守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
いつものカフェテラスではない。
そこは、人里離れた山奥だった。
開けた高原。
遠くには山並み。
足元には短い草。
机の代わりに、平らな巨岩が置かれている。
理由は単純である。
今回の監修者が、カフェテラスに入れないからだ。
巨岩の上には、すえぞうぬいぐるみ、すえぞうキーホルダー、すえぞう柄ハンカチ、すえぞう柄タオル、すえぞうまんじゅう、すえぞうミニフィギュア、そしてすえぞう用ミラージュマントの試作品が並んでいた。
その中央には、本人であるすえぞう。
「はらへった!」
本人は、今回も元気だった。
その向かいに、巨大な影が落ちている。
サンダードラゴンである。
翼を畳んでなお、周囲の空気が重い。
キラ・ヤマトは、自然と姿勢を正していた。
ラクス・クラインも静かに会釈する。
空条承太郎は帽子のつばに手をやり、岸辺露伴はペンを持ったまま固まっていた。
泉京香は、会議資料を胸に抱えながら、どうにか仕事の顔を保っている。
桂木弥子は、すえぞうの隣で少し緊張していた。
Xiだけが、いつものように面白そうに笑っている。
そのXiの襟首を、ログナー司令が無言で掴んでいた。
「まだ何もしてないよ」
「する前に掴んでいる」
「山奥って逃げ道多いのに」
「お前用には塞いである」
「準備いいなあ」
「お前がいるからだ」
サンダードラゴンは、すえぞうを見た。
それから、レディオス・ソープを見た。
「光の帝よ」
その呼び名に、キラがわずかに目を見開いた。
ソープは、いつものように穏やかに笑った。
「うん。今日は、すえぞうグッズの監修をお願いしたくてね」
サンダードラゴンの視線が、巨岩の上に並んだ品々へ向かう。
ぬいぐるみ。
まんじゅう。
ミニフィギュア。
ハンカチ。
そして、本人。
「我らが盟主を模した品か」
空気が、少しだけ張り詰めた。
キラが思わず口を開く。
「あの……やっぱり、失礼ではないでしょうか」
サンダードラゴンは静かに答えた。
「盟主を軽んじるならば、看過せぬ」
キラは息を呑んだ。
弥子も、すえぞうを抱えるように少し身を寄せる。
そのすえぞうが言った。
「うっす!」
サンダードラゴンの気配が、ほんのわずかに和らいだ。
「だが、幼きLEDが人々のそばにあり、愛される形ならば、怒ることではない」
弥子が、ほっとしたように笑った。
「よかったね、すえぞう!」
「はらへった!」
泉がメモを取る。
「つまり、“尊厳を損なわない範囲で商品化可”ですね」
ログナーが頷いた。
「通行可です」
露伴が小さく呟いた。
「……格が違う監修だな」
サンダードラゴンは、すえぞうぬいぐるみをじっと見た。
「目は、もう少し丸くせよ」
ソープが聞き返す。
「丸く?」
「幼きLEDは、腹を空かせた時ほど目が丸い」
弥子が力強く頷いた。
「わかります!」
すえぞうが言った。
「はらへった!」
サンダードラゴンが静かに言った。
「今の顔だ」
露伴のペンが走りかけた。
泉が即座に言う。
「先生、資料用です。作品化は別途確認です」
「わかっている」
ログナーが露伴を見た。
「たぶん、は不可だ」
「言っていないだろう」
「言う顔でした」
Xiが楽しそうに笑う。
「顔で通行止めにされる人、増えたね」
ログナーはXiを見た。
「お前が筆頭だ」
「出してるんだよ」
「なお悪い」
泉はぬいぐるみの目元を確認しながら言った。
「サンダードラゴン様の監修内容は、とても具体的ですね。修正指示として助かります」
サンダードラゴンは続ける。
「尾の赤は、少し深くせよ。翼の縁は鋭くしすぎるな。幼きものの愛らしさを損なう」
ラクスが微笑んだ。
「とても良いご指摘ですわ」
キラも頷く。
「かわいさと、元の姿への敬意のバランスですね」
サンダードラゴンは、今度はミニフィギュアを見た。
「これは、小さすぎる」
ソープが首を傾げる。
「LEDミラージュのプラモデルに付けるオマケだから、このくらいかなって」
「ならばよい」
キラが小さく笑った。
「基準が“単体商品としては小さいけど、オマケなら可”なんですね」
泉が即座にメモした。
「ミニフィギュア、単体販売時はサイズ拡大。模型付属版は現行サイズで通行可」
ログナーが頷く。
「妥当です」
承太郎は、ぬいぐるみを見ていた。
黙って。
かなり長く。
Xiがにやにやする。
「承太郎さん、また自分用に欲しくなった?」
承太郎は帽子のつばを押さえた。
「財団で検討するためだ」
ログナーが資料に書き加える。
「財団検討用、追加一体」
「おい」
「業務上必要な処理です」
ラクスは、すえぞう用ミラージュマントを手に取った。
「こちらはいかがでしょう?」
小さな白いマント。
端には控えめな赤い意匠。
以前のミラージュ騎士団支給品ほど圧は強くない。
サンダードラゴンは、それをすえぞうに掛けられた姿を見た。
すえぞうは胸を張った。
「うっす!」
サンダードラゴンはしばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
「よい」
弥子がぱっと笑った。
「やった!」
ラクスも嬉しそうに微笑む。
「とても似合っていますわ」
露伴は今度こそ、猛烈な勢いでペンを走らせた。
泉が言う。
「先生」
「これは描くだろう」
ログナーは、珍しく止めなかった。
「……これは通行可です」
露伴は少しだけ満足そうにした。
「ようやくわかってきたじゃあないか」
「商品資料としてです」
「そこは譲らないんだな」
「譲りません」
次に、泉はすえぞうまんじゅうの箱を開けた。
白い丸いまんじゅうに、すえぞうの顔が小さく焼き印されている。
本人の姿を立体的に模したものではない。
ただの焼き印である。
キラはそれを見て、少しだけ安心した。
「よかった……本人型じゃないんですね」
弥子が首を傾げる。
「本人型だったらダメですか?」
「どこから食べればいいか困ります」
泉が即座に頷く。
「立体すえぞう型食品は倫理面と心理面で要注意です。現行の焼き印方式が無難です」
サンダードラゴンは、すえぞうまんじゅうを見た。
それから、本人のすえぞうを見た。
「本人はどう思う」
全員がすえぞうを見た。
すえぞうは、まんじゅうを見た。
「はらへった!」
泉が少しだけ考えた。
「本人同意として扱ってよいかは微妙ですが、少なくとも拒否反応はありません」
弥子が言った。
「すえぞう、食べたい?」
「うっす!」
ログナーが資料に書く。
「本人の積極的反応あり」
キラは小声で言った。
「それでいいんですか……?」
ラクスは微笑んだ。
「すえぞうさんがご機嫌なら、よろしいのでは?」
承太郎がまんじゅうを一つ手に取った。
「……味は大事だな」
弥子の目が輝く。
「試食ですね!」
泉が即座に言う。
「試食数は管理します」
「はい!」
すえぞうまんじゅうは、上品な甘さだった。
弥子は当然のように目を輝かせた。
ラクスは微笑んだ。
キラは「普通においしい」と安心した。
承太郎は「悪くねぇ」と言った。
すえぞうも食べた。
「うっす!」
サンダードラゴンは、その様子を見ていた。
「食べることは、生きることだ」
サンダードラゴンは、静かに言った。
「幼きLEDが腹を満たし、人々もまた笑うならば、それは悪いことではない」
弥子は嬉しそうに笑った。
泉も小さく頷く。
「商品コンセプトとして、かなり良いです」
ソープはにこにこしていた。
「よかった。じゃあ、ついでに以前のテロワール珈琲案も――」
「通行止めです」
泉が即答した。
「通行止めです」
ログナーも即答した。
キラが不安そうに聞いた。
「何ですか、テロワール珈琲案って」
Xiが笑った。
「聞かない方がいいよ。たぶん倫理が焦げる」
承太郎が低く言った。
「その時点で聞きたくねぇな」
サンダードラゴンが、静かにソープを見た。
「光の帝よ」
「うん?」
「盟主は、珈琲豆の工程ではない」
ソープは少し困ったように笑った。
「うん。前にも止められた」
泉が言った。
「止められて当然です」
ログナーも続ける。
「陛下、今回は商品監修です。研究発表ではありません」
「概念としては面白いと思うんだけど」
「概念は面白くても、企画が駄目です」
キラは深く頷いた。
「それは本当にそうだと思います」
サンダードラゴンは、すえぞうを見た。
「腹を空かせるのはよい。食べるのも、眠るのも、遊ぶのもよい」
すえぞうが言った。
「うっす!」
「だが、我らが盟主を“風味を作る要素”にしてはならぬ」
その場の全員が、ほぼ同時に頷いた。
ソープ以外は。
ソープは、少し残念そうにした。
「なるほど」
ログナーが資料に書いた。
「テロワール珈琲案。改めて通行止め」
Xiが小声で言った。
「サンダードラゴンに正論で止められる陛下、なかなか見られないね」
ログナーがXiの襟首を締めた。
「見るな。言うな。笑うな」
「三つも通行止めだ」
「足りないくらいだ」
サンダードラゴンは、今度はすえぞう本人を見た。
小さな白い姿。
丸い目。
赤い尾。
腹を空かせ、まんじゅうを見つめる幼き存在。
「今は小さく、腹を空かせるばかりに見えよう」
サンダードラゴンの声は、山に低く響いた。
「だが、いずれは星団最強のLEDドラゴンとなる」
キラは、思わず息を呑んだ。
ラクスも静かにすえぞうを見る。
承太郎は帽子のつばを押さえた。
露伴のペンが止まった。
泉は、資料に書く手を一瞬止めた。
すえぞうは言った。
「はらへった!」
空気が少しだけ戻った。
弥子が笑った。
「今は、すえぞうですもんね」
サンダードラゴンは静かに頷く。
「そうだ。今は幼きLED。ならば、幼きものとして愛せ」
泉はメモを再開した。
「商品説明では、“かわいい”を前面に出しつつ、星団最強という設定は控えめに扱うべきですね」
キラも頷いた。
「“成長するとモーターヘッド以上の戦闘力”とか書くと、完全にかわいいグッズの説明じゃなくなります」
Xiが手を上げた。
「でも売れそうじゃない?」
ログナーが即座に言った。
「その宣伝文句は通行止めだ」
承太郎も言う。
「子ども向け売店には向かねぇな」
露伴は少し考えていた。
「だが、幼体と成体の対比は題材として強い」
泉が見る。
「先生」
「わかっている。商品パッケージには描かない」
「本当に?」
「……別の作品でなら」
ログナーが低く言った。
「おい、漫画家」
露伴は少しだけ口を閉じた。
「今の道も通行止めか」
「要審査だ」
「まだ通れる余地はあるんだな」
「狭いがな」
ソープは満足そうに頷いた。
「じゃあ、サンダードラゴン監修で、すえぞうグッズは進められそうだね」
サンダードラゴンは言った。
「盟主を軽んじぬこと」
ログナーが頷く。
「当然です」
「腹を空かせた姿を、ただ笑いものにせぬこと」
弥子が真剣に頷いた。
「はい」
「幼きものとして、健やかに、人々のそばに在る形にすること」
ラクスが静かに微笑んだ。
「大切にいたしますわ」
泉がまとめる。
「監修方針。尊厳を守り、愛らしさを伝え、過度に戦闘力を強調しない。倫理的に問題のある食品・飲料企画は不可」
ログナーが資料に書く。
「通行可です」
すえぞうが胸を張った。
「うっす!」
サンダードラゴンは、ほんの少しだけ目を細めた。
笑ったのかもしれない。
少なくとも、怒ってはいなかった。
交易会議第六回。
結論。
すえぞうグッズは、サンダードラゴン監修により正式に通行可。
ぬいぐるみの目は、もう少し丸く。
尾の赤は、もう少し深く。
翼の縁は、鋭くしすぎない。
まんじゅうは焼き印方式。
ミニフィギュアは、模型付属版と単体販売版でサイズ調整。
すえぞう用ミラージュマントは、限定展示用として通行可。
ただし、テロワール珈琲案は改めて通行止め。
“成長すると星団最強”という販促文句も、子ども向け商品では通行止め。
Xiの妙な販路案も通行止め。
露伴の勝手な作品化は要審査。
そして、ラキシス監修フローズンヨーグルト連動企画は、
今回も本人不在のまま通行止めである。
山奥の風が吹いた。
すえぞうは、まんじゅうの箱を見ていた。
「はらへった!」
サンダードラゴンは言った。
「食べさせよ」
弥子が笑顔でまんじゅうを差し出した。
すえぞうは、嬉しそうにそれを食べた。
「うっす!」
その姿を見て、サンダードラゴンは静かに頷いた。
「よい」
キラは、小さく息を吐いた。
「なんだか、すごく厳かな監修会議でしたね」
ラクスは微笑む。
「ええ。議題はとても愛らしいものでしたけれど」
承太郎は低く呟いた。
「やれやれだぜ」
露伴はスケッチブックを閉じた。
「この状況を描くなという方が無理だ」
泉が即座に言った。
「先生」
「わかっている。要審査だろう」
ログナーが言った。
「理解が早くなったな、漫画家」
露伴は不満そうにした。
「君に褒められても嬉しくない」
Xiが笑った。
「じゃあ僕は、監修済み限定版の販路を――」
ログナーが襟首を掴み直した。
「通行止めだ」
「まだ最後まで言ってないよ」
「言う前に止めるから通行止めだ」
ソープは、すえぞうとサンダードラゴンを見比べて、楽しそうに笑った。
「これで、外貨獲得もまた一歩前進かな」
すえぞうが答えた。
「うっす!」
星団最強の存在は、今はまだ小さく、腹を空かせている。
そしてその姿は、確かに多くの人に愛される商材になりそうだった。