

 

 その一言で、キラは何も言えなくなった。

 

 ソープはさらに説明書を開く。

 

「これはLEDミラージュV3、インフェルノナパーム仕様。子どもたちにも人気なんだ」

 

 キラは一瞬、手を止めた。

 

「インフェルノナパーム」

 

「うん」

 

「名前が、かなり物騒ですね」

 

「でも、模型だから撃たないよ?」

 

「撃たないのは大前提です!」

 

 ログナーも補足した。

 

「付属武装はフレームランチャー。通称インフェルノナパームです。本物は当然ながら通行止めですが、模型ならば通行可と判断します」

 

 キラは箱の写真を見つめた。

 

「バスター砲は付いていないんですよね?」

 

「そこは大丈夫」

 

 ソープは笑った。

 

「LEDミラージュのこのキットには、バスター砲は付いていないよ」

 

 キラは少し安心した。

 

「それなら……まあ」

 

 Xiが横から言った。

 

「インフェルノナパームはいいんだ」

 

「よくはないです」

 

 キラは即答した。

 

「でも模型なら、ギリギリ大丈夫です」

 

 ログナーが静かに言った。

 

「キラ殿の基準が、少しずつ星団側へ寄っています」

 

「寄ってません」

 

「“模型ならギリギリ大丈夫”は、だいぶ寄っています」

 

 キラは黙った。

 

 ラクスは楽しそうに微笑んでいた。

 

 その時、空条承太郎が低い声で言った。

 

「動かねぇなら、財団でも扱えなくはねぇな」

 

 承太郎も、今日は販路相談の流れで同席していた。

 

 帽子のつばに手をやりながら、LEDミラージュの箱をじっと見ている。

 

「ただし、動かねぇなら、だ」

 

「もちろん」

 

 ソープが答える。

 

「動かないよ。組んだ人が動かして遊ぶだけ」

 

 承太郎は箱の写真を見た。

 

「……出来は良さそうだな」

 

 キラが勢いよく頷いた。

 

「良さそうです。かなり」

 

 承太郎はキラを見た。

 

「てめーがそこまで言うなら、資料価値はあるか」

 

「模型としても、工芸品としても、十分に売れると思います」

 

 キラは言った。

 

「ただし、説明文の書き方には注意が必要です」

 

 ラクスが頷く。

 

「“星団最強の量産機”などと書くと、少し物騒に聞こえるかもしれませんわね」

 

 ソープは不思議そうにした。

 

「でも、量産機だよ?」

 

 キラは静かに言った。

 

「その量産機が強すぎるんです」

 

 ログナーが補足する。

 

「“量産機”という言葉には、時に誤解があります。特にLEDミラージュの場合は」

 

「説明文は“星団の代表的な騎体の模型”くらいにするのがよろしいかと」

 

 ラクスが提案した。

 

「それなら文化交流らしく見えますわ」

 

 キラも頷いた。

 

「はい。商品としては、“高度なデザインと精密な造形を楽しむプラモデル”という方向がいいと思います」

 

 ソープは感心したように頷いた。

 

「なるほど。キラくん、売り方も上手いね」

 

「売るためというより、余計な誤解を避けるためです」

 

 Xiがにこにこしながら言った。

 

「限定版は?」

 

 キラが警戒した。

 

「どんな限定版ですか?」

 

「血の十字架をもっと大きくするとか」

 

「やめてください」

 

 ログナーも言った。

 

「民生向けの意匠は要調整です」

 

「じゃあ、すえぞう付き」

 

 全員が少しだけ黙った。

 

 ソープがぽんと手を打つ。

 

「それはいいね」

 

 キラも少し考える。

 

「……マスコットとして、すえぞうの小さいフィギュアが付いてくるなら、売れるかもしれません」

 

 ラクスが微笑む。

 

「親しみやすくなりますわね」

 

 承太郎が言った。

 

「財団の売店なら、そっちの方が通しやすいだろうな」

 

 ログナーが資料に書き込んだ。

 

「LEDミラージュ模型。地球圏向け商品として通行可。販路候補、コンパス、スピードワゴン財団。付属要素として、すえぞうミニフィギュアを検討」

 

 Xiが手を上げた。

 

「僕の限定版は?」

 

「不可だ」

 

「早いなあ」

 

「怪盗Xi仕様のLEDミラージュ模型など、治安の観点から不要だ」

 

「透明だから盗みに向いてそうなのに」

 

「黙れ」

 

 キラは箱から目を離さなかった。

 

 ラクスが少し身を寄せる。

 

「キラ?」

 

「はい」

 

「今日、お持ち帰りになるおつもりですか?」

 

 キラは一瞬だけ言葉に詰まった。

 

 それから、ソープを見た。

 

「ソープさん」

 

「うん?」

 

「これ、見本ということでしたけど……いただいてもいいんですか?」

 

 ソープは嬉しそうに笑った。

 

「もちろん。キラくんに組んでもらうために持ってきたんだから」

 

 キラの表情が、ぱっと明るくなった。

 

「ありがとうございます!」

 

 ラクスは微笑んだ。

 

「よかったですわね、キラ」

 

「うん」

 

 キラは本当に嬉しそうだった。

 

 だが、ログナーが静かに言った。

 

「キラ殿」

 

「はい」

 

「組み立て後、実機解析資料として扱わないようお願いいたします」

 

「扱いません」

 

「改造もしませんね」

 

「しません」

 

「発光機構、可動補強、武装追加、インフェルノナパームの再現なども」

 

 キラは少しだけ黙った。

 

 ラクスが横から言った。

 

「キラ?」

 

「……発光くらいなら、と思いました」

 

 ログナーが言った。

 

「通行止めです」

 

 キラは素直に頷いた。

 

「はい」

 

 Xiが笑った。

 

「キラ、意外と危ないね」

 

「あなたに言われたくありません」

 

 承太郎が短く言った。

 

「プラモは普通に組め」

 

 キラは少し恥ずかしそうに頷いた。

 

「……はい」

 

 ソープは楽しそうに言った。

 

「気に入ったなら、次はK.O.G.もあるよ」

 

 キラの動きが止まった。

 

「K.O.G.?」

 

 ラクスが静かに言った。

 

「キラ。置き場所はございますの?」

 

 キラは、LEDミラージュの箱を見た。

 

 そして、少しだけ考えた。

 

「……作ります」

 

 ラクスは微笑んだ。

 

「置き場所を、ですのね」

 

「はい」

 

 ログナーは資料を閉じた。

 

「陛下。その道は積みプラです」

 

「積みプラ?」

 

 ソープが首を傾げる。

 

 キラは目を逸らした。

 

「……通行止めにした方がいいかもしれません」

 

 Xiが笑った。

 

「通行止めって便利だね」

 

 承太郎は帽子のつばを押さえ、低く呟いた。

 

「やれやれだぜ」

 

 カフェテラスの机の上には、星団銘菓とすえぞうぬいぐるみ、そして巨大なLEDミラージュの箱が並んでいた。

 

 交易会議第四回。

 

 結論。

 

 実物の星団兵器は、全面通行止め。

 だが、模型なら通行可。

 LEDミラージュのプラモデルは、単価も高く、資料価値もあり、

 メカ好きに刺さる有望商品。

 コンパスおよびスピードワゴン財団向けに、試験販売を検討。

 ただし、発光改造、武装追加、実機召喚、怪盗Xi仕様は通行止め。

 

 そして、キラ・ヤマトは。

 

 その日の夜、かなり遅くまで説明書を読んでいた。

 組み立ては、まだ始めていない。

 だが、ランナーを眺めるだけで、十分に楽しかった。

 

 ラクスはその横顔を見て、静かに微笑んだ。

 

「キラ」

 

「うん?」

 

「本当に、楽しそうですわ」

 

 キラは少し照れたように笑った。

 

「うん。これは……組みたい」

 

 箱の中のLEDミラージュは、まだ静かに眠っている。

 

 もちろん、動かない。

 

 撃たない。

 

 起動しない。

 

 ただの模型である。

 

 だからこそ、キラ・ヤマトは安心して、その白い巨神を見つめていられた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。