守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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商店街は通行可です

 商店街は、通行可だった。

 少なくとも、ログナー司令の判断ではそうだった。

 

 交易計画はおおむね成功。

 すえぞうグッズはサンダードラゴン監修済み。

 

 星団銘菓とLEDミラージュ模型の販路も、少しずつ開けつつある。

 

 そして何より。

 ラキシス姫様の食べ歩き費用は、条件付きで通行可となった。

 ただし、暴走は通行止め。

 

 その条件を守るために、本日の同行者は厳選されていた。

 

 桂木弥子。

 すえぞう。

 ラキシス。

 シン・アスカ。

 泉京香。

 怪盗Xi。

 そして、ファティマ・バクスチュアル。

 

 なお、レディオス・ソープは不在である。

 理由は明記されていない。

 

 ただ、ログナー司令の胃が少しだけ守られたことは確かだった。

 

「ハラへった!」

 

 商店街の入口で、すえぞうが言った。

 

「わかる!!」

 

 桂木弥子が即答した。

 

 シン・アスカは、その二人を見て眉を寄せた。

 

「今ので会話成立するのかよ」

 

 Xiが笑う。

 

「成立するんだよ。食欲って便利だね」

 

「便利っていうか、強すぎるだろ」

 

 ラキシスは、穏やかに微笑んでいた。

 

「今日は、少しずついただきましょうね」

 

 泉京香は、手帳を開きながら頷いた。

 

「はい。一店舗ごとに少量ずつ、会計を確認しながら進みましょう。食べ歩き企画としては、導線管理が大切です」

 

 シンが感心したように言った。

 

「なんか、普通に仕事してる……」

 

「普通に仕事です。誰かが管理しないと、商店街全体が一つの巨大なコース料理になります」

 

 シンは黙った。

 

 否定できなかった。

 

 バクスチュアルは、商店街の奥をじっと見ていた。

 

「ニオイガ……多イデス」

 

 Xiが指を折る。

 

「コロッケ、たこ焼き、焼き鳥、団子、クレープ、ジェラート、肉まん、ドーナツ……」

 

 バクスチュアルは、少しだけ目を細めた。

 

「普通ガ……多イ」

 

 ラキシスは優しく言った。

 

「ええ。今日は、その普通を少しずつ楽しみましょう」

 

 弥子が拳を握った。

 

「少しずつ全部ですね!」

 

 泉が即座に言った。

 

「“全部”は要相談です」

 

 すえぞうが言った。

 

「ゼンブ!」

 

 シンが頭を抱えた。

 

「増えた!」

 

 最初の店は、揚げたてコロッケの店だった。

 

 商店街の入口近くにある小さな惣菜屋。

 

 店先には、ほかほかと湯気を立てるコロッケが並んでいる。

 

「一個百五十円か。これなら普通に安いな」

 

 シンが安心したように言った。

 

 Xiが横から言う。

 

「一個ならね」

 

「なんでそこで含みを持たせるんだよ」

 

 泉は冷静に言った。

 

「本日は人数分のみです。追加は、次の店との兼ね合いで判断します」

 

 弥子が手を上げた。

 

「でも揚げたては追加した方がおいしいです!」

 

「おいしさと予算は別問題です」

 

 ラキシスはコロッケを受け取り、興味深そうに見つめた。

 

「可愛らしい形ですわね」

 

「姫様、熱いのでお気をつけください」

 

 泉が言うより早く、シンが口を挟んだ。

 

「そうです。揚げたては中が熱いですから、絶対に一口で――」

 

「ハラへった!」

 

「聞けよ!」

 

 すえぞうがコロッケを見つめている。

 

 バクスチュアルがそっと言った。

 

「すえぞう。熱イモノハ、少シ待ツノガ、ヨイデス」

 

「うっす!」

 

 すえぞうは、待った。

 

 三秒ほど。

 

「短い!」

 

 シンが叫んだ。

 

 ラキシスはコロッケを小さく割り、口に運んだ。

 

 目が少しだけ明るくなる。

 

「外はさくさくで、中はやさしい味ですのね」

 

 弥子がうなずいた。

 

「商店街コロッケは正義です!」

 

「ハラへった!」

 

「今食べてるだろ!」

 

 シンのツッコミは、すでに一店舗目から忙しかった。

 

 次はたこ焼きだった。

 

 丸い鉄板の上で、たこ焼きがくるくると返されている。

 

 香ばしい匂いに、弥子とすえぞうが同時に反応した。

 

「たこ焼き!」

 

「タコ!」

 

 シンがすえぞうを見る。

 

「タコってわかるのか?」

 

 Xiが笑った。

 

「たぶん匂いでわかってるんじゃない?」

 

 バクスチュアルは、鉄板をじっと見ていた。

 

「丸イ……焼カレテ……回ル……」

 

 泉が言った。

 

「熱さ注意です。たこ焼きは本当に危険です。特に一口で行く人には」

 

 弥子が胸を張った。

 

「私は大丈夫です!」

 

「その自信が一番危険です」

 

 ラキシスは、舟皿に並んだたこ焼きを見て微笑んだ。

 

「皆で分けられるのがよいですわね」

 

「はい。六個入りを二舟。人数分に切り分けます」

 

 泉が言うと、Xiがにこにこしながら聞いた。

 

「三舟にしなくていいの?」

 

「しません」

 

「四舟なら?」

 

「しません」

 

「商店街への貢献という意味では――」

 

「しません」

 

 泉の判断は早かった。

 

 たこ焼きは熱かった。

 

 シンは、バクスチュアルに割り箸の使い方を説明していた。

 

「こうやって割って……あ、そっちじゃない。左右に、こう」

 

 バクスチュアルは真剣だった。

 

「左右……力加減……難シイデス」

 

「大丈夫。そんな難しいもんじゃ――」

 

 ぱきん、と綺麗に割れた。

 

「オオ」

 

 バクスチュアルは、少しだけ嬉しそうに見えた。

 

 シンも、なぜか嬉しくなった。

 

「そうそう。上手いじゃん」

 

 Xiが横から言う。

 

「シン、先生みたいだね」

 

「うるさい」

 

 バクスチュアルは、たこ焼きを小さく崩して口に運んだ。

 

 少し止まった。

 

「熱イ」

 

「だから言った!」

 

「ダガ……中ガ……柔ラカイ。外ト、中ガ、違イマス」

 

 ラキシスが微笑む。

 

「おいしいですわね」

 

 すえぞうが言った。

 

「ハラへった!」

 

「だから今食べてるだろ!」

 

 シンの声が、また商店街に響いた。

 

 三軒目は団子屋だった。

 

 みたらし団子、あん団子、草団子。

 

 串に刺さった団子が、店先でつやつやと光っている。

 

 ラキシスは目を細めた。

 

「まあ。美しいですわ」

 

 弥子が言った。

 

「みたらしとあんこと草団子、全部いきましょう!」

 

 泉が即座に答える。

 

「一本ずつ買って、切り分けます」

 

「えっ」

 

「切り分けます」

 

 弥子は少しだけ残念そうにした。

 

 すえぞうも残念そうにした。

 

「ハラ……」

 

 バクスチュアルが言った。

 

「スエゾウ。全部食ベルノト、全部味見スルノハ、違イマス」

 

 すえぞうは、少し考えた。

 

「うっす!」

 

 シンが感心したようにバクスチュアルを見る。

 

「今の、通じたのか?」

 

「タブン」

 

「たぶんかよ」

 

 みたらし団子は甘辛かった。

 

 あん団子は素直に甘かった。

 

 草団子は香りがあった。

 

 バクスチュアルは、草団子を食べて少しだけ止まった。

 

「草ノ、ニオイ。甘イノニ、草デス」

 

 Xiが笑う。

 

「いい感想だね」

 

「変デスカ」

 

「変じゃないよ。たぶん、すごく正直」

 

 ラキシスが優しく言った。

 

「バクスチュアル姉様のお言葉は、いつもまっすぐですわ」

 

 バクスチュアルはラキシスを見た。

 

「ラキシス。甘イモノハ、心ヲ、少シ静カニシマス」

 

「ええ」

 

「ダガ、食ベスギルト、ログナー司令ノ心ガ、静カデハ、ナクナリマス」

 

 シンが吹き出しかけた。

 

 Xiは笑った。

 

 泉は真顔で頷いた。

 

「非常に正確です」

 

 ラキシスは口元に手を添えて、少し困ったように微笑んだ。

 

「気をつけますわ」

 

 その言葉を、泉は手帳に書いた。

 

 四軒目は焼き鳥屋だった。

 

 店先で炭火がぱちぱちと音を立て、たれの香りが漂う。

 

「これは俺も好きだな」

 

 シンが少し嬉しそうに言った。

 

 弥子も即座に反応する。

 

「もも、ねぎま、つくね、皮、レバー、砂肝!」

 

 泉が手帳を見た。

 

「全種類は多いです」

 

「でも一本ずつなら!」

 

「一本ずつ全種類は、結局多いです」

 

 Xiが言った。

 

「じゃあ、人気上位三種?」

 

「通行可です」

 

 泉が答えた。

 

 シンがぼそっと言った。

 

「泉さんがログナー司令みたいになってきた……」

 

「必要に迫られています」

 

 ラキシスは焼き鳥を見ながら言った。

 

「串に刺して焼くのですね」

 

「庶民の味って感じですけど、うまいですよ」

 

 シンが言うと、ラキシスは嬉しそうに微笑んだ。

 

「庶民の味。素敵です」

 

 シンは少し照れた。

 

「いや、そんな大層なものじゃ……」

 

 弥子が言った。

 

「いえ、焼き鳥は大層なものです!」

 

「お前が言うと説得力があるような、ないような」

 

 すえぞうはつくねを見ていた。

 

「ハラへった!」

 

 バクスチュアルが静かに言った。

 

「スエゾウ。串ハ、危ナイデス」

 

「うっす!」

 

 すえぞうは、串を持たずに中身だけ食べた。

 

 シンが小さく言った。

 

「ちゃんと聞くんだな……」

 

 Xiがにこにこしている。

 

「バクスチュアル、すえぞう係できるね」

 

「係デハ、アリマセン」

 

「じゃあ、盟主補助?」

 

「言葉ガ、大キスギマス」

 

 泉が言った。

 

「すえぞうさんの安全管理補助としては、非常に助かっています」

 

 バクスチュアルは少しだけ考えた。

 

「安全管理……補助」

 

 ラキシスが微笑んだ。

 

「頼もしいですわ、バクスチュアル姉様」

 

「ラキシスガ、ソウ言ウナラ」

 

 バクスチュアルは、小さく頷いた。

 

 五軒目はジェラートの店だった。

 

 ショーケースの中には、ミルク、チョコレート、いちご、抹茶、マンゴー、ピスタチオ、ヨーグルト、季節の果物。

 

 色が多かった。

 

 選択肢が多かった。

 

 そして、この一行にとって、選択肢が多いことは危険だった。

 

 弥子が目を輝かせる。

 

「全部おいしそう……!」

 

 すえぞうも目を丸くする。

 

「ゼンブ!」

 

 泉が深呼吸した。

 

「カップは一人一つです」

 

 ラキシスがショーケースを見つめる。

 

「では、ダブルにすれば二種類いただけますわね」

 

「通行可です」

 

 泉は言った。

 

「ただし、トリプルは通行止めです」

 

 Xiが笑った。

 

「先に塞いだ」

 

「塞がないと広がります」

 

 シンはメニューを見ながら言った。

 

「俺はミルクとチョコかな」

 

 弥子は悩んでいた。

 

「いちごとマンゴー……でも抹茶も……ヨーグルトも……」

 

 ラキシスが優しく言った。

 

「弥子さん、別々の味を選んで、皆で少しずつ交換するのはいかが?」

 

 泉が一瞬固まった。

 

 シンも固まった。

 

 Xiが楽しそうに言った。

 

「姫様、加減してるようで全体最適化してきたね」

 

 泉は手帳を押さえた。

 

「交換は通行可です。ただし追加購入は禁止です」

 

 ラキシスは微笑んだ。

 

「ええ。追加はいたしませんわ」

 

 その言葉に、泉は少しだけ安心した。

 

 バクスチュアルは、ショーケースをじっと見ていた。

 

「一ツ、選ブノハ……難シイデス」

 

 Xiが聞いた。

 

「どれが気になる?」

 

「白イノ。ソレト、緑」

 

「ミルクと抹茶だね」

 

「白ハ、静カデス。緑ハ、少シ、草団子ニ似テイマス」

 

 シンが笑った。

 

「草団子引っ張るなあ」

 

 バクスチュアルは、ミルクと抹茶を選んだ。

 

 ひと口食べる。

 

「冷タイ」

 

 もうひと口。

 

「甘イ」

 

 さらに、少し考える。

 

「口ノ中デ、消エマス」

 

 Xiが柔らかく笑った。

 

「うん。いいね」

 

 ラキシスは、ヨーグルトといちごを選んでいた。

 

 それを見て、泉が少しだけ警戒する。

 

「姫様」

 

「何かしら?」

 

「フローズンヨーグルト関連企画ではありませんね」

 

「今日は、ただのジェラートです」

 

 ラキシスはにっこり微笑んだ。

 

 泉は少しだけ迷ったが、頷いた。

 

「通行可です」

 

 シンが小声で言った。

 

「何の確認なんだよ……」

 

 Xiが答える。

 

「過去にいろいろあったんだよ」

 

「聞かない方がいいやつか?」

 

「うん。たぶん倫理と食費が焦げる」

 

「聞かない」

 

 六軒目は肉まんの店だった。

 

 蒸籠から白い湯気が上がっている。

 

 すえぞうがその湯気を見た。

 

「ケムリ!」

 

「湯気です」

 

 泉が訂正した。

 

 弥子はすでに前のめりだった。

 

「肉まん、あんまん、ピザまん、角煮まん!」

 

「全種類は多いです」

 

「でも分ければ!」

 

 泉は少し考えた。

 

「四種類を一つずつ。全員で分けるなら通行可です」

 

 弥子はぱっと明るくなった。

 

「やった!」

 

 シンが言った。

 

「なんかだんだん、泉さんの判定が甘くなってないか?」

 

「商店街の食べ歩きとしては成立しています。一品を人数で分ける方式なら、予算も胃も守れます」

 

 Xiが笑う。

 

「胃は守れてるかな?」

 

「気持ちの問題です」

 

 肉まんは熱かった。

 

 シンはまた叫んだ。

 

「だから熱いって!」

 

 すえぞうはまた三秒待った。

 

「短いって!」

 

 バクスチュアルが、肉まんを両手で持っていた。

 

「温カイ……手ガ、温カイデス」

 

 ラキシスが言った。

 

「寒い日には、きっと嬉しい食べ物ですわね」

 

「ハイ。食ベル前カラ、少シ、嬉シイデス」

 

 その言葉に、ラキシスは静かに微笑んだ。

 

 弥子も少しだけ黙ってから、嬉しそうに言った。

 

「そういうの、いいですね」

 

 Xiは、そんなバクスチュアルを見ていた。

 

 からかわなかった。

 

 珍しく。

 

 七軒目はドーナツ屋だった。

 

 ここで、シンは少し警戒した。

 

「ドーナツは危ないぞ」

 

 泉が頷く。

 

「種類が多く、単価が低く、持ち帰りも可能。非常に危険です」

 

「危険の方向がおかしい」

 

 弥子がショーケースに張り付く。

 

「プレーン、チョコ、シュガー、シナモン、クリーム入り、オールドファッション……」

 

 すえぞうも並ぶ。

 

「ゼンブ!」

 

「だから全部って言うな!」

 

 ラキシスは楽しそうに見ていた。

 

「小さなものもありますね」

 

 泉が即座に反応した。

 

「ミニドーナツ詰め合わせなら通行可です。通常サイズ全種類は通行止めです」

 

 Xiが拍手した。

 

「判断が早い」

 

「学習しています」

 

 バクスチュアルが言った。

 

「学習ハ、大事デス」

 

「お前が言うと重いな」

 

 シンが言うと、バクスチュアルは首を傾けた。

 

「重イ、デスカ」

 

「あ、いや、悪い意味じゃなくて」

 

 Xiが笑う。

 

「シン、言葉を選んだ方がいいよ」

 

「お前に言われたくない!」

 

 ミニドーナツは、皆で分けた。

 

 ラキシスはシュガーを一つ。

 

 弥子は三つ。

 

 すえぞうは二つ。

 

 シンは一つ。

 

 泉は半分。

 

 Xiは一つ。

 

 バクスチュアルは、プレーンを一つ、ゆっくり食べた。

 

「穴ガ、アリマス」

 

 シンが言った。

 

「そこから!?」

 

「穴ガアルノニ、食ベ物デス」

 

 Xiが笑う。

 

「面白い見方だね」

 

「無イ所モ、形ノ一部デス」

 

 露伴がいればメモを取ったかもしれない。

 

 幸い、今日は不在だった。

 

 少なくとも、泉の仕事は少し減った。

 

 最後はクレープだった。

 

 商店街の端にある小さな屋台。

 

 甘い匂い。

 

 焼きたての生地。

 

 クリーム。

 

 果物。

 

 チョコソース。

 

 カスタード。

 

 アイス。

 

 危険だった。

 

 とても危険だった。

 

 泉は手帳を閉じた。

 

「最後です」

 

 弥子が目を輝かせた。

 

「最後なら少し豪華に!」

 

「最後だからこそ抑えます」

 

 ラキシスはメニューを見て、少し悩んだ。

 

「いちごも、チョコも、カスタードも素敵ですわね」

 

 シンが言った。

 

「姫様、ここは一つにしましょう。さっき加減って言ってましたし」

 

 ラキシスは少しだけ考えた。

 

「では、いちごにしますわ」

 

 泉がほっとした。

 

「通行可です」

 

 弥子が言った。

 

「私はチョコバナナで!」

 

「通行可です」

 

 シンが言った。

 

「俺はカスタードで」

 

「通行可です」

 

 Xiが言った。

 

「僕は限定のキャラメルナッツ」

 

「通行可です。ただし限定在庫の買い占めは通行止めです」

 

「まだ何も言ってないよ」

 

「言う顔でした」

 

「出してるんだよ」

 

「なお悪いです」

 

 バクスチュアルは、メニューを見ていた。

 

「多イ……」

 

 Xiが聞いた。

 

「選ぶ?」

 

「……白イノ」

 

「クリーム?」

 

「ハイ。果物ハ、少シ」

 

「じゃあ、クリームといちごかな」

 

 バクスチュアルは頷いた。

 

「ラキシスト、同ジ」

 

 ラキシスは嬉しそうに微笑んだ。

 

「お揃いですわね、バクスチュアル姉様」

 

「オソロイ」

 

 バクスチュアルは、その言葉を小さく繰り返した。

 

 クレープは、食べ歩きの締めくくりにふさわしかった。

 

 弥子は満面の笑みで食べた。

 

 すえぞうは、クリームを少し鼻先につけた。

 

 シンが慌てて拭いた。

 

「ほら、動くなって!」

 

「うっす!」

 

「だから動くな!」

 

 ラキシスは、いちごのクレープを上品に食べながら、楽しそうに皆を見ていた。

 

 泉は、その様子を見て少しだけ肩の力を抜いた。

 

「今日は、比較的平和でしたね」

 

 シンが言った。

 

「これで平和なんですか」

 

「一店舗が壊滅していません」

 

「基準!」

 

 Xiがにこにこしながら言った。

 

「商店街全体に売上が分散されたからね」

 

「言い方!」

 

 バクスチュアルは、クレープを見つめていた。

 

「歩イテ、食ベル。少シズツ、違ウ味。人ガ、多クテ、音ガ、多イ」

 

 ラキシスが優しく聞く。

 

「楽しかったですか?」

 

 バクスチュアルは、少しだけ間を置いた。

 

「ハイ。楽シカッタ、ト、思イマス」

 

 ラキシスは嬉しそうに微笑んだ。

 

「それはよかったですわ」

 

 弥子が言った。

 

「また来ましょう!」

 

「ハラへった!」

 

 シンが即座に言った。

 

「今食ったばっかだろ!」

 

 泉は手帳を開いた。

 

「次回開催は要相談です。予算、導線、店舗数、参加人数、すえぞうさんの安全管理、Xiさんの監視体制を見直します」

 

 Xiが言った。

 

「僕、護衛なのに監視対象なんだ」

 

 バクスチュアルが静かに言った。

 

「護衛ト、監視対象ハ、両立シマス」

 

「正論だね」

 

「事実デス」

 

 ラキシスは口元に手を添えて笑った。

 

「今日は、加減できていたかしら」

 

 その場の全員が、少しだけ黙った。

 

 泉が代表して答えた。

 

「前回よりは」

 

 シンも頷いた。

 

「たぶん」

 

 Xiが笑った。

 

「比較対象が強すぎるけどね」

 

 バクスチュアルは言った。

 

「ラキシスハ、考エテ、食ベテイマシタ」

 

 ラキシスは、ほっとしたように微笑んだ。

 

「なら、よかったですわ」

 

 すえぞうが胸を張った。

 

「うっす!」

 

 その日の商店街は、よく売れた。

 

 コロッケ屋も、たこ焼き屋も、団子屋も、焼き鳥屋も、ジェラート屋も、肉まん屋も、ドーナツ屋も、クレープ屋も。

 

 どの店も、少しだけ驚き、少しだけ笑い、そして確かに喜んだ。

 

 

 後日。

 

 ログナー司令のもとに、まとめられた会計報告が届いた。

 

 ログナーは無言で目を通した。

 

 星団銘菓とすえぞうグッズによる収益。

 

 地球圏での外貨残高。

 

 商店街食べ歩き費用。

 

 店舗別支払い額。

 

 追加注文の有無。

 

 すえぞうによる串の誤飲、なし。

 

 Xiによる在庫倉庫侵入、未遂。

 

 バクスチュアルによる制止、成功。

 

 ラキシス姫様の注文量、前回比で減少。

 

 ログナーは、深く息を吐いた。

 

「一品単価は抑えられている」

 

 報告書をめくる。

 

「店舗ごとの負担もない」

 

 さらにめくる。

 

「姫様も、確かに加減してくださっている」

 

 そこで、ログナーは少しだけ目を細めた。

 

「だが、商店街全体を一つの巨大なコース料理として扱うのは、次回以降要検討だな」

 

 机の端には、泉京香からの補足メモが添えられていた。

 

『次回は店舗数を絞ることを推奨します。なお、皆さん楽しそうでした』

 

 ログナーは、しばらくその一文を見ていた。

 

 そして、静かに書類へ判を押した。

 

「商店街は、条件付きで通行可」

 

 その横に、もう一文を書き添える。

 

「暴走は、引き続き通行止め」

 

 

 同じ頃。

 

 商店街のどこかで、すえぞうは言った。

 

「ハラへった!」

 

 弥子が言った。

 

「次は何食べます!?」

 

 シンが叫んだ。

 

「まだ食うのかよ!」

 

 ラキシスは、楽しそうに微笑んだ。

 

「少しだけです」

 

 泉は手帳を開いた。

 

「その“少し”の定義から確認します」

 

 Xiは笑い、バクスチュアルは静かに言った。

 

「確認ハ、大事デス」

 

 商店街は、今日もにぎやかだった。

 

 そして少なくとも、トニオ・トラサルディーの食材庫は守られた。

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